カラクリの行方   作:うどんこ

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やっときました虚圏編! でも筆の遅さは変わらねえ……善処します、はい。これからどんどん戦闘描写が増えていくのでお楽しみに!


第二十七話 歌声

 崩壊する建物内から脱出した一護達は体制を立て直しつつ、ここに来る前の浦原喜助の助言を思い返していた

 

──アンジェという少女とモリアルテという双子は相手取ってはいけません。

 それが真っ先に出てきた言葉であった。一護はどちらとも会ったことがあるのだが、強くなった今、それほど注意するほどかと思い、ほか二人はほとんど知らない為注意して聞いていた。

 

『アンジェという少女は基本罠などの策略をもってして牙を剥いてきます。なのでこちらを相手にしてくる場合は何かしら仕掛けていると思って間違いありません。間違っても真っ向勝負は避けてください。

 そして双子ですがこっちははっきりいってよく分かりません。ですが、確実にまともに戦える相手ではないので戦わない方がいいでしょう。どちらも相対したら無視して離れる事をオススメします』

 

 それが浦原からの助言であった。あの食えない浦原がそれほど警戒する程の相手なのだから余程の相手なのだろうと3人の意見は一致していた。そして、この巨大な虚夜宮(ラス・ノーチェス)に侵入するか意見を出し合っていた。そして、少し前から()()()()()()()が耳に届いている事を疑問に持つ者は誰一人いなかった。そしてそれが3人の中に微かな不和を生み出している事に気付ける者などいるはずもなかった。

 

────────

 

 

 その廊下を横切ろうなどという不届き者はいなかった。至って変哲もない、この宮殿にならばいくらでもあるであろう代わり映えのない廊下だ。あろうことが怖いもの知らずの破面(アランカル)たちはそこを畏怖している。廊下自体にではなく、ある部屋を目指していく十数人もの集団がいるから。ただ一歩踏み出すだけで空気の重さが倍加する。

 そして集められた目的は自ずと察せる。さきほどの宮を揺さぶるような空間の割断(かつだん)、それのせいであると。

 靴音を響かせながら、次々と目的の場所へと近づいていく。

 彼らは仲良く歩くというより互いを牽制するような雰囲気を撒き散らしていた。

 やはりというか聞き覚えのある声が最初に言葉を発していた。

 

「侵入者らしいね〜。随分と早いなぁ」

「侵入者ァ!?」

 

 彼らが部屋へと入る。彼らが進む先には長く硬質なテーブルがあった。この会合の主催する者の座る一辺を除き、背もたれの高い椅子がちょうど十個。

 少女が主人を差し置いて椅子に飛び乗ると、頰をテーブルにべったりとつけ、寛ぎはじめる。

 

「22号地底路が崩壊したんだって聞いたんだけど、なんでまたそんな遠くに」

「お前の顔を見たくなかったんじゃねえの?」

「そんなひどい……」

 

 鹿追帽を被ったモノクルの青年がそう少女を茶化す。

 豪胆でありながら衰えを感じさせない老体が腰掛けた。

 

「22号ォ!? また随分遠くに侵入したもんじゃな!!」

 

 眼鏡を掛けた美青年が無関心気味に同意した。

 

「全くだね。一気に玉座の間にでも侵入してくれたら面白くなったんだけど。フィグザの予想が当たってたらそれはそれで面白いんだけどね」

「だろだろ〜、なあもっと駄弁ろうや。こんなに人がいるんだからよ」

「お願いだから少し黙ってて……ホントに」

 

 頰を挙げた少女は頼み込むかのように次はデコをテーブルに押し付ける。その間に褐色の肌を持つ美女が静かに椅子へと身体をもたれかからせた。

 

 後付けの仮面の奥から水音を響かせながら長身の破面(アランカル)もそれに続いた。

 

 坊主で仮面の名残である棘のを付けた黒人風の男も続いていく。

 

「侵入者! 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス」

 

 従者に椅子を取られた者はその横に佇み、壊れたラジオのように延々と言葉を繰り返していた。

 

「……ウルセーなあ。こっちは寝みーんだ。物騒な言葉連呼すなよ……」

「寝てねーで漢の会話に参加しようぜ! 俺は都合が悪くなったら降りるけどな!」

「じゃあ俺は最初から降りるわ」

 

 それに気だるげそうにため息を吐く無精ひげを生やした男。絡む男を軽くあしらっている。

 

 山のような、という表現を形とするかのような大男の椅子が軋む。

 

 不良風の青年が無遠慮に不機嫌そうに椅子へと身体を落とした。

 

