それを耳にしたアウラは…。
こんな事考えてないかなあと妄想してみました。
アウラがただひたすら物思いにふけるだけの、オチもなにもない
とりとめのない話ですが(予防線)、よろしければお読みいただけたら幸いです。
10巻が出て色々大きく動きましたが、それよりちょっと前のイメージです。
(いやそれにしても10巻面白かった! 大満足です。)
※6/23 6:15 ご指摘を頂いて改行を修正しました。
今後も再修正するかもしれません。
8/1 読みやすいように文章を整理しました。内容は同じです。
三人の一般メイド達が、廊下の隅で噂話しをしていた。
お仕事こそが存在理由のすべてでも、やっぱりそういう時間はある。
それは、あたし達守護者だって同じだしね。
「そりゃあやっぱり、アルベド様が大本命よ。今だってアインズ様の傍らに寄り添う御姿は本当にしっくりきてるじゃない?これ以上無い美男美女カップルよ。まるで偉大な名画のような美しさだわ。」
「それは分かるけどさあ、そういう事ならシャルティア様だって負けてないわ。美しさはアルベド様に引けをとらないし、身長差カップルって乙女の夢よ。シャルティア様の外見年齢と相まって背徳感もたまらないわ。」
「あら、私はナーベラルさん、ほんとにありだと思ってるわよ。長らく二人で行動してたんだし、特別な情が湧いたって不思議じゃないわ。それにメイドの中からお后様が生まれるのってそれこそメイドのロマンじゃない?」
アインズ様のお后候補の話らしい。まあ確かに、それぐらいメイド達の関心がある話題も他に無いよね。あたしはちょっとイタズラ心が沸き起こって、気配を消してそっと近寄ると、しばらくフムフムと彼女達の意見に耳を傾ける。
「あ、アウラ様!?」
しばらくして何気なく目線を下にやったメイドの一人がようやくあたしに気づいて驚きの声を上げ、残りの二人も硬直する。
メイド達は凄く恐縮したみたいだけど、あたしはもちろん怒ってなんかいない。
アインズ様が仰るには、『メイドは噂話が大好き』っというのはデフォ設定だそうだ。だからメイド達は至高の御方々がお作りになった設定に忠実な訳で、それを怒るはずがない。
もっとも、噂話をしている所を上位者に咎められて恐縮する、っというのもまたメイドのデフォだそうだけど。
あたしが怒っていない……っというかどちらかと言えば興味ありげなのを見て、メイドの一人が恐る恐る……っという風に聞いてくる。
「あのう……アウラ様もお后候補に名乗りを上げるおつもりでしょうか?」
さっきの会話の中ではあたしの名前は出てこなかったからそこで内心ちょっと気を悪くしたんじゃ、って思ったのかな。全然そんな事は無かったんだけど。
だって歳を考えたら、ねえ?
「え? あたし? さあどうだろうねえ。まだ76歳だし……。アインズ様と釣り合いとれるようになるにはまだまだ時間が必要だもんね~。」
そ、そんな事ありませんわ、っと一生懸命おべっかを言ってくるメイド達にプラプラと手を振って、あたしはその場を去る。メイド達が慌てて深々と頭を下げている気配を背中に感じながら、頭の中では『分かってないなあ。』って思ったりしてる。
もっとアインズ様に相応しい方がいらっしゃるじゃないか。
アルベドでもシャルティアでもナーベラルでも……もちろんあたしでも無くて。
絶対、確実にお似合いなお方が。
◇◆◇
『時間ですよ~。』
とっても甘くて優しいお声が、手首のバンドから聞こえる。
「はい! ぶくぶく茶釜さま!」
あたしは脳天から足先まで痺れるような心地よさを感じながら、元気よく返事する。
きっとシャルティアが言うところの『ふにゃふにゃに崩れたみっともない顔』になってるんだろうけど、フンだ、構わない。
なんたって、あたしとマーレを創造して下さった御方のお声なのだ。そうなるのは当たり前じゃん。
それにシャルティアだって、百科事典を触っている時の顔は似たようなものじゃない。
