黄昏の魔王   作:鉄鬼

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第四話 運命の歯車は再び回る~老魔王襲来編~

俺は現在庭から空を見ていた。

空には雲がかかり、僅かに雨が降る。

さらには時おり強風が吹く。

何となくこの先を暗示しているような天候だった。

拐われた夕雨と万里谷さんの事が気がかりでならない。

(万里谷さんは一つ下の夕雨の友人で、たしか彼女が小さな頃によく遊んでいた子だ。そこに活発な黒髪の子もたまに加わって三人で遊んでいた。さらにそこに俺と英治も加わり、五人で一緒に遊んだものだった。)

 

「準備出来たわ。」

「私も出来ました。」

武器を携えた二人が家から出てきた。

「それじゃあ行こう。」

そう言って家のシャッターを開ける。

中には黒の乗用車が一台入っていた。

その車に乗り込む。

シルヴィアが運転席、小雪が助手席、俺が後部座席に座る。

ふと、昔この車に乗って家族で出かけた時のことを思い出した。

もう戻らない、まだ何も知らない無力な人間だった幸せな日の光景を。

もう二度と失わない。

もう二度と奪わせない。

大切な家族を、俺は、守る。

そのために戦場に舞い戻る。

平穏な日々は終わりこれから始まるのは死と隣り合わせの戦いの日々。

それでもかまわない。

隣に彼女達さえいるのならば。

さあ、今こそ終わらせ始めよう。

 

 

車は静かに走り出す。

彼らを戦場に送り届けるために。

運命の歯車は再び動き出した。

もはや誰にも止められない。

 

 

「ああ、すまないが一時間後に俺の情報と要求を委員会に送ってくれ。」

透おじさんからの電話で夕雨と万里谷さんは青葉台の図書館にいることが分かり、俺達はシルヴィアの運転でそこへ向かっていた。

移動中はシルヴィアにヴォバンの情報を教えてもらい、簡単な戦略を話し合った。

その結果、ヴォバンとの戦闘は避けられない。

実力なら俺は奴に引けを取りはしない

しかし経験の差で不利にはなるだろうと言われた。

ならば有利な状況で戦う。

狩りやゲームが好きらしいので上手く誘導して条件を付けてそういう形に持っていき戦う、ということになった。

この戦いで委員会に俺の存在を知られることは必須だろう。

ならばあちらにこそこそ嗅ぎ回られる前に先手を打ったほうが良い。

なので、ある人物に俺の情報と要求をあちら送って貰うことにしたのだ。

「慌ただしくてすまないな。」

そのため、今俺はその人物に電話をかけているのだ。

「ああ、ああ、そうだな。その方がいい。ありがとう。それじゃあ頼んだ。」

電話を切る。

委員会の方はあの人ならなんとか上手くやってくれるだろう。

「それでどうだったのかしら?」

「ああ、大丈夫そうだ。」

「そう。ちょうど良かったみたいね。そろそろ着くわ。」

ついに目的地が見えて来た。

 

 

「ここか。」

見た目は只の図書館だが中にいる人物のことを考えると魔王城と呼んだ方がいいかもしれないな。

「ずいぶんテンプレートな台詞ね。もっと気の効いたことを言えないのかしら。」

「うるせえ。ほっとけ。」

シルヴィアにいつも通りからかわれる。

そのいつも通りのやり取りで少し心が軽くなった気がした。

柄にもなく緊張していたらしい。

「大丈夫みたいね。」

「悪いな、ありがとよ。さて、俺の女に手を出したことをたっぷり後悔させてやるか。」

決意と共に入り口の扉を開けた。

 

 

