カラクリの行方   作:うどんこ

27 / 29
お待たせしました。はい今回、双子の力が見られる回です(ゲス顔)皆さんもどういった奴か知っていただけると幸いです。それと今回冒頭は残酷な描写注意なのでお気を付けてください。


……安西先生、感想が欲しいです……


第二十六話 肉餅

 

「ハロルドっ☆」

「レクシーのっ♪」

「「お料理、ばんざい!!」」

 

 無邪気で楽しそうな声が木霊する。

 

「さーーて今回はハンバーグを作るよ」

「まずは美味しそうな()()を用意しま〜す」

「つなぎは食パンと卵だよ」

「食パンには牛乳を染み込ませて軽く絞ってね」

 

 声は可愛らしい子供のものであったが、その声の主達の姿はとてもそのような事を言えるようなものではなかった。

 

「それに玉ねぎのみじん切りと調味料を加えて、えんを描くように粘りが出るまでかき混ぜるよ!」

 

 男の子は吟遊詩人のような服装をしており、女の子は軽装の騎士のような服装である。そしてどちらも頭に欠けた太陽の髪飾りの形をした仮面の名残がついていた。

 そこまではまだいい。問題はその後である。どちらも両腕が真っ赤に血塗られており、服にも顔にも返り血がびっしり飛び散っていた。女の子は右目が抉られ、男の子は左脚に大きな穴が覗いており、そこから(おびただ)しい量の血が流れ出ているのだ。それでも二人は全く動じる事なく料理を続ける。

 

「そして、適当な大きさに分けてたねを両手でキャッチボールするよ!」

「これは空気を抜いて焼きくずれを防ぐためなの!」

 

 そして、いつの間にか用意されたコンロの上のフライパンにそれらを乗せていく。

 

「それが終われば中央に窪ませた後に十分な油で二〜三十秒強火で焼き色をつけて……」

「そして弱火で蓋をして、こびりつかないよう焼いていくよ」

 

 肉が焼ける音と匂いだけがこの広い空間に広がっていく。暫く時間がたった後、レクシーが竹串をどこからともなく取り出した。

 

「焼けたかどうかは竹串を刺してチェック!」

 

 しっかり中まで火が通っているのを確認した後、自分で作ったハンバーグをいそいそと盛り付けていく。

 

「「これで、ハンバーグができちゃった!!!」」

 

 テーブルの上に並べられた二皿のハンバーグ。レクシーの作った方は綺麗に盛り付けてられているが、ハロルドの方はそもそもハンバーグがグチャグチャに崩れており、あまり食欲がそそられるものではなかった。

 

「………………」

「………………」

 

 ハロルドはその失敗したハンバーグを悲しそうな目で見ており、レクシーはその様子を何とも言えない様子で眺めていた。

 その何とも言えない空気の中、気分を入れ替えたのか楽しそうな声で料理番組のような茶番を続けていく。

 

「完成品がレンジの中にありまーす!」

 

 またしてもいつの間にか準備されていた電子レンジから、形の整った調理済みのハンバーグを取り出した。

 

「以上、お料理ばんざいでしたっ!! それではご試食お願いしま〜〜す」

 

 二人はそれぞれハンバーグの乗った皿を持ち上げると嬉しそうに持ち運んでいく。そしてその光景を眺めている者達は、何も口にすることなくただその光景を黙って見ていた。

 アンジェなどの双子の力をよく知っている者は、慣れているからかあまり表情を変えることはなかった。アンジェだけは顔をしかめているが。

 しかし他の者達は違った。藍染ととある一人の者を除く、双子をあまり知らない者達は只々唖然としており、開いた口を閉じることさえ忘れていた。

 そんな周りの状況も気にすることなく歩みを進めるレクシーとハロルドは、とある人物の前までくると足を止め、ハンバーグの皿を突き出す。

 

「ホラ、あなたの為に作ったんだよ。美味しそうにできたでしょ? 遠慮しないで食べて食べて!」

「絶対口に合うと思うんだ。なんせとっても()()なお肉を使ったんだからさ。だから一口食べてよ、()()()()

 

 

