艦これ-終末戦線2145-   作:葵木々

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09.未来への

 第一鎮守府の入渠施設にて、艦娘たちは疲れを癒していた。石造りの湯船に檜香る和風風呂、滝の打たせ湯。壁面には大空へと飛翔する床はほのかに暖かい。

先の戦闘で大腿部を負傷した摩耶は、高速修復用の壺風呂に体を沈めていた。

「くぅぁ~」

 両隣の壺風呂に沈んでいた金剛と鈴谷が、思わずといった様子で笑い出す。

「摩耶がオヤジくさいデース!」

「うっせぇぞ金剛!あと何笑い堪えてんだ鈴谷!」

「笑ってないしぃ・・・・・ぷふ」

「・・・・・お前ら後で覚えとけよ」

 あの後、五航戦の援護により敵制空権内から脱出した摩耶、秋月、照月だったが、帰還するまでの道中にも何度か襲撃を受けた。結局、三人ともが小破ないし中破となり、軌道エレベータにたどり着くころには酷い有様となっていた。

「にしても、前哨戦でこれかよ」

「今回の作戦は厳しい戦いになりそうデスネー」

「まぁ今回はウチら第二鎮守府もいるんだし、なんとかなるっしょー。ね、ぼのたん?」

「・・・・・」

 顎まで湯船に浸かっている曙は、未だ納得いかないという様子で眉間に皺をよせていた。流石にフォローしなければと考えた鈴谷だったが、今回はどうみても提督陣のミスであり、つまりどうしようもなかった。

「まーまーぼのたん!き、気持ちはわかるよ?せっかく修復して参戦できるようになった矢先の撤退だし、そんなの鈴谷だって抗議するって。ほら作間提督も謝ってたし、ね?」

「別に怒ってないし。次はちゃんと参加出来るんだからいいし。クソ提督のアホ・・・・・」

「でもさーぼのたん。艤装との同調作業をやってくれたのって、明石じゃなくてどっかの研究者なんでしょ?大丈夫?」

「あの人は大丈夫だと思う。一応知り合いではあるし、提督とも仲の良い人だから。それに・・・・・」

「それに?」

「―――何でもない。それじゃあ私、もうあがるから」

「あ、うん」

 湯船に波が立つ。、さっさと脱衣所のほうへ向かう曙の後ろ姿を見ながら、怪訝そうな顔をした摩耶が鈴谷と金剛の入っている湯船に移る。

「おいおい、アイツ大丈夫なのか鈴谷。なんか元気なさそうだけど」

「んー、あれなら大丈夫かなー。前よか断然良くなったし、鈴谷嬉しいですなぁ。ともかく、心配ご無用!」

 そう言って大きく伸びをする鈴谷は、周りから突き刺さる視線―――主に駆逐艦娘たち―――に気付くとペロリと舌を出した。

「鈴谷がいうならノープログレムですネー」

 金剛も伸びをする。さらに羨望と妬みの視線を集めてしまうが、金剛自身は気付いていない。摩耶は、伸ばそうとしていた腕をそっと戻して、湯船に肩まで浸かっていた。

「お前らちょっとは慎め」

「ふっふっふ、しっかり育ちたまえよ駆逐艦諸君!」

 

 

 

 風呂上りの廊下は、少しだけ肌寒い。もう少し暖まってから出ればよかったと後悔したが、あれ以上あの場にいてもいたたまれないだけだった。主に胸が。

「何なのよあのビッグスリーは。そりゃ艦種的に仕方ないのかもしれないけど、じゃあ村雨とか浜風は何なんだって話よまったく」

 そんなことを考えながら歩いていると、廊下の先に電がいた。壁に体重を預けたまま、誰かを待っているように見える。

―――電か。あの子変に鋭いし、私たちの事情に気が付いてるかも。

 しかし、ここで引き返したりすれば余計に怪しい。友達と警戒しながら話すなんて、陰鬱な気持ちになる。別に普段通り話せばいいとは分かってるけど、それでも・・・・・。

「電、そんなところで何してるのよ」

「あ、曙ちゃん。今から少し付き合って欲しいのです」

 さて、どう来るか。ただの世間話なら大歓迎なんだけど、どうも嫌な雰囲気だ。電は秘書艦に抜擢される程に有能だが、仕事以外だと少々抜けた所がある。今の電は仕事モードか否か、歩き出した電の後を追いながら意図を探る。

「電、今回の戦況はどう?」

「相変わらず厳しいですね。吉井提督はアレですし、作間提督も頭を抱えていたのです。曙ちゃんは、次の出撃が待ち遠しいですか?」

「まぁ、いざ出撃だーって意気込んでたら撤退命令だったから、有り余ってはいるわよ。ちょっとだけ納得いかないけど、命令だし仕方ないわ」

うーむ。最初から本題に入るつもりはないのかな。このまま歩いていけば方向的には食堂だし、他の艦娘の姿も見えない。特殊遠征任務への従事が露見しているなら、人払いも済ませていることだろう。どうしたものか。