「こんなのって…」

「これはひどいわね…」

「おい、これは元々…人間なんだな?」

しばらく進むと人の形をした塩の塊がいくつも乱立していた。

「はい、人間で間違いありません。」

「これはヴォバン公爵の『ソドムの瞳』によるものね。」

シルヴィアから車の中で聞いた話を思い出す。

見たものを塩の塊に変えてしまう権能、それで彼は数多の人を塩に変えた、という話を。

「ふざけてやがる。」

只の暇潰し、気に入らないから、そんな理由で人の命を奪うなんて。

命の大切さを知っているからこそヴォバン公爵の行動が許せなかった。

「まだ間に合うかもしれない。」

右手を前に伸ばす。

すると一振りの太刀が虚空に表れた。

余計な装飾を省き、機能性を重視した刃渡り85cmのシンプルな太刀。

その刃は闇の中で僅かな光を反射して白銀の月のように輝いていた。

「我は魔を祓う者なり。奮えよ魂。今その輝きをここに示せ。」

聖句を唱える。

すると太刀自身がうっすらと光を放つ。

聖句を唱えたことでこの太刀の力の一つを発現させたのだ。

今、この太刀には破魔の力が宿っている。

これで……

「ふっ。」

太刀を振るい、塩の塊を切りつける。

その軌道ならばそれは真っ二つになるはずだった。

しかし、塩の塊には傷一つついていなかった。

その時、切られた塩の塊は姿を変え、人に戻った。

「良かった。上手くいって。」

正直ちゃんと人に戻せるか心配だったのだ。

今、この太刀は魔や呪いといった者のみを切ることができる。

ここで重要なのは魔や呪いのみ、という点だ。

つまりこの太刀は現在物体を切る事が出来ない。

「さて、この調子で助けてくか。二人とも、その人からなんとかヴォバンの居場所聞いてみて。」

助けた人の懐抱は二人に任せて、俺は他の塩の塊を人に戻していった。

 

「分かったか?」

「はい、あちらだそうです。」

先導してくれる小雪とシルヴィアについて行く。

「ここよ。」

その扉の前に立つと老人と、聞いたことのある少年の声が聞こえてきた。

破魔の権能を解き刀として本来あるべき形に戻す。

「んじゃ、行きますか。」

さて、夕雨に何かあったらどうしてくれようか。

そんなことを思いながら一歩踏み出した。

 

 

草薙護堂は現在、ヴォバン公爵と対峙していた。

護堂としては裕理と彼女の友人である矢継先輩を無事に返しもらえれば良いのだが彼は自分の所有物であると言って返すのを拒んだ。

(護堂は、今日の放課後に夕雨が裕理とアドレス交換している所に出くわし知り合った。)

話し合いはまとまらず、実力行使するべきか本格的に悩んでいたその時、派手な音をたてて入り口の扉が崩れ落ちた。

「なっ!?」

慌てて振り返るとそこには、

「ちょっと、何をしているのかしら。」

「部屋に入ろうとしただけだけど?」

「どうして扉を壊す必要があったのかしら。その行動の必要性を今すぐ教えてもらいたいのだけれど。」

「いや、あの…、ほら、アレだよ、アレ。インパクト?ってやつだよ。」

「と・き・や・さ・ん?」

「すみません、ムカムカしてたのでつい八つ当たりしました。」

「夕雨さんが扉の反対側にいたらどうなさるおつもりだったのですか。」

「あっ!…考えてなかった。」

「刻夜ってこういう時、考えが足りないのよね。」

「しっかりしていられるようで所々ぬけてますよね。」

「面目ないです………」

扉を壊したと思われる刀を持った青年が仲間だと思われる長い黒髪の美少女とプラチナブロンドの髪の美少女に説教をされていた。

この場にそぐわない異常な光景に、護堂に裕理やリリアナだけではなく、エリカ、さらにはヴォバン公爵ですら唖然とした表情で珍入者達を見ていた。

ここにいた人の中で唯一、夕雨のみが苦笑をしていた。

「あの人…まさか!?」

その時、護堂は珍入者の青年が、今日沢山の黒装束の先輩に追いかけられていたあの先輩であることに気が付いた。

 

 

