本日は、いよいよニュージェネレーションの新曲のお披露目になる。渋谷凛、島村卯月、本田未央の3人はこれから通常のレッスンに加えてこちらの方もやっていく事になる。
「――どうでしょうか?」
先ずは、できたばかりの曲を3人に聴いてもらう。
「感動しました!」
「うーん、でもダンスに力を入れてみるんだよね?」
「未央じゃないけど、大変そうな気がする」
素直に曲を聴いていた卯月と違い、未央と凛は少し難しそうな顔をしている。
「そうなんですか?」
「歌いながら動くからね。リズムが良いといろいろとその辺りが難しいと思うよ」
「とりあえず内容を見て見ないとね」
未央は、ダンスをメインに個人レッスンをしているからわかるようになってきたのだろう。凛は、経験からくる勘かもしれない。
「本田さん、渋谷さんの言う通りです。予め言っておきましたが、今日はいろいろと試すことになります。皆さんは、今も成長しています。今までよりも内容の質が高い物に挑戦して行く段階になります。そこで、その段階に合わせて用意した物をやって頂きます」
「段階ですか?」
「はい。早い話が、下から順にやって頂きまして最終的にどれをやるか決めます。最初の物に関しては、流れを覚える程度の物と考えて下さい。最後の物に関しては、用意はしましたがおそらく難しいと思います。いずれはできるようになるとは思いますが、今の状況から考えると難しいと思います。これに関しては、今後の目標として見て下さい」
「そんなに難しいんですか?」
「未央ちゃんとしては、それをやってみたいんだけど?」
「私も同じ」
二人からはやる気を感じる。言葉では意味がない。
「レッスンを始める前に全て見てもらいます。言葉よりもその方がいいと思います」
♢♢♢♢♢
今回は特別にトレーナーに頼んでダンスを段階で調整してもらった。内容に関しては、振付などが変わるだけなのだが、実際に演じてみればその大変さがわかる内容だ。なにせ、最終段階の物は、346プロダクションでも限られた者しかできない内容になっている。それこそ、運動能力が高いとされている日野茜、城ヶ崎美嘉などの選ばれたアイドル達だ。
「うん、無理だね」
「これは……未央ちゃんでも諦めるかな……あはは……」
「これって、できるんですか?」
一通り全部見たわけだが、最後に関しては諦めたようだ。むしろ、見ただけで内容を理解できるだけ成長したと言える。
「いずれは、この段階をお願いしたいです。もっとも、ダンスに力を入れる場合ですが。他にも、ボーカルやヴィジュアルなどに重点を置く場合もありますので、これが全てではありません。特に島村さんの場合は、ダンスよりもヴィジュアルの方を考えています。小日向さんとの仕事もその一環です」
シンデレラ・プロジェクトとは違うが、アイドル小日向美穂と卯月は、限定的ではあるがユニットを組んでいた。ニュージェネレーションとは違い、可愛らしい女の子をイメージしたものだ。そのため、ダンスなどよりも自分の魅力を見せる為のものを重点的に行った。
「もしかして、足を引っ張ってますか……私……」
卯月が落ち込むが、それ以上に他の二人からの視線が痛い。
「それは違います。先ほども言いましたがダンスに力を入れた場合です。ユニットは、個性はもちろんですが調和が重要になります。本田さんの明るく元気なダンス。渋谷さんの繊細で力強いボーカル。そして、島村さんの人を惹きつける笑顔があってこそのニュージェネレーションです。ですので、島村さんでなければ、ニュージェネレーションとは呼べない物になります」
「そうだよ、しまむー。しまむーが居ないとニュージェネじゃないって」
「そうだよ、卯月」
「未央ちゃん、凛ちゃん……私、頑張ります! 頑張りますから絶対に!」
どうやら持ち直してくれたようだ。
「それでは、見終わりましたのでトレーナーの方を呼んできます。それまでに準備の方をお願いします」
待機していたベテラントレーナーを呼んで、レッスンを始める。基本的に武内は傍観に徹する。今回は、ベテトレが全て行い、これからの工程を判断して行く。武内の仕事は、その際に意見を言うのと他との調整だ。
「最初に行うものは、あくまでも流れを把握するための物だ。ただ、これが基になっている。ここで多くを学ばなければ先は短いものになると最後まで忘れるな」
それぞれが返事をして準備は整う。
「それでは、始める」
♢♢♢♢♢
今日のレッスンで最も長いのが最初の段階だ。ベテトレも言っていたがここである程度できていないと新しく加わる要素に対応できない。
(早く覚えたのは、渋谷さん。余裕があるのが本田さんですか)
この二人は、早く覚えそうだ。凛は、既に細かい所を確認している。未央は、動きの一つ一つに余裕を感じさせている。
「ここは、こうした方がいいですか?」
「いや、重心を意識してやってみろ」
卯月は、トレーナーの指導を受けている。流れは覚えているが、不安な個所があるようだ。ただ、ダンスのレッスンを多めにしているからか時間を掛ければできるようにはなっている。
(ボーカルレッスンはどうしますか……)
ダンスもそうだが、歌も当然のように必要だ。できれば並行してやりたいが時間を考えるとどうだろうか?
