プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第7話

今日は、この前と同様に美城常務と共にトライアドプリムスのレッスンを見ている。前回よりも向上した彼女達のパフォーマンスは、共に道を歩んだ者としては感慨深いものである。

 

「――よし! 今日は、ここまでにする!」

 

ベテラントレーナーの終わりを告げる声で、今日の分のレッスンは終わる。

 

「――疲れたー」

 

北条加蓮は、力を出し切ったからか終わると同時に座り込む。

 

「――今日は、一段と……大変だったな……」

 

神谷奈緒も同じように床に座り込む。加蓮ほどではないが肩を揺らし、身体が酸素を求めて動いている。

 

「――そうだね」

 

二人と比べて、凛はあまり疲れてはいない。先に足を踏み出した者とそうでない者の差が明確に表れる光景だ。

 

「……そのわりには余裕に見えるけど?」

 

「……だな。よく平気でいられるな」

 

凛は肩を揺らしてはいる。呼吸も激しいものだ。しかし、二人と違い今も立っている。

 

「……それは、そうだよ。二人よりも先に頑張ったんだから」

 

本当に努力を惜しまなかった者が言える言葉。凛には、それを言う資格がある。それは、凛が歩んだ道を進むと決め、歩き出した二人ならよくわかる。

 

ちなみに凛は、既に彼女達がしている事を知っており、その上で協力を自分から申し出た。「大変かもしれないけど……一人よりはいいから」そんな彼女の言葉を受けた彼女達が、その後凛をどうしたかは言う必要はないだろう。

 

「――お疲れ様です」

 

武内は、美城常務と共に三人の下へと足を進める。いつものように飲み物とタオルを配り終えると、邪魔にならないように端へと寄る。

 

「お疲れ様、と言っておこう。すでに気づいていると思うが、本日行われたレッスンは特別に用意したものだ――」

 

美城常務は、そこで言葉を止め、一度武内の方を見てから口を開く。

 

「――どうかな? 彼の教えは?」

 

美城常務には全て報告してある。トライアドプリムスの二人がニュージェネレーションの本田未央と島村卯月と共にレッスンをしていると。ただ、報告はしたが反対などはされなかった。「君の担当に口を出す気はない。好きにするといい」と言われただけだ。

 

「……アタシは、良かったと思う。ううん、違うね。ありがとうって言いたい。ここまで凛に近づけたんだもん」

 

「……私は、感謝はしてる。でも、他と比べると扱いが気になるな。今度からは……もう少しちゃんと見てほしい……そうじゃないと……ズルいだろ?」

 

こうして自分に対する評価をアイドルの口から聞けるのは素直に嬉しいと思える。共に歩んで来られて、良かったと思える瞬間だろう。

 

「――私も、お二人と共に道を歩く事が出来て嬉しいと思います」

 

「――そう? ……なんだか嬉しいね」

 

「……でも、なんだか恥ずかしいな」

 

加蓮、奈緒と同様に武内も照れる。

 

「……私は?」

 

凛と目が合う。

 

「――渋谷さんは、今までもこれからも変わりません。同じ道を進んでいます」

 

「……ふーん」

 

何とも言えない視線が向けられる。居た堪れない気持ちになる。

 

「……君の評判は、まずまずと言ったところだな。内容を見せてもらったが、悪くないできだ。むしろ、短期間でこれだけの物に仕上げられれば上等とも言える」

 

褒められている? 勘違いでなければそうだろう。

 

「――だが、まだ足りない。これからもよろしく頼むぞ?」

 

「――承知しました。彼女達の事は、私が責任を持ってプロデュースしていきます」

 

武内は、頭を下げる。

 

「……期待している。これからも報告は細かく上げるように」

 

美城常務は、それだけを言い残し部屋から出て行く。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

「うーん、このケーキ美味しい! さすが、かな子ちゃんだねー!」

 

「本当に美味いよなー」

 

加蓮と奈緒は、シンデレラ・プロジェクトのメンバーである三村かな子が作ったケーキを食べている。かな子が差し入れをしてくれた物だ。

 

「かな子は、いつも持って来てくれるよ」

 

凛もかな子のケーキを食べている。ただ、二人よりはリアクションが薄い。普段から食べ慣れているからだろう。

 

「いいなーアタシもこっちの子になろうかな? 美味しい物も食べられるし、のんびりできるし、居心地も悪くないもんね」

 

加蓮は、ソファーで寛ぐ。来客用のソファーのはずではあるが、最近はアイドル達の物になっている。

 

「確かにそうかもしれないけど、クローネも悪くないぞ?」

 

「そんなの知ってるよー、普段はあっちなんだからさ。でも、此処は別でしょ? どっちもあるもん」

 

武内のオフィスは、シンデレラ・プロジェクトの場所でもあり、プロジェクト・クローネの場所でもある。

 

「……それもそうか」

 

奈緒もすっかり慣れたからか、特に気にもせずにケーキを口に運ぶ。

 

「……随分と寛ぐようになったね、二人とも」

 

「そうかもねー、なんだかずっと居たみたいな感じだよねー」

 

「だなー、なんなんだろうなー」

 

