黄昏の魔王   作:鉄鬼

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二話同時更新です。



第三話 望まぬ出会い~老魔王来襲編~

ある高層ホテルのスイートルームでその謁見は行われていた。

その部屋には一人の少女と一人の老人がいた。

少女の名は『リリアナ・クラニチャール』。

ポニーテールにまとめた銀髪と、妖精を思わせる美貌が特徴的である。

しかし彼女は若くして青銅黒十字の大騎士の称号を持つ魔術師なのだ。

そしてもう一人は知的な表情、真っ直ぐな背、仕立ての良いスーツとまさに非の打ち所のない老紳士に見える。

しかし彼こそが現在最古老の魔王にして、カンピオーネが人々に恐れられる原因となる数々の事件を起こした張本人。

まさしく魔王と呼ぶにふさわしい人物。

彼の名は『サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン』、通称『ヴォバン公爵』なのだ。

「クラニチャールよ、君は四年前に集めた巫女の一人だったな。あの時優れた巫力を見せた二人の少女達の素性を覚えているかな?私の記憶では確か東洋人のはずだが。」

リリアナは一瞬答えるべきか迷ったものの、この王が他の人物から聞き出す時に起こるであろう更なる被害を想定し、決心して答えた。

「一人の名はマリヤ、日本人でそれも東京出身だと申しておりました。もう一人は――――」

この謁見によりこの人物が東京へ現れ、騒動を起こすことになる。

 

 

 

場所は変わり城楠学院高等部、そこで『それ』は起こっていた。

「奴があっちへ行ったぞ、捕らえろ!!」

飛び交う怒号。

「逃がすな、奴を追え!!」

殺気を撒き散らす数十人の追跡者達。

そして、

「一体何なんだよ~~~!!」

校舎を疾走して逃げる俺。

追跡者達は皆一様に一昔前のアメリカの危ない秘密結社が集会で着てそうな三角黒頭巾に黒装束を身に纏っていた。

「刻夜を撃ち取れっ!」

「「「おーーーっ!!」」」

彼らは何処へ逃げても恐るべき執念で追いかけて来るのだ。

あまりの大人数なので太刀打ちも難しい。

玄関には見張りが十人ほどいて逃げるのも困難と絶望的状況である。

正直、この状況は他の普通の学生さんには迷惑だと思う。でも捕まる訳にはいかないのだ。

みんな、ごめんよ!

階段を降りようとしたら陰から黒装束が一人襲いかかってきた。

「積年の怨みぃぃっ!」

「危なっ!」

すんでのところでかわし、そいつに足払いをくり出す。

「ぐぁっ!」

足払いが決まり相手は倒れた。

俺はそいつを放置し、階段の手すりから飛び降りた。

「チクショウ、逃がすな!」

「大丈夫か!?山田っ!」

「クソッ、山田までっ!」

「くっ、山田の犠牲を無駄にするな!」

連中の怒号を尻目に俺はさらに逃走する。

「あいつらしつけーぞ!」

なんと今俺を追って来る連中は同じ城楠の高等部の二年男子のほぼ半数なのだ。

「クソッ、どうしてこうなった。」

 

 

事の始まりは数日前の朝。

「ねえ刻夜、前に言ったサプライズの話を覚えているかしら?」

「ああ、覚えてるよ。」

シルヴィアのことだどうせろくでもないことに決まっている。

「覚えていて良かったわ。楽しみにしていてちょうだい。」

帰って来たら何があるか分からない。気を付けなくちゃいけないな。

「ああ、警戒して待ってるよ。夕雨、まだかー?」

「待って、待って、今行くよ。」バタバタと駆けて来る夕雨、なんと今の彼女の格好は制服だ。またかくいう俺も制服なのだが。

これから俺達は学校へ行くのだ。「それじゃあ行ってくる。」

「行ってきまーす。」

「いってらっしゃい。」

「いってらっしゃいませ。」

二人に見送られながら俺達は家を出た。

いつも二人で通り喋りながら登校する。

昔は少し恥ずかしかったが今はもう慣れてしまった。

そうしているうちに俺達のクラスである二年四組に着いた。

(なんと今年、俺達は偶然一緒のクラスになったのだ。)