小雪とシルヴィアに説教されていたら、ふとなんとも言えない空気に包まれているのに気が付いた。

二人も同じように気付き、バツの悪い表情になる。

すごい恥ずかしい。

よし、がんばれ俺。

ここで何事もなかったようにポーカーフェイスだ。

「悪いな、あんたがヴォバン公爵でいいんだな?」

奥にいる老人に努めて普通に話かける。

「あ、ああ。その通りだ。しかし小僧、ここは『王』同士の会合の場だぞ。場を弁えろ。」

ヴォバンの瞳が輝きを放つ。

しかし…

「むっ?」

体が塩になることはなかった。

まあ外からの術は一切効かないので当たり前なのだが。

回りを見回すと塩の塊がまたいくつかあり、青騎士と呼べそうな少女の側に夕雨と裕理がいた。

「安心しろよ。ちゃんと場は弁えてるさ。あとその権能、俺には効かないから意味無いぞ。」

小雪やシルヴィアには効くからそちらに気を取られる前に止めてもらわないとな。

案の定、ヴォバンは権能の使用を止めた。

「ふん、それで何のようだ。」

「決まってる。そこの二人を返してもらいに来た。」

そうじゃなけりゃぁわざわざあんたなんかに会いに来ねぇよ。

「そうか、お前の女か友人といったどころか。許せこれは既に…」

私の物とか言うんだろう。

ふざけるな、夕雨は俺の女だ。

異論は認めない。

例えそれが神でも、同じカンピオーネでもだ。

ヴォバンが言い終わる前に一歩踏み出す。

次の瞬間、夕雨達の前に立っていた。

「迎えに来たぞ。」

夕雨と万里谷さんをそれぞれ片腕で抱き抱える。

「!?」

俺の行動に気が付いたヴォバンはすぐさま『死せる従僕』に攻撃をさせる。

「遅い。」

しかしまた次の瞬間、二人を抱き抱えたまま最初に消えた場所に立っていた。

そのため従僕の攻撃は虚空を切り裂くだけだった。

「二人とも大丈夫?」

聞きながらそっと二人を離す。

「は、はい。」

「うん、大丈夫。」

「そっか、良かったぁ。」

二人とも何もされていないようだ。

安心してつい顔が綻んでしまう。

「えっと、そ、その、刻夜さんですよね?」

「うん、そうだよ。」

覚えていてくれたらしい。

嬉しい限りだ。

まあ夕雨が言ったのかもしれないが。

「君のお迎えはあっちかな?」

草薙護堂とエリカ・ブランテッリの方を見る。

「はい。」

「そうか。それじゃあほら、行きな。」

そっと背中を押す。

一瞬こっちを見たものの彼の方へ向かっていった。

「護堂君、ちゃんと守ってあげなよ。」

「は、はい。もちろんです。」

うん、いい返事だ。

彼なら万里谷さんを守ってくれるだろう。

 

「貴様、何者だ!!」

ヴォバン公爵が怒りの声をあげた。

窓が開き、部屋中に強風が吹き荒れる。

「風よ。」

短縮した聖句を唱える。

すると無風空間が出来て俺と後ろの三人の回りに風は吹かなくなった。

無風空間を広げ護堂君とその仲間達、さらには塩の塊になった人達と青騎士の少女も風を受けなくなった。

まあ無風空間っていっても風で風を相殺してるだけだが。

「小雪、塩の塊になった人達をこの建物の入り口近くの彼らに『送って』くれ。」

このまま戦闘になったら危ない。

壊れたら元に戻せなくなる。

入り口付近にいる助けた彼らの元へ送っておこう。

「分かりました。」

返事と共に小雪は懐から呪符を数枚取り出すと、塩の塊に向けて放った。

呪符はそれらに張り付き次の瞬間には消えた。

「そんな!?転移の術ですって!?」

ブランテッリさんが驚きの声をあげる。

まあそうだろう、転移の術を使える人なんて世界広しといえど小雪位なものだ。

「先輩、あんたは一体……」

護堂君の呟く声が聞こえる。

ヴォバン、護堂君、今からその質問に答えよう。

「俺が何者か、うん、確かに名乗ってなかったのは失礼だったな。すまない。」

出来るだけ不敵に見えるようにニヤリと笑い、高らかに名乗り上げる。

 

「俺の名は天月刻夜。本当の七人目のカンピオーネだ。ちゃんと記憶しとけよ。」

 

 

 

こうしてついにこの日、天月刻夜は、表舞台に姿を表した。

 





長らくお待たせいたしました。
次回の本編はついに戦闘回です。
上手くかけるといいのですが…
とにかくがんばりますね。
あ、ちなみに次回も本編の更新となります。

読んで感想などいただければ幸いです。

読んでくださってありがとうございました。
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