「ただいま。」
そう言っていつものように家に入る。
しかし、いつもなら返って来るはずの返事がない。
「?」
いぶかしみながら居間の戸に手をかける。
瞬間、大きな違和感を感じる。
肌がひりつくような感触。
もしくは【死の匂い】と表現すればいいだろうか。
本能が告げている
『これ以上は危険だ』と。
本能が叫んでいる
『今すぐ逃げろ』と。
しかし、俺は、その戸を、開けてしまった。
その先にはまさしく地獄と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。
床や壁、どこを見回しても赤、赤、赤。
居間は真紅に染まっていた。
「えっ・・・」
一歩踏み出す。
すると踏み出した足の靴下に生温かい何かが染み込んでいく感触。
「あ・・・」
居間にあったのは赤い液体を流し倒れ伏す家族、又は家族だったモノ。
「あぁっ・・・」
つまり・・・今・・・自分が・・・立っているのは・・・家族が流した・・・血溜まりの上!
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なぜ(嫌だ)、どうして(こんな理不尽)、こんなことに!?(認めない!!)
信じられない目の前の光景にパニックに陥る。
と、その時
「なんだ、まだいたのか。」
いきなり後ろから声をかけられる。
振り向くと1人の男がいた。
1人の男?、違う、あれは人なんかじゃない。アイツは人の形をした何かだ。
そう本能的に理解した。
もう一度本能が告げる。
『死ぬ』と。
そしてヤツは言った
「まあよい、目的は果たした。これ以上殺すのは面倒よ。喜べ、見逃してやるぞ。」
と。
そうか。つまり、コイツが、コイツが俺の家族をっ!!
そう理解した瞬間、意識が赤く染まる。
本能的に感じる恐怖を怒りが凌駕する。
そうして俺は立ち上がりヤツに殴りかかろうとした。
しかし、拳が届く前に気が付けば俺の体は吹き飛ばされ、勢いよく戸棚に叩き付けられていた。
「かはっ」
体中に激痛が走る。
余りの痛みに力が入らなくなる。
そして何より今の一瞬起きたことが理解出来なかった。
「他愛ない。余が見逃すと言っているのだ。おとなしくしておれば良かったものを。」
そう言ってヤツは俺に背を向けた。
一瞬ヤツが俺に向けた視線、それはまさしく虫を見るような視線だった。
ヤツにとっては今のは邪魔な虫を叩き落としたに過ぎないらしい。ふざけるな。お前はそんな目を俺の家族に向けたのか。ふざけるな。お前にとっては俺の家族を殺したのは邪魔な虫を殺すのと変わらないというのか。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!
絶対に許せない。
お前は、俺が、この手で、殺す!!
体を無理矢理動かし立ち上がる。
戸棚から落ちて来たのだろう鋏を手に取り再びヤツを殺そうとする。
鋏とはいえ強く心臓に突き立てれば殺すことが出来るはず。
しかしその目論見は俺の接近に気付いたヤツにまた吹き飛ばされて潰えてしまった。
それでも俺はヤツに一矢報いようと吹き飛ばされつつも鋏を投げた。
今度は壁に激しく体を叩き付けられる。
先ほどよりも激しい激痛が走った。
骨が何本か折れているかもしれない。
ヤツに目を向けるとヤツの顔に一筋の傷が付いていた。
さっきの鋏は顔の切り傷一つに留まってしまったらしい。
「くそっ!」
限界の体を無理矢理動かし再び立ち上がる。
あまりの痛みに体中が悲鳴をあげる。
意識が飛びそうになる。
それでも俺は一歩踏み出す。
ヤツを殺す。ただそれだけのために。
そしてヤツはというと信じられないといった風に傷を触り、急に笑い出した。
「ははははははは。この余が不完全な状態であるとはいえ人の子に傷を付けられるとは思わなかったぞ。しかも鋏で、とはな。」
さらに嬉々としてヤツは言う。
「気に入ったぞ少年。その殺意、その意志、このまま殺すには惜しいやつだ!」
そしてヤツは何処からか取り出した『ソレ』を差し出して言った。
「余は財を守護し勝利を与える者。選べ、人の子よ。ここで死ぬか、生きて余と殺し会うかを。」
その時気付いた。俺を見るヤツの目は虫を見るような目ではなく1人の人を見る目になっていることに。一体どういうことなのか。
そんな俺の疑問を知ってか知らずか、さらにヤツは言う。
「今のお前では余は打てぬ。余を打ちたくば神を殺し人であることを辞め王となれ。その時こそ余と対峙するにふさわしき者となる、余を殺すに足る者となる。少年よ、さあ選べ!!」
神を殺す?人を辞める?
いいだろうやってやろうじゃないか。
「それでお前を殺せるのならなぁ!!」
そうして俺は『ソレ』を手に取った―――――
忘れるな。己は地獄から生まれたことを。
忘れるな。喪われた者の嘆きを。
忘れるな。奪われた者の憎しみを。
忘れるな、忘れるな、忘れるな―――――
「嫌な夢見た。」
そう言って少年はベッドから降りる。
そしていつものように身支度を整え階段を降りる。
居間の戸を開けようとした時夢の光景がフラッシュバックして開けるのを躊躇ってしまう。
ガチャリ
触れていないはずなのにドアノブが回り、戸が開いた。
戸の先にある部屋にいたのは3人の少女。
「戸の前で立ち止まってどうしたんですか?」
その内の1人、戸を開けた少女が心配そうに聞いてくる。
「きっとまだ寝ぼけているんでしょ。」
さらにその内の1人が言う。
「ほら、早く早く。ご飯食べよ。」
最後の1人も言う。
3人の少女達は笑顔で自分を迎えてくれる。
そんな少女達に少年は
「おはようみんな。」
笑顔で、いつものあいさつで答える。
「ええ、おはよう。」
「おはよ。」
「おはようございます。」
少女達もまたいつものあいさつを返してくれる。
こんな何気ないことが少年にはたまらなく嬉しかった。
シルヴィア、夕雨、小雪。大切な仲間であり家族である少女達。
「・・・もう喪わない。奪わせない。」
喪われたものは取り戻せない、けれども今あるものを喪わないよう守ることはできる。
「難しい顔してどうしたの?」
「何でもないよ、夕雨。」
「難しい顔というより不景気な顔の方が正しいと思うわ。大体この人が変な顔してるのはいつものことよ。」
「お前は本当に失礼だなシルヴィア。そういえば今日の料理当番は小雪だったっけ。美味しそうだね。」
「そうですか?そう言っていただけると頑張って作ったかいがあります。さあ召し上がれ。」
「それじゃあ、「「「いただきます。」」」」
側にいてくれる大切な、愛する少女達を守る。この幸せを守り抜く。例え何があっても。
カンピオーネとなった少年、天月刻夜は強くそう思うのだった。
こんばんは、鉄鬼です。
このたびはご閲覧ありがとうございます。
小説の投稿どころか、小説を書くことすら初めてになります。
まだまだ至らぬところが多々あるでしょうが感想などでダメな点など色々教えていてだければ幸いです。
今回は張り切りすぎて長くなってしまいました。申し訳ありません。
不定期更新になりますがご容赦ください(出来るだけ間をあけないようにはしたいと思います)。
右も左も分からぬ未熟ものですがよろしくお願いします。