浦原とレクシー達が対峙している中、ヤミーはその光景を退屈そうに眺めていた。
「あー暇だな……あのガキ共が手ェ出してなけりゃ退屈しのぎにぶっ潰してやろうと思ってたんだけどな」
「でもやめたんだ。ヤミー君にしては珍しいね。何か思うことでもあったのかな?」
欠伸をするヤミーの横に腰を下ろすアンジェは、目線は浦原達に向けながらもヤミーの答えをしっかり聞こうと耳を傾けていた。
「クソ女だったら容赦なく手ェ出してたんだがな。あの下駄野郎は別にそれ程怨みもねえからあいつ等に譲ってやったんだよ」
「なんだ、ただの気まぐれか〜。まあそれで良かったと思うよ。ヤミー君はやっぱり運がいいのかな?」
「あん? どういう意味だよ」
「それはこれから起きる事を見てれば嫌でもわかるよ。どうして私があの双子を関わらせたくなかったのか、あの双子が一体どんな力を持っているのか、その片鱗がね」
そしてヤミーから意識を完全に外したアンジェは先程此方に戻ってきたワンダーワイズを膝の上にのせ、浦原達の方へと注意を向ける。
「そうそう、あいつ等から
それを聞いたヤミーは、別に無視しても良かったのだがする事もないのでアンジェの横に腰を下ろした。
「さて、
──────────
織姫は断界を移動しながら現世へと急いでいた。尸魂界で修行した力を仲間の為──黒崎の為に振るう為である。早くみんなと戦いたい、きっと役に立てると思いながら。尸魂界と繋がった空間が見えなくなった頃、唐突にその声は聞こえてきた。
「何だ、護衛は二人か」
さっき通った時には何もなかった。だが振り返った今は黒い空間の歪みが生じていた。
「存外、尸魂界も無能だな」
空間の歪みがどんどん開かれそこに黒い裂け目が生まれる。
「最も危険が高いのは、移動の時だという事を知らんらしい」
そしてその空間から姿を現したのは、以前黒崎達を苦しめた
「……護衛が二人というのは拍子抜けだが……煩わしい拘流の動きが固定されているのは都合が良かった」
ゆっくりと此方に足を進めてくる。感情の見えぬ目をこちらに向けながら。心なしかその身体の周りには、不気味な黒い霧のような物が見えた気がした。
「話をするのに時間を急ぐのは性に合わんからな」
先程まで動けずにいた護衛の死神達がようやく織姫を守るために動き始めた。普通であればこの隙に全滅していてもおかしくはないのだが、ウルキオラはまだ何も手を出してこない。
「な…何者だ貴様っ!! 破面か!?」
織姫の前に斬魄刀を構えて一人の死神が躍り出る。それと同時に彼の周りには黒い霧が集まり始めた。何か嫌な予感がする。そう感じた織姫は静止の声を掛けようとしたが既に遅かった。
「待っ──「やれ」!!??」
そして起こった現象は信じられないものであった。黒い霧が急速に集まり、死神一人の後方と頭を包み込む。頭を包まれた死神は何が起きたのか理解出来ぬまま霧を振り切ろうを一瞬だけ
霧が晴れると共に現れた破面は足元の物に目もくれず、織姫へと鋭い視線を飛ばす。まるで値踏みするかのような視線を。
「オイ小僧、このクソ餓鬼が今回のターゲットなんだな? 一見ただの餓鬼共と変わらねぇ様に見えんぞ」
「そいつが井上織姫だ。傷一つつけるなよ。藍染様からの命令だ。それともう一人も早く始末しろ」
「全く注文の多い事だ。もう少し歳上を敬いやがれ。坊主」
二人が会話している隙に
「逃げて! 逃げてください!!」
そう訴えかけるものの、もう一人は足を恐怖で震わせながらも護衛対象を置いて自分だけ逃げ出していいのだろうかと戸惑っていた。
「し、しかし……」
「いいから逃げて! お願い!!」
織姫の必死の言葉も虚しく、大きく皺がれた手が死神の頭部を掴む。
