「貴官にはこれよりIS学園に向かってもらう、それに当たって専用機の貸与と一時階級の剥奪、軍からの仮退役とする。任務頑張ってくれたまえ」
「はっ、了解致しました」
「君を利用するような真似をすることに心が痛む、本当にすまない」
「そんな、頭をお上げください。上官がそんな簡単に頭をおさげになっては」
「お前たちには本来もっと然るべきモノを与えなければならない、然るべき時間を与えなければならないのだ。人として過ごす時間を」
「いえ、貴方のおかげで私たちは人として生きております」
「だが、その眼は…」
「これは私が受け入れたものです。気に病むようなものではありません」
「そう、か…ならこの言葉を送ろう、楽しんで来なさい。一人の少女として人の道を歩んで来なさい。私にできるのはここまでだ」
「ありがたく受け賜ります。彼女たちの分まで私が人になってきます」
「ああ、それでいい。では、下がれ」
暗い暗い部屋の中二人の影が話し合う。一人は少女のもう一人は老齢の男だろう。話し方はまるで、いや軍人なのだろう。かしこまった喋り方、それとは裏腹に心配そうに優しげに話す声はまるで娘と祖父の会話を彷彿させる。だが最後に厳格な声を放つと二人は別れ、少女は部屋から退出する。
「頼むぞ、少年。彼女を救ってやってくれ」
「隊長」
「もう私は隊長ではないよ」
「ですが…」
「お前が今日から隊長だ、前からそう伝えてあっただろう。私は…」
「これから一般人です、よね」
「ああ、戻ってくるかもわからん。
もともと産まれなかった私たちだ。人であらざれと作られた私たちだが、どうやら愛されてしまったようだ。人であれと言われてしまったよ」
「あの方ですか」
「ああ、あの人は私たちを孫とでも思ってるんじゃないか?」
「それにしては多すぎでは」
「たしかにな、ハハハハハ」
「お気をつけて」
「ああ、後のことは任せた。皆を頼む」
空港にたどりつくと荷物の点検をあらかじめ済ませて職員に預ける。向かう先のラウンジで時間を潰すようだ、コーヒーを片手に椅子に座って物思いに耽っていた。
(全てが変わったのは
『12:37発、日本、新羽田空港行きに搭乗されるお客様は第12番搭乗口へお越しください。繰り返しますーーー』
どうやら搭乗する飛行機に乗れるようになったようだ。冷めてしまったコーヒーを飲み干して、カップをゴミ箱に捨てるとラウンジから退出し搭乗ゲートを通過して機体に乗り込む。
「さらば、忌まわしくも愛おしき祖国よ」
そう呟いてほとんど人が乗っていない座席から指定の席に腰を下ろす。備え付けの雑誌を手に取り、ここにはいないあいつへと思いを馳せる。
(IS学園で待っているといい。再会の時は近いぞ、震えて待っているがいい、
我が戦友よ!)
(しかしなぜクラリッサのやつはこんな風に考えるのが日本のツウと言ったのだろうか、日本の文化はよくわからん。というかツウとはなんなんだ?)