あたしは作業状況を知らせに来た小悪魔に、休憩に入るからまた一時間後に来てとお願いしてから、ペストーニャ・S・ワンコ……は謹慎中なので一般メイドが持ってきてくれた合い挽き肉のハンバーガーにかぶりついて舌鼓を打つ。
「ああ、美味しい!」
思わず声を上げる。
一仕事終えた後の満足感に浸って、空を見上げながらパクつくハンバーガーは最高だ。維持する指輪で睡眠食事不要といっても、こうして休憩を取って食事するのは悪くない。うん、ほんと悪くない。
それも、アインズ様が毎日必ず休憩を取るようにって御命令してくださったおかげだ。最初は凄く戸惑ったし、お仕事をしない状態が不安だったけど、今は心からそう思えるようになってきた。
アインズ様と、時間を伝えて下さるぶくぶく茶釜様に感謝しながら、右手にハンバーガーを持ったまま左手で付け合わせのフライドポテトを頬張り、コーラで喉を潤す。
ちょっと下品な食べ方だけど、ファストフードってこんなもんだよね。
「はー食った食ったあ!」
満腹になったお腹をさすりながら、あたしはフーっと溜息をつく。
一緒にちょっとゲップが出ちゃって思わず周りを見渡す。なんかあたし、凄くおじさんっぽくて恥ずかしい。
でもメイドはもう他の食事が必要なシモベ達の所に配りに行ってるし、誰も居ないからまあいいか。
食事の熱で火照った頬に、サーッと風があたって気持ちがいい。
食後のひととき、あたしはボーッとしながら色んな事に思いを馳せる。
守護者の集会でデミウルゴスが似たような事言ってたけど、こういう休み時間って自分を振り返って色々考えるのにとても良いみたい。視野や視点が広がるって言うのかな。
デミウルゴスの想像だと、アインズ様はあたし達シモベがそうやって思索に浸る時間を持つ事でより深く考えるようになる事を望んでらっしゃるらしい。
常に仕事にばかり意識がいってると近視眼的になるし、かえって良い仕事が出来なくなるそうだ。適度な休憩は心に余裕と柔軟性をもたらしてくれるんだって。
あたしはそんな事思いもしなかった。ううん、あたしだけじゃなくって他の守護者達もだ。
あのデミウルゴスだって、アインズ様が休みのご提案をしてくださらなかったらとてもそんな考えには至らなかったって、感嘆のため息を漏らしてた。
ほんと、アインズ様って凄い。ああ、こんな凄い御方にお仕え出来るなんて、なんて幸せ!
あたしはまた手首のバンドを優しくさすりながら、心の底からそう思う。
それにアインズ様は頭が良いだけじゃなくて、本当にあたし達シモベにお優しい御方だ。
洗脳されたシャルティアとの一戦の後、褒美だと仰りあたしにこのバンドを下さった。
あたし達シモベが至高の御方の御命令に従うのは当たり前で、そしてお役に立てる事そのものがこの上ないご褒美だ。
だからその上さらにご褒美を頂くなどとんでもない事だけど……でも無理。
こんな素晴らしい宝物を、断れるはずがない。
マーレはナザリックの偽装のご褒美にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを頂いたけど、正直いってあたしの方が良い物を頂いたと思っている。
あの至宝の指輪を上回るなんて考えは不遜かもしれないけど、でもでもなんたって、あたし達の創造主のお声がするバンドなのだ。
それも、元々はぶくぶく茶釜様がアインズ様にプレゼントなさったものだそうだ。
そう聞いた時やっぱり恐れ多くて尻込みしたけれど、アインズ様は『アウラが持っていてくれた方が、ぶくぶく茶釜さんも喜ぶさ。』って仰ってくださり、手ずからあたしの手首にはめてくださった。
あたしはポワーッとして思わず涙ぐんじゃったみたいで、アインズ様はそんなあたしの目尻を優しくハンカチで拭いてくださり、そして……優しく抱きしめて頭を撫でてくださった。
それであたし、我慢出来なくてワンワン泣いちゃった。今思い返すと、恥ずかしさで顔が真っ赤になっちゃう。
アインズ様のお胸にあんなに顔押し付けて…… やん!