いつも通りクラスに入り席に向かう。

既に席替えしているため俺は窓側の一番後ろ、夕雨は変わってくれた人がいて俺の左隣だ。

因みに学校では二人共、昼食時以外は基本的に友達といる。

「よう、朝から熱々だな。」

いつの間にか前に立っていた男子生徒に声をかけられた。

「うっせえよ、英治。」

彼は雨宮英治。もう一人の幼なじみだ。

小さい頃は基本俺と英治の二人か、夕雨を加えた三人で遊んだものだ。

まあたまに夕雨の友人二人が加わり五人で遊んだりもしたが。

「でも気を付けろよ~。あんまりイチャイチャしてると面倒事になるぞ~。」

「???」

「まあ分かんないならいいや~そん時は自業自得な。そういえば聞いたか?転入生が来るらしいぞ。」

「へー。そっかぁ。」

この時はまだあんな事態になるなど夢にも思わなかった。

後々、英治が転校生ではなく転入生と言ったことの意味に気付くべきだった。

ちゃんと話を聞いて予測して、手をうっておくべきだったと後悔することになる。

 

 

「イタリアから転校して来ました、シルヴィア・ベルモンドです。よろしくお願いします。」

なんと転入生とはシルヴィアのことだった。

「シルヴィア!?」

俺は驚いて大声を出して立ち上がってしまい、注目を集めることになった。

「刻夜君、どうしました?」

「刻、落ち着いて。」

先生に不審な目で見られ、夕雨に横からこっそり諭され俺は慌てて腰をおろした。

「いえ、何でもありません。」

ヤバい、凄い恥ずかしい。

穴があったら入りたいってこんな気持ちなんだな。

なるほど、サプライズってこのことかよ。

「えっとベルモンドさんの席は……」

先生がシルヴィアの席を決めようとした時、

「すみません先生。私、まだ日本に来たばかりで不安なんです。ちょうど知り合いの刻夜がいるので近くにしていただけませんか?」

あろうことかとんでもないことを言い出した。

不安だと?ウソつけ。おもいっきり日本生活を満喫してるくせに。

「分かりました。それじゃあ刻夜の前の飯田さん、変わってあげてください。」

何っ!?それでいいのか先生?

よく見ると先生の目の光が鈍くなっている。

あいつ先生に魔術かけやがった!?

シルヴィアは悠々と俺の前の席に座り、

「どう、驚いたでしょう。あなたの呆けた顔は中々見物だったわよ。」

などと言って来た。

「そういえば朝、警戒して待ってるなどと言っていた気がするのだけれども私の気のせいだったかしら。」

さらに嬉々とした表情で追い討ちをかけて来た。

「ぐっ……」

こちらとしては事実なので何も言い返せない。

俺としたことがしてやられた。

「サプライズ大成功だねシルヴィア。」

「ええそうね。協力してくれてありがとう、夕雨。」

「どういたしまして。」

どうやら夕雨はこの事を知っていて、シルヴィアに協力していたらしい。

多分この調子だと小雪も協力しているのだろう。

「でもどうやって転入して来たんだ?」

このままではアウェイだったのでなんとか話を反らす。

反らすために言ったが実際気になっていたのだ。

シルヴィアは魔術業界では表向きには行方不明ということになっている。

そんな彼女が名前を隠せない場所に出てきたのだから気になるのは当然のことだ。

「表向きには草薙護堂と日本の魔術結社の調査、ということになっているわ。」

「ああ、なるほどな。」

つまりは魔術結社に復帰して、草薙護堂と日本の魔術結社を調べるという名目の下転入してきたらしい。

多分シルヴィアのこの行動と上への交渉はこの前の表舞台へ出ることになるという俺の言葉が鍵になっているはずだ。

こうしてシルヴィアも一緒に学校に来られることになったのだった。

 

 

