しばらく走って宗一のこれまた隠れ家の空き家に逃げ込んだ。
「いや~さすが俺! 万が一に備えてピッキングしといて良かった……」
「あんたね……完全に犯罪じゃないの!」
「学校から近くて朝一の講義の時は便利なんだよ……」
「流石に奴らもここまでは嗅ぎつけて無いようだ……だが……あまりにも情報が少な過ぎる」
「確かにそうですね……僕達は奴らの目的も何故そうなったのかもわかってません」
「既に殉教者も出してしまった……我々に今! 必要なのは『情報』だと! 私の勘が告げている!」
「情報か……ねぇ? 笑わないで聞いてくれる?」
「なんだよ? 直美?」
「私ね……こう見えてホラーゲーム大好きなんだけどさ……今の状況と全く同じゲームを知ってんだよね……」
「おいおいおいおい……何を馬鹿な……」
「待て! 続きを聞こうじゃないか……」
「でね、細かい所は勿論違うんだけど……そのゲームでも村人がおかしくなって……たまたま居合わせた私達みたいな人間が襲われるんだけど……でね、その世界って異世界なの」
直美の独白に呆れる宗一と対称的に神父は静かに話を聞いていた。
そこに伸二が口を開いた。
「姉さんの話と関係あるかわからないけど……僕、先週の講義でこの地域の民話について勉強したんだ……そしたらね、この地域はもともと忌地として周りの地域の人からひどく嫌がられていたんだって、その理由って言うのがここにあった平田村の住人ってのがある日、一斉に姿を消したんだって、それで周りの村は神隠しにあったって考えてたらしいんだ。そこから誰もこの辺の土地を買いたがらないのをいいことに、うちの大学がタダ同然で買い取ったんだって……」
「じゃあ何か? 俺たちは神隠しにでも遭ったってのか?」
「僕にもわからないよ……でもマトモな状況じゃないのは確かでしょう?」
「なるほど……確かに突拍子もないが……一度その線で調べてみよう」
「正気か? 神父? 俺達がゲームみたいに神隠しにあって異世界に来てるってのか?」
「私は『調べてみよう』といったのだ。どの道、助かるにしても助けを求めるにしても今のままでは『不可能』だ! それとも君は何か知っているのか?」
「ぐむ……しかし調べるってもよ~何処をどう調べるってんだよ?」
「伸二の話によれば、その教授はこの地域の歴史を調べているようだ。もう一度、大学に戻り教授の資料を調べてみよう」
「神父? お前正気か? ラッキーの最後をみたろ? 大学には奴らがウヨウヨいる! 俺はごめんだね!」
「ちょっと待って! 確かに正面から行くのは無謀だけどウチの大学って森に囲まれてるでしょ? でもってあの教授の部屋って確か山手の校舎の三階じゃない?非常階段使えば直接行けるわ!」
「でもだ! 教授どもの部屋は電子ロックでパスワードが無いと無理だ!」
「あ! 僕あの教授の部屋のパスワード知ってます!」
「はぁ? なんで伸二が?」
「教授、仲の良い生徒にはパスワードを教えて自分の資料を勝手に見ていいようにしてるんです!」
「ぐむ……」
「伸二よ……怯えきった子犬に何を言っても無駄だ……我々だけでも『真実』へ近づくんだ」
「あああああ! ちくしょおおお! わかったよ! 行けば良いんだろ?」
一同は山の中をひた走っていた。
(そこで止まって! 向こうから何かくるわ!)
一斉に物陰に身を隠す一同。
(おい! 山の中にもアイツ等がいるじゃねぇか!)
(誰も居ないとは言ってないでしょ! 行ったわ! 行くわよ!)
山の中にも少ないとはいえ怪物がうろついていた。
それを物陰でやり過ごしながら、とにかく目的地を目指す。
そうしてようやく大学の敷地内まで辿り着いたのだった。
「少しばかり手間取ったがようやく……と言ったところか……」
あと少しで非常階段という所で問題が発生した。
「おい待て! あそこに一体いやがる!」
急いで校舎の影に身を隠した。
「どうする? 一体だけなら殺っちまうか?」
「待って! 少し様子をみましょう!」
しばらく様子を伺うが一向に動く気配はない。
「うーん……あまり騒ぎを大きくして奴らが集まって来たら困るし……」
「しかしよ! ここでグズグズしてたら奴らに見つかっちまうぞ!」
「私に任せろ……」
そう言って神父が校舎の影から怪物の背後に回りこみ不意に「おいっ」と声を掛けた。
ガバアッ !
