プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第5話

「プロデューサー! 見て見て! 莉嘉ちゃんと一緒に描いたんだよー!」

 

「どう、Pくん? 今度の凸レーションのLIVEの衣装はこれで決まりでしょ☆」

 

「……検討させて頂きます」

 

赤城みりあと城ヶ崎莉嘉の二人から描きたての絵を貰う。

 

「ごめんねー、Pちゃんもお仕事でいそがしーのにぃ」

 

「かまいませんよ。私も皆さんと過ごせて楽しいですから」

 

「ほんとにぃ? きらり達は、迷惑じゃない?」

 

諸星きらりは、見た目のキャラと違い真面目でとても良い子だ。気を使っているのだろう。今回も同じ凸レーションのメンバーである二人の保護者役として来ている。

 

「今日は、誰も来ませんから。それに、普段の皆さんの様子を知る事もプロデュースをする上で必要な事です。時間があまり取れない以上、このような状況でも私にとっては必要です。むしろ、皆さんには御迷惑をお掛けしています」

 

「そんなことないにぃー。こうしてきらりん達の事を考えてくれるPちゃんには、かんしゃかんしゃしてるんだよぉ?」

 

「私もプロデューサーと一緒だと楽しいよ!」

 

「うんうん。でも、ちゃんとアタシにも合わせてもくれないとー浮気しちゃうからね☆ 気を付けなきゃダメだよ、Pくん」

 

こんな感じで、彼女達アイドルがオフィスに顔を出すようになったのは、つい昨日の事だ。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

「――こんなところでしょうか?」

 

新しく担当となった北条加蓮と神谷奈緒の資料に目を通し、今後の企画書を考えている。美城常務に提出することになるので今まで以上に気を使って製作している。

 

「――プロデューサーさん……今、大丈夫ですか?」

 

扉を叩く音が聞こえ、島村卯月が申し訳なさそうに部屋へと入って来る。

 

「どうかされましたか?」

 

「――あっ、いえ……その……」

 

卯月は、なにか様子を窺うようにこちらへと近づいて来る。何か聞きたいことでもあるのだろう。

 

「遠慮などせずにお話しください」

 

「……本当にいいですか?」

 

「かまいませんよ」

 

意を決したのか、一度呼吸をしてから口を開く。

 

「――凛ちゃんの様子を教えてください! ……す、すみません、大きな声を出してしまって」

 

勢い余って自分でも想像していなかった大声が出たからか、卯月は慌てている。

 

「――落ち着いて下さい。慌てなくても大丈夫ですから」

 

「……はい。島村卯月……落ち着きます……ふぅー」

 

とりあえず落ち着いた? 落ち着いたのだろうか?

 

「それで、どうなされましたか? 渋谷さんの様子を知りたいとの事ですが?」

 

「じ、実はですね。今日もレッスンがあったんです。……凛ちゃんが、とっても輝いて見えて……なんだか遠くに行くような気がして」

 

卯月の表情が暗いものとなる。普段が明るい彼女だからよけいにそう見える。

 

「……なるほど。島村さんの不安はわかります。今、渋谷さんは、ニュージェネレーションとトライアドプリムスの両方でレッスンを受けています。そのため、島村さんが知らないうちに成長しているのだと思います」

 

単純に考えても、凛のレッスン量は卯月の倍だ。それも、トライアドプリムスの方は、美城常務が力を入れている事もありトレーナーの質も良い。見えない所で同じユニットのメンバーが成長していれば不安にもなるだろう。

 

「それは、わかってます。前よりも大変そうで、最近は一緒に居る時間も減っていますから。……でも、なんだか今のままだと置いて行かれそうで……」

 

最も近くにいるからだろう。不安が強いのは。

 

「――わかりました。少しレッスン内容を見直してみましょう。それに、個別で島村さんがレッスンを行えるように動いてみます」

 

「――本当ですか!?」

 

驚きから、満面の笑みに変わる。彼女は、こちらの方が似合う。

 

「皆さんの要望を叶えるのがプロデューサーの仕事ですから。それよりも言いに来てくれてありがとうございます。島村さんが言ってくれなければわかりませんでした」

 

また気づけなかった。今回は、卯月の方から来てくれたが、やはりまだ距離があるのかもしれない。

 

「――感謝なんてしないでください……感謝したいのは、私の方なんですから。でも、プロデューサーさんに言えてよかったです!」

 

「今度も何かあったら言って下さい。私は、いつでも皆さんの事を待っていますから」

 

