プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第39話

速水奏を加えて行われたシンデレラ・プロジェクトのレッスンは、一先ず終わりを迎える。結果だけ見れば予想通りのものだ。

 

「どうだった、プロデューサー?」

 

「どうでしたか?」

 

レッスンを最後まで成し遂げた、渋谷凛とアナスタシアの二人に内容を聞かれる。

 

「お二人に関しては問題ないと思います。ただ、プロジェクト・クローネの方での仕事なども増えますのでこれを基準で考えていきます」

 

もちろん二人も平気と言う訳ではない。疲れもするし、無理をすれば怪我などもするだろう。ただ、今までの努力で得た物は彼女達に余裕を持たせている。

 

「新田さん、諸星さん、前川さん。身体の方は大丈夫ですか?」

 

「私は、少し無理をしたかもしれません」

 

新田美波は、この3人の中で最後まで凛とアナスタシアに付いて行った。彼女の目が時々アナスタシアの方を見ていたので、彼女の負けず嫌いの性格が出たのだろう。できる限り意思を尊重したが最後にはこちらの判断で止めた。

 

「きらりんは、大丈夫だよぉ。Pちゃんから見て、どうだったぁ?」

 

「諸星さんは、体力に関しては問題ありません。ただ、動きに繊細さが足りない所があります。身体を大きく使って行うパフォーマンスは大変素晴らしいですが、身体にも負担が掛かりますし、次への動きにも影響が出てきます」

 

「反省するにぃ」

 

諸星きらりの欠点は、良くも悪くも動きの大きさにある。ステージで見れば最高のパフォーマンスを行える物ではあるが、身体に対する負担が大きく体力のある彼女でも美波に負けてしまう。それにダンスの種類によっては、動作が遅れて一人だけズレる時がある。

 

「みくも平気だけど、どうかな?」

 

「前川さんは、バランスがとても良いです。日頃のレッスンの頑張りが伝わってきます」

 

「やっぱり、みくは体力になるんだね」

 

前川みくは、全体的にバランスが良い。シンデレラ・プロジェクトの中でも努力家なのでレッスンに対する姿勢が違う。ただ、パフォーマンスの質を維持するだけの体力が足らない。三人の中だと最初にレッスンから脱落した。

 

「私は、いつも通りだよね?」

 

本田未央は、武内に言われる前からわかっているようだ。

 

「本田さんも内容は良くなってきています。慣れさえすればできるようになると思います」

 

未央の場合は、やればできる。時間を掛けてしっかりとやれば結果を出す事が出来る。今回は、何度も休んでのレッスンになったが回数をこなす度に形が見え始めてきた。

 

「速水さんは……」

 

最後に速水奏の番になるのだが、そこには普段の奏の姿はない。

 

「今日は、速水さんの気持ちを汲み取る形で行いました。ただ、無理をしても結果には繋がりません」

 

奏は、何度もレッスンに挑戦した。休んでは、何度も何度も。

 

「覚悟はしていたけど……」

 

既に言葉を口にする気力もないのだろう。普段の余裕のある大人びた速水奏の姿はそこにはない。髪は乱れて汗で額に張り付き、だらしなく仰向けに倒れている。

 

「此処が、速水さんの新たな始まりの場所になればと私は考えています。どうされますか?」

 

武内の言葉の意味は一つだけだ。

 

「此処でやらせて……お願い……」

 

奏にとって、此処は目指す場所に最も近い場所。そこから少しでも離れたくない。たとえ無様な姿を晒しても。

 

「わかりました。但し、これだけは忘れないでください。危険だと判断したら異動してもらいます。無理してまで、焦る必要はありませんから」

 

武内の言葉を自分の中で何度も繰り返す。それでも答えは決まっている。

 

「私は、前に進みたい。だから――」

 

疲れが限界まで来たのだろう。身体が求める眠気により今日が終わる。言葉すら最後まで言わせてもらえない自分が嫌いになりそうだ。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

「――ここは?」

 

奏は何処かで目を覚ます。見た事のあるような景色がそこにあるが――天井だろうか?

 

「起きられましたか?」

 

声のした方を見る。否、見ようとした。

 

(……上手く動かないわね)

 

自分の意思と違って身体が動こうとしない。まだ疲れを癒したがっている。

 

「今日は、私が送りますのでお休みください。家の方には連絡してありますので」

 

「……ありがとう」

 

奏は再び身体を休める。どうやら武内のオフィスのソファーで横になっているようだ。ご丁寧にタオルケットまで掛けられている。

 

(情けないな……)

 

ここまで何もできない自分は初めてだ。どんなこともそれとなくこなしてきた。でも、今は誰よりも惨めで情けない気がする。

 

奏は、今も叩かれるキーボードの音や紙の擦れる音を聞きながら、その音を出す人物へと視線を移す。自分以外の女性達をアイドルへと変えた人物がそこに居る。今も彼女達の事を、自分の事も考えているのだろう。