(トライアドプリムスの方も考えて……)
トライアドプリムスの神谷奈緒も他でユニットを組んで既にレッスンを行っている。その為、トライアドプリムスのレッスンは後に回している。ただ、同時期の発表を考えているので凛の調整を第一に考えている。とはいえ、ニュージェネレーションの内容によっては変わってくる。
「できました!」
「まあ、いいだろう。合格だ」
「プロデューサーさん、やりました!」
卯月が笑顔でこちらを見ている。できた事が嬉しいのだろう、ぴょんぴょんと小さく気持ちと共に弾んでいる。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます! 頑張りました!」
彼女達がステージに立つためなら調整ぐらいやって見せるだけだ。
♢♢♢♢♢
今日のレッスンは、途中で終わる事になった。時間もそうだが実際に踊った彼女達からの意見を検討したいとの事だ。後で、ベテトレと話し合う必要がある。
「おかえりなさい、プロデューサーさん」
「おかえりー、プロデューサー」
オフィスに戻ると、速水奏と北条加蓮が居た。
「何か用ですか?」
「いいえ、そうではないんだけど……邪魔かしら?」
「いえ、そんなことはありませんが」
「だったら、居ていい? 最近、レッスンばっかりで会ってなかったから遊びに来たんだー。邪魔しないからさ、ねっ?」
「そうですか。今日は、特に人が来る用もないのでゆっくりなさって下さい」
用がないようなので、デスクへと座る。
「……どうかされましたか?」
仕事の準備をしていたら、加蓮と目が合う。
「ううん、なんでもないよ。大変そうだなーって思っただけで」
「素直じゃないのね」
奏に言われ、加蓮が奏とじゃれ合い始める。
「……これは?」
デスクの上に小さな箱がある。丁寧にラッピングされているが見覚えはない。
「私からの贈り物。かな子さん達のように手作りではないけど、日頃の感謝の想いを籠めてね」
「そうですか。ありがとうございます」
「ズルい……」
「今度、持ってきたらいいじゃない」
奏からのプレゼントを貰えた。考えてもいなかったので嬉しい。とはいえ、先ほどの言葉だと食べ物なのだろうか?
「これは、食べ物ですか?」
「そうよ。甘い物は苦手?」
「いえ、好きです。ありがたく頂きます」
話は終わったが奏の視線がまだある。
「今、頂いても?」
「それは、貴方にあげたものだから。いつでもいいわよ」
「では、失礼して」
包装を解くと、中にはクッキーが入っていた。数は少ないが包装から見ても高そうだ。
「頂きます」
一つ手に取り食べてみる。
「……美味しいですね。それに甘さはありますが、食べやすいです」
「そう? 口に合ってよかった。砂糖をあまり使っていないようだけど、甘さはしっかりとあるでしょう? 甘い物が苦手な人でも食べやすいように作られているの」
初めからこちらの事を考えてくれていたようだ。本当に気持ちが籠っている。
「――ねぇ、プロデューサー! 今度、アタシがネイルやってあげる! 男の人も手元は気にした方がいいよ、絶対!」
「そうですか?」
「そうだよ! だから、今度やるからね! 約束だからね!」
「はい……」
加蓮の気迫に圧され返事をしてしまう。それを奏は楽しそうに見ている。
♢♢♢♢♢
《大人の飲み会④》続き。
「――あたしとしたことが……」
片桐早苗は最後の一滴まで飲み干してから倒れる。
「残りは……」
武内は、相手を探す。
「もう、らめぇ……えへへ……また、ほーふらんあ~」
姫川友紀は、勝手に自分のペースで飲んで自爆した。もしそうでなければ、早苗には勝てなかっただろう。
「ううぅ……外のロケはイヤ……」
「きもひはるひ……」
川島瑞樹と千川ちひろも流れ弾が当たった。敵は、3人居る。
「次は、私とですね!」
最後の一人が武内の横に立ちふさがる。
「離れてください」
「いやですよー!」
高垣楓は、武内に寄りかかる。
「せっかくこうして飲めるようになったんですから」
その言葉には弱い。彼女達が悪かったわけではない。自分が離れたのだ。
「そういえば、今日は七夕だそうです」
「そうですね。なにか、書きます?」
七夕という事もあり、小さいながらも竹が飾られている。その近くには、ご丁寧に短冊もある。
「せっかくですので」
楓の分の短冊も取り、内容を考える。
「私は、もう決まってます」
酔っているとは思えないぐらいにスラスラと書いていく。
「こうして、皆でずっと一緒に飲めたらいいですね。これからはずっと」
「そうですね」
楓の願いは、ありきたりな物だ。ただ、それは叶う事が難しい物かもしれない。昔は、そう思っていたから。
「私も、同じことを書きます。そうすれば、より叶うはずですから」
武内も楓と同じように書く。
「武内……今だけは、プロデューサーさんでいいですか? 他に誰もいませんし」
此処は個室で、他の人間は深い眠りの中に居る。
「此処だけでなら」
「やりました! じゃあ、プロデューサーさんは、楓って呼んでくださいね。昔みたいに。そうじゃないと不公平ですからね?」
楓の顔がすぐそこにある。昔と変わらずそこに。
「今は……わかりました。楓さん」
「なんですか?」
「少し離れて頂けませんか?」
「それは、ダメですよー」
より楓の重さを感じる。
「ですが、もうそろそろ皆さんを送らないといけません」
「いいじゃないですか、少しくらいなら……離れていた時間に比べれば少しだけです」
「そうですね……」
今だけは、このままで――。
おまけは、メモ書きのような物です。
過去編の書き直しがあるので。
二人に何があったかはそん時ですね、変わるかもしれないし