プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第43話

本日は、トレーナーと入れ替わりでレッスンを見ている。普段は、撮られた物でもう一方を確認している。ただ、実際に見るのとは違うので再度確認の為に行う。

 

「島村卯月! 頑張ります!」

 

島村卯月が気合いを入れて横ステップを行う。昔から苦手な物ではあったが果敢に挑戦してきた。今は、少しアレンジを加えたものをやるようになったが――

 

「――どうですか?」

 

卯月はやり遂げて自信に満ちた笑みで武内に聞く。

 

「いいと思います。頑張りましたね」

 

「やりました! やりましたよ、未央ちゃん!」

 

トレーナーが居ない時は、本田未央が一緒になって練習していたそうだ。未央は、ダンスに関しては、シンデレラ・プロジェクトの中でもトップクラスの実力者だ。

 

「よくやった、卯月! しかし、これもまだ始まりに過ぎない!」

 

「はい、老師!」

 

未央が無い髭に触れる動作をしている。それに卯月も合わせている。老師とは何だろうか?

 

「ねー、Pくん」

 

「プロデューサー」

 

城ヶ崎莉嘉と赤城みりあの二人が近寄ってくる。

 

「どうかされましたか?」

 

「きらりちゃんのやってるのって難しいの?」

 

「最近、一緒にレッスンできないから寂しいな」

 

凸レーションの保護者役である諸星きらりと離ればなれで寂しいのだろう。凸レーションでもレッスンは行っているが、今はできるだけ個人の実力の向上を考えている。そのため、一緒にやるレッスンは少なくなり、仕事ぐらいでしか会う機会がない。

 

「申し訳ありません。寂しい思いをさせてしまっているようで」

 

「ホントだよー! 責任とって、今度みんなで遊びに行こうよ! もう場所は決めてあるんだからね!」

 

「近くにあるゲームセンターなんだよー! 一緒に行こうよ、プロデューサー!」

 

少し困るが、莉嘉とみりあとは最近一緒に居る時間がない。二人共、あまり遅くまでアイドル活動をさせられないので時間に限りがある。仮に遅くても仕事やレッスンで会う事もあまりない。

 

「わかりました。今度、一緒に行きましょう」

 

「ホント!? やったー! Pくん大好き!」

 

「みんなで遊べるんだね!」

 

少し大変だが喜んでいる二人を見ると頑張るしかない。

 

「随分と甘いんだね」

 

緒方智絵里に膝枕をされている双葉杏から言葉を掛けられる。一通りレッスンが終わったのでだらけているようだ。

 

「皆さんとの時間を作る事も大切ですので」

 

「ふーん。まあ、プロデューサーがいいんならいいけどさ」

 

杏は、視野が広く勘も良い。こちらの事情もわかっているのだろう。

 

「そういえば、緒方さん」

 

「はっ、はい! なんでしょうか?」

 

油断していたからか、智絵里の小さな身体がビクッと僅かに跳ねる。

 

「その、三村さんとの番組の方はどうですか?」

 

そろそろ三村かな子をメインとした料理番組の撮影が始まる頃だ。智絵里は、助手役として。杏は、マスコットキャラとして出演が決まっている。今日は、かな子は用事がありレッスンには参加していない。

 

「その……かな子ちゃんと杏ちゃんが居るので怖くはないです。でも、上手にできるかは不安です」

 

「大丈夫じゃない? 最近、かな子ちゃんとレシピ貰ってやってるじゃん」

 

「かな子ちゃんのお家で作るのには慣れてるから。でも今度は、スタジオで作らないといけないから」

 

勝手が違うのは確かに不安だろう。

 

「編集などでやり直しもできます。あまり気にせずに楽しんでみてください。私も撮影の時は一緒に行きますから」

 

「本当ですか?」

 

「私は、緒方さんのプロデューサーですから」

 

武内の言葉に智絵里は喜ぶが、その一方で杏からあきれ顔で見られる。

 

「あー疲れたー」

 

「もう……だめ……」

 

多田李衣菜と神崎蘭子の二人は、他のアイドル達よりも一生懸命レッスンをしていた。この二人は、他よりも体力などがない。その代わり、李衣菜はボーカルなどの音楽面が優秀。蘭子は、ヴィジュアル面などの方で活躍している。どちらも理由がある訳だが、それでももう少しできるようになってもらいたい。