それから俺は学院最高級の女子四人の内の半数といるため他の男子からの視線に殺気が籠るようになった。

「なんであいつなんだよ。」

「俺に代われよチクショウ。」

「矢継さんだけならまだしもベルモンドさんまで手を出していたとはな。死ね。」

「クソリア充爆発しろ。」

「今こそ封じられた俺の拳を解放してあいつの息の根を…」

そんな怨念の籠った声が聞こえる。

「ほら、だから言ったじゃ~ん。気を付けなよ~ってさ。」

まったくをもって英治の言う通りだった。

「ホントだよ……。」

そう言う他なかった。

「俺はほとぼり冷めるまで離れるから~。刻夜の自業自得に巻き込まれてらんないしね~。まあ頑張って~。」

英治の協力は期待できなさそうだ。

 

 

そして数日後の放課後のこと。

「刻夜、ちょっといいか?」

荷物をまとめ帰ろうとしていた俺は友人の笹山に声をかけられた。

「ああ、なんだ?」

この数日の様子からするとろくなことにならない気がしたが上手く話す機会を期待してついて行った。

ついに行く間、クラスの男子の視線が集中する。

なんだか失敗した気がした。

黒板の前には友人が数人いてそこに連れていかれて、

「刻夜、我々二年男子○○名はお前を異端審問会にかけることにした。」

と言われた。

「異端審問会?なんだよそれ。」「この学院にはびこる悪を裁くための議会だ。」

「おい、何言って…」

よく見ると友人達の目は血走っていた。

いや彼らだけではない、他のクラスメイトの男子達も目は血走り殺気を放っていた。

圧力に負けじわじわと壁に追いやられる。

すると彼らはどこからか取り出した三角黒頭巾を被り、さらに同じく黒い装束を羽織った。

「青木、罪状を読み上げろ。」

「はっ。」

笹山の言葉を聞き青木と呼ばれたクラスメートが歩いて来てポケットからルーズリーフを取り出し、そこに書いてあるらしい文章を高々と読み上げ始めた。

「天月被告は幼なじみである矢継さん、イタリアからの転入生であるベルモンドさんを囲いリア充生活を満喫しているもよう。朝から一緒に登校、昼休みは三人で仲良く昼食、放課後は一緒に下校。さらに諜報員Aが後を追跡した結果明らかになったのは彼は二人と同居しているとのこと。さらに家にはもう一人、黒髪の美少女もいたそうです。」

いつの間に!?

「なんと!?」

「そんなっ!?」

「なぜだ!?なぜあいつばかりに!!」

「くっ、この世には神も仏もいないのか!?」

周りのクラスの男子が悲痛な叫びを上げる。

再び笹山は口を開きこちらも高々と、だがとんでもないことを言い出した。

「諸君、落ち着いて聞いて欲しい。我々二年男子はこの男に長年苦汁を舐めさせられて来た。しかしもう限界である。今こそ我々は『恋愛共産主義』を掲げ立ち上がろうではないか!」

「なっ!?」

何言いだしてんだコイツ!?

しかし止まらず笹山は続ける。

「今こそ奴に正義の鉄槌を!立てよ男子!!」

「「「ウオォォォォーーー!」」」

クラスの男子は一斉に拳を掲げ、叫び、立ち上がる。

おいおい、さすがにマズイぞこの状況。

三度笹山が口を開く。

「判決、死刑。」

「おかしくないかぁ!?」

クラスの男子が一斉に飛びかかって来たのでクラスからなんとか脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