「ひっ……」
「オイ小娘。オマエは頭を潰した奴すらも回復させられるみてぇだな。それなら、
老人の瞳が妖しく光る。そして頭を掴まれていた死神は無理やり目を合わせられた。目が合った瞬間、変化はすぐに起こった。
「おい死神、死ぬのは怖いかぁ?」
顔を恐怖に引きつらせ、ガタガタと身体を震わせ始め顔もドンドン青ざめていき、最終的には動かなくなった。老人は無造作に投げ捨てるもピクリとも動かない。何をしたか分からないが既に息絶えているようだ。
「ッ!? あやめ!!」
それを見た老人は少し驚いたような声を上げる。
「ホウ、そういう事か……なんでこんなガキを攫いに来たのかが大体分かった。坊主! 知ってたのなら早く言いやがれ!」
ウルキオラはそんな言葉を無視しながら織姫に近づいていく。正直、織姫の治癒能力、そして老人──バラクーダの最後に使用した力にはかなり興味を持たされた。なんの霊圧の変化もなく、傷つける事なく相手の息の根を止める。一体どの様な力なのか、知っておくことに越したことはないが今は任務を進める事が第一である。
「俺と来い、女」
ウルキオラのいきなりの言葉に追いつけていないのか驚きを露わにしながらも、織姫は理由を訊ねようとする。
「な……「喋るな」」
しかしそれは叶わなかった。ウルキオラに遮られ、そして脅される。
「答えは『はい』だ。それ以外を喋れば殺す」
「オイオイ、『いいえ』の選択も選べるようにしてやれよ。一択は流石にツマンネぇじゃねえか」
「口を開くな、バラクーダ。貴様は黙って周囲でも警戒していろ」
「口の聞き方に気を付けろって習わなかったのか? 小僧」
ウルキオラに突っかかるものの軽く無視される。ウルキオラはバラクーダを意識の外に追いやり話を続ける。バラクーダは少し不満気であった。
「殺すのは『お前』じゃない」
その言葉と同時にウルキオラの後ろにはいくつかの映像が映し出された。そこには──
「!!」
「『お前の仲間』をだ」
至る所から血を流す、黒崎や乱菊などの映像が映し出された。まだ動けてはいるがこのままでは危ないかもしれない。どうにかしなければ、そういった考えが織姫の思考をドンドン奪っていく。
「何も問うな、何も語るな。あらゆる権利はお前に無い」
感情の無い声が淡々と言葉を紡ぐ。
「お前がその手に握っているのは仲間の首が据えられたギロチンの紐、それだけだ」
「理解しろ女、これは交渉じゃない」
無機質な瞳が織姫を映す。
「
とても冷たく悲しい声だ。
「藍染様はお前のその能力をお望みだ。俺達にはお前を無傷で連れて帰る使命がある。もう一度だけ言う」
これが最後だ。そう付け加えて。
「俺達と来い、女」
──────────
浦原に楽しそうに笑いながら更に近づいた双子は、お辞儀をしながら元気よく声を出す。
「今日は下駄のお兄さん。僕の名前はハロルド・モリアルテ」
「今日は帽子のお兄さん。私の名前はレクシー・モリアルテ」
相手の動きを伺いつつもじっくりと観察する。虚の双子なんて殆ど聞いた事がないので珍しいと思いつつも、浦原は少しも油断せずに話しかける。
「それで坊や達はアタシに何か御用でも? 駄菓子は此処にはありませんよ」
「そんなこと分かってるよ。ただそのお菓子を賭けて遊ぼうって提案だよ」
「
どうやら遊びのお誘いのようだ。ただ相手は子供とはいえ不気味な気配を放つ破面である。全く気が抜けない。相手から情報を引き出す為に話に少しだけ乗ってあげることにした。
「そうでしたか。ではアタシは飴玉三つを賭けましょう。お嬢さん達は何を賭けるんスか?」
浦原の言葉にハロルドとレクシーはつまらなさそうな顔をする。何か言葉を間違えたのだろうか。
