プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第37話

武内が担当するプロジェクト・クローネのアイドル達のライブは無事に終わった。結果に関してはいろいろな見方があるがいろいろと忙しい日々を送る事になった。

 

「ゆいも一緒にやりたーいー!」

 

「フレちゃんもー!」

 

ライブの次の日に大槻唯と宮本フレデリカの二人が武内のオフィスへとやって来た。心配して付いて来た速水奏に話を聞くとライブを見てからこんな感じなのだと言う。どうやら見ていて羨ましくなったようだ。

 

「ゆいもみんなとLIVEがしたい!」

 

「したい! したい! やらせろー!」

 

二人が会場に見に来ていたことは知っているが武内もアイドル達もライブが終わった後も忙しくて詳しい事は知らなかった。

 

「お二人のお気持ちは素晴らしいと思います。ただ、すみませんが今は忙しいので当分の間はないと思います」

 

「えー、なんでなんで!」

 

「アタシもLIVEに出してよー! みんなだけズルい!」

 

二人からブーイングの嵐が来るが今は事後処理でそれどころではない。

 

「未確定の部分がありますが当分は事後処理の方を行います。参加されたアイドルの方達にはいろいろとお話が来ておりまして」

 

二人に説明するが状況はよくならない。とりあえずレッスンに参加する形で話をまとめて帰ってもらった。ただ、この後も同じような事を繰り返すが気が済んだようで少しは落ち着いた。あくまでも落ち着いただけでオフィスには顔を出すが。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

ライブから数日が経ち渋谷凛に話をする事になった。内容は、当初から決まっていたものだ。

 

「ふーん。新曲ね」

 

「はい。ライブの内容を見た結果、渋谷さんには3つの選択肢が与えられました。一つ目は、ソロで行う物。これに関しては、上の方で最も有力な物となっています。二つ目は、トライアドプリムとしてですが、これはソロの次に話が上がっています。最後にトライアドプリムとニュージェネレーションの両方で出す場合ですが、これに関しては条件付きです」

 

「条件?」

 

「同時期に出す形になりますのでどうしても比べられる形になります。残念ながら現在の状況では、ニュージェネレーションの評価が下がる結果になると思います。そのため時機を延期してニュージェネレーションの方が実力を付けるまで待つ形になります」

 

凛は少し考えてから口を開く。

 

「最後のヤツってさ、プロデューサーの考え?」

 

「はい。正直なところをお話しますと、上の考えは最初の2つだけです。ただ、私は両方で出す道を考えています。トライアドプリムとニュージェネレーション。渋谷さんの場合は、それぞれで魅力が違うと私は思います。トライアドプリムの方は、アイドル渋谷凛としての魅力が強く出ています。上が認めるだけの才能を感じさせる力を持った魅力が。ただ、ニュージェネレーションの方には等身大の渋谷凛の魅力があります。自然体で居る渋谷さんの魅力もまた人を惹きつける物だと思います」

 

これに関しては、判断が難しい。おそらくどれを選択してもアイドル渋谷凛は道を進む事が出来る。ただ、その先が何処まで続くかはどれを選択したかによって変わるだろう。今まさに運命の分かれ道に立っている。

 

「じゃあ、最後で。顔も知らない人よりもプロデューサーの方が信用できるから」

 

「それでいいのですか?」

 

「うん、いいよ」

 

凛はあっさりと選択肢を決める。重要なはずの選択を。

 

「これは、これからの渋谷さんのアイドルとしての道を決める重要な物です。すぐに答えを出す必要はありません」

 

「言いたいことはわかるけど変わらないよ。私は、プロデューサーを信じてるから。それとも、いい加減な気持ちで考えてたの?」

 

「いえ、それはありません」

 

「だったら大丈夫だよ。プロデューサーが私の為に考えてくれたんだから。それで、他の人はどうなの?」

 

どうやら凛の中で、この話はすでに終わったようだ。

 

「わかりました」

 