 無表情を変えない青年が音も無く気配すら消して座すと、すぐに目を閉じる。

 

 椅子に座るという一動作のみで個性に違いが見られる彼らは、各々の席で自分たちの主人一人が訪れるのを待つ。

 

 第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)

コヨーテ・スターク

 

 第2十刃(セグンダ・エスパーダ)

バラガン・ルイゼンバーン

 

 第3十刃(トレス・エスパーダ)

ティア・ハリベル

 

 第4十刃(クアトロ・エスパーダ)

ウルキオラ・シファー

 

 第5十刃(クイント・エスパーダ)

ギルガ・ジルガ

 

 第6十刃(セスタ・エスパーダ)

グリムジョー・ジャガージャック

 

 第7十刃(セプティマ・エスパーダ)

ゾマリ・ルルー

 

 第8十刃(オクターバ・エスパーダ)

ザエルアポロ・グランツ

 

 第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)

アーロニーロ・アルルエリ

 

 第10十刃(ディエス・エスパーダ)

ヤミー・リヤルゴ

 

 彼らは十刃(エスパーダ)

と呼ばれる、殺傷能力が飛び抜けて優れているといういかにも物騒な選考基準を満たしたモノたちだ。それはこの宮で一部の例外を除き、戦闘能力が格段に優れているということ。

 最近こそアンジェが原因で数名が揃うことはよ度々あったが、全員が一堂に会すことはあまりない。しかし、だからどうしたのか。そう言わんばかりの態度で、普段のような軽口を叩く。

 アンジェの左右にはグリムジョーとウルキオラ。正面にはスタークがいる。スタークはテーブルに両肘を付いて組んだ手に顎を乗せ、もうすぐ会議が始まるのにうつらうつらと(まぶた)が閉じてしまいそうになっており、アンジェはシンパシーを感じていた。これが1番の男。選定基準が実力のみで数字が決められるのを表しているのだ。

 しかし唐突に緩んだ空気が消え去る。

 彼らの主人が配下の死神二人と二匹の破面(アランカル)を率いて姿を現したからだ。

 

「お早う、十刃(エスパーダ)諸君。敵襲だ」

 

 いつものような達観したかのような平坦な声が危機感を伝えない。

 そして続けられた言葉も防衛の配置などの戦略的なものではなく、

 

「先ずは紅茶でも、淹れようか」

 

 なのだからもはや危急の有事と感じていないと誰だってそう思うはずだ。

 だが、たしかにそれだけの自信を保てる力が彼らにはあった。むしろそれだけでも足りないだけの力が。

 床からせり上がった椅子に腰掛けた藍染惣右介の少し背後に、二人の死神が待機し、その左右に置かれた小さな椅子に男女の子供が楽しそうに席に着いた。それと同時に紅茶が全ての席へと運ばれた。アンジェの所だけ後ろのジルガに手渡されたが。

 

「全員に、行き渡ったかな?」

 

 藍染がいけしゃあしゃあとのたまう。まだ来てないと言い出せないアンジェはふて腐れたように頭を仰け反らせた。

 

 見計らったように藍染が切り出す。

 

「……さて、飲みながら聞いてくれ。要、映像を」

「はい」

 

 指示された東仙が壁の取っ手を動かすと、長テーブルの中央の仕掛けからひとつの映像が空中に浮かび上がる。

 

「侵入者は三名」

 

 一人ひとりの顔が鮮明に拡大された。

 

石田雨竜(いしだうりゅう)

 

 優等生然とした眼鏡を掛けた少年。破面(アランカル)の死覇装と違う白いスーツのような服を着込み、肩掛けの布の色も白い。死神でもなく、ましてや一般人ではないのも見てわかる。

 

茶渡泰虎(さどやすとら)

 

 この三人の中でも特に、茶渡はふたまわりも年上に見える。長身の体躯に褐色の肌、長袖の黒いシャツは彼の筋肉によって盛り上がっていた。

 新しい腕が増えてんな。

 茶渡の右腕を少し見ただけでアンジェはそんな判断をしていた。今回は虚圏(ウェコムンド)に向こうから来ているのである。じっくりと調べ上げても問題ないだろうと悪どいことを考えていた。

 

黒崎一護(くろさきいちご)

 

 最後に拡大されたのはオレンジ色の髪を持つ死神の少年だ。姿だけ見れば以前とはまったく変わりない。

 けれど織姫のいるであろう虚夜宮(ラス・ノーチェス)の壁を見据え、砂を吹き飛ばすかのように砂漠の上を一心不乱に駆けていた。

 