「そんなレートじゃつまんないよ。最初から飛ばしてかないと」
「最初はお兄さんの駄菓子屋のお菓子全部といこうよ。そっちの方が緊張感があって楽しいよ」
それだと賭け金が一瞬で無くなってしまう。一発勝負で何か仕掛けて来るつもりなのだろうか。
「遊びは一回で満足なんですね……まあいいでしょ、付き合ってあげますよ」
そんな浦原の言葉を否定する。まるで分かってないと言っているかのように。
「一回きりなんてつまんないことする訳無いじゃん。お兄さんも賭け金は一杯持ってるのに」
「
この瞬間、浦原の身に猛烈な寒気が走った。何故だかわからないが何かに囚われている様な感覚も感じる。
「ねえねえハロルド、ゲームはどれが良いと思う? 『タップダンス』? 『ブラフダイス』? それとも『チキンレース』?」
「それは
「それもそうね。それにしましょ。短い時間でそれなりに遊べるからね」
どうやら何をするのかも決まった様だ。そう言えば相手は何を賭けるのかを聞いていなかった。とても嫌な予感がするが取り敢えず聞いてみる。
「……それで坊や達はお菓子の替わりに何を賭けるんでスかね」
それを聞いた双子は無邪気な笑みを浮かべながらこちらを向く。その顔は歓喜と残虐性を孕んだものであった。
「
そしてある方向を指差す。八本の触手を持つ仲間であるはずの存在の方向へと。
「あそこのタコさんの身体の一部を賭けるんだ! ねえ、お菓子と十分釣り合ってるでしょ?」
「最初はどこの部位がいい? 腕? 目玉? それとも心臓?」
賭け金にされている当の本人はその事に全く気づいていない様であった。
流石にこの賭け事はリスクが高過ぎる。恐らくこの双子は遊びと称したもので相手を能力で縛るのだろう。これ以上は相手に合わせるのは危険と判断した浦原は何かされる前にこの二人を倒してしまおうと考え、斬魄刀を抜こうとした。
「駄目だよ下駄のお兄さん。
「もう帽子のお兄さんの参加は決定してるんだよ。
ケラケラと笑いながらそう釘を刺してくる。まだ何も相手は怪しい動きもしていないし自分の身に何かした気配もしなかった。ただのハッタリの可能性もあるが先程の寒気の件もある為、素直に聞いていた方が良いと思い、抜きかけた斬魄刀を仕舞う。
「賢いね! 何時もだったら大体逆上して痛い目見る人が多いのに! これは中々手強い相手かもしれないわ」
「物分かりがいいのはいい事だね。それじゃ道具を出さないとね」
「一体いつの間にアタシに何かしたんスかね? もし良かったら聞かせてくれませんかね」
それを聞いた二人は一瞬キョトンと子供らしい表情を見せた後再びケラケラと笑い始める。
「お兄さんには何もしてないよ。ただ
「だから安心していいよ。お兄さんにも誰も
そして双子は自身が手に持っている白兎と黒兎の人形の背に手を突っ込み中から丸い板と七つの目玉を取り出した。レクシーは丸い板を宙に浮かせ、ハロルドは目玉の一個を浦原へと軽く放り投げる。
浦原は一瞬避けようとも考えたが、今のタイミングで攻撃を仕掛けるとも考え難かったためそのまま受け取る。近くで見ても何の変哲もない
浦原が受け取ったのを確認したハロルドは自身が手にしている六つの目玉をそのまま何回かに分けて握り潰す。そしてお前もやれと促してきたため嫌々ながらも握っている手に力を込めた。肉の潰れる気持ち悪い感覚と共に何か硬いものが手の中に収まった。手を開くと、どういう原理か分からないがそこには黒い
「今からする遊びはそれを使って遊ぶんだ。ルールは今から説明するから無くさないでね」
双子は丸い板の前に立ち、こちらに手招きしている。溜息を吐きながらも浦原はそれに近づいた。
「ルールは簡単!
