黄昏の魔王   作:鉄鬼

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第五話 魔王激突~老魔王襲来編~

 

「小僧。貴様、カンピオーネを名乗るか。」

「ああ、そうだ。」

 

青葉台の図書館の閲覧室。

現在、そこで三人のカンピオーネが対峙していた。

いや、二人対一人と言った方が正しいだろう。

 

「しかし、貴様からは呪力を感じない。カンピオーネであるならば膨大な呪力を有するはずだが。」

 

ヴォバンの言う通り刻夜からは呪力を感じとることは出来ない。

それもそのはず、『アレ』がある限りどんな術師、魔女、さらには媛巫女ですら刻夜がカンピオーネだとは見破れないだろう。

 

「まあ信じるか信じないかはアンタ次第だよ。さて、俺と護堂君は目的を果たした訳だが。」

 

刻夜はちらりともう一人のカンピオーネである草薙護堂に目を向ける。

 

「アンタとしてはなんとしても夕雨と万里谷さんを取り戻してまつろわぬ神招来の儀式をとりおこないたい。」

「そうだ。私の邪魔をするものは全て狩る。」

「だろうなぁ……。」

 

落胆したような声を出す刻夜。

しかし、彼の表情にはイタズラが成功した子供のような笑みが浮かんでいた。

 

「んじゃ、一つゲームをしようじゃないか。アンタの大好きな狩りのゲームをさ。」

 

 

 

「先輩、どういうつもりだよ!」

 

図書館の外で護堂は刻夜を問い詰めていた。

 

「矢継先輩と万里谷は取り戻したんだからアイツと戦う必要なんて無いじゃないか!」

 

あの後、刻夜はヴォバンに二つのゲームを提案した。

片方は十分後に逃走する護堂一行をその三十分後にヴォバンが追いかける。明け方まで逃げ切れれば護堂の勝ち、万里谷を連れ去られればヴォバンの勝ちというゲーム。

もう片方は十分後に近くのグランドで刻夜とヴォバンが戦い、先に傷を追わせた方の勝ちというゲーム。但しこちらはタイムアップの場合は刻夜の負けとなる。

 

「戦う必要が無い?何を寝惚けたことを言ってんの。いいかい、戦わなくてもヴォバンは追って来る。そうなったら間違いなく容赦無しの殺し合いになるはずだ。その時にはきっと一般人にも大きな被害が出るよ。ならこちらで制限して殺し合いより楽に勝ちを拾える方がいい。ゲームの内容については一番勝てそうなのをチョイスした。噂によると護堂君の権能は制限が面倒らしいしね。」

 

刻夜は塩の塊になった委員会の人を戻しながら護堂の問い詰めに答えた。

 

「俺だけでアイツと戦ってもいいんだけど、万里谷さんは護堂君の友人ならこの先も君といることになるんだろう。だから護堂君が万里谷さんを守るために直接戦わないとアイツは数年後とかに彼女を狙ってやって来る。それを防ぐため君はアイツと張り合えることを証明しなくちゃならない。」

 

噂に聞くヴォバンの話からするとこの予測は間違いなく現実の物とだろう。

そんな確信があった。

 

「これでも上手くことを運べた方なんだ。悪いけど覚悟を決めて君は君の大切な者を守るために戦ってくれ。」

「…分かりました。先輩、怒鳴ったりしてすみませんでした。」

「いや、いいんだ。分かって貰えて何よりだ。」

 

護堂に答えつつも塩の塊を人に戻していく。

 

「よし、これで全員戻せたかな?みんな、こっちは終わったぞ。」

戻した人達は女子の面々と回復した委員会の人達に任せる。

「助けていただきありがとうございます。」

 

助けた委員会の内の一人が話しかけてきた。

 

「どういたしまして。もう大丈夫?」

「はい、おかげさまで。」

「良かった。あっ、それじゃあ後は任せていいかな?」

「はい、お任せください。」

「それじゃ、後はよろしく。」

「本当にありがとうございました。」

 

再び護堂の方を向く。

 

「それじゃ、俺達は行くよ。また学校でな。」

「はい、また学校で。ちゃんと話を聞かせてもらいますからね。」

「分かった。約束するよ。」

 

二人は分かれ、それぞれの仲間と共にそれぞれの戦場に向かう。

大切な者を守るために。

 

 

 

数分後、刻夜とヴォバンは再び対峙していた。

 