怪物が振り向くのを確認して、その顔めがけて円盤を差し込んだ。
怪物はその場に倒れこみビクビクと痙攣している様だった。
その様子を物陰から伺っていた宗一達が神父の近くまで走ってきた。
「おい! 神父! やるじゃねぇか! まさか円盤にそんな使い方が……」
「全ての出来事には『必然性』があるのだ……」
「やるじゃない! 神父! でも先を急ぎましょう!」
非常階段を駆け上がり目的の教授の部屋まで何とか辿り着いた。
「おい! 伸二! その資料ってのはどこだ?」
「確か……この棚全部がそうです!」
「この棚って……結構な量だぞ!」
「とにかく手分けして探すのだ……我々の『命』に関わる情報を……」
「私と伸二はこっちを探すわ!」
「たくよ……」
一同が資料を漁り始めて小一時間が経過したところ、直美が声を上げた。
「ちょっと! みんな来て!」
「おう! なんかあったか?」
「平田村全村民失踪事件に関する警察の見解……」
伸二が資料を手に読み始めた。
「昭和二十六年……突如として平田村の村民である四十八名が失踪……周辺の村人も動員され懸命な捜索がなされたが手がかり一つない状況が続き、翌年の六月に捜索は打ち切られ、未解決事件となった……」
「何だよ! それはさっきも聞いたよ!」
宗一が呆れたように言ったが伸二はじっと資料を読み続けている。
「待って! 続きがある! 確かに捜査は打ち切られたんだけど! その後、生き残りが一人見つかったみたいです!」
その言葉に一同の眼差しは真剣なものとなった。
「えぇっと……捜査が打ち切られてしばらく経って隣村に平田村の住人を自称する少女が現れたそうです。名前を……谷町佳代と名乗ったそうです。少女は警察に連れて行かれ事情聴取を受けたのですが……ひどく取り乱していて訳の分からない証言を繰り返したそうです。」
「その少女の証言がわかる資料はないのか?」
神父の問いかけに伸二は資料を漁りながら答えた。
「確か……教授の資料がこの辺りに……あった! 読みますね? 『少女の証言……自分は平田村にある神社の娘で『谷町佳代』であると主張していた。警察は各種資料と照らしあわせた結果、本人に間違いは無いと断定。しかし証言に事件解決の糸口を見つけられなかった。少女が話したとされる内容は以下のとおりである。『自分が神社の境内で掃除をしていると突然警報が鳴り響いた。すると空が急に赤暗くなり急いで物陰に隠れた。しばらく身を潜めていたが、神事で村にいる両親や自分の友人の安否が気になり様子を見に村に降りてみると皆が化物になっていた。必死の思いで神社まで戻った自分は御神木にひたすら助けを求めて祈り続けた。すると神様が現れ自分に逃げ道を教え不思議な力を授けてくれた。自分はその力を使いなんとか逃げ道まで辿り着いて逃げ出す事が出来た』……そうです」
「ちょっと待て! じゃあ何か? 数十年前にも今と同じ事が起きたってのか?」
「はい……少なくとも資料にはそう載ってます」
しばらく考えこんでいた神父が口を開いた。
「なるほど……どうやら我々を取り巻く環境は当時と酷似している様だ……だが問題はそこじゃあ無い! その神社に行けば逃げ道のヒントが見つかると言う事だ!」
「……そっか! 資料じゃその少女は助かった訳だもんね!」
「我々は遂に『鍵』を見つけたぞ!」
一同に希望の光りが差し込む。
「で……その神社ってのは何処なんだ?」
「えぇっと……資料では……ここから二キロ離れた『大上神社』です!」