「そして親がダブった目を子が出したら、ダブった分だけ倍払い! その代わり、安全な目が少なければ少ないほど子が勝った時の賭け金は多く貰えるんだ! 空きが二つの場合は1.5倍、空きが一つの場合は三倍だよ! 空きが三つ以上の時は等倍だからそこは注意してね」
親の方が結構有利な遊びのようだ。ただ親が1から6、全ての目を出した場合はどうなるのであろうか。普通に考えれば親の勝ちであろうが。
「そうそう、もし親が全部の目を出したら親の振り直しだからね。二回連続で続くと親の負け。流石にそこは子に有利にしておかないと不公平に感じるからね〜」
どうやら確実に勝てる目は潰しているようである。それならこちらにも勝てる見込みがありそうだ。昔、夜一にイカサマをよくされていたので、自分も仕返すために出目を操れるまで練習したものである。自身が子の間は負けることはないだろう。
「……大体分かりました。では始めましょうか」
「お兄さん、賭け金のお菓子が無くなったら何を徴収されるか聞いておかなくていいの?」
「大方アタシの身体の一部でしょう。アナタ達の賭けるものを考えれば予想もつきますよ」
それを聞いた双子は禍々しい笑みを浮かべて浦原を見る。何がそんなに面白いのであろうか。
「分かってない、分かってないなあお兄さん。そんなんじゃすぐに終わっちゃうじゃないか」
「お兄さんはそこに至る前にまだまだ
その言葉に背筋が凍る。自分以外の人間の身体をこいつ等は賭けろと言っているに等しいのだ。
「わるいですけど、それは許容出来ませんよ。あそこにいる人達はアタシとは無関係っス。関係ない人を巻き込むのは看過できません」
また八本の触手を持つ破面と戦っている死神達の方を見やる。助け出したは良いものの、再び押されてしまっている。だが、次は
しかし、浦原の言葉を聞いても嘲笑うのをやめない。丸で見当違いも甚だしいと言った様子で。
「お兄さんに拒否権はないんだよ。嫌だったらただ
「それと
「「お兄さんとこの従業員とお友達、
その言葉と同時にハロルドが賽子を全て上に放り投げる。とても出目を操ろうとした投げかたではなかった。しかしその投げ方とは裏腹に、出た目は1の目以外の全てで6の目が二つであった。最初から浦原を潰しにきているようである。
「
「さあさあ早く振ってよ。6の目を出したらお菓子と
鉄裁の事をなぜこの双子が知り得ているのだろうか。破面との戦闘では一度も姿を見せていない筈だ。そもそもここから遠く離れた居場所も分からぬ相手にどう危害を加えるというのか。浦原は双子の未知の能力で少し動揺していた。
「アナタ方の力、謎だらけですね。良かったらアタシに教えてはくれませんか?」
そう発しながら賽を振る。多少動揺していようとも手はブレる事は無かった。相手が何かイカサマでもしない限り出目は1になる筈だ。
「それは
コロコロと賽子が転がっていき、最後には動きを止めた。そして出た目は──
1であった。
浦原は安堵の息を吐き、ハロルドはつまらなさそうな表情を浮かべ、レクシーはそんなハロルドをクスクスと笑っている。
「ちぇっ、幸先よく一番いい出目が来たと思ったらこれかよ。面白くないなあ」
「自信満々にしときながら負けるなんてハロルドダッサーい。私が代わってあげようか?」
「うるさい! 一回目は何時も様子見だろ。勝とうが負けようがどうでもいいんだよ」
どうやら相手は何もしてきてないようだ。なんとか勝てる見込みがありそうである。あの触手の破面には悪いが勝たせ続けさせてもらう。
「アタシが勝ちましたけど、早速チップをこちらに渡して貰いましょうか」
「うるせー! 初っ端から出目操作なんかしやがって!