「小僧、私を楽しませてくれよ。」

「そっちこそあっさり終わんなよ。」

 

緊張が高まってゆく。

 

「それでは始め!」

 

リリアナの開始の宣言をもって二人の戦闘が始まった。

 

「先手必勝っ!」

 

刻夜は素早く太刀を呼び出し、高速でヴォバンに接近して切りかかる。

しかしその一撃はヴォバンの死せる従僕に防がれた。

 

「ちっ。邪魔だなぁおい。」

 

護堂やアレクサンドルの神速ほど速くはないが、今の『高速』の一撃は常人なら真っ二つになっているはずだ。

 

「やっぱ三百年戦ってるだけはあるか。」

 

さらに剣、槍、弓など様々な武器を持った従僕が次々と現れる。

その数はざっと数えて数十体位だろうか。

 

「我が選りすぐりの従僕だ。そう簡単に倒せはせぬぞ。」

 

そう言ってヴォバンは高らかに笑う。

 

「ウッゼー、そして面倒くせぇ。」

 

そう言いつつ距離を取る。

この勝負は傷を負わせた方が勝利できる。

逆を言えば傷を負った方が敗北する、ということだ。

まさしく多勢に無勢。

現在刻夜は圧倒的に不利な状況なのだ。

しかし、それでも彼には勝算があった。

 

「俺一人では弱い。」

 

刻夜の後方から数枚の呪符が飛んできてそれぞれ従僕に張り付く。

その瞬間、その従僕達は炎に包まれて消滅した。

「俺は自分一人じゃ何も出来ない。」

 

パンパンパン。

乾いた音が響き、数体の従僕が崩れ落ちるように倒れ消滅した。

 

「俺はカンピオーネという強者になっても自分がどれほど脆い存在か分かっている。」

 

刻夜の左に呪符を持った長い黒髪の少女が並び立つ。

 

「だから彼女達に頼る。」

 

右には二丁の銃を持ったプラチナブロンドの髪の少女が並び立つ。

 

「俺は彼女達に守ってもらい、俺も彼女達を守る。」

 

後ろの方では淡紅色の髪の少女が祈っている。

 

「彼女達がいれば俺はいくらでも強くなれる。」

「サポートはお任せください。」

「まったく、しっかりしてほしいものね。」

「刻、頑張って!」

「どうだ、俺の仲間は強いぞ。」

 

高らかにそして力強く、刻夜は宣言する。

 

「ヴォバン、言っとくけど彼女達がいる限り俺は絶対に負けないぜ!」

 

「ふははははは、そうでなくてはな。ふむ、貴様らを我が従僕に加えるのも悪くないな。」

「ふざけんな、ゼッタイお断りだっ!!まったく、考えるだけで吐き気がする。」

 

この戦いで刻夜としてはあまり権能を曝したくはなかった。

だからこその一撃ゲームなのだ。

しかしそれも難しくなった。

ここまで来たらある程度は手札を曝さなくては太刀打ち出来ないだろう。

自身の太刀を掲げ、聖句を唱える。

 

「その刃、経なる音と共に全てを断ち切らん。」

 

これで太刀の力が大半解放された。

さらにそこにもう一つ聖句を重ねる。

 

「その一太刀は旋風の如く。風を纏えよ我が剣。」

 

刀と風の権能が繋がるのを感じる。

すると太刀が風を纏った。

 

「ほう、神剣の権能と風の権能か。二つ同時に使えるということは場数は踏んでいるようだな。」

「ああ、こう見えても何柱もの神様と戦ってるんでね。」

 

太刀をその場で振り下ろす。

すると少し離れた直接上にいた従僕が真っ二つになり消滅した。

それはまさしく不可視の斬撃だった。

 

「んじゃいきますか。頼んだぜ、シルヴィア、小雪。」

「分かったわ。」

「はい。」

 

高速で従僕の群れに突っ込む。

(この高速化は風の権能を応用し、加速に使うことで可能とした技である。護堂の神速の半分ほどの速さだがタイムリミットがない。しかし制御が難しく曲がったりは出来ずどうしても直接的な動きになってしまう。因みにヴォバン侯爵のおこした風はこの風の権能で相殺していた。)

太刀を振り下ろす。

再び従僕は防ぐが今回はいとも容易く真っ二つになった。

続けて太刀を横に振る。

その一振りは一気に何体もの従僕を両断した。

 