「『大上神社』っていやぁ……ウチの大学の奴らが夏に肝試しする廃墟じゃねぇか!」
「アタシも聞いたことある。なんか廃墟と御神木と池しかないんでしょ? 伸二? 本当にそこで合ってるの?」
「えぇ! 間違いありません!」
「必要なものは手に入れた! ここに用はない!」
二キロ……言葉にすれば容易いが怪物の恐怖に怯えながらの道中は四人をひどく消耗させた。
「はあ……はあ……行ったな?」
「えぇ……行きましょう……」
「大丈夫か? 伸二?」
「なんとか……」
「ちっくしょぉ……車で麓までいけばスグなのに……」
「仕方ないでしょ……」
隠れては進み……隠れては進みの行程が終わりなく続く様に思えた。
いったい何度繰り返したのだろうか……
ようやく神社の麓まで辿り着いた。
だが、そこから更にクソ長い石段が待ち受けていた。
「ああ! 歩きにきー! ちったあ整備しろよ!」
「仕方ないでしょ! 誰も参拝しないんだから!」
「はあ……はあ……僕……もし帰れたら神社再建の署名活動するよ……」
「ようやく……頂上らしい……」
そこには評判通りの廃墟が広がっていた。
「ふぅ……ちょっと休憩……」
「アタシも……無理!」
「ぼ……僕も……無理……」
「私は少し辺りを見てくる……」
他の三名に比べ体力に余裕がありそうな神父が辺りを散策に行った。
「アイツ……意外と体力あるのな……俺は無理だ……」
「アンタはマシでしょ! 伸二なんてずっと『大剣』抱えてきたんだからね!」
「姉さん……わかってるなら途中で手伝ってよ……」
しばらくして神父が戻ってきた。
「廃墟の中には何も無かった」
「そりゃ……どういう?」
「つまり何一つ残ってないと言う事だ」
「そんな! じゃあ脱出するための地図とかも無かったの?」
「その通りだ」
その言葉にひどく落胆する宗一と直美だったが伸二が思いもよらない事を言った。
「みんな待って! あの資料の証言には地図なんて一言も言って無かったじゃないか!」
「ふむ……確かに……資料には『御神木にひたすら助けを求めて祈り続けた』とあった」
「つまり脱出の『鍵』は『社』じゃなくて『御神木』じゃないのかな?」
「ええい! こうなりゃヤケだ! いっちょ神頼みしてみっか!」
残された御神木を前にする一同。
「よし! みんな! 真剣に祈るのよ!」
「おっし! 任せとけ!」
「ああ! 神様! どうか!」
思い思いに祈る宗一、直美、伸二……だが神父だけは「お前は異教徒っぽいから」と言う理由で宗一と直美から止められていた。
一体どれほど時間が過ぎたのだろうか。
全く何も起きない。
うんともすんとも言わない。
一同が諦めかけた……その時、神父が口を開いた。
「お前たち……もしかして特別な言葉が必要なんじゃないのか?」
「特別な言葉? 暗号みたいなか?」
「例えば神社の娘なら祝詞ぐらいは知ってたんじゃないのか?」
「なるほど……確かにその可能性はありますね!」
「でも、この中で誰か祝詞なんて知ってる?」
「祝詞は知らないが私が試してみよう!」
御神木を前に真剣な面持ちの神父……
そして、彼の口から十四の言葉が紡がれた。
「学校の怪談・ロイヤルカブト・鎮魂の廃寺・ブドウアームズ・ロイヤルカブト・ドラゴンへの道・ロイヤルカブト・特異点・電王・天使の羽・月光蝶・ロイヤルカブト・特異点・秘密の校庭」
一同が「やっちまった!」感でいっぱいになった瞬間……奇跡が起きた。
(なんじゃあ! その祝詞は!)
「ああ……俺も思った……直美」
「へ? アタシは何も言ってないよ?」
(ここじゃ! ここ!)