 そこにいたのは変わり果てた姿のルピであった。髪の毛は所々毟られ、その場所には鈍く光る電極が刺されており、電流を流されているのか体をビクビクと震わせている。右目にはダーツの矢が深々と突き刺さっており、顔の左半分は劇薬か何かをかけられたかのように醜く爛れていた。舌は抜かれてしまっているため碌に喋ることも許されない。

 首から下はもっと悲惨なことになっていた。右腕は完全に炭化、左腕は原型を留めていない肉の塊と化して、右脚は氷漬けにされ、左脚は骨だけの姿に。そして肋骨と肺が所々外に晒されてしまっており、腹に至っては肉が削ぎ落とされ、体の外にはみ出した腸などの臓腑の一部が姿を消してしまっている。それでも死ぬことが出来ずに僅かに身体を震わせて残った片方の目でただ虚ろにハロルド達を見つめていた。

 

()()()()()を削ぐのは大変だったんだよ? 隠し味に(はらわた)を入れてるからきっとジューシーなはずだから、早く早く! 冷めちゃうから!」

()()()()なんだからしっかり食べてね。それが終わるまでは()()()()()()()()()()んだよ」

 

 そして無情にも口に特製ハンバーグを流しこまれていく。全く抵抗もできぬルピはただひたすら残った目に涙を溜めていた。

 そんな光景にただの人間が耐えられるものではない。口を押さえて目を逸らしている織姫は、ルピのあまりの有様に傷を直してしまおうかと考えていた。しかし、それを考えたと同時にアンジェから声が掛けられる。

 

「辛いかもしれないけど、それだけは絶対にしちゃいけないよ。君の能力なら確かにルピ君を治せるだろう」

 

 そして真剣な表情を織姫にむける。

 

「だけどね、彼らはそれは()()()()()()()。なんせ自分が()()()()()()()()()()()()()を無条件で取り返されるのだから。その場合、キミにとてつもない罰が与えられてしまうんだ」

 

 そんな束の間、レクシー達の()()()()が一段落すると同時に、ルピの片目から光が消え去った。ようやくこの地獄の苦しみから解放されたのだ。

 それに気がついていないのか双子は、既に事切れているルピに楽しそうに話しかける。

 

「ねえねえ、次は何して遊ぶ? 次はもっと長く遊べるやつにしようか!」

「『ヘッドギアトラップ』なんてどう、ハロルド? すごいスリル満点だし長く遊べるよ」

 

 とても楽しそうに次の『戦い』を選んでいた。二人でワイワイしていても全く反応を示さなくなったことで、さすがに双子もルピがもうダメになったということに気が付いたらしく、とても物足りなさそうな顔をしている。()()()()()()()()()()()()()

 

「ちぇー、もう文無しになっちゃったの? これからが楽しいのに」

「仕方がないなぁ……じゃあ、僕達(私達)から()()()()()は返してもらうね」

 

 双子はルピを挟むように立つと、それぞれが片腕を挙げる。するとどうであろうか、ルピの頭上の空間が歪み、まるで着ぐるみのような大きくて柔らかそうな腕がルピの身体を鷲掴み、そのまま虚無の空間に引きずり込んでいった。そしてルピと異形の腕の姿がこの世界から消えた瞬間、双子の身体には先程まであった傷が()()()()()()()()()なっており、ルピから浴びた返り血だけが不気味な気配を醸し出していた。

 

「……ここまでとはね」

 

 藍染がそう呟くや否や、双子の首がグルンと回り、藍染の方に向けられる。その目はとても意識があるようなものではなかった。そして二人の口から言葉が発せられる。どちらのものでもない、感情の全く籠っていない機械のような少し高い声で。

 

「……足リナイ……アト一人ヨコセ」

 

 その言葉に数人が反応を示す。バラクーダは身体の周りに黒い霧を発して臨戦態勢をとり、フィグザはすぐに動けるように身構えている。そして、アンジェはとても顔を青くして、藍染と双子を何度も見遣っていた。他の者はただ目を細めるだけで何も反応を示さなかった。藍染は笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「今仕方支払ったと思うのだがね、それは()()()()ではないのかな?」

 

 それを聞いた無機質な声は少し嘲るように呟く。

 