「はああああっ!」

 

振り切り、振り下ろし、振り上げる。

そうして次々と従僕は刃と斬撃に斬られて消滅していく。

気配を感じて後ろを振り向くとまさに攻撃しようとしている従僕がいた。

 

「シルヴィア!」

 

声で合図する。

すると、その従僕は後ろから飛んできた銃弾に撃ち抜かれ消滅した。

刻夜は素早く後方に退避する。

 

「小雪!」

 

さらに呪符が飛んできて従僕達を燃やした。

その間に刻夜は高く飛び上がり、空中から不可視の斬撃の嵐を従僕達に浴びせる。

残った従僕の内でも弓を持つ者達は一斉にゆっくりと落下してゆく刻夜を狙い撃つ。

しかしそれらの攻撃は刻夜に届くことなくシルヴィアと小雪に撃ち落とされた。

 

「だいぶ減ってきたみたいだな。俺はこれからヴォバンを狙う。あとは任せた。」

「分かったわ。」

「はい。」

 

返事を聞いた瞬間ヴォバンに向かってかけ出す。

最初は呪力を練りつつ人の速さで。

それから徐々に加速していき高速に入る。

纏う風は大きくなり体の全てを包む。

そのままヴォバンの前に陣取る従僕の群れに再び突っ込む。

数が減り突破しやすくなっているためそのまま一気に駆け抜ける。

風に触れた従僕は風による鎌鼬で切断され消えてゆく。

 

「ハァァァァッ!」

 

その勢いのまま刻夜はヴォバンに太刀を振り下ろした。

 

「なっ!?」

 

しかし太刀は爪一つを切り落とすに留まった。

鋭く長く大きい狼の爪を。

 

「オオオオオォォォォンンンッッ。」

 

先ほどまでいた老人は消え、そこにいたのは体長三〇メートルほどはあるだろう巨大な人狼だった。

 

「おいおい、今日は満月じゃあねぇぞ。ってか月が見えすらしないし、誰かさんが嵐で隠しちまったせいで。」

 

冗談を言いつつも攻撃を再開する。

振り切り、振り下ろし、時には突きやバックステップからの斬撃と様々な刀技を繰り出しながら攻める。

ヴォバン侯爵も爪で応戦するが刻夜の太刀に斬れぬモノはない。

一本、また一本と切り落とされていく。

 

「もらった!」

 

遂にヴォバンが体勢を崩し、すかさず追撃をかけた。

勝った。

そう確信した。

しかし…

 

「甘いぞ、小僧。」

 

刻夜が斬ったのはヴォバンではなくいきなり現れた狼だった。

 

「!?」

 

今度は刻夜が体勢を崩された。

後方へ高速移動を使うがタッチの差で間に合いそうにない。

 

「ヤバッ!」

 

やられる。

そう思った時、飛んできた銃弾と呪符がヴォバンの爪に当たり、一瞬時間を稼いでくれた。

そのおかげでなんとか二人のいる後方へ退避することができた。

 

「仕留め損ねたか。」

 

ヴォバンは狼化を解き人の姿に戻っていく。

 

「貴様の権能相手には接近は不利なようだな。そうだな、これならどうだ?」

 

獰猛な笑みを浮かべるヴォバン。

彼の呪力が高まっているのが分かる。

それに呼応するかのように空から聞こえる雷鳴が大きくなってゆく。

 

「ちぃっ!だからあんま権能を曝したくないんだけどなぁ!」

 

空に向かって手を伸ばす。

 

「二人共、離れろ!」

 

二人が離れた瞬間、ちょうど刻夜の真上に稲妻が落ちて来た。

しかし、その稲妻は何かに阻まれ刻夜を傷付けるには至らなかった。

 

「あっぶねぇ。」

「ほう、まだ権能を隠し持っていたか。」

 

手を伸ばした少し先には直径二メートル程の大きな円形の氷があった。

 

「まだまだ持ってそうなあんたが言うか。」

「ふん、減らず口を。さて、その盾はどのくらいもつかな。」

 

言うが否や次々と稲妻が刻夜の頭上に落ちて来る。

しかし、氷の盾はびくともしなかった。

 

「面白い。さてこれならばどうかな!」

 

今度は巨大な稲妻が落ちて来た。

同じく氷の盾に直撃する。

威力が桁違いで受け止めるので精一杯だ。

 