「……本当ですか?」

 

「はい。此処に人が居なければ、いつでも来てくださってかまいませんよ。私としては、少しでも皆さんと関わりが持てますので、その方がいいですから」

 

「お邪魔じゃ……ないですか?」

 

「邪魔なわけがありません。いつでもいらしてください」

 

そんな感じの会話が昨日あった。それが形を変えて、『人が居なかったら遊びに来てもいい』に変わった。特に問題はないのだが、この部屋も賑やかになった。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

凸レーションの三人が隣の待機場所に戻り、今度はニュージェネレーションの本田未央と島村卯月が交代する形で来た。大勢で来ない所をみると、こちらに気を使って誰が来るかを決めているのだろう。ちなみに渋谷凛は、用事があるために今日は来ない。

 

「――どうやったら、しぶりんに勝てるのか?」

 

「別に勝つ必要はない気が……」

 

「甘い! 甘いよ、しまむー! 相手は、あのしぶりんだよ? 勝つ気でいかないと!」

 

先ほどから彼女達は、打倒渋谷凛で話をしている。もちろん暴力的なものではなく、アイドルとしてだ。どうやら、未央の方も危機感を感じていたようだ。

 

「それで、しまむーは何かある?」

 

「プロデューサーさんが、レッスンを増やしてくれたくらいで……他には……」

 

ちなみに話を聞いた未央の分も追加でレッスンを取る事になった。

 

「レッスンは、プロに頼むとして……他にはなにかないのかな?」

 

「……私には、なにも浮かびません。――そうだ! プロデューサーさんに聞きましょう!」

 

「ナイスアイディア、しまむー! プロデューサー先生! 何かお知恵を下さい」

 

「お、お願いします」

 

演技っぽい未央と、それに合わせるように卯月も頭を下げる。

 

(困りましたね)

 

妙案など浮かばない。そんな簡単にどうにかできるのなら苦労はしないだろう。何も言えず、代わりに困った時の癖である首をさする仕草が出る。

 

「――失礼します」

 

「いいのか、入って……」

 

部屋を叩く音が聞こえると、北条加蓮と神谷奈緒が部屋に入って来る。

 

「大丈夫だって。卯月ちゃん、未央ちゃん」

 

加蓮は、奈緒を放っておいて中にいた知り合いに声を掛ける。

 

「やや、これはトライアドプリムスのお二人で」

 

「こんにちは、加蓮ちゃん、奈緒ちゃん」

 

4人は、凛を通して既に友好関係を築いている。

 

「今、大丈夫か?」

 

「別に問題ないよ。――ひらめいた! この二人にも協力してもらおうよ!」

 

「協力? 何か面白い事?」

 

未央の話を聞いて、加蓮が興味を抱く。

 

「二人に聞きたいんだけど、しぶりんはどう?」

 

「凛がどうかしたの?」

 

「いやーお恥ずかしながら、しぶりんに嫉妬してまして。それで、打倒渋谷凛を掲げてレッスンなんかを考えているわけですよ」

 

「打倒とか……なんだか物騒な話だな」

 

「凛ちゃんが凄いから、私達も頑張ろうと考えてます!」

 

「……なるほどね。いいじゃん! アタシも協力するよ!」

 

「おいおい、いいのか加蓮」

 

「奈緒だって、凛が私達よりも凄いのは知ってるよね? 勝ちたいとは思わないの?」

 

加蓮の言葉は、この前と同じで力がある。今の言葉は、彼女の本音だろう。強い意志を感じる。

 

「……それは、思うけど……」

 

「だったら、一緒に考える。丁度、その話をしに来たとこだしね」

 

「丁度、ですか?」

 

「アタシ達も凛に嫉妬してるの。あんな凄いのを身近で見せられてるんだもん、仕方ないよ」

 

「見ててカッコいいと思う……」

 

「そんな訳だから、協力させてね」

 

「――これは、強力な援軍を得ましたな。しまむー、風は私達に吹いてるよ!」

 

「そ、そうなんですか? ……よくわかりませんけど、島村卯月頑張ります!」

 

「よし、その意気だ!」

 

新たにトライアドプリムスの加蓮と奈緒を加えて打倒凛が話し合われる。だが、最終的に何も浮かばずに凛を中心とした話題で終わりを告げる。

 

しかし、身近に居る彼女達が嫉妬するほどとなると凛に対する評価を変えた方がいいかもしれない。もしかすると、自分が考えている以上に彼女は実力があるのかもしれない。

 


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