やる事は山積みだが約束を果たさなければいけない。速水奏をオフィスに呼び話を始める。
「今日から速水さんは、私の担当となります。それで、よろしいですね?」
「もちろん。今日と言う日をずっと待っていたから」
奏は、必要な書類にサインを書いていく。これで正式に速水奏は武内の担当になる。
「やる事に関してなんですが、速水さんにはシンデレラ・プロジェクトの方でレッスンを受けて頂こうと思います」
「シンデレラ・プロジェクト? プロジェクト・クローネではなくて?」
「はい。プロジェクト・クローネの方は、北条さんとありすさんに合わせて今は行われています。それに加え、大槻さんに宮本さんも合流しましたので速水さんが満足する内容は提供できないと思います。今日から速水さんは、私の担当ですのでシンデレラ・プロジェクトの方に私の判断で参加させる事が出来ます」
北条加蓮は、更なる高みを目指して個人レッスンを受ける道を選んだ。橘ありすも今後を見越してレッスンを行っている。大槻唯と宮本フレデリカの二人は、基礎からレッスンを行っており奏の望むような物ではない。鷺沢文香、神谷奈緒、塩見周子はユニットでのレッスンがある。今の状況だと、誰かと共に奏にレッスンを受けさせる事はできない。
「それでかまわないわ。全て、プロデューサーさんに委ねるから」
奏の考えは決まっている。意見は言うが、判断に関しては武内の考えに従う。
「そうですか。シンデレラ・プロジェクトには、渋谷さんやアナスタシアさんも居ます。それに既にシンデレラ・プロジェクトの方々とは交友があると聞いています」
最近では、奏も気軽にシンデレラ・プロジェクトの待機場所に出入りしている。それもあり、今回のような話もできる。
「レッスンに関してはわかったけど、他には何かあるかしら?」
「特にはありません。ただ、シンデレラ・プロジェクトの方でも少しだけ分けて行います。そのため、初めのうちは速水さんの実力を見せて頂く事になります」
「それって、実験をしている人達とそうでない人達に分けるのかしら?」
「はい。新田さん、諸星さん、前川さんに関しては別で行います。ただ、他にも参加する方はいます。渋谷さん、アナスタシアさんもこちらでやって頂きます。それに本田さんも体力面だけで見れば十分参加できると思います」
「いいわ。先ずは、そこに入れるようにすればいいのね?」
明確な目標ができてやる気が湧いて来る。
「そうなります。ただ、基準はあくまでもクローネからの二人に合わせます。それだけは忘れないでください」
♢♢♢♢♢
シンデレラ・プロジェクトのライブの件に関しては話が済んであったので簡単に通った。そのため早速レッスンが始まる。基本的に2つに分けて行われるわけだが、場合によっては入れ替えも考えている。このレッスンでライブでの出番や役割を考えていきたい。
「今日から、渋谷さん、アナスタシアさんが参加します。それに本田さん、速水さんも参加されますが私の判断で別の方へ異動してもらう場合もあります」
武内の言葉に参加するアイドル達の表情が引き締る。早い話が降格であるからだ。言い方は悪いが、こちらが一軍で、もう一つが2軍である。下からの異動ならいいが、上からの異動など嫌に決まっている。
「それでは、渋谷さんとアナスタシアさんが前に。次に新田さん、諸星さん、前川さん。最後に本田さん、速水さんでお願いします」
武内に言われた通りにアイドル達は並ぶ。これが今のこの場所での立場だ。
「行う内容に関しては、新しく用意した物になります。既に実験に参加されている方は、半分ほどは知っていると思いますが、残りの半分は別の物になりますので気を付けて下さい」
今回は特別にプロジェクト・クローネのマスタートレーナーからも意見を貰い新しくプログラムを組み直した。どうやらライブの結果を見た上で協力してくれるとの事だ。もちろん、プロジェクト・クローネのアイドルが参加するからと言う理由もある。
「それでは、レッスンを開始します」