「ん?」
何やら宗一のショルダーバッグがもぞもぞしている。
「宗一さん! バッグに何か居ますよ!」
「えぇ!」と宗一が焦りながらジッパーを開くと中からフィギュアが飛び出してきた。
「全く! 近頃のモンは祝詞もロクに知らんのか!」
突然の出来事に一同がリアクションにこまる中、宗一だけは違った。
「俺のアイリスちゃんがあああああああああ!」
「アイリスって……あの~深夜にやってる……」
「そうだ! 世紀末魔法少女アイリスちゃんの限定フィギュアがああああああああ! 喋ったあああああああああ!」
世紀末魔法少女アイリスちゃん……時は世紀末、最終黒魔法によって巨大隕石が地球に衝突した世界……人類は死滅したかに思われた。しかし人類は魔法の力で生きながらえていた。秩序は乱れ世に覇を唱えんとする群雄割拠の時代……そんな世界の帝王とならんと万の軍勢を率いる世紀末魔法少女アイリスちゃんのバイオレンスファンタジーアニメ。
「まあまあ落ち着くんじゃ。お主のこの人形に対する深い愛情と信仰心のお陰でこうして出てくる事ができたんじゃ」
「深い愛情って……宗一……アンタ……」
「待て! 誤解するな! 確かに一ファンである事は認めよう!」
「フォフォフォ……な~に隠すでない。 この人形を下から眺めたり、人気の無い所で舐めたりしても愛あればこそなのはワシはわかっとる……ワシはね」
「宗一先輩……そこまで……」
「ギャ――――――――――――――――――ッ!」
「君が御神木から産まれた『緑色の赤ん坊』なのか?」
「なんじゃそれ? ワシはオオカムズミノミコトじゃ。お主が意味のわからん祝詞を急にあげるもんじゃから、驚いて出てきてしもうたんじゃ! ほんで、信仰の対象となっとるこの人形を寄り代にしたわけじゃよ」
「信じられない……宗一の性癖もそうだけど……人形がしゃべるなんて……」
「確かに……宗一先輩の性癖はさて置き……でもアナタですよね! 数十年前にこの神社の娘さんを助けたのは!」
「いかにも! ワシはイザナギノミコトより人々を助けるように命ぜられとる」
「なら僕達も助けて頂けますか! ここから逃がして下さい!」
「確かに助ける事はしよう……じゃがワシは直接、お主等を救い出してやる事は出来ん」
「それは……どういう……」
「まぁ……ここはワシの力で安全じゃ。少しお主らの状況を説明してやろう」
その言葉に有り得ない体勢で全力で凹んでる宗一以外は頷いた。
「まずじゃ! ここはお主らの世界ではない!」
「えっ? まさか異世界?」
「うむう……確かに異世界には違いないが……この世界の名を『黄泉比良坂』と言う!」
「ヨモ……ツ……ヒラサカ?」
「わかりやすく言うとの~『冥土』とか『あの世』と呼ばれる世界じゃ」
「えっ……それじゃ……私達は死んだの?」
「死んどらん! ただ引きこまれただけじゃ」
「引きこまれた?」
「うむ! この世界にも神が居ってな……まぁ……その神が時々の? 現世の人間を引き込むんじゃ」
「我々を取り巻く世界はわかった! ではあの化物はなんだ? 見たところ人間のようだが?」
「あやつらは、黄泉醜女じゃ!」
「ヨモツシコメだと?」
「ヨモツヘグイと言ってな、この世界のものを食った人間はああなるんじゃ」
「助ける方法はないんでしょうか?」
「ない! 食ったが最後、奴らの頭は食う事しかなくなるんじゃ」
「ねぇ! みんな忘れてるだろうけど! あのサイレンって何なの? あのサイレンの後で全部がおかしくなったんじゃない?」
「サイレンが何かはわからんが……恐らくあの声の事じゃろう」
「声?」
「そうじゃ……あれはこの世界の神がむせび泣く声じゃ」
しばらく沈黙が辺りを包んだ。
皆が皆、状況を受け入れるのに手一杯だった。
「とてもじゃないけど、全てを理解する事は僕には出来ません。でも助けて下さるんでしょう?」
「もちろんじゃ! じゃがワシは御神木があるこの場所から離れる事が出来ん!」
「じゃあ……どうやって……」
「お主らに力をやろう! ワシに着いて来い!」
世紀末魔法少女アイリスちゃんを筆頭に裏の池に進む一同……だが宗一はまだ気持ち悪い体勢で凹んでたので直美が手押し車の様に運んで来た。
「さて! お主ら! 早速、この泉で禊をするんじゃ!」
「ミソギ? え? 見たところドブじゃないの?」
「ばかたれ! 神聖な泉に向かってなんと言う!」
「とにかく従おうじゃないか……私から洗礼を受けよう!」
そう言って神父は泉に身を浸した。
が !