 

(こんな人も居るのね)

 

この仕事をしていれば声を掛けて来る者は多い。心配しているように見えても下心がそこにある。力になると言っても、それは自分の欲の為。でも、今傍に居る人は、本当にプロデューサーとしてアイドルを見ている。それこそ速水奏自身よりも。彼は、自分よりも、自分の事よりもアイドルを優先している。

 

「ねぇ、プロデューサーさん」

 

「……なんでしょうか?」

 

声と共に彼と目が合う。

 

「私は、アイドルになれると思う?」

 

彼の口から聞いてみたい。他の女性をアイドルに変えた人の言葉で。

 

「速水さんがそれを望んでいるのならなれると思います。もしそうであるならば、私は最後まで速水さんを支えます」

 

望み通りの言葉が心に届く。わかりきってはいたが悪くない気分だ。

 

「だったら、お願いするわ。今はこんなものだけど、私も他の人達のようになりたから」

 

始まりは偶然だった。でも、今は本当になりたい。彼が魔法を掛けてアイドルにした彼女達のように。

 

「少しだけ今は――休ませて……」

 

此処は、どこよりも安心できる場所だ。そう思うと再び夢の中へと導かれる。仮に夢から覚めても、初めて出来た夢の世界へと戻るだけだ。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

《おまけパート⑦》切りはいいけど短いので緊急で。

 

昼ご飯を食べに346プロダクション内にあるカフェに来たのだが、そこで城ヶ崎美嘉に出会う。

 

「あれっ? アンタも食べに来たの?」

 

「はい。城ヶ崎さんもですか?」

 

時間は少し昼には遅い。その為、知り合いに会うとは思っていなかった。

 

「……もしよかったら、一緒に食べる? 知ってる人が居るのに別々で食べるのも、ねっ?」

 

「そうですね」

 

二人は、同席することになる。

 

「あれあれ? 二人で来るなんて珍しいですね?」

 

今日もカフェで手伝いをしていた安部菜々が二人の下に来る。

 

「ああ、うん。そこで会ったんだー、たまたまね」

 

「安部さんは、今日もお手伝いですか?」

 

「はい! 初心忘るべからず! アイドルにはなれましたけど、ハングリー精神は持っておかないと!」

 

昔、安部菜々は此処のカフェで生活費を稼いでいた。今はアイドルとして稼げるようにはなったがその時の事を思い出すために手伝っている。菜々のアイドルとしてのハングリー精神は、他のアイドルにも引き継がれている。主に輿水幸子にだが。

 

「菜々ちゃんは、偉いよね。尊敬しちゃうよ」

 

「美嘉ちゃんに言ってもらえると嬉しいですけど、ナナ的には美嘉ちゃんの方が尊敬しますよ。美嘉ちゃんが頑張っているのを、ナナは知っていますから」

 

二人は、ある意味では同期と言える。先に道を歩み出したのは菜々だが、先にアイドルになったのは美嘉の方が先だ。その二人が昔は同じ場所に居た。そして、自分も。

 

「なんだか懐かしいね。昔は、こうして3人で……ううん、他にもたくさんの仲間達と一緒に居たんだよね」

 

「そうですね。今は少し離れてしまいましたけど、会うと昔のようになれますから」

 

言葉が誰も出なくなる。同じ道を歩んでいた。しかし、その道は分かれる事になった。それを思うと、言葉が出ない。

 

「――菜々ちゃん! 注文お願いね!」

 

「――はっ、はい!」

 

急に聞こえてきた店長の声で時間が動き出す。

 

「えっと、ご注文は何にしますか?」

 

「……ランチでお願いします」

 

「じゃあ、アタシも」

 

少し気まずいが注文を済ませる。

 

「待っていてくださいね! ウサミンダッシュですぐに持ってきますから!」

 

「気を付けてね、菜々ちゃん」

 

菜々は、その場から離れるように小走りで厨房の方へと向かう。少しだけこけそうに見えたが大丈夫そうだ。

 

「ねぇ、プ……武内さん」

 

思わず言葉を間違えそうになる。ただ、代わりに出る言葉も言い慣れていないものだ。

 

「まだ忘れられない?」

 

ずっと言いたかった言葉。それを口にする。

 

「……忘れる事はないと思います。これからも」

 

「そうだよね……」

 

わかりきっていた答えが返ってくる。なんで聞いてしまったのだろう。

 

「ですが、今は前を向いて行こうと思います」

 

美嘉は武内の姿を見る。その言葉を言う彼の表情は――

 

おまけなんでここまで。前作知らない人には意味がわからないね。知ってても途中で終わったからわからないと思うけど。緊急で書いたからメモ書き程度に思って下さい。

 





やっと、奏編が始まります。
個人的にプロジェクト・クローネと言えば速水奏だと思います。
前編後半の主要人物になる予定です(ノ―プラン)

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