「長かった……」
ふと伸二は今までの旅を思い出していた。
思えば姉をさらわれたあの日……
「姉さあああああああああああんッ!」
「伸二ィィィィィィィィィィィィッ!」
「グワハハハ! 姉を返して欲しくば俺を倒してみせよ! それまで、この勝負預けておく!」
四魔将軍の一人『ノスフェラトゥ』と初めて対峙した時、全く歯が立たず姉がさらわれるのを見ているしか無かった……
その四魔将軍も残すは千の命をもつノスフェラトゥただ一人ッ !
「マスターイングウェイ……あなたから授かったこの『音速剣』で……!」
亡き師の想いを胸に今、夢幻魔城へ赴く伸二であった。
城に着くと伸二は余りの静けさに首を傾げた。
「静か過ぎる……」
歩を進め扉を開け放つとノスフェラトゥが一人佇んでいた。
「姉さんはどこだ! まさかお前一人じゃあるまい!」
「貴様の姉はこの扉の向こうに居る! ククク……愉しみの邪魔はさせん!」
ビュオオッ !
伸二が無言で斬りつけると事もなげにノスフェラトゥは受け止めた。
「ククク……『音速剣』か? かつてお前の師であるイングウェイですら俺を倒すに至らなかった……お前はどうかな?」
「ならば試してみろ!」
『音速剣ッ!』
ドガガガガガガガッ !
一秒間に千を超えると言われる音速剣を受けながら、なおも余裕で語りかける。
「グワハハハ! 人の身に余る剣技をいつまで続けられるかな?」
その名の通り人の限界を超えた剣技をいつまでも続ければ肉体は崩壊し死は免れない。
だが、その先……
その先にこそ『姉』は居るのだ。
「ほざけぇぇぇぇぇ! ここからがマスターの命と引き換えに会得した……」
『超・音速剣だッ!』
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ !
「なんだとッ! グハハッ! 師を超えるかッ!」
(もう限界が近い……)
ガガガガッ !
(心臓が爆発しそうだ……)
ガガガガッ !
(いや……)
ガガガガッ !
(無理でも何でも斬り続けろ!)
ガガガガッ !
「グワハハハッ!」
ノスフェラトゥは尚も高笑いを続けている。
(目が……霞む……)
ガガガガッ !
(静かだ……何も聞こえない……)
ガガガガッ !
不意に剣の手応えが無くなった……
(ここが……勝機ッ!)
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ !
限界に限界を超え斬り続ける。
一歩……
更に一歩……
ただ前に進む。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ !
「伸二! 助けに……ぎゃあああああああああああっ!」
(今、姉さんの声が……)
「があああああああああああああああッ!」
持てる力の全てを出し切った伸二の前には象徴的な光景が広がっていた。
そこにはもう何も無かったのだから……
「ガ……ガハッ!」
伸二は血を吐きその場に倒れた。
しかし、姉を助けるその一念で立ち上がり周囲を見回したが、そこにあるのは切り刻んだ『モノ』だけであった。
「姉さん……逢いたいよ……」
姉の姿を確認出来なかった伸二はヨロヨロと進むのであった。
姉を探して奥に奥に進んだ先に魔王が居た。
「お前が『ナンシー』か?」
「僕は『伸二』だ! 姉さんはどこだ!」
「お前の姉ならノスフェラトゥが……」
「よくも……よくも姉さんをおおおおおおおおおおッ!」
「な……何ッ! ぐあああああああああああッ!」
魔王は滅んだ……
だが伸二の胸には姉を失った悲しみだけが残った……
「っていう夢を神官に起こされるまで見てたんだよ」
「ねぇ……伸二? なんか途中、おかしくなかった?」
「そう? あっ! 神官が呼んでるみたい! 行こう姉さん!」
釈然としない思いを抱えながらも今を生きる直美であった。