黄昏の魔王   作:鉄鬼

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過去編第三話 修行開始

「ふあ~。」

日曜日の朝七時過ぎ、日曜日にしては珍しく平日に近い時間に目を覚ます。

基本的に休日は9時過ぎまで寝ているのだ。

「お腹減った。朝メシ出来てるかな?」

寝惚けながらゆっくり着替え下の階の居間へ向かう。

階段を降りて、いつも通り居間の戸を開ける。

「おはよー。」

しかし返事は無い。

「ああ、そうだった。」

そういえば今、この家には俺一人だったんだっけ。

思い出したらなんだか不思議な感情が沸き上がり動けなくなりそうになる。

しかし俺はその感情を振り払い、台所に立つ。

戸棚から母方の祖父母が送ってくれた味噌を、冷蔵庫から豆腐、卵、ハム、そして同じく送られて来た長ネギを取り出す。

母方の祖父母は他県に住んでいて農家を営んでいる。

本来なら二人の元へ行くべきなのだが、呪術の修行のため(表向きには進学のため)こちらに残ることにしたのだ。

そのため、二人とも一人暮らしのこちらを心配して収穫した米や野菜などを送ってくれるのだ。

本当に有難い。

二人に感謝しながら豆腐とネギの味噌汁とハム、炒り卵、焼きハムを作りそれを朝食とする。

さらに炊飯器からご飯をよそおうとしていつもより入っている量が少ないことに気付く。

「一人分でいいんだもんな…」

この前までは六人分のご飯が入っていた炊飯器には今は一人分しか入っていないのだった。

「はぁ…」

ため息をつきながらご飯をよそう。

「いただきます。」

きちんと挨拶をしてから朝食を食べ始める。

「やっぱあの味にはなんないか。」

作った味噌汁は母親の味には程遠かった。

「もっと料理、教われば良かったな。」

味噌汁だけではない。

他にも色々作ったがどれも母親の味には程遠かった。

もうあの味の料理を食べることは出来ないのだ。

それをここ数日で思い知らされた。

後悔先に立たず。

その言葉の意味を身に染みて思い知らされる。

 

朝食を食べ、食器を洗う。

ふと時計を見ると8時16分、本来なら弟達が仮面ライダーを見て騒いでいる時間だ。

しかし今この家に響くのは食器を洗う音だけである。

「静かだな。」

自分の家のはずなのになんだか見知らぬ場所にいる気がした。

 

 

掃除洗濯を終えて、ふと時計を見ると9時45分だった。

「さて、そろそろ行くか。」

今日の10時から透おじさんに呪術を教えてもらうことになっているのだ。

台所で水を一杯飲んで玄関へ向かう。

靴を履きドアを開ける。

「いってきます。」

いつものようにそう言うがその言葉は廊下に響くだけで返事が返っくることはない。

ドアを閉める音がいつもよりも虚しく聞こえた。

 

 

「おはよう。」

「あらおはよう、刻夜君。」

「おはようございます、透おじさん、圭子おばさん。」

矢継家には家を出て、ゆっくり歩いても二分かからずに着いた。

我が家とかなり近いのだ矢継家はかなり近いのだ。

ちなみに夕雨は午前中は舞踊部の練習があって既にいない。

「それじゃあ始めよう。こっちの部屋で修行するからおいで。」

えっ!?普通に部屋で修行すんの?

もっと滝業みたいなのやるんだと思ってた。

「ここだよ。」

おじさんについて行った先もやはり普通の部屋だった。

中に何か怪しい物があるわけでもない。

「!?」

しかし部屋に一歩踏み出すと空気が一気に変わった気がした。

表現するなら濃密な感触、といったところだろうか。

なるほど、この部屋には呪力が満ちているらしい。

いや待て、どうしてここに呪力が満ちていることが分かったんだ?

「刻夜君、もしかして分かったかい?」

「はい、何でだか分かりませんが。」

「そうか。やはりそこまで…」

『やはり』?なんだかその言い方だとまるでこうなる事が分かっていたような…

視線に気付いたおじさんは慌てて説明し出した。

「ええっとね、いくら神具とはいえ、魔力や呪力がなくちゃ動かないんだ。でもこの間は動いた。とすると考えられる理由は二つ、あの神様が呪力を注いだか、君が無意識に呪力を使っているかのどちらか、またはその両方だ。どちらにせよ常に呪力を感じている、又は無意識に使っている君は呪力を脳が知らないうちに理解してしまった。だからある程度大きな呪力なら感じられるかも知れないって思ったんだ。」