「―――良かったのです。曙ちゃん、元気そうですし」

「え・・・・?ま、まぁそうね。艤装自体は直ったし、元気だけど」

「そういう意味じゃないのです!曙ちゃん最近どこか暗くて、何かに悩んでいるみたいだったのです。遠征から帰ってくると、憂鬱そうでしたから」

そっか。必死に顔に出すまいとしてたけど、バレてたか。電は少し俯きながら、前を歩いている。お互いの表情は見えない。だから、

「そんな心配しなくても大丈夫よ!」

こんな嘘も、堂々と言える。笑顔を作れと言われても、今は無理だ。電が前を向いていてくれて助かった。

「―――信じるのです。それじゃあ、私は執務室に寄っていくのです」

「りょーかい。作戦がんばりましょ」

そう言って、電は階段を駆け上がっていった。秘書艦だし、忙しいんだろう。私は見えなくなるまで手を振って、宛てもなく歩き出した。

「信じる、か・・・・・」

さっきまでの自分を殴りたくて仕方ない。電は忙しい中で合間を縫ってまで私を心配してくれたというのに、私はずっと警戒して、向けてくれた善意を裏切った。悔しくて、悲しくて、噛み締めた唇が痛い。それでも、涙は流さない。だって、駆逐艦曙としての記憶、内側で燃え盛る炎が叫ぶのだ。

 

―――戦え。燃え尽きて、再び水底に沈むその日まで。今度こそ、仲間と共に。

 

たとえ偽物の記憶でも構わない。戦うために生み出された私達の存在意義が、そこにある。どんなに悲しい事も辛いことも、存在意義を失うよりはマシだ。だから、受け止めて耐える。今は不可能でも、きっと解決の糸口はあるはずだ。だから―――。

「いたいた、曙!」

「あ、時雨、響まで・・・・・」

「泣きそうな顔してどうしたの?」

「察してあげないとダメじゃないか時雨。今は傷心なんだ、入渠中にナイスバデー三人に囲まれていたからね」

ああ、この二人はいつもこの調子だな。思わず口角が上がってしまう。

「適当言うなっての!それで、二人してどうしたのよ」

「―――不知火たちが来てる」

「了解。でも大丈夫なの?少しでも上層部に怪しまれたら終わりだけど」

「曙の艤装の最終メンテナンス、例の研究者だったでしょ?私と時雨、不知火たちも同じでね。つまり何が言いたいかというと―――」

「艤装に仕込まれていた監視システムは機能していない?」

「正確に言えば、その機能を騙しているって感じらしいよ」

「なるほど・・・・・」

あの研究者、どういう風の吹き回しだろうか。ヒーロー映画でも見て正義感に目覚めたのかもしれないが、それで私達の手助けをするなら願ったり叶ったりだ。利用させてもらう。特殊遠征部隊である時雨、響、不知火、満潮、親潮、そして私。ずっと言いなりで終わるつもりはない。

「まぁ、響のことだから何か案はあるんでしょうね」

「それは集まってからのお楽しみってことで。時雨が話してくれるよ」

「おや、初耳だなぁ。響、さてはノープランだね?無理心中は勘弁してもらいたいものだけど、一人でなら喜んで送り出すよ?」

「時雨一人でかい?ちゃんとプランはあるから安心するといいよ。うん」

「不安だなぁ」

目標は特殊遠征任務からの解放。つまり最低でも、私たちに指示を出している上層部の排除と提督や他の艦娘たちの安全確保が必要になる。私たちに加えてあの研究者の協力があっても、達成は厳しい。

「そうだ、作戦名もちゃんと考えたよ」

「作戦名ってアンタ・・・・・また古風な」

「そもそも秘密作戦なんだ、とことんそれっぽく行こうじゃないか。それに―――私達を縛っていた元凶は、案外チープなものなんだし」

前を歩く響。顔こそ見えなかったが、チープという言葉に少しだけ怒りを乗せていた気がした。鉄面皮にしては珍しいけれど、逆に言えばそれだけ響の琴線に触れるようなものだったということだ。

「で、作戦名は?」

「そうだね。作戦名は―――”明け色の水平線”でどうだい」

道のりは遠く険しいものになるかもしれない。それでも、僅かな光明は水平線から顔を出している。それでもいつか、太陽が海を照らす時がくる。

「いいんじゃない?響にしてはネーミングセンスがあるよ」

「時雨の案は酷かったからね、たまには本気を出さないと」

「本気でそれなの?」

「全力と本気は別物ってことだよ」

二人の毒の吐き合いはいつもと変わらない。私も、なんとか調子が戻ってきたような気がする。これが解決したらやりたいこともあることだし、頑張りますか。

 

 

 

 曙との会話の後、電は執務室へは向かわなかった。とある一室に入ると、鍵を閉める。ソファに座る弥生と青葉が、電に視線を向けた。

「お、電さん戻ってきましたね!」

「ぼのたん、どうだった?」

電は溜息を吐いて、向かいのソファに座る。

「確定―――ですね。青葉さんの調べた”特殊遠征任務”で間違いないのです」

「あちゃー。正直なところ、的外れであって欲しかったですねぇ。そもそもが非人道的であり軍規違反ですよ。それに、特殊遠征任務の目的は遥か先を見据えているわけですから」

「どういうことなのです?」

青葉は、苦々しい顔をしていた。

「―――深海棲艦を駆逐し終わったその先、ですよ」

 

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