「貴様ノ提示ノ条件自体ニ不備ガアッタノダ。解放ニ必要ナ魂は二ツ。一ツシカ用意シテイナイ時点デ問題ダッタノダ」

 

 四つの瞳が藍染へと向けられる。その目はもはや生気の篭ったものではなかった。

 

「サア供物ヲ……モット罪ヲ、モット罰ヲ……ソノ人間ノ女ト遊バセロ」

 

 その言葉にアンジェの気配は一変する。先程まではオロオロしていたはずであったのだが、織姫を要求し始めた瞬間、今までとはまた違うよく分からない気配を放ち始めた。

 

「……いい加減にしろよ。レクシー、ハロルド。織姫ちゃんに手を出すのは絶対に許さない。わかったらさっさと()()()を『無条件』で引っ込めろ。これは『命令』だ」

 

 その言葉を聞いた途端、先程までの無機質な気配が消え、今まで見せたことがない様子で双子が慌て始める。

 

「お、落ち着いてよアンジェ! ホラ、まだ何も手を出してないよ!」

()()()も渋々引き下がらせたから安心してよ! ね?」

 

 それを聞いたアンジェはため息を吐きつつ、気配をいつもの弱々しいものに戻して織姫の腕を掴んで口を開く。

 

「藍染様、今日の所はこのくらいでいいでしょう。私は織姫ちゃんを部屋に案内するのでこれで失礼します。では」

 

 そう言葉を残して歩いて退出していった。そして、残ったもの達にも藍染からの通達が伝えられる。

 

「今回の所はこれで解散だ。各自速やかに退出するように。君たちも要の所で休んでてくれるかな? レクシー、ハロルド」

「「了解でありま〜す」」

「……ああ、フィグザだけはこの部屋に残ってくれ。それではまた」

 

 そして残りの面々が居なくなり、藍染とフィグザだけが取り残される。こんな状況にも関わらず、相変わらず寛いでいる。

 

「君はこれから何があるのか心配などないのかな、フィグザ」

 

 藍染の問いにヘラヘラと笑いながら答えを述べる。

 

「大方、さっきの双子の事を聞きたいんでしょ? アンジェやジジイ、性悪女だとゼッテー話さねえかんな。オレの場合は、今回の無断の現世侵攻の罪の代わりにで聞き出せるって魂胆だ〜。合ってる?」

 

 その言葉に無言で頷く。それを見て満足そうにした後、一言付け加えてきた。

 

「ただし一つだけ条件がある。その代わり、オレの双子について知っている事を出来るだけ話す。どげんしますかい?」

「その条件とは?」

「それは話を聞けばすぐに分かると思いまっせ。さあさあ、返事は」

 

 藍染は少し考える素ぶりを見せた後に軽く頷いた。

 

「そうこなくっちゃなぁ! 俺が今、兄ちゃんに伝えられられるのはは三つだけだな。あ、アイツら本人に聞くのも無駄だぞ。あの双子は基本アンジェに不利な事に対しては聞かないほど甘々だからな」

 

 ふてぶてしい顔をしながら三本の指を立て一つずつ折っていく。

 

「まず一つ、俺らの生まれた順番だ。意外かもしれねえが、まず最初に『セルラ』が生まれた。まあ、昔の性質(タチ)は見る影もねえが。その次にあの双子が生まれたってわけだ。あの成りで俺達より年上なんで信じらんねえよな。え? どうでもいいってよさそうな顔だな。まあ、話を戻そう。そして、リンファ、バラクーダ、このオレ、フィグザがアンジェと()()()()()()()()。オレが一番ピチピチなのよ」

 

 真顔で聞き入る藍染の瞳を覗き込みながら大胆不敵な様子で続ける。

 

「どういうことかわかったろ? アンジェがオレら三人とあの双子への対応の違いが。あの双子の力を恐れてるんだよ。一番よく知っているからな」

 

 遠い目をしながら何かを思い出しているようだ。

 

「それと後、アンジェはオレよりも後に生まれた末っ子であり、あいつら双子の母親さ。意味は説明しなくてもわかるだろ? アンジェの死の形を知る()()()()ならな」

 

 そんな素ぶりなど一度も見せた事もないのに何故知っているのであろうか。

 