武内の開始の言葉により速水奏を加えたシンデレラ・プロジェクトのレッスンが始まる。
♢♢♢♢♢
シンデレラ・プロジェクトの担当であるベテラントレーナーには、もう一方のグループを見てもらうために武内が一人で担当する形で行われている。内容に関しては、常時撮影されておりその内容をトレーナーが見た上で見直されたりもする。当然、トレーナーが居ない時は武内の判断で行われるのだが早速問題が起こる。
「大丈夫ですか?」
レッスンを開始してからしばらくすると本田未央と速水奏に変化が表れる。特に奏の方は、息が荒れ、動きに余裕がなくなってきている。
「だ、だいじょうぶ……もんだい、ない……わ」
立っているだけでもやっとだろう。今行っているのは実験で行われていた物よりも上だ。なにせ、渋谷凛やアナスタシアが参加する以上は質を上げる必要があるからだ。
「本田さんは、どうですか?」
「私は、まだ、大丈夫だよ」
息を切らしているが未央の様子はまだ平気だろう。ダンスを中心とした個別レッスンを行っている未央ならまだ耐えられるはずだ。
(他は……)
凛とアナスタシアは問題ない。今までやっていた物から見ればまだ余裕がある内容だ。新田美波、諸星きらり、前川みくの3人は未央と同じぐらいか、少しはマシな程度だろう。
「申し訳ありません。一度、速水さんには外れてもらいます。様子を見て参加してもらいますので休んでいてください」
「……わかった」
奏は悔しそうに端へと寄る。
(予想以上に辛いわ……)
頭の中で何度も想像していた。実験内容も見た事もある。話だって聞いたことはある。でも、実際にやってみると厳しいものがある。
奏は、壁に身体を預けるようにして座り込むと視線だけは目標へと向ける。自分と違い、他の人間。特に凛とアナスタシアの余裕を感じさせる表情が気に入らない。
(私と何が違うの?)
今の惨めな自分と彼女達の違い。レッスンは真面目にやって来た。量も増やした。それでも差がある。その理由は、一つしか考えられない。
(ここから始めましょう)
奏は、ただ静かに目の前で行われている光景を見る。一人の男の下にレッスンに励むアイドル達の姿を。
♢♢♢♢♢
《おまけパート⑥輿水幸子ヤンデレ風味》ありすの時と同じで設定とか関係ないヤツです。
今日は、輿水幸子と346プロダクション内にあるカフェで過ごしている。
「――という事がありましてね」
武内は、幸子の話を聞いているが正直なところ苦痛でしかない。もちろん、幸子の話を聞くのが嫌と言う訳ではない。むしろ、楽しそうに話す幸子を見るのは好きだ。ただ――
「聞いてますか、プロデューサーさん?」
「はい。聞いています」
「そうですか。まだまだ話すことはありますからね。えーっと、どこまで話しましたっけ?」
幸子は、ノートに視線を移す。そこには、今日の為に幸子が考えた話の数々が載っている。どうも話す内容をノートにまとめたらしい。3冊分。
「ここまでですね。いいですか、プロデューサーさん。この時はですね――」
再び幸子の話が始まる。既に1時間は経っているはずだ。はずと言うのは、時計を見るだけでも幸子に怒られるので一度しか見ていない。今は、幸子の目を見ながら話を聞いている。こうしていないと話が先に進んでくれない。
「輿水さん」
「なんですか?」
「今日は、予定などはないのですか?」
「予定ですか? 当然空けてあります! 今日は、プロデューサーさんとお話するために準備してきましたからね! 褒めてもいいんですよ! さあ、褒めて下さい!」
ずっと話しているはずなのに幸子に疲れは見えない。
「私の為に時間を作って頂きありがとうございます。嬉しいです」
「そうでしょう! ボクも楽しみにしていましたからね! この前は、輝子ちゃんと小梅ちゃんと3人だったのでそんなに話せませんでしたが、今日はボクだけなのでたくさん話せます。時間はたくさんありますからね」
こうして幸子の話は、続くことになる。ちなみにまだ一冊目の半分ぐらいだ。