「
一夏が反応できたのは偶然だった。ただ
でなければ
空に浮かぶのはISなのだろうか、顔が見えないバイザーに人間が乗ってるとは思えないほど細いウエスト部分、真っ黒に染め上げられた機体は陽の光を吸収し、まるで黒点のような言い知れぬ威圧感と雰囲気を醸し出している。乱入者はこいつだ、無粋な輩はあいつだ。殺そうとしてきたのは奴だ。
一夏は直感的に理解していた。あのビームは絶対防御を破り
移り変わって会場内 観客席
生徒たちはあの黒点のような機体がしたことを理解していた。特に上級生はこの異常事態を何とか受け止めようと努めた。フィールドバリアにはISに搭載されているSEによる絶対防御をさらに強化し、それこそ核でも通さない強度を誇ることを理解していた。故に、この悲劇的な光景は信じていた安心感と絶対という自負のようなものをミンチになるまで砕ききった。一年生たちは乱入者の方に意識が向いておりバリアが破られたことを気に留めてない様子だ。そのとき、
『緊急事態発生!観客席にいる生徒は速やかに避難してください!』
異常を知らせる声が二度繰り返された。しかし逃げ出そうとする生徒は物理的な壁に阻まれる。
「どうして!?どうしてドアが開いてないのよ!」
会場と出口をつなぐいくつものゲートは口を結ぶかのように固く閉ざされている。怒りのあまりに握りこぶしを叩きつけるも旧世代の壊れたテレビのように叩いて直るはずもなく、会場は悲鳴が伝播して行くだけだった。
「織斑先生、聞こえてますか?シャルロット・デュノアです!」
『なんだ、避難命令は出した。貴様もすぐに逃げろ』
『ダメです、織斑先生!出入り口の障壁が閉まっていて誰一人出ることができません!』
『くっ、ハッキングか!だが……もしやあいつか!』
「先生迷っている暇はありません。今すぐに専用機持ちにISの使用許可を!私たちが避難誘導と障壁を強制的こじ開けます」
悲鳴止まぬ会場で談判の声を上げる。理解しているからこそさらに怖いのだ。銃口を向けられた瞬間、死んでしまう。そんな恐怖に争うように声を強くして言う。
「はやく、決断を!」
『専用機持ち各員に告ぐ、出入り口周辺の安全を確保し速やかに障壁を破壊、避難誘導をしてください!』
一夏、はやく助けに行かなきゃ!
ここで友人になった少年に何かが起こる前に、そして
新人、お願いだから何もしないでね
思い人へ意識を割きつつ、
「一夏!先生今すぐに一夏を!」
「黙れ、ハッキングが解除できない以上援軍は送れん。あいつに任せるしかない」
「ピットは開いていませんの?」
「そっちもダメだ、すでに閉まりかけている。逃すことも助けることもできん…私たちの失態だ」
司令室では観戦していた箒とセシリア、教職員数名と山田、千冬のメンバーが揃っている。箒の泣き言をねじ伏せるがセシリアの提案にも頷くこともできず、表情を暗くする。
千冬は焦っている、教師としてもそうだが姉として心配な気持ちを押し殺さないといけない。いますがにだって障壁を切り裂いてあの侵入者を一刀両断したいと、怒りが心のうちに燻っている。だが、今の彼女は教師だ。生徒以上に冷静沈着にせねばならない。
故にこの声には藁にもすがる思いだった。
『中国代表候補生、鳳 鈴音、
襲撃直後、ゆっくりと下がる障壁に嫌な予感がした鈴音はその小さい体を閉まりきる前に滑り込ませ、フィールドへと体を晒す。破られたバリアからゆっくりと降りてくる漆黒の機体は、生気を感じさせない無機質さを露わにしている。
ここには一夏もティナもいる、逃げるなんて鼻っからありえない、だから声を上げるのだ。
「中国代表候補生、鳳 鈴音、
「鈴、なんでここに」
「そんなことはどうでもいいわ!はやくティナを連れて逃げなさい!」
「でも!」
「はやく! 私の大事な友達を殺させたいの!?」
迫真の声は一夏に深く届いた。この友達の中にはティナに一夏も加えられてるのだろうと理解したからだ。だから
「だったら鈴だって置いていけねぇ!」
「ふざけないで!ボロボロで怪我だってしてるあんたに何ができるのよ!」
「うるさい!そんなことわかってるよ!だけど男だぞ、こんなピンチに逃げれなんかしない!」
「あんたってほんとバカ!信じられない、絶交よ絶交!」
「ああいいぜ、あいつを倒すまで鈴なんか絶交だ!」
バカが二人死の危機にある最中、隙だらけの姿勢を晒すが天に佇む漆黒はフィールドに入ってから動いていない。まるで石像のようだ。そんな違和感に気がつくと、二人は漆黒を睨みつける。
「あいつ動かないわね、独り言だけど」
「よくわかんねぇけど、作戦でも立てるか?独り言だけど」
「どうして動かないのかを考えればいいのよ、これも独り言だけど」
「自分が危険じゃないから攻撃してこないんじゃないのか、これは独り言だけど」
「攻撃したら反撃してくるってことね、ナメ腐ってるわね」
「だったら俺の零落白夜で仕留めてやるさ」
「エネルギーのないやつの独り言が聞こえてくるわね」
「胸のないやつの独り言が聞こえてくるな」
「あぁ?」
「チャンスは一回だ、それで決める」
「わかってるわ、私が引くからあんたが仕留めなさい」
「いいぜ」
「ティナが危ないからすぐにケリをつける、そんであんたのケツも蹴りつける。
いくわよ!」
外で二人の少年少女が決意を固めた時
暗い暗い部屋の中、一人の少年は自分の無力さに心の中で悔し涙を零していた。