特にその場では何も起きなかった。
しばらくして神父が戻って来た。
「どう? 神父? なにか感じる?」
「この感じ……何か来る! 私の内から力が溢れるぅぅぅぅぅぅ!」
突如、神父の持つ円盤が光輝きその光がウニョウニョと人の形になりだした。
光が収まるとそこには人型としか形容出来ない何かが立っていた。
「これが私のスタンド!」
「いや違う……スタンドが何かは知らんが、お主の信念とその円盤が産んだ『八咫の鏡』のようじゃ」
「ヤタの?」
「使い方は自分でわかるじゃろ? はい! 次!」
「じゃあ今度は僕が……」
今度は伸二が泉に身を浸した。
伸二が泉から上がると大剣が光りだした。
そして何事もなく終わった。
「あれ? 僕の力は……」
「もう授かっとるじゃろうが?」
「えっ? でも神父様みたいに人型の何かは出てきてないですよ!」
「あれは奴の力じゃ! お主の力はその手に握られとる『十束の剣』じゃ!」
「トツカノツルギ?」
「そうじゃ! イザナギも使ってた強力な力じゃ……なぜお主が……とにかく次じゃ!」
「じゃあ次はアタシね!」
直美の先の二人と同じように身を浸し上がってきた。
すると火かき棒が光り輝きウネウネとその姿を変えた。
「これは……ってメリケンサックじゃないの!」
「なんと! それは『草薙の剣』じゃ! お主らは一体……とにかく次で最後じゃ!」
真っ白になりながら宗一は「俺の威厳が……」「もうお嫁に行けない……」とかブツブツ言ってたので三人がかりで泉に投げ込んだ。
「ぶはっあ! いきなり何しやがる!」
宗一が池から上がってくると、その手に握られていた鉄パイプが一際光り輝いて辺りを包んだ。
誰しもが未だ見ぬ力の降臨に息を飲んだ。
宗一に力を授けるべく光は姿を変えていった。
見る者の目を奪うフォルムからは高貴さが……
薄紅に染まった色からは力への意思が……
そして、しなやかに伸びたその先端には大きなハートがついていた……
「こ……これは!」
「あーワシも何千年とココに居るが初めてじゃ……」
「世紀末魔法少女アイリスちゃんが使う『マジカル撲殺ロッド』じゃないかぁ!」
「いや……じゃからそれは……」
「1/1スケールでここまでの完成度を誇る品は見たことがない!」
「いや……じゃから……」
「とにかく放っときましょう……」
「そうじゃな……」
宗一がロッドをスリスリしたり興奮した犬みたいになってた頃……
一同はオオカムズミノミコトから少し注意事項を聞いていた。
「とにかくじゃ! お主らにはこれで特別な力が備わった! しかし簡単にこの世界を抜けれる訳ではないのじゃ!」
「どういう事でしょうか?」
「まぁの、さっきのこの世界の神の話になるんじゃが旦那に別れを話を突きつけられた腹いせに毎年『一人でも多く冥土に引きずり込んでやるわぁぁぁ!』とプンプンしとるんじゃ……」
「毎年? 毎年、私達みたいに巻き込まれてるの?」
「まぁ同じ場所では無いんじゃが大体千人くらいかの? 今回は結婚記念日も重なって結構な規模の人間が巻き込まれたようじゃの……」
「なにソレ! そんなのそっちの勝手じゃない!」
「まぁ……何処の世界の上司も勝手なものじゃ……ワシも普通に現世で暮らしてたらイキナリこの世界に投げ込まれて『人を助けろ!』と言われたキリじゃもん……」
なんか凄い「ショボ~ン」としてるオオカムズミノミコトをフォローする様に伸二が言葉を続けた。
「で……でも! オオカムズミノミコト様が居てくれたお陰で僕達も助かった訳ですし元気だしてください!」
「いや……まだ助かった訳じゃないのじゃ……」
「それは……」
「何事にも手順が必要なんじゃ……今からお主らはこの世界に設けられた五ヶ所の門を巡ってもらわなならん。」
「五ヶ所……ですか?」
「さよう……その門で印を全て集めてようやく『千引き石』の門をくぐれるのじゃ!」
「でも、この力があれば何とかなるんじゃ?」
「そう簡単には……と言ったはずじゃ……」
オオカムズミノミコトの話を要約すると……
その門には黄泉醜女をはじめ鬼やら雷神やらが大挙して詰めかけてるらしい。
鬼とは、一度は黄泉の食べ物を口にしたものの醜女にはならず意識を保ったまま黄泉の力を得た者達らしい。
そして雷神が更に厄介だった。
一度は、自分たちと同じ様に力を得て脱出に挑戦したものの失敗し絶望して黄泉の神に忠誠を誓った者達……つまり自分たちと同じ力が使える。