「……ああ、あれじゃない? ほら、何かあってもプロデューサーがいるし」

 

「……かもしれないなー。すぐに頼れるもんなー」

 

レッスン後の疲労を考えても、二人のだらけっぷりは酷い。

 

「……プロデューサーも何か言ってよ」

 

凛は、デスクで仕事をしている武内に協力を求める。

 

「……今日は、お二人共疲れたのだと思います。ゆっくりと休まれた方がいいと思います」

 

「――さすが、アタシのプロデューサーだね」

 

「――プロデューサーから許しも出たし、のんびりしよう」

 

「――プロデューサー! あんまり甘やかしちゃダメだよ! これでもアイドルなんだよ! 少しは、気を付けないと!」

 

「……そうですね」

 

凛の剣幕に圧され、同意せざる負えない。

 

「――えー負けないでよ、プロデューサー。アタシの為にも凛に勝って」

 

「凛が頑張り屋なのはわかってるけど、今日だけは休もう。正直、へとへとなんだよ」

 

実際に今日のレッスンで、二人は限界近くまで体力を使ったはずだ。

 

「……渋谷さん。今日は、二人を休ませてあげては?」

 

「……そんなんだから、二人が図に乗るんだよ? プロデューサーは、なんだか二人には甘いよ!」

 

彼女達の味方をしていたのが知られてからあたりが厳しい。

 

「――凛? なんだか、小姑みたいだよ?」

 

「――かーれーんー」

 

疲れて動けない加蓮に凛が襲い掛かる。加蓮から助けの声が出るが、別に本気でやっているわけではないので放って置こう。どうせ、いつも通り奈緒もこの後巻き込まれるのだから。

 

今、目の前で起きている光景も別に初めてではない。まだ短い時間だけしか同じ空間で過ごしていないが、彼女達にとっては日常の一コマだ。こうして、同じ時間を共にしてわかった。

 

(二人も随分と慣れましたね)

 

プロジェクト・クローネのプロデューサーとなり、トライアドプリムスの担当になってからの短い付き合いだが馴染んでもらえると嬉しいものだ。

 

「――お疲れー」

 

「――お疲れ様です!」

 

レッスンが終わったと連絡を受けていたからか、本田未央と島村卯月の二人は、遠慮もなく扉を開けて入って来る。

 

「二人の分も、かな子ちゃんが用意してくれたよー」

 

二人の来訪で凛の動きが止まったからか、先ほどまで動けなかったはずの加蓮が二人を出迎える準備を始める。

 

「――加蓮……もういいや。私も手伝う」

 

凛も加蓮と共に準備を行う。

 

「いやー話は聞いたよ? 頑張ったね!」

 

「今日のは、大変だったんですよね?」

 

「そうなんだよ。おかげでこのありさまだよ」

 

二人の問いに未だにだらしない感じで奈緒は答える。

 

「でも、たぶん次からはこんな感じになるんじゃないかな? ねぇ、プロデューサー?」

 

「……そうですね。今日の結果を踏まえた上で改めてレッスン内容を検討します。内容は、今日ほどではないにしろ質、量ともに増えると思います」

 

「……マジか? ふへ~もう、無理だってー」

 

奈緒は、更にソファーへと身体を預ける。

 

「ねぇ、プロデューサー。今日のレッスン内容とか教えてもらえない? 私達も気になるんだ」

 

「お願いします! プロデューサーさん!」

 

「……変更はありましたが、こちらに計画書があります」

 

二人にレッスンの計画書を見せる。その中には、本日行われたレッスンの予定内容が含まれており、簡略ではあるがレッスン内容が書かれている。

 

「……なるほど。全然、わからない!」

 

「はい! 全然わかりません!」

 

基本的に専門用語と走り書きのようなものなので、わからなくても当然だろう。

 

「基礎の向上と動作確認の為に使われるプログラムを下に今回のレッスンは考えられています。今後の為のデータ収集と現状の確認が目的でしたから」

 

「……わかりやすくお願いします」

 

「お願いします」

 

自分も専門ではないので少し難しい。簡単に流れで今回行われたことを説明した。できる限り、動きを説明しながら。

 

「――プロデューサーさん。その内容は、私達はできないんですか?」

 

「――そうだね。やってみたい」

 

二人も加蓮と奈緒と共にレッスンをしていた。自分がどれだけ成長したか知りたいのだろう。

 

「準備はしてあります。ただ、渋谷さんも共に行うことになりますので、少し間が空くと思います」

 

「ありがとうございます! プロデューサーさん!」

 

「話が早くて助かるよー!」

 

「二人とも、準備できたよ」

 

「おっ! じゃあ、かな子ちゃん特製ケーキで英気を養うとしましょうか!」

 

「元気を付けなきゃですね!」

 

トライアドプリムスの3人にニュージェネレーションの2人が加わる。いや、ニュージェネレーションの3人にトライアドプリムスの2人が加わったとも見える光景だ。

 

(この5人でやるのも面白そうですね)

 

企画が通るかはわからない。ただ、今ならすぐにでも書き上げられるだろう。目の前で、楽しそうに過ごしている彼女達の笑顔を見ながらなら。

 


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