「二つ、双子の力は先程見ての通り使い勝手が良い訳ではない。その気になれば()()()()()()()()()()()()()くらいからな。だが、それだからどれ程強力な力や干渉力をもってしてもほぼ全てが()()()()()。未来改変、未来予知、幻覚なんてもってのほかだ。一発で重罪だ。だが、()()は通じる。それなりの()()を払えばお目溢ししてくれるんだ、よく覚えておいた方がいいぜ」

 

 一息いれるつもりなのか煙の出ていないパイプを咥え、息を吸い込むとだるそうに吐き出した。そしてだらけた姿勢をほんの少しだけ正し、口を開く。

 

「それと解放前はあいつらは勝負者本人の身体は賭けられねえんだ。だが、賭けるもんがなくなったら、次の対価が能力解放の許可になる。今で言う帰刃(レスレクシオン)や。だからアンジェのやつはあいつらを関わらさせたくなかったのさ。だいたい関係が解ってきたんじゃないのかい」

 

 そして空吹かしのパイプを手に持ち、三本目の指を折る。その時の目はとても真剣なものであった。

 

「その三、あの双子の力を他者を縛り上げる為だけのヘンテコ能力なんて思っちゃいけねぇ。あいつらは一体()を雁字搦めにして抑え込もうとしているのかを一番理解している」

 

 そして、口元を軽く歪めた。

 

()()()()()()()

 

「多少自分勝手に見えるが約束は全て守り、自我を許可無しではあまり優先させようとはしない。まあ、さっきのは別だが。さて、あいつらはそんな強力無比な拘束能力で一体何を抑え込んでいるんだろうなぁ。アンジェ達は知ってんのに教えてくれねえんだ」

 

 いつのまにか藍染の顔の前に自身の顔をくっつけんばかしに近づけてきたフィグザを軽く払い、今回の要求を理解した。

 

「つまり君は、あの双子の()()の正体を知りたいと。そしてそれを私と一緒に調べてくれと言いたいのかな?」

 

 その言葉に満足そうにしながらも、一言余計なことを付け加える。

 

「ついでに兄ちゃんが目的の果てにする事も知りたいんだけどなぁ、それを約束してくれるのであればこの身飽きるまで兄ちゃんの手伝いをしてやるぜい」

 

 それを聞いた藍染は一度深く目を瞑り、思考したのちに頷いた。それを見たフィグザはまるで居残りから解放されたかのように喜び始める。

 

「ヤッター! じゃあ今回の事はこれでお咎めなしって事で……ウッヒョー! 今からアンジェに頼んでカメラ改造してもらおーっと! そんじゃ、失礼!」

 

 そして、星屑の様な光を残し消えていった。小さなため息がこぼされれる。

 

「アンジェが彼を一番苦手にしていることがわかったよ。彼と話をしているとあらゆる事を()()()()()()()()かの様な感じしかしない。どうも癖の多い連中で困ってしまうね、ギン」

 

 その言葉と同時にに柱の影から姿を現した市丸ギンは、少し困った顔をしながら藍染に近寄ってくる。

 

「どうした?」

 

 口調を少し険しくして尋ねると、思った通り、困った声で応えが返された。

 

「スンマヘン隊長。少し目を離した隙にリンファちゃんが姿を消してしまってしやいました。どないします?」

「姿を直前に何か言っていたか覚えているかい?」

 

 市丸は糸目をさらに細めながら記憶を絞り出している。そして思い出したのか彼女を真似る様にその言葉を吐き出した。

 

「[『友情』、『信頼』、『愛情』。そんなものなどクソ溜に唾棄されるべきものだ。そんなものの為にやってくる王子様達にはこの世の地獄を見せてやらないとね]みたいなこと言ってたなぁ……」

 

 

 

 

 それを聞いた時の藍染は、とても禍々しい愉快そうな笑みを浮かべていた。




通りすがりの姫昌「……伯邑考」
ハンバーグ事案発生! 知ってる人は知ってる事でしょう。
はて? アニメ化? 知らない子ですねぇ……

ちなみに、双子の素の戦闘能力はクッカープーロくらいと思ってください。

次回からは虚圏の歌姫ことリンファの出番が増えてきますのでよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。