そんな魑魅魍魎を全て相手にしながら印を集めなければならないらしい。
「どうじゃ? 簡単ではないじゃろ?」
「あの~?」
「なんじゃ?」
「その『鬼』についてなのですが、意識があるなら話せば分かりませんかね?」
「ふむ……確かに良い質問じゃ。過去にはそのような鬼も存在した……じゃがよっぽどの関係でもない限り期待出来んのぉ……意識はあると言っても奴らも空腹に常に苛まれてるのには違いは無いからの。知恵が回る分、厄介じゃて」
「わかったわ! 伸二! しもふり肉を四枚あげれば仲間になるわ!」
直美が「フフンッ!」とドヤ顔で言ったがオオカムズミノミコトはサラッと恐ろしい事を言った。
「まあ……奴らにとってお主らがその『しもふり肉』なんじゃがの……」
「とにかくだ。オオカムズミノミコトよ。その門とやらは何処にあるのだ?」
「そうじゃのぅ……今回は規模が大きいからワシも完全には把握しとらんのじゃけど、いい方法がある!」
そう言ってオオカムズミノミコトは宗一の方へと向かった。
「おい! お主よ! その……なんじゃ? 『マジカル撲殺ロッド』を地面に立てるんじゃ!」
「ん……? こうか? アイリスちゃん?」
ポテッ……
「ふむ! 第一の門は向こうじゃ!」
「「ええっぇぇぇぇぇぇ!」」
一同の驚愕の声が木霊する。
「それ! 小学生が道に迷ったらよくやるやつじゃないの!」
「何を言う! 神聖な儀式に向かって! とにかく向こうじゃ!」
直美とオオカムズミノミコトがやいのやいの言い合ってた頃、神父と伸二は冷静に目的地をアプリで確認していた。
「ロッドが指し示す先……ふむ……どうやら、また大学の敷地内らしいな」
「ええ……どうやら大学の外れにある祠が怪しいですね」
「よし! まずはそこに向かうとしよう! お前たち目的地がわかった! すぐに出発しよう!」
その言葉にオオカムズミノミコトが反応した。
「待つのじゃ! 最後にお前たちにこれを渡そう……」
そう言ってオオカムズミノミコトはとあるカードを差し出した。
「これは……?」
「ふむ。印を集める神聖な願いが込められた札じゃ!」
「えっ……? でもこれは……」
「おい! 待て! それは俺のポイントカードじゃないか!」
アニメ屋さんのポイントカードがあった。
「そうじゃ! お主がこの寄り代の抱きまくらやら同人誌を買いまくった純粋な思いが込められた神聖なものじゃ!」
「おま……」
また凹みそうになった宗一であったが今回は盛り返した。
「ま…待て! あと少しで世紀末魔法少女アイリスちゃんの特製ドラマCDが手にはいるんだ……!」
「命と特製CDどっちが大事なんじゃ……」
「アホね……」
「アホ……ですね」
「な!」
宗一は思った……「こいつらに何が分かる! 特製だぞ! 全キャラの水着ポスターが付いてくるんだぞ! ここは断じて譲ってはならん!」言葉をつなげようとしたその時、神父が言い放った。
「宗一よ……特製ドラマCDの代わりに私がお前のベットで寝るまで聖書を朗読してやろう……だからカードは諦めるのだ……」
「イヤ―――――――――――――――ッ!」
宗一の理性と引き換えにカードをゲットした一同だった。
神社を出る時も「俺はアイリスと添い遂げるぅぅぅぅ!」と駄々をこねたので神父が「私が代わりに添い寝してやろう」と言って宗一を気絶させるのであった。
精神に致命的なダメージを負った宗一を引き連れ一行は第一の門を目指していた。
「もう少しですね!」
すれ違う醜女を無双しながら一行に芽生えた決意を口にする宗一。
「決めた! 俺はここを出て失った物を取り返す!」
色々と失った宗一は堅く心に誓うのであった。
目標地点まであと少しまで迫った頃、事件は起きた。
「お……い!」
「うん?」
「おーい!」
何処からか自分達を呼ぶ声がした。
「おい? なんか呼ばれてねえか?」
「そんな訳無いでしょう? ほら! 先を急ぎましょう!」
直美がそう言って行こうとしたその時……
「おーい! 待ちんさい!」
「ほら! やっぱり誰かが呼んでるって!」
「そんな事……」
声のする方に一斉に注意を向ける一同の前に思いもよらない人物が現れた。
「おーい! お前たち! 無事じゃったんか!」
「まさか……! その声は!」
「ラッキー!」
だが一同が目撃したのは驚愕の姿であった。
「お前たち! 探したぞ!」
「……! ラッキーおま……」
「んあ? どうしたんじゃ?」
「その姿……」
((なんか色々と生えてるぅぅぅ!))