「……こいつが」「敵ナノ?」

「何じゃい。敵襲じゃなどと言うからどんな奴かと思ったら、まだ餓鬼じゃアないか」

「爺さんから見たらみんな餓鬼になっちまうんじゃねえの?」

「ソソられないなあ、全然」

 各々が冷めた反応を示す、けれど危機感を抱くことはなかった十刃(エスパーダ)を藍染がいさめた。

 

「侮りは禁物だよ。彼らはかつて『旅禍(りょか)』と呼ばれ、たった四人で尸魂界(ソウル・ソサエティ)に乗り込み、護廷十三隊に戦いを挑んだ人間たちだ」

「四人? 織姫ちゃんが足りてない訳かぁ、なーるへそ」

 

 それを聞いたフィグザが画面の人間たちに嘲笑を向ける。

 

「仲間を助けに来たってワケね。良いんじゃないの、ピクニックみたいで」

「聞こえなかったのか? 藍染様は侮るなと仰ったはずだ」

「別に、そういうイミで言ったんじゃないんだけどなぁ。もしかして怒ってる? そんなにカリカリしなくてもいいじゃん、カルシウム足りてる?」

「…………」

 

 釘を刺したハリベルにフィグザが子供のように言い返す。

 そんな会議であっても勝手に発言とかをする十刃(エスパーダ)たちの喧騒を聞きながら、アンジェは初めて見る石田雨竜のだいたいの特徴も測り終える。体つきや動きからして、()()()()()中距離から遠距離の攻撃を主体とする異能者だった。しかしこの程度の実力ではこの場にいる者達には到底及ばないだろうことも大体察していた。

 

 喧騒を打ち消すように藍染が締めくくろうとする。

 

十刃(エスパーダ)諸君。見ての通り敵は三名だ。侮りは不要だが騒ぎ立てる必要もない。各人、自宮に戻り、平時と同じく行動してくれ」

 

 十刃(エスパーダ)とその他たちを見回し、

 

(おご)らず、(はや)らず、ただ座して敵を待てばいい」

 

 宣言する。

 

(おそ)れるな。たとえ何が起ころうとも私と共に歩む限り、我らの前に──敵はない」

 

 そして一言を最後に残して。

 

「因みにかの有名な歌姫(リンファ)が彼等の元へ向かっているとのことだ。彼等が無事ここまで辿りつける事を祈ろうではないか」

 

 

────────

 

 白砂の番人ヌルガンガを倒して合流したルキア達は先程一護達と邂逅したネルに驚かれており、その様子を石田に呆れられていた。

 

「ああ…また死神っス! ワルモノ〜!」

 

 そんなネルを物ともせずに一護に近づいたルキアは無言で顎に拳を叩き込み殴り飛ばし、恋次が頰を殴り抜けた。

 いつもなら普段通りの会話が始まるのだが、一護の様子が明らかにおかしいのだ、ルキアの行動に明らかに()()()()()()()。その間もハミングは小さく鳴り響く。

 

「何すんだよ……」

 

 確かにやり過ぎかもしれないがいつもの一護なら動じない事の筈だ。何かがおかしい。

 それと同時にネルが青い顔をして騒ぎ立てる。

 

「なンで『妄言(テンタシオン)』が聞こえて来るんスか……歌姫がいるなんて聞いてないっスよ!?」

「待て、それは何……」

 

 石田が答えを聞き出す前にその能力が知れ渡る。

 

「月牙天衝ッ!!」

 

 味方に向けられるべきではない一撃がルキアと恋次を襲う。咄嗟に躱したルキア達は理解できないといった表情を浮かべるとともに、明らかに怒りを募らせていた。

 

「何をする! 血迷ったか一護!」

 

 ルキアの背後には一護の放った一撃で空いた穴が出来ており、その奥には五つの別れ道が見えていた。そのことにも気がつかないルキアと恋次は一戦交えん気迫を醸し出している。

 そしてその様子を遠くから見る影が一つ。

 

「なんか増えたけどまあいいわ。私の声に酔い痴れて、歌って踊って狂いなさい。さあ、その痴態を囚われの姫様に見せるのよ」

 

 そして、仰け反りながら口を大きく開き、大きな嗤い声を響かせた。

 

「キャハハハハハハハ!!! 狂え狂えそして壊れてしまえ!」

 

 その声だけは一護達へは届かなかった。




※テンタシオン 日本語で誘惑を意味するスペイン語

リンファの能力はえげつないものがてんこ盛りです。まあ、今回はまともに戦いませんが。
因みにリンファは基本裏方に徹するのでこれ以上は多分しばらく能力出さないです。ご了承下さい。

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