艦これ-終末戦線2145-   作:葵木々

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06.炎の記憶

 薄黒い雲に覆われた空。その下で、戦火は飛び交っていた。

「クソが!手伝え秋月、照月!」

高い対空性能を持つ摩耶と秋月、照月。赤城を囲むように陣形を取り、敵航空部隊を睨み付ける。

「―――やらせません!」

「ガンガン撃ち落とすよ!」

制空権は既に奪われた。航空機を失った赤城は中破状態、守り通さなければ―――轟沈する。

「雪風!合図をしたらさっさと連れて帰還しろ、いいな!?」

「はいっ!でも摩耶さんたちは―――」

「問題ねぇ、なんとかする!あぁもう空母系多すぎだろクソが!」

今回の掃討作戦において、敵深海棲艦の編成に空母が多いことは予め確認されていた。彩雲搭載の空母二隻と対空値の高い艦による制空権の奪取、そして戦艦クラスを要に高い火力を持つ艦で編成された艦隊による中央突破。早期決着を図るこの作戦は、事実上の失敗を喫していた。

「すみません、みなさん」

銃撃飛び交う中、赤城が申し訳なさそうに俯く。加賀も気丈に周囲を警戒してはいるが、その表情には焦りを浮かべている。

「あなたたち、帰ってきたら絞めるわ」

「絞めっ!?」

顔を引き攣らせつつも敵戦闘機を打ち落とし続ける摩耶たち。加賀は顔を背けながら、意を決して小声で言い放つ。

「だから、必ず帰ってきなさい」

「ふふっ。加賀さんったら、そんな小さな声じゃ聞こえないですよ?」

「だから聞こえないように・・・・・。っ!摩耶、もう少しで弾幕に穴が開くわよ」

加賀の見つめる先、敵航空部隊の増援が押し寄せる方角を見た摩耶は、これを逃せば全滅すると思い―――同時に、安堵もしていた。しかしそこへ、痺れを切らした一機が特攻を仕掛けた。

「摩耶さん特攻来ます!」

「マジかよクソが―――今だ雪風、行け!」

摩耶は、特攻を仕掛けたそれを打ち落とす。

「っはい!赤城さん、加賀さん。行きますよ!」

航空部隊が途切れた一瞬、雪風が躍り出る。なんとか追随する赤城と加賀は、出力の落ちた艤装を全力で駆る。

 空は、艦載機による弾丸の雨に染まっていた―――。

 

 

 

―――明朝、第一鎮守府から応援要請があった。

泊地とよばれる深海棲艦の巣、それを撃破及び壊滅させる大規模作戦。提督もみんなも出払って、鎮守府には私一人しかいない。

今日は、鈴谷さんと出かける日だ。前の日から服を選んで、何度も着替えた。手持ちの服を全部引っ張り出して、部屋中が服で散らかった。普段より念入りに髪を洗って、楽しみで眠れなかった。今日は、鈴谷さんと出かける日だったのだ。

「あーもう、なんだって今日なのよ!」

艤装の無い艦娘が出来ることなんて何もないのだと痛感する。秘書艦なら艤装が無くても役に立てるかもしれないけど、弥生みたいに作戦立案が出来るわけでもない。私はただ、ベッドに寝転がって自堕落に過ごすだけ。もぬけの殻になったこの鎮守府でやれることなんて、客人が来た時に対応するぐらいだ。

「私たち第二鎮守府に応援要請しなければならない戦場か・・・・・」

 正直、どんなものか想像もつかない。私はまだ大規模作戦なんて経験していないし、そもそも前線は第一鎮守府の担当だ。私たちは戦闘も遠征もするけど、それだって海域攻略には遠く及ばない。陸の攻略なら、負けはしないけど―――いや、誇るようなことじゃないか。特殊遠征艦隊と呼称される、深海棲艦ではなく人間を標的とした任務を請け負う部隊。私と時雨、響が所属するその部隊は、提督より上の組織の手で動かされている。

 結局のところ、私たちは奴隷のようなものだ。

 

 

 

