プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第6話

「ねぇ……プロデューサー」

 

渋谷凛は、後部座席から武内の事を呼ぶ。ただ、視線は外の方を向いており、声も呟く程度のものだ。

 

「……どうかしましたか?」

 

「……なんでもない」

 

この会話は、これで何度目だろう。名前を呼ばれては、こんな感じのやり取りをしている。

 

そもそも今日は、いつもと違い特別だ。外回りの営業をしている時に凛から連絡があった。内容は、学校に迎えに来てほしいと言うものだった。凛の学校から346プロダクションまではそう遠くはない。そのため、仕事か何かしらの事情がない場合は一人で来ている。

 

「……プロデューサー」

 

「……なんでしょうか?」

 

「……私って、嫌われてたりするのかな?」

 

想像もしていなかった言葉に動揺してしまう。バックミラー越しに凛の様子を見て見るが、相も変わらずに外を見ている。

 

「……そんな事はないと思います。どうかされましたか?」

 

凛は、こちらに視線だけ送る。特に悪い事をしているわけではないが、心臓が跳ねた気がした。

 

「……最近、未央と卯月の様子が変なの。……それだけじゃない。加蓮と奈緒も」

 

凛の視線は、こちらを見ている。もし顔までこちらを向いたら、動揺を隠せる気がしない。

 

「……何か知ってる?」

 

思わず唾を飲み込む。

 

「……いえ、特には」

 

「――本当に?」

 

とても女子高生が出す威圧感じゃない。凄まじい目力だ。

 

「……そう」

 

凛は、再び外へと視線を向ける。

 

「最近ね。あの4人、私に内緒で会ってるんだよね。……確かに今は時間がないよ? でも、なんだか寂しい。あの4人の事だから嫌な事じゃないのはわかってるけど……不安にはなるよ」

 

彼女もまだ子供。仲の良い友人との距離に悩んでいるのだろう。そして、その話をするために今日は、こうして迎えを頼んだのだろう。

 

「……渋谷さんが心配されるような事ではありませんよ。……私から言うのもどうかとは思いますが、彼女達はレッスンをしているだけですから」

 

「――レッスン?」

 

「渋谷さんは、ニュージェネレーションとトライアドプリムスの両方でレッスンを受けています。単純に考えても倍近くの量を受けています。……彼女達は、不安なんだと思います。仲間である渋谷さんが、遠くに行ってしまう事が」

 

本当なら隠しておきたい。しかし、凛もまた担当のアイドルだ。

 

「……そっか。なんだか、悩んでたのがバカらしいね。あの4人が、そんな事をするわけないのに」

 

凛の表情が和らぐ。

 

「……でも、なんで教えてくれないのかな? 一緒にじゃダメなの?」

 

「それは、彼女達がアイドルだからだと思います」

 

「……アイドルだから?」

 

「はい。最も身近で渋谷さんを見ているのは、彼女達です。どうしても意識してしまうのだと思います」

 

「……嫉妬とかかな? そっか、そう思われているのか……」

 

再び、表情が曇る。

 

「確かに嫉妬はあります。しかし、皆さんは渋谷さんの事を大切に思っていますよ? 最近では、私のオフィスに集まる事もありますが、渋谷さんのお話をよくしています」

 

「……私の話?」

 

「はい。どちらも渋谷さんとの事を楽しくお話されています。何処に行ったのか? 何をして遊んだのか? 彼女達の表情は、本当に良い笑顔をしています」

 

「……そっか……ふーん」

 

凛は、こちらに見えないように顔を背ける。僅かに見える顔には、赤い色が見える。

 

「――ねぇ、プロデューサー」

 

「なんでしょうか?」

 

「私には、味方はいないの?」

 

「味方ですか?」

 

「だって、あっちは4人じゃん。それに比べて、こっちは1人だし。不公平だとは思わない?」

 

凛の言い分はわかる。しかし――

 

「確かにそうですが――」

 

こればっかりは仕方がない。

 

「……プロデューサー……プロデューサーが私の味方になってよ?」

 

「私が、ですか?」

 

「うん。プロデューサーなら互角じゃないかな?」

 

理屈はわからないが、凛としてはありなのだろう。少しだけとはいえ、機嫌が良さそうだ。

 

「……私は、立場的には皆さんの味方です。……誰か一人の味方には……」

 

「ふーん。じゃあ、プロデューサーは、私を一人にするの?」

 

痛い所を突かれる。

 

「……少しだけでしたら……」

 

「――そっか。ふーん、悪くないかな」

 

それからは、短いはずの時間が長く感じる。346プロダクションに着くまで、凛と今後について話をした。しかし、スケジュールがビッシリと詰まっている凛に余裕などはなく、ほとんどがお喋りの時間になった。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