「刻っ!危ない!」

 

少し後ろから夕雨の声が聞こえた。

 

「しまった!」

 

ヴォバンの近くにいる弓を持った従僕が刻夜を狙っていた。

しかし稲妻を止めるのに精一杯で避けることが出来ない。

 

「刻夜っ!」

「刻夜さん!」

 

シルヴィアと小雪が止めようとするが他の従僕に阻まれる。

 

「クソッ!」

 

悪態をつくがどうしようもない。

矢がこちらへ飛んでくる。

負ける。

はっきりと思った。

こうなったら刺し違えてでもあいつを…

 

「刻っ!」

 

その時、刻夜と矢の間に誰かが割って入った。

そうして矢はその人物の脇腹に刺さる。

急に稲妻が止んだ。

氷を消し、慌ててその人物、夕雨に駆け寄る。

その場にゆっくりと夕雨は崩れ落ちた。

 

「バカ、何してんだよ!」

 

抱き上げて傷を見ると深く矢は刺さっていた。

傷口からはゆっくりと、止まることなく血が流れ出てくる。

その姿があの日の地獄の光景と重なる。

 

「下らぬ幕引きだったな、興が冷めた。巫女が一人駄目になってしまったが仕方ない。もう少ししたらあちらを追うとしよう。」

 

ヴォバンのその言葉を聞いて刻夜はブツリと自分の中で何かが切れる音が聞こえた気がした。

 

「万人に癒しを与えよう。万人に安らぎを与えよう。その輝きは万人を救う力なり。」

 

聖句を唱え権能を使う。

すると手が輝きを放ち、その輝きは触れている夕雨に移っていく。

矢を抜くと傷口が一際輝き、ゆっくりと傷がなくってゆく。

数十秒たつ頃には傷は完全に無くなっていた。

 

「良かった。」

 

死んでしまうのではと恐ろしかったが権能でなんとか治せてにホッとした。

しかし安静は必要だ。

多分動けばまだ少し痛むはずだ。

彼女をお姫様抱っこしてリリアナの元へ向かう。

彼女に夕雨を任せた。

 

「夕雨をお願いします。」

「え、ええ。分かりました。お任せください。」

 

彼女の話はグラウンドに来るまでにシルヴィアから聞いている。

ヴォバン側とはいえ彼女ならば任せても大丈夫だろう。

再びヴォバンの方を向く。

 

「ふむ、巫女は直ったか。それでは戦闘を再開するとしよう。」

 

今、刻夜の中で強い怒りと憎しみが渦巻いていた。

夕雨をモノとしてしか見ていないヴォバン侯爵に。

あんな無茶をした夕雨に。

そして彼女にあんな目に合わせてしまった自分自身に。

三人(ほとんどは二人)に対するその感情が身を焦がす。

強い痛みと絶望が叫びをあげる。

 

「刻夜、『それ』は駄目よ、危険すぎるわ!」

「止めてください刻夜さん!」

 

シルヴィアと小雪が刻夜を止めようとする。

しかし刻夜を中心に冷気を含んだ強風が起こり近づくことが出来ない。

刻夜はゆっくりと首飾りを外す。

すると彼から莫大な呪力が溢れ出した。

否、『彼が有する莫大な呪力を認識出来るようになった。』と言った方が正しいだろう。

冷気が一層強くなってゆく。

 

「刻夜っ!」

「刻夜さん!」

「と…き…」

 

彼女たちは必死に彼を止めようとする。

しかし刻夜は制止を振り切り『その聖句』を唱えた。

 

「たとえ神であってもこの死からは逃れることは叶わない。神よ、人よ、生きとし生ける全ての者達よ。畏れ、恐怖し、絶望せよ。我は汝らに黄昏を運ぶ者なり。」

 

低く静かに、けれども良く通る声が響く。

 

「顕現せよ。ヘルヘイム!」

 

その瞬間、全てが凍りついた。

 




やっと更新できました。
テストとか風邪で寝込んだりとか話を書いたノートが行方不明だとかで(最後は自分が悪いんですが)遅れました。
そういえば最新刊に出てきたあの人とあの人と、権能が被ってなくてホッとしました。
本当によかったです。

次回も本編の更新となります。

読みにくい小説ですが読んでくださって本当にありがとうございました。
もしよろしければこれからもよろしくお願いします。
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