どうやらバレてしまっていたらしい。次は更に気付かれないように振らなくては。そんな事を考えいると、ハロルドを宥めながらレクシーが口を開く。
「まあまあ、どんだけ文句を言っても負けは負けなんだから。それとお兄さん、イカサマ防止の為に次はハロルドと同じように上に高く放り投げてもらうよ。分かった?」
早速常勝の法を封じられてしまった。そこまで甘くはないようだ。しかし勝った分を先に賭ければ少しは余裕がある筈だ。
「分かりました。先程も言いましたが、次を始めるためにも早くチップを持ってきて下さい。回収は大変でしょうがアタシは手伝いませんよ。約束は守って頂きませんとね」
どうやってかは知らないが、あの破面から力づくで身体の一部を奪ってくるはずである。恐らく少しは時間がかかるはずだ。少しでも時間を稼ぐ事が出来れば浦原商店の者達には被害はいく前にこのふざけた遊びを終わらせられる筈だ。
そんな浦原の内心を読んだからかどうかは分からないが、レクシーはニタニタと笑っている。
「約束は約束だからね。踏み倒すなんて真似はしないわ。時間なんて掛けずにすぐに渡すね。ほぉら、よおく見ててね」
そして相変わらずニタニタ笑ったままのレクシーと気を取り直したハロルドはそのまま目線をルピへと向けた。
そして一瞬だけ、ハロルドとレクシーの持った白と黒の兎の人形の瞳がまるで生きているかのように怪しく光った。
──────────
「……やれやれ……」
先程浦原に捕まえた死神を逃がされたルピは、それ程時間をかける事なくその自慢の触手で再び縛り上げていた。
「ボクの邪魔をしてくれた奴だから、ボクが殺してやろうと思ったのに……なんだよあのガキ共は」
ゴミを見るような視線を今も浦原と
「何しに来たのか分かってないんじゃないのかなあいつら。ま、お姉さん達を始末したらガキ達と一緒にあのゲタ男を殺しに行こうかな」
そのまま乱菊達の方を向く。その様子は余裕綽々といった様子で見るからに慢心していた。
「ホント話んなんないよね。せっかくあのゲタ男が助けてくれてもスーグ捕まっちゃうんだもんね。さあて誰から串刺しにして欲しいか順番を選ばせてあげるよ」
そして触手の一本から鋭い棘を再び生やして、乱菊に近付けた瞬間、乱菊、一角、弓親を縛っていた触手が根元から
「な……何をしやがった!?」
そんな問いに誰も答えられる筈もない。誰も知らないのであるから。新たな敵が来たのかと疑い、周りを見渡すとハロルド達の所にに細長い奇妙なものが浮いている事に気がついた。自分の身体の触手である。そしてそれを見ているルピを見てレクシーはニタニタと笑いながら浦原の横にそれらを置いていく。あのガキ共が攻撃してきた。それを知ったルピは怒りを露わにする。
「大目に見てればあのガキ共……ふざけた真似をしやがって……こいつらよりも先にお前達の頭を望み通りに捩じ切ってやるよ……」
そして自由になった死神達を無視して、双子目掛けて勢いよく飛び出して行った。
「な、何? 仲間割れ?」
乱菊のそんな誰も答える者もいない筈の疑問に、小さな声が返される。
「違うよ。商品の勝手な行動だよ。おねーさん」
それと同時に、飛び出していった勢いと同じ速さでルピが先程いた場所に戻ってきた。喉を小さな少女に掴まれた状態で。
ルピは苦しそうな表情を浮かべながらも残った五本の触手を少女へと叩き込んでいく。一本一本が強力な武器である。たとえ三本減ったとはいえ
「き……貴様ら……」
「駄目だよ、駄目なんだよ。タコさん。