そういうことか。だから分かっていたような口振りだったんだ。

「すごいね。まず普通の術師はここまでに時間がけっこうかかるんだ。」

知らないうちにステップ1は終わっていたらしい。

なんだか得した気分だ。

「それじゃあ次は実際に呪力を扱ってみようか。」

「呪力を扱う?」

「うん、まず体に呪力を自分に合わせて変換して蓄えるんだ。それからその呪力を使使い呪術を使う。」

ああ、そういうことか。

「いいかい、ここで大切なのは……」

こうして教わってやってみたものの中々上手くいかず時間だけが過ぎていった。

 

 

「ちょっと休憩してお昼にしよう。」

時計を見ると1時近くになっていた。

「分かりました。それじゃあ一旦戻ります。」

帰って昼メシを作らなきゃいけない。

「いや、大丈夫だよ。刻夜君の分も一緒に作ってもらってるから。」

「すみません。ありがとうございます。」

申し訳ないがせっかく作っていただいているのだ、ありがたくいただくとしよう。

しかし呪力の扱いは難しい。

呪力は空気と同じように掴むことが出来ない。

どうやったらおじさんのように自然に取り込めるのか分からない。

くそ、こんなところで足踏みしてられないというのに!

その時、頭の中を電流が走った気がした。

ふと右の手を伸ばす。

右の手のひらを広げる。

そうしたら部屋中の呪力が開いた右の手のひらから勢いよく入ってくるのが感じられる。

恐るべき勢いで自身の体の内に呪力が満ちていく。

「ぐっ……」

しかし取り込んだ呪力を留めておくのに苦戦する。

その上さらに呪力を取り込んで増えていくのだ、無茶に体が悲鳴をあげる。

「刻夜君、無理しちゃいけない。呪力を放出するんだ。」

我に返ったおじさんが慌てて駆けよって来ようとする。

しかし呪力の嵐が行く手の邪魔をする。

痛い、苦しい、確かにおじさんのいう通り放出した方がいいのだろう。

けれども俺にはなんとか出来る確信のようなものがあった。

直感のままに呪力を動かす。

血液のように身体中を循環させる。

多数の不可視の血管の中を呪力が流れるイメージで流す。

次第にその試みは手くいき、痛みが引いていく。

身体中を大きな力が流れていくのが感じられる。

息を吸うと酸素を取り込むのと同時に新たな呪力を取り込み、二酸化炭素を吐き出すのと同時に古い呪力を放出する。

呼吸を繰り返すと体が呪力の循環に慣れ、呪力があることが自然になっていく。

試しに体をストレッチしてみるが全く異常を感じない。

こうして俺は呪力を扱えるようになった。

「刻夜君、一体何をしたんだい?」

おじさんが恐る恐るといった様子で聞いてくる。

「君が今取り込んだ呪力は強力な術師五人分以上はあるんだよ。なのに君はそれだけの量を取り込んで平然としてる。神具は封じてあるから神具が取り込んだ訳じゃないし…。もう一度聞くよ。君は何をしたんだい?」

自然と出来てしまったが今のは普通どころか強い術師でも取り込めるはずのない量だったらしい。

「いや、なんとなくそうするべき気がして……自分でも分からないです。」

言われるまでもなく自分でも思っている。

何であんなこと出来たんだろうって。

「普通なら何ヵ月もかかるのに1日どころか数時間でここまで出来るなんて……。全く、前代未聞だよ。これは神の加護によるものか、それとも玄夜さんの血か、はたまた彼の実力か……。」

おじさんはブツブツ独り言を言ってから気を取り直したように笑うと、

「疲れただろう、今度こそご飯にしよう。」

「はい。」

おじさんのいう通り疲れたしお腹もすいた。

ありがたくご相伴にあずかろう。

そんなことを思いながら何気無くポケットに手を入れて、気が付いた。

俺が『アイツ』から渡された首飾りの神具。

その神具は修行前までは青い勾玉が一つあるだけの飾り気のない簡素な首飾りだった。

しかし今はそこにもうひとつ、翠の勾玉が増えていた。

これは少し元の形に戻っている。

これがあるべき形に戻った時こそが『アイツ』と再び合間見える時になる。

確証はないが、なんとなくそんな気がした。

 

 

待ってろ、いつか必ず『オマエ』を殺しに行くぞ。

 

 

俺は顔に笑みが浮かぶのを止めることが出来なかった。

 





どうも、なんとか両三話まで更新できました。
最新刊発売までに老魔王来襲編は終わらせたいのですが現在テスト中なのでいかせん上手くいきません、困りました。
ちなみに本編三話に出てきた黒装束のみなさんは、バ〇テスの審問会をイメージしました。
なんだかやってみたくなってしまって・・・。
未熟な文ですが読んでくださってありがとうございました。
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