『あーっ、アルベドやシャルティアに見られなくて良かったよ、ほんと。』
食事のカロリーの熱とは別の熱で火照った頬に両手を当てて冷やしながら、あたしは心の中でそう呟く。心臓がバクバクいってるのが分かる。
ちょ、ちょっと落ち着こう、うん。
まだ休み時間は半分もあるし。手首のバンドに頬ずりしながら、他の事を考えようとする。
と言っても、心を自由に遊ばせるとやっぱり極自然と至高の御方々に思いを馳せる事になるのだけど。
──アインズ様以外の至高の御方々はどこかにお隠れになられた。今、自分の創造主と一緒にいられるのはパンドラズ・アクターだけだ。
どういう気分なのかな。嬉しくてしょうがないのかな。あたし達他のNPCに対して、ちょっとは優越感みたいなものを感じてるんだろうか。それとも逆に、自分一人だけ申し訳ないとか?
うーん、パンドラズ・アクターはデミウルゴスやアルベドと同等の知恵者らしいし、(そうは見えないけどなあ)そうでなくてもあのハニワ顔だと何考えてるかよく分からないけど。
同じ表情が変わらないコキュートスは、あんなに分かりやすいのにね。
もちろんあたし達はアインズ様に絶対の忠誠を誓ってるし、お声をかけてもらえるのはたまらない喜びだ。
もしアインズ様がいらっしゃらなかったら、忠義を尽くせる御方が誰一人いらっしゃらなかったら。
そう考えるだけで、大地が無くなって深い深い無限の虚無に吸い込まれるようなとてつもない恐怖が襲ってきて、慌てて意識を背ける。
……もしアインズ様がいらっしゃらなかったら、きっとあたし達は至高の御方を求めて世界を彷徨う哀れな幽鬼の群れになって……ブルブル、だから考えちゃダメだって!
ああ。本当に限りない感謝の念しか無い。アインズ様のためならあたしの命なんていつだって、例え復活出来なくてもすぐに投げ出せる。ためらいなんか何一つ無い。あるのは主のために命を捧げられるという、無上の喜びだけだ。
……でも。 それでも。 それでもやっぱり思っちゃう。
なぜ、ぶくぶく茶釜様はここにいらっしゃらないのだろう……って。
どうしてお隠れになったのか。あたしに至高の御方々の深いお考えを理解出来るはずもない。
階層守護者の集会でも、あのデミウルゴスやアルベドですら、至高の御方々がお残しになった言葉の解釈に四苦八苦している。
そりゃあたしの頭じゃ無理だよね。
……どうしようもない何かがあったんだ。
至高の御方々ですらそういう事がある……っていうのは信じられないけれど、そうじゃなければあたし達をお見捨てになるはずないものね。
だって、ほんとに凄い方々だもの。
ペロロンチーノ様、タブラ・スマラグディナ様、たっち・みー様、ウルベルト・アレイン・オードル様、武人建御雷様……。
ああ、思い浮かべるだけで敬意の念で胸が一杯になる、キラキラと眩しく煌く素晴らしいお名前ばかり!
……でも、でもでも、その至高の御方々の中でも、ぶくぶく茶釜様が一番素晴らしかったのは間違いない。それは絶対譲れない。
だってお名前も最高だし、こんなにも優しいお声の持ち主なのだもの。ひょっとしたら至高の御方々のアイドルだったんじゃないかな。
バンド越しにだってこれなんだから、もう一度直にお声を掛けてくださったなら、一体どうなっちゃうんだろう。ふにゃふにゃになって、溶けちゃうんじゃないだろうか。
あれ、そしたらぶくぶく茶釜様と同じになれるのかな。
……そう、アルベドやシャルティアはアインズ様の后の座を狙っているけど、そしてあたしも……ううん、でも本当は、ぶくぶく茶釜様こそがアインズ様の隣に立つべきじゃないだろうか、あたしはそう思っている。
アルベドは守護者最強の防御力を持つ自分こそがアインズ様をお守りするのに相応しいと豪語するけど、それを言うならぶくぶく茶釜様は至高の御方中最強防御力の持ち主『粘液盾』なのだ。
知略だって、アインズ・ウール・ゴウン全体が動く時の指揮官役だって務めるぐらい優れてたって、アインズ様は教えてくださった。
きっとアルベドやデミウルゴスさえ足元にも及ばない……アインズ様レベルの頭の良さなんだ。
おまけに……じゃない。なにより決定的に、至高の御方とシモベでは身分が違いすぎる。
同等の知能を持ってお互いその能力を尊敬しあえ分かり合える同格の存在!
ほんと考えれば考える程、ぶくぶく茶釜さまがおられたならアルベドやシャルティアの出番なんて