「う…う~ん。」
目を覚ますと見知らぬ白い天井があり、同じく見知らぬ白いベッドに寝ていた。
「どこだ、ここ。」
体を起こそうとすると体のあちこちが悲鳴を上げる。
「痛っ。」
見ると体にはあちこち包帯に巻かれていた。
「何だよ…これ。」
なんとか体を起こすと目に入ったのは天井やベッドと同じく白い壁に床。
そこは文字通り白い部屋だった。
このような部屋がある場所といえば一ヶ所しか知らない。
「病院かここ?」
ふと回りを見回すと枕元にナースコールできるボタンがあった。
間違いない、やはりここは病院のようだ。
しかし自分がなぜここにいるのか、こんな大怪我をしているのか思い出せない。
思い出そうとするとノイズのようなものが走り頭痛がする。
とにかくここの人に話を聞こう。
そう思ってボタンを押そうとした時、自分が『何か』を握りしめたままであることに気が付いた。
「?」
小さな何かが手の中にある。
嫌な予感がした。
恐る恐る手を開くとそこには『それ』があった。
「あっ…」
一気にあの地獄の光景がフラッシュバックする。
赤、赤、赤。壁や家具を染める紅。床を覆うほど大量の紅の海。
そこに沈む父、母、二人の弟、祖母だったモノ。
つまりは家族であったモノたち。
そして、家族を殺した『アイツ』。
「そうだ、そうだった。思い出した。」
思い出せてしまった…
再び強い怒りと憎しみが目を覚ます。
強い負の感情が体にみなぎる。
痛みをこらえ立ち上がる。
部屋からから出るため一歩踏み出したその時、
「おや、目を覚ましたみたいだね。」
入り口の扉が開いた。
入って来たのは刻夜が良く知る1人の男性。
「透おじさん!?」
「やあ刻夜君、こんにちは。」
彼は
近くに住む幼なじみである矢継夕雨の父親だ。
ちなみにおじさんと読んでいるが親戚ではない。
しかしなぜ透おじさんがここにいるのか。
今は昼で普通の人なら仕事をいている時間である。
「まあまあ、今から説明するから待ちなさい。大体君は大怪我してるんだから無理しない。」
そう言っておじさんは軽く俺の肩を押した。
軽く押されただけなのに体はふらつきベッドに再び座り込んでしまった。
「ほら、ろくに力も入らないんだ、大人しく横になりなさい。そんな体じゃあ何も出来ないよ。」
有無を言わさぬ気迫だ。
俺は渋々再びベッドに横になった。
「よろしい。さて、それじゃあ一つずつ説明していこう。でもこれから話すことは本来、君のような一般人が知ることじゃない。正直、普通の人からすると物語の中にしか出て来ないようなトンデモ話だ。でもそれが現実、ということを念頭において聞いて欲しい。」
「…分かりました。」
「まず、天月さんの家で生き残っているのは刻夜君だけだ。」
分かってはいたが改めて言われるとショックだ。
「それで君の家族を殺したのは信じられないと思うけど、神様なんだ。」
驚いたが同時にああやっぱり、という思いがあった。
いや、正しくはその思いの方が大きかった。
「以外と驚かないんだね。」
「まあなんとなく『アイツ』を最初に見た時に分かってたんで、人間じゃないってこと。」
そう、あんな空気を人間が纏えるはずがない。
「なるほど、それでどんなやつだったか教えてくれないかな?」
「古風な服を着て偉そうに喋る男でした。あと財を守護し勝利を与えるとか言ってました。」
「ふむふむ、それで他には?」
ううむ、なんだか尋問を受けている気分だ。
「すみません、分かりませんでした。」
「分からない?」
「はい、そのようにしか覚えてません。いや、正しくはそのようにしか認識できませんでした。」
「なるほど、そういった力を使うかもしれないか。」
彼は今の話をメモし出した。
俺は書き終わるのを待って気になっている質問をした。
「おじさんは一体何者なんですか?」
「うん?、ああ、ごめんごめん。話すって言ったのにね。」
彼はすまなそうに謝った。
しかし、なぜ彼は神様が実在すると、あまさえ犯人だと言い切れたのか。
さらには『一般人が知ることはない話』を知っているのか。
「私はね、正史編纂委員会っていう魔術や呪術を使う人達を束ねる組織で働いているんだ。」
魔術?呪術?一体何の冗談だ、と思った。
しかし、そう思いつつも『ヤツ』を知っているせいか自然に受け入れられた。
「それでね――」
その後俺はこの国を支える術師達のことや外国の魔術師達などを教えてもらった。
「夕雨が媛巫女!?」
「正しくはだった、ね。二年前に事故でその力を失ってね。ほら、昔酷く塞ぎ込んでただろう。それで君が立ち直らせてくれた後正式に辞めさせてもらってね、今はもう普通の学生だよ。」
さすがにこの話には驚いた。
「さて、次は本題である神様について話をしよう。彼らは自身の神話を元とし、様々な自然界の構成要素を得ることで顕現すると言われている。その内で、顕現した神様の中でも人の紡いだ神話に背いて自侭に流離い、その先々で人々に災いをもたらす神々を私達は『まつろわぬ神』と呼んでる。」
「まつろわぬ神……」
つまり家族を殺した『アイツ』はまつろわぬ神かそれに近いやつだっていうことなんだろう。
『アイツ』の手掛かりを1つ掴むことができた。
「ちなみにまつろわぬ神が来たらどうするんですか?」
「やり過ごす。危険な時は人を避難させたりしてね。で、弱い神格は封印したりする。天災そのものである神様を倒すなんてほぼ不可能だよ。」
なんてことだ。つまり『アイツ』にかなわないということか。
何か、何か方法はっ!
必死で考えた。
そして気が付いた、彼が言った言葉の隠れた意味に。
「ほぼってことは倒した人がいるんですよね?」
彼はしまった、といった表情を見せた。
「…ああ、数人いるよ。外国にね。」
「一体どんな人達なんですか?」
そうだ、諦められるものか。
『アイツ』を殺さなきゃいけないんだ。
「彼らは人の身でありながらまつろわぬ神を殺した人達。いや、『人』だった者達だよ。」
「『人』だった?」
それはまるで『アイツ』の言っていたことと同じ……
「そう、彼らはまつろわぬ神を殺し、人を越えた存在。その身に打ち倒した神の力、すなわち権能を宿し、その力で神と戦う存在。文字通り神殺し。まさしく全生物の頂点。私達は彼らを『カンピオーネ』と呼んでいる。」
「カンピオーネ…。」
その言葉をこの身に刻み込むように口にする。
カンピオーネ、その言葉が全てだった。
目指すべきもの。
命を懸けて成すべきこと。
今、答えは出た。
「いいかい刻夜君、カンピオーネになるのは奇跡みたいなものだ。君があの神様を憎んでいるのは分かる。でも絶対に辞めてくれ。」
おじさんの表情には必死さが浮かんでいた。
ああ、あの人は本気で自分の身を案じてくれている。
嬉しかった。
でも……
「すみません。俺はカンピオーネになって『アイツ』を殺さなきゃいけないんです。それが俺の全てなんです。」
「そんな、君は――」
彼の言葉を遮って刻夜はさらに言う。
「『アイツ』は憎いです。心底殺したいと思います。でもそれだけじゃないんです。」
一呼吸置き『アイツ』との約束を口にする。
「『アイツ』は俺に言いました。ここで殺されるか、それとも生きて殺しに来るか。と。俺は『アイツ』に殺しに行くと言いました。約束しました。だから奇跡でも何でもやらないといけないんです。」
「つっ!?」
「俺がこのままなら『アイツ』はまた来るでしょう。だから、だから俺はカンピオーネにならなきゃいけないんです。」
「そんな…そんなのはっ!」
彼は本気で悔しそうに、哀しそうに、苦しそうに目を閉じ唇を噛んだ。
「俺もむざむざ死ぬつもりはありません。『アイツ』は生死を選ばせる時『これ』を差し出してきました。多分何かに使えるはずです。教えてください。これは何ですか?」
『それ』を見せる。
「これは…!?」
おじさんは面食らったように『それ』を見つめた。
やはり普通の物ではないようだ。そして彼は恐る恐る手を伸ばし、『それ』に触れたその時
「痛いっ」
黒い何かが一瞬見え弾かれたように手を引っ込めた。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だよ。」
触れた部分をさすりながら答えた。
「今のは一体…」
彼と違い『それ』に触れていても自分はなんともない。
これはどういうことなのか。
「これは普通は君以外触れないみたいだ。多分神様が君のために渡した物だからだろうね。しかし一般人にこんな物を持たせるわけには……」
やはりとんでもない物らしい。
「おじさん、『これ』は何ですか?」
「これは神具といって神世の力を一部だが使える道具だよ。でも普通の人間が扱えるシロモノじゃない。」
「神具…」
『アイツ』の口振りからすると俺に勝利を与えてくれるもののようだ。
しかしおじさんの話からすると常人が扱える物ではないらしい。
「う~ん。これを一般人である彼に持たせるわけにはいかない。でもこちらでこれを封じれば将来、刻夜君が殺される。『あの神具』は彼には特に何の危害も与えないみたいだけど……。せめて彼に呪術が使えれば…」
ぶつぶつ言い出した彼にどう言葉をかけるべきか思案していると急に、
「いや待て、そうだ!」
「わっ!?」
大声を出したので驚いた。
「刻夜君。君、もしかしたら呪術が使えるかもしれない!」
この一言が刻夜を本格的に神や魔術師がいる世界に踏み込ませることになるのだった
――――
どうも2話がうまくいかず書き直しを重ねている内にこんなに空いてしまいました。
すみません。
本編→過去編→本編 といった感じで進めたいと思います。
過去編はカンピオーネになるまで書きたいと思っています。
数日中に両方の2話目を同時更新する予定です。
相変わらずの説明回ですがおつきあいください。
14巻が出るまでには戦闘まで終わらせたいと思います。