ルピを掴み上げた少女──レクシーは乱菊達の事など眼中にないといった様子でその場から動かない。そこに遠くから声がかけられる。
「レクシー、僕がレクシーの分まで楽しむからそのまま抑えといてね〜」
「ハロルドずるーい! 次の機会は全部私の番だからね!」
「そんなの知らないよ。さ、お兄さん続きをしよっか」
双子の碌でもない会話が終わると同時にレクシーとルピの周りに無数の氷の柱が現れる。いきなり現れた柱にルピは驚愕の表情を浮かべ、レクシーはつまらなさそうにそれを作り出した本人へと視線を向ける。
「いきなり動いたから焦ったが、お前が連れて戻ってきてくれたお陰で助かった」
「……ねえ、邪魔しないでよ。私も
「知らんな。お前もそいつを抑え込めるくらいだから一緒に始末させてもらう。恨むんなら俺に仕込みの時間を与えたそいつを恨むんだな」
そして氷柱を作り出した本人──
日番谷冬獅郎はレクシーへと斬魄刀を向ける。
無数の氷柱が波のようにレクシー達へと迫る。そんな状況にも関わらず、レクシーはルピを逃がさぬようにその場から全く動かない。ルピはレクシーからも氷柱からも逃れようと必死にもがいていた。
「放しやがれこのクソガ──」
そして氷の牢獄が完成すると同時にその声は途絶えた。
「妹さんかお姉さんが巻き込まれてしまいましたけどいいんですか?」
浦原は間に合ったと安堵していた。日番谷がルピを倒すために時間を掛けて仕込みをしている事には最初から気がついていた。ルピを倒してしまえばこの双子の賭けるものが無くなり、この遊びは終わると踏んでいた。ルピがこちらに迫って来ていた時は焦ったが、それをレクシーが抑え込みルピと一緒に攻撃出来たのは不幸中の幸いである。
ただ、レクシーの最後に残した言葉が脳裏に蘇る。暴力は『御法度』。ルピの時は攻撃を受けた瞬間に霊圧を少しも変化させる事なく見た目からは考えられない力で拘束していた。もしかしたら……そんな考え事に没頭しそうになった時、ハロルドから催促の声が掛かる。考えたくなかった言葉が。
「何ボーっとしてんの、お兄さん。ほらほら続きを始めようよ。タコさんはもうチップの価値もなくなっちゃったから別のもの賭けないとね。うーん、後はみんな
どうやら止める気はさらさらないらしい。片割れの心配もしないのは虚ゆえであるからだろうか。そんな浦原をハロルドはケタケタと気分が良さそうに笑う。
「
そして日番谷の方へと目を移す。そこには相手を倒したと思い、気がハロルドとアンジェ達の方向へと向いてしまっている日番谷。そして、氷の牢獄からどうやって抜け出したのか不明である無傷のレクシーがその背後に存在していた。日番谷もすぐに気がついたがそれでも気付くのが遅かった。そして、レクシーの無慈悲な声が響き渡る。
「幸なき者には『罪』を」
「
今回は双子の戦闘回でした。ん? 戦闘?
こいつらはバリバリの特殊型なので脳筋戦闘はありません。やったね! それと同時に書くのが面倒臭くなるくらい文を書かなきゃならないという弊害が……誰だよ、こんなキャラ考えた奴は!
※ジグソーダイス
実際にあるかどうか分からないが少なくともこういった名前の遊びはない。ルールを簡単に言うと同じ目を出したら負け。発想元は桃鉄のキングボンビー。あれはサイコロを6回振って一度も同じ目を出さないようにしないといけないためほぼクリア不可である。あれもパネルめくりの要素があったため、名前に少し影響を受けている。しかし、ジグソーは日本語で「糸のこ」なので直訳すると全く意味がわからなくなる。