―――最初に目を覚ます前、私は炎の海にいた。

 マニラの空を切り裂いて、戦闘機が群れを成している。辛くも逃げ出した私を追って、二度目の空襲に来たのだろう。私は戦闘機たちを握り潰すように、空へと握り拳を向ける。 

戦闘機が落とした雨が、私に直撃した。一緒に係留された秋霜と蓬莱丸は無事だろうか。両端から火の手が迫る。一際大きな爆発音が轟く。燃料に引火したのか、勢いが強い。

艦長の声が聞こえる。総員退避、どうやら私は燃え尽きるみたいだ。みんな逃げ出したけど、砲術長たちが戻ってきた。必死に炎を消そうとしている。

逃げて!と私は叫ぶ。私の事はもういいから!と叫ぶ。それなのに、叫べば叫ぶほど炎は強まって、彼らは爆発に巻き込まれてしまった。

燃え盛る炎が私を海へ沈めてゆく。海は涼しくて寒かった。沈む。せっかく潮が助けてくれたのに、ごめんなさい。貧乏くじばっかり引かされたけど、楽しくやれてたかな。

そうして、私はその役目を終える。もうずっと昔の、私が艦船だったころの記憶だ。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

―――違う。これは私に植え付けられた、私が扱う艤装の過去だ。

そう気付いたのは、物心が付いてから数年経った頃。艦娘として必要な知識、技術を習得するために様々な教育を受けていた頃のことだ。

駆逐艦、曙。その特徴や性能をベースに作られた艤装には、それを扱える存在が必要だった。ゲノム編集による遺伝子操作と記憶の捏造。艤装-曙-を使いこなすための、様々な調整。それらを経て、担い手は生み出される。

「君は、艤装を扱える特別な人間なんだよ」

私は、この胡散臭い奴らに作り出された。前世を造られて、生まれる前からデザインされたんだ。

「私はデザインチャイルドってこと?」

そう言ってやると、研究者たちは途端に慌てだした。ちょっと得意げな気持ちになる。リーダーらしい男が私の目線に合わせてしゃがむ。

「だれかに吹き込まれたのかい?」

「私が出した結論よ。それで、どうするの?処分でもする?」

処分。途端に怖気が走った。言ったのは自分だけど、想像すら拒否するほどに嫌だった。

「君は賢いんだな。なら、うってつけの行き先があるよ」

「っ!」

立ち竦む私を見て、リーダーらしい男は笑みを浮かべた。

「安心していい、処分はしない」

「じゃあ、どうするっていうのよ」

男は立ち上がって、手招きをする。その顔がどこか悲しげに見えたのは、私のこれからの未来を哀れんだからか。こんなことをしている連中の中にも良心が残っている奴がいるんだと、私は少しだけ安心した。

「アンタは人間ね」

「君も人間だ。それじゃあ、いってらっしゃい。君の配属先は―――第二鎮守府、特殊遠征部隊だ」

 

 

 

 それからは、様変わりした訓練内容に辟易しながらの毎日だった。旧時代の銃火器、最先端の装備、そして艤装。私が艦娘-曙-として従事するだろう任務に必要な事を、ありったけ叩き込まれた。

ベッドに寝転がったまま、天井に向けて手を握り締める。そうすると、炎が囁くように燃え始める。その音は妙に懐かしくて、物悲しい。きっと植えつけられた過去のせいだ。  

この記憶があるからこそ、私は曙の名を冠する艦娘でいられる。あの時あんなことを言わなければ、特殊遠征艦隊だなんて配属先は免れていたのかもしれない。若気の至り、いやまだ若いけど、それだけは後悔している。

 艤装の修復は、私との同調作業を残すのみとなっている。手順は知っているけど、明石さんがいないと調整は出来ない。本当は調整が終わり次第戦線復帰する筈だったけど、明石さんも戦場に出ていってしまった。

「何かやること・・・・・掃除でもする?」

 そもそもやる気が出ない。今なら誰にも咎められることはないし、存分に寛いでやろう。今も戦っているみんなには申し訳ないけど、明日から頑張るということで勘弁して下さい。

 

 

 

―――そうして、鎮守府の正面玄関に一台の車が止まる。

「さて、今はほぼ全員が出払っているんだったか」

 降り立った男は、複雑な表情で鎮守府を見上げる。白髪交じりの髪をかき上げ、痩せこけた体には似合わない大きなアルミケースを持ち上げる。

「恨まれてなければ、いいんだけどなぁ」

呼び鈴が鳴る。慌てるような声と足音が、近づいてきた。

 

 

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