それで今に至る。

まあ俺があいつらだったら同じく妬むだろうから気持ちは少しは分かる。でもさすがに今回の暴動はやり過ぎだ。

あの後、なんとか連中を撒けた。

だがあいつらは直ぐに見つけ出すだろう。

俺はひとまずトイレに隠れることにした。

しかしトイレに駆け込もうとした時誰かとぶつかった。

「痛っ。」

「わっ。」

相手と俺、お互いに尻餅をつく。

「すみません。大丈夫ですか?」

慌てて立ち上がり相手を見ると、

「いいえ、大丈夫です。こちらこそすみません。」

「!?」

その相手は草薙護堂であった。

「いたぞ、刻夜だ!」

廊下の端に連中の姿が見えた。

「ヤバッ。」

見つかった。

こうなったら鞄を回収して玄関を強行突破。

よしOK、完璧な計画だ。

でも怪我人出さないようには気を付けないとな。

「本当にごめんな、草薙君。」

俺は再び駆け出した。

「なんであの先輩俺の名前知ってるんだ?」

そんな呟きが聞こえてきた。

失敗した。

余計なこと言っちまった。

この後俺はなんとかこの戦場を(怪我人を出さず)脱出した。

 

ちなみにこの事件が一部の一年生に大きな影響を及ぼしたのだとかそうでないのだとか。

 

 

「疲れた。」

なんとか家に帰還した俺は帰って早々居間の畳の上に撃沈した。

「あら、鬼ごっこは楽しかったかしら。」

先に帰っていたシルヴィアに声をかけられた。

 

(ちなみに夕雨は部活の用事があるそうでまだ帰って来ていない。去年入っていた舞踊部の顧問に後輩の指導を頼まれたのだそうだ。夕雨は媛巫女の仕事の関係で神楽舞を踊る事ができ、その腕を見込まれ入ったが、俺と共に戦うことを決意してからは退部している。しかしたまに後輩の指導の手伝いをしているのだ。)

 

「ああ、楽しかったよ。死にそうなほど、な。」

誰かさんのサプライズに気付いていればこんなことにならず上手く手を打てたのだと思うと悔しくて仕方がない。

「まあ私達は全員美人なのだから他の男に恨まれるのは仕方がないわ。」

「自分で言うか。まあ美人なのは認めるけどな。」

正直彼女達ほどの美人はそうそういないだろう。

しかも一人は傾国の…いや、彼女はもう違う。

あれとは別人なんだ。

ふと顔を上げるとシルヴィアは真っ赤になっていた。

「あなた、急にそんなことを臆面もなく言うのだもの。本当にずるいわ。」

顔を真っ赤にして照れるシルヴィア。

うんやっぱりかわいい。

シルヴィアはからかうのは好きだが、からかわれたり褒められたりするのに弱いのだ。

そういえばどこぞの漫画に出て来る新撰組のドS王子はSは諸刃の剣とか言ってたな。

「こ、小雪。ご飯はまだかしら?」

わ~照れ隠しだ。

こういう所は本当にかわいいな~。

「もう直ぐできます。少しお待ちくださいね。」

台所から小雪の声が聞こえてくる。

う~ん、美味しそうな匂いだな。

「小雪、今日の晩御飯はなんだぁ。」

堪らなくなって聞いてみた。

「今日はビーフシチューです。」

おー、楽しみだ。

お腹が減ったのでワクワクしながら待っていると不意に家電が鳴った。

なんとなく嫌な予感がする。

「刻夜?」

俺の纏う空気の変化に気が付いたシルヴィアが怪訝な声を出す。

家電に映っていた発信番号は夕雨の家だった。

「もしもし。」

「あっ、刻夜君かい?」

かけてきたのは夕雨の父親にして俺の師匠の透おじさんだった。

だが彼は珍しく声に焦りが滲んでいる。

「はい、俺です。どうしたんですか。」

これは何かあったに違いない。

「いいかい、落ち着いて聞いてほしい。」

そう前置きされて聞かされたのはとんでもないことだった。

「夕雨がさらわれたんだ。」

「な!?」

一瞬心臓が止まった気がした。

「どうして、どうして夕雨が拐われたんですか!?相手は!?目的は!?」

「落ち着いてくれ。それで今回の事件は二人の媛巫女が拐われてる。その内一人が夕雨。もう一人は万里谷っていう子だ。」

媛巫女が拐われた。

つまり犯人は呪術か魔術の関係者ってことだ。

「それで拐った相手なんだが…ヴォバン公爵なんだ。」

 

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