本当なら会議で決められた物を下に話していこうと思ったが、どうやらこれらは必要ないようだ。気持ちを切り替える。

 

「ソロを勧められたのは渋谷さん、アナスタシアさん、北条さんの3人になります。渋谷さんに関しては、先ほどの内容で進めますので他の方の話をしますと既にアナスタシアさんは、ラブライカの方で曲を出すことに決めています。これに関しては、既に新田さんも知っています」

 

アナスタシアと新田美波には、話が決まってすぐに連絡した。事前に話をしていた事もあり、一刻も早く知らせたかったからだ。

 

「加蓮もなんだ」

 

「はい。ただ、北条さんは断られました」

 

ライブとして見れば成功だった。ただ、北条加蓮だけは違った。加蓮がライブで見せた物は、それまでの物の中で最高の物ではあった。だが、加蓮自身は納得ができなかったようだ。だからソロの話は断り、当分の間はレッスンに励むことになった。

 

「そっか。まあ、納得してなかったからね。他の人はないの?」

 

「他の方は少しだけ事情が変わります。鷺沢さん、神谷さん、塩見さんの3人はユニットで出すことになります。と言いますのも、歌とは違う方向で話が動いています。鷺沢さんの件で話せば、本に関する仕事を探していました。その内の一つに今回ライブを見られた方の所があるのですが鷺沢さんを気に入られまして仕事へと繋がりました」

 

鷺沢文香は、本を扱うテレビ番組の話が来ている。神谷奈緒、塩見周子も別の所から似た様な話が来ている。どれも話だけはしていたが今回の件で決めると予め言われていた。それで、結果を受けて仕事へと繋がったわけだ。

 

「それで、ユニットなの?」

 

「はい。鷺沢さんを中央に神谷さんと塩見さんが脇を固める形になります」

 

「ふーん。それで、橘さんは?」

 

「ありすさんは、皆さんとの差を埋める為に北条さんとレッスンを行ってもらいます。ありすさんにとっては大事な時期ですのでレッスンで実力を高める方を優先します」

 

しばらくは他の事で忙しくなるが、それの処理が終われば再びライブが行われる。今度は、橘ありすもソロを考えている。それに唯やフレデリカも一緒にレッスンを行う事になった。速水奏に関しては、担当にもなるので時機を見て話してから決める。

 

「そっか。なんだか安心した。みんな前に進んでるんだね」

 

「そうですね。ただ、しばらくの間は皆さん忙しくなりますのでレッスンなども回数が減ると思います。できる事なら今を維持したまま再びライブを目指したいと思います」

 

「そんなに忙しくなるんだ」

 

「未確定の物ばかりですので時間は掛かりますが、すぐに皆さんにも伝わると思います。特に渋谷さんは、シンデレラ・プロジェクトのライブにも参加して頂きますので」

 

「……やるの? シンデレラ・プロジェクトで?」

 

今までの話の中で初めて凛の表情に変化があった。彼女にとっては、それだけ価値のある話だったのだろう。

 

「今、企画書を通しています。正式に通りましたらシンデレラ・プロジェクトの皆さんにはライブに向けてのレッスンを始めて頂きます。アナスタシアさんも忙しくなりますが、渋谷さんの方が負担は多くなる見通しです」

 

「別にいいよ、それぐらいは。でも、そっか。また皆で出来るんだね」

 

未確定ではあるが凛のスケジュールは大変な物になるだろう。それでも、凛にとっては共に歩いた仲間達とのステージの方が気になるようだ。

 

「卯月と未央に話していい?」

 

「はい。かまいません」

 

「ありがとう、プロデューサー。もう、他に話はない?」

 

「お二人の下に行ってあげて下さい」

 

「うん、行ってくるね」

 

凛は、急ぐように隣の部屋に居る島村卯月と本田未央の下へと向かう。今の彼女の表情こそがアイドル渋谷凛とは別の魅力を持つ本当の渋谷凛の魅力だろう。自然に溢れ出る笑顔に勝てるものがあるとは思えない。

 


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