 

「どうですか?」

 

「莉嘉ちゃんとみりあちゃんにも負けるのは情けないよね」

 

「無垢な妖精たちその……くやしい……」

 

内容は少し違うが、莉嘉とみりあは多めにレッスンを受けている。これは、プロジェクト・クローネの橘ありすにも言える事だが他との差を埋める必要があるからだ。そのため、純粋な身体能力では勝てないものの上手く身体を扱えるようになるために負担が少ない。体重も軽い事もあり意外と長く持つ。

 

「プロデューサー、私はこの後どうすればいいの?」

 

卯月との寸劇が終わり、遊んでいた未央がこちらへと来る。

 

「本田さんは、今日はこのまま終わりですね。明日は、ニュージェネレーションの方でやりますので今日は身体を休めて下さい」

 

「でも、なんだかウズウズするね。今もしぶりんは、レッスンしてると思うと」

 

「本田さんのお気持ちはわかりますが、その分を明日に回しておいてください。明日は、できたばかりの曲を皆さんに聞いてもらいます。その後は、新しい振付を試さないといけませんから」

 

「そうなんだよね。明日、私達に新しい曲が届くんだよね」

 

どうやら今の話は逆効果だったようだ。未央のやる気に火を点けてしまった。

 

「島村さん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「申し訳ありませんが、今日は本田さんと早めに帰って頂けませんか? どうも明日の事が気になるようで」

 

「明日の事ですか? ……そう言えば、新曲を聞くんですよね!? どうしよう、未央ちゃん!?」

 

「落ち着くんだ、しまむー!」

 

「はい、落ち着きます!」

 

どうやら卯月も同じように気になってしまったようだ。様子から察するに忘れていたのだろう。余計な事をしてしまった。

 

「お二人共、着替えの方をお願いします。今日は、私が家まで送ります」

 

このままだとレッスンを始めてしまう。気持ちはわかるが、明日は新しい振付をいろいろと試して決めないといけないので余裕を持たせておきたい。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

卯月と未央を家に送り届けてから別のレッスン場にも顔を出す。少し遅れたが結果だけ聞ければいい。

 

「おっ! プロデューサー」

 

「あれれー、どっかしたのー?」

 

「お疲れ様です。プロデューサーさん」

 

神谷奈緒、塩見周子、鷺沢文香の3人の下に来る。こちらは、既にユニットとしてのレッスンを受けている。

 

「もう終わりましたか?」

 

既にトレーナーの姿はない。時計も終わりの予定時間を少し過ぎていている。

 

「とっくに終わったよ」

 

「プロデューサーが来るのを待ってあげてたんだよー。優しいシューコちゃんに感謝してね、プロデューサー」

 

「……私も待っていました。プロデューサーさんの事を」

 

文香だけ少し間があった気がする。ただ、3人とも待たせてしまったようだ。

 

「特に問題などはありませんか?」

 

「うーん、どうだろう? っていうか、それをプロデューサーが見てくれないと。あたしじゃわかんないんだからさ」

 

「そうそう。これは、責任問題だね。シューコちゃんは甘い物で許してあげよー」

 

「私もプロデューサーさんに見てほしかったです」

 

「申し訳ありません」

 

今回は完全に非がこちら側にある。

 

「それでどうするんだ? 話でもする?」

 

「そうですね。ただ場所は変えましょう」

 

「おっ? もしかして、シューコちゃんの提案が通るのかなー?」

 

「私は、何処でもかまいません」

 

「文香、ここは周子に乗っとこう」

 

「そうだよ、ふみふみ。プロデューサーさんとご飯を食べに行こうよー」

 

「プロデューサーさんとですか?」

 

ふと、文香と目が合う。

 

「……迷惑でなければ」

 

「よし! 決まりって事でよろしくな! プロデューサー!」

 

「あたしは何処でもいいよー。カフェじゃなければねー。手抜きはだけは許さないからね?」

 

「私も何処でもいいですよ。プロデューサーさんが決めた場所なら何処でも」

 

どうやら何処かに行く事は決まったようだ。

 

「わかりました。まだ用事が残っていますので着替えが終わりましたらプロジェクト・クローネの待機場所で待っていてください」

 

今日の分は少しだけにしておこう。レッスン内容を聞くのも仕事なのだから。

 


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