凛には言えないが、実は彼女達の味方を既にやっている。主に北条加蓮と本田未央に頼まれたからだが、島村卯月と神谷奈緒のお願いもあり負けた。

 

「――本田さんは、もう少し周りを意識してみてください!ダンスは、あくまでも他の方と共に踊るものです!」

 

「――はいっ!」

 

「――島村さんは、足元ではなく前を見て下さい! 気になるのはわかりますが、貴方が見なければいけないものは足元にはありません!」

 

「――頑張ります!」

 

「――北条さんは、もう少し動きを大きくするように意識してみてください! ステージは、とても広い事を忘れてはいけません!」

 

「――はいっ!」

 

「――神谷さんは……頑張ってください」

 

「――なんで、私だけそれなんだよ!」

 

レッスンに関しては、本職であるトレーナーのようにはできない。的確な指摘などは彼らに勝てるものではない。しかし、客観的に見る事ならできる。トレーナーと話し合い、それぞれの苦手な所、必要な所は聞いてある。あとは、そこを注意して見ればいい。

 

場所は、空いているレッスン場。トレーナーによるレッスンが終わり、空いていた場所を使わせてもらっている。トレーナーの数に限りがあるため常に指導を受ける事はできない。自分は、その代わりだ。

 

「――それでは、休憩にしましょう」

 

武内の言葉で彼女達は、休むように座り込む。今、彼女達が行っているのは、互いの曲のダンスを覚える事だ。彼女達が目指す目標である渋谷凛に対抗するため、同じ条件を選んだのだ。

 

「――疲れたー」

 

「――だねー」

 

未央と加蓮は、だらしなく横になる。レッスンが終わり、その後もこうしてやっているのだ。疲れるに決まっている。

 

「……でも、凛ちゃんはいつもこうなんですよね」

 

「……だな。そりゃ、すごいわけだ」

 

改めて、凛の凄さを自覚する。彼女は、既にこれと同様の事をやっている。

 

「――ねぇ、プロデューサー。少しは、凛に近づけたのかな?」

 

「――私も気になります!」

 

この中でも凛に対して特に何かしらを感じている二人から聞かれる。

 

「まだ、遠くだと思います。北条さんは、動きを大きくしようとして動きにブレが見られます。持ち味である繊細で優雅な動きを途中から保てなくなっています。島村さんは、足元に対して苦手意識があります。ステップに関しては、練習で自信を付けていく必要があると思います」

 

二人は、武内が言った言葉を自分の中でかみ砕く。少しでも糧に出来るように。

 

「プロデューサー! 未央ちゃんは、どうなのかな?」

 

「本田さんは、単純なところだけで見れば、渋谷さんと変わらないと思います。ダンスに関しては、それほど差はないでしょう。ただ、渋谷さんは全体を見る事が出来ます。ユニットである以上、他との調和が必要となります」

 

「……そっか。どうしても自分だけになるんだよねー」

 

それぞれ自覚のある部分だろう。彼女達は、自分の苦手としている部分に目を向けて前に踏み出そうとしている。

 

「……なあ、プロデューサー。……私は?」

 

「神谷さんですか?」

 

「ダンスの時もなんだか、私だけ扱いが酷くないか?」

 

奈緒の表情が落ち込んでいるように見える。彼女は、感情が表に出やすい。

 

「……神谷さんは、目立つ欠点がないんです。トレーナーさんとも話しましたが、私では難しいとの事です」

 

「……それっていいのか? なんだか不安なんだけど?」

 

「神谷さんは、着実に成長しています。これだけの運動をしていても動きが最後まで保てていますから。前にあったような事がないのが証拠です」

 

奈緒は、レッスンの最後の方でふらつく事があった。それが今では見られなくなっている。

 

「……確かにそうだな。――もしかして、凛に一番近いのは私なのか?」

 

先ほどの落ち込みが嘘のように華やかになる。

 

「……そうかもしれませんね」

 

「――やった! どうだ、加蓮!」

 

嬉しいからか同じトライアドプリムスの加蓮に自慢気に言ってのける。

 

「……プロデューサー……次をお願い」

 

どうやら加蓮のやる気に火がついたようだ。

 

「――だったら未央ちゃんも、もうちょっと頑張ろうかなー」

 

「――私も頑張ります!」

 

未央と卯月も再び立ち上がる。

 

「――まだやるのか!? ――ちくしょう! だったら、私だって!」

 

既に限界が近いのだろう。意地で、奈緒も準備に入る。

 

「――では、始めます。但し、危険と判断した場合は止めますので」

 

アイドル達の返事を受け、改めて曲を流す。

 

彼女達は、アイドルとして何度でも立ち上がる。

 

目標を目指し、超える為に。

 






とりあえず、トライアドプリムス編を書き上げたいと思います。
他のクローネは、まだ登場までに時間が掛かります。
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