ラッキーの額からはヤギの角の様な物が生え……大事なアソコからは蛇が垂れ下がっていたのだった。
完全に人外に成り果てたラッキーに対して一同が質問を躊躇う中、意を決して宗一が質問するのだった。
「ら……ラッキー? とにかく無事? だったのは何よりだ」
「そうじゃろ! ワシももう無理じゃと思うたんじゃがあの状況からなんとか生き延びたわい!」
ガハハッと笑うラッキーに戸惑いながらも言葉を続ける宗一。
「そう……か……って! そうじゃないだろ! なんだその見た目はッ!」
「見た目じゃとっ! ワシは常にナイスじゃわい!」
何を言ってるかわからなくなった宗一は頭を掻きむしった。
「どいていろ……宗一」
ドグシャアアアアアアアアアアッ !
宗一にそう告げて神父は容赦なくラッキーの心臓をブチ抜いた。
「キャアッ! 神父! アンタなんて事するのよぉぉぉぉ!」
「殺……ちまったのか?」
余りの事態に伸二は言葉を失っていたが続けて神父は告げた。
「殺してはいない……私の八咫の鏡の能力は真の姿を映し出す事だ」
そう言う神父の八咫の鏡がラッキーの心臓から拳を抜くとそこには拳ほどの鏡が握られていた。
「おい! なんだ? それは!」
「これはラッキーの心そのものだ……ふむ……どうやら安全なようだ」
おもむろに神父は鏡を戻すとその場に倒れていたラッキーが目を覚ました。
「うう……なんか酷い目に遭った気がするわい……」
「ラッキー!」
「大丈夫なのか! お前!」
「なに? ワシャこの通りピンピンしとるわい! じゃが……いきなり心臓をブチ抜かれた気がするんじゃが……」
一同に「どうするんだよ! 神父!」そんな空気が流れたが神父は何事も無かった様にラッキーと会話しはじめた。
「ラッキー……我々は今、急を要する事態に直面しているのだ。『何々の気がする』だとか『何々の様だ』なんて話は後にしてくれないか?」
「そ……そうか……すまん」
((コイツ! 心臓ブチ抜いた上にシレッと流しよった!))
一同の困惑など意に介さず神父は話を続ける。
「それで……あの後、一体何があったのだ?」
「ふむ……あの後なんじゃが……おまえ達が逃げ切ったのを見届けてワシも何とか逃げ出すことに成功したんじゃ」
「それはさっき聞いた」
「じゃが……逃げ出したは良いがワシも満身創痍でな……アイツ等を振り切った後、その場でへたり込んでしまったんじゃ。あちこちアイツ等に喰われの? もう死ぬんじゃろなぁとか思うとったら目の前に柿の木があったんじゃ!」
「で? 食ったのか?」
「ああ! どうせ死ぬなら腹一杯食ってから死のうと思ってのぅ!」
「…………!」
「そしたらじゃ! 奇跡が起こったんじゃあ! 傷口が塞がってみるみる身体に力が湧いてきたんじゃ! お前達の事が心配になってのアチコチ探してる内に何とか出会えたんじゃ!」
「ラッキー……」
「ラッキーさん……」
ラッキーの話に一同は胸を詰まらせた。異形の化け物になってまで自分達を心配してくれた事、しかし「ヨモツヘグイ」してしまったら……もう元の世界には帰れない事。
そして、その事実を伝えねばならないことに胸を痛めた。
その役目は神父が請け負う事になった。
神父の話にはじめは半信半疑だったラッキーも徐々に静かに耳を傾ける様になった。
そして、意を決した様に言い放った。
「ゴチャゴチャと細かい話はワシはわかりゃせん! じゃが! 帰れないなら帰れないでワシは絶望の中でも歌ってみせるわい!」
「ラッキーさん……」
ラッキーのその言葉に昔、教えてもらった事を思い出す伸二……
(伸二! お前はMになれ! ふまれてふまれて つよく真っ直ぐに伸びるMになるんじゃ!)
なんで『麦』だけイニシャルトークだったのかは分からないが強くなろうと思う伸二であった。