「俺が呪術を使えるかもしれないってどういうことですか。」
俺はたまらなくなって透おじさんに聞き返した。
さっきの話からすると魔術師や呪術師は血筋が関係しているそうだ。
しかし俺の家族は一般人のはずだ。
俺の親が術師で俺が呪術を使えるなら放っておくはずがない。色々教えるはずだ。
しかし、俺の家族から全くそんな話を聞いたことはない。普通の人達と同じように空想上のものだと思っているようだった。
「俺の家族は一般人のはずですが?」
「うん、君の家族は一般人だ。でも呪術師の家系の血筋は引いている。呪術師だったのは君の祖父、『天月玄夜』さんだ。」
「なっ!?」
今日は驚かされてばっかりだ。
祖父が呪術師だったなんて…。
事実は小説より奇なり。ってやつか。
「玄夜さんは最強とまで言われた術師でね。神獣を倒したり。まつろわぬ神を追い返したり、封じたりしたんだ。」
あんなのを封印とか撃退って…一体何者だよ!?
「さらに困ってる人を助けたりしていたよ。かくいう私も20年前に色々あって妻と二人行く所もなく死にそうになっている所を助けられてね、そのおかげで今は生きていられる。あの人は文字通り正義の味方みたいな人だったよ。」
…空いた口がふさがらないとはきっと今の俺みたいな状況を指すんだろうな。
「玄夜さんは一般人である君の祖母と結婚して君のお父さんが生まれた。けれど彼は生まれた時に呪術を使えないと分かり一般人として育てられたらしい。そして彼から生まれた君は本来なら一般人としてすごすはずだった所、『あの神様』と出会い祖父譲りの眠ってた才が目覚めた。」
つまり祖父は最強呪術師で、おじさんとおばさんは祖父に助けられて、父、母、祖母は一般人で、俺は祖父の血が目覚めた。 ってとこか。
正直、頭が痛い。あまりにも無茶苦茶すぎる。自分の世界が崩れていくような感覚だ。
「ああ、すまない。今まで普通に生きてきたんだ混乱するのも無理はない。少し心の整理の時間がいるね。それじゃあ最後に2つ。その神具は人に極力見せない、絶対触らせない。神具を一般人に持たせるわけにはいかない。だから刻夜君には呪術の才もあるし、私の下で修業してもらうことになる。覚悟しておいてくれ。」
「は…はい。」
さらには呪術師に弟子入りときた。全く、1日で色々起こり…起こり…。
「すみません、今日は何日ですか?」
「ああ、すまない。その事を言うのを失念していた。今日は7月○○日。君は10日間ずっと眠っていたんだ。」
10日間だって!?そんなに眠っていたのか俺は…。
「その間、夕雨が看病して…しまった!夕雨に連絡し忘れていた!すまない刻夜君、私は少し夕雨に電話してくるよ。」
そう言うとおじさんは慌てて外へ出ていった。
「ふう…。」ため息を1つつき、頭の中で起きたことを整理する。
神様に家族を殺される→矢継家に助けられ病院へ搬送される→10日間眠り続ける→事実を色々知らされる→透おじさんに弟子入りすることになる
全く、トンデモ事件のオンパレードだ。
一周回ってなんだか笑えそうだ。
「すまない刻夜君、もうすぐ夕雨が来るそうだ。」
おい、ちょっと待て。
「学校はいいんですか?」
聞いてみたらおじさんは目を反らして
「早退して来るそうだ。」
と言った。
おいおい…嬉しいがなんか複雑だ。ってか止めろよおじさん。
「もう落ち着いたんだね。」
夕雨のことでため息をついているとそんなことを言われた。
「まあ頭の中で整理できたんで。それでおじさん、さっきの弟子入りの話ですがこちらからお願いしたい位です。すみません、これからよろしくお願いします。」
「刻夜君、君は…。」
彼は一瞬面食らった表情をした後、険しい顔をして黙り込んでしまった。
あれ、なんか変なこと言ったかな?
「おじさん?」
「あ、ああ、すまない。うん、じゃあ修業をする時はまた改めて連絡するよ。」
「分かりました。」
「それでひとまずその神具には封印の札を貼っておくよ。間違って使って体が崩壊なんてことになられたら大変だからね。」
「…分かりました。」
おじさんが帰ったら調べてたり使ったりしてみる気だったので体が崩壊と聞いて使う前に言われて良かったと本気で安堵した。
これの扱いには気を付けよう。
うん、恐ろしすぎる。
「これは修業で使う時まで貼っておくからね。それじゃあ夕雨が来るから私はそろそろ帰るよ。」
「えっ、帰るんですか?」
自分の娘が来るから帰るってのはおかしな気が…。
「二人で話すこともあるだろうからね。」
いたずらっぽく笑って、
「それじゃあお大事に。」
おじさんは帰っていった。
去り際のおじさんの顔がまた険しくなっていた気がした。
「刻夜君、君は…。」
あの時、おじさんが言わずに黙ってしまったあの言葉。
この続きを後にある人からぶつけられることになる。重く、強く、苛烈に。
「刻、大丈夫?」
20分ほどして夕雨が病室を訪ねて来た。
「ああ、大丈夫だよ。」
「ホントに?」
「うん、本当に。あとはもうケガが少し痛むだけ。これももう暫くすれば治るよ。」
「良かったぁ。」
安心したのか床にへたりこんでしまった。
「良かった。血だらけで運ばれてく刻を見た時頭が真っ白になった。病院に運ばれても何日も全然目を覚まさないし、本当に、本当に心配したんだよ。」
「夕雨…。」
「その内ふっと死んじゃうんじゃないか、生きててもこのままもう二度と目を覚まさないじゃないかって怖かった、本当に怖かったんだよ。」
俺のためとはいえ学校を早退したことを叱ろうと思っていたが、心の底から心配してくれた彼女を見て、涙を浮かべて俺の無事を喜んでくれた彼女を見て、俺は自分の愚かさを反省した。
どうりでおじさんが止めなかったわけだ。
こんなことを考えているがここまで心配してくれる人がいることは素直に嬉しかった。
ありがたかった。
「心配かけてごめんな。夕雨、ありがとう。」
心からの感謝を込めて、精一杯の笑顔でこの言葉を言った。
この言葉で緊張の糸が切れたのか、床にへたりこんだまま、ベッドに顔を埋めて泣き出した。
俺は黙って彼女が泣き止むまでの暫くの間、頭を撫で続けた。
この時、俺の中で小さな何があるべき場所に戻った気がした。
それから一ヶ月後、俺は退院して、ちゃんと家族の葬式をして、色々なことを片付けた。
家族は殺されたので殺人事件として本当なら警察が来るのだろうが、おじさんやおばさん、その仲間の方々の根回しで俺の家族は事故死扱いになり、俺は別な場所で交通事故にあったことになった。
たしかに殺人事件として調べても犯人が神様なので捕まる訳がない。
さらにおじさん曰く、このままでは俺が犯人として疑われてもおかしくないから。とのこと。
なるほど、その通りだ。
もう一度言うが犯人は神様なのだ、痕跡など意味はない。
こうしてゴタゴタを一通り済ませ、俺は数日後からおじさんの下で修業することになった。
なんとか過去編二話を今日中に更新できました。
この調子でまた数日中に両三話を更新します。
本編三話ではやっと話が動きます。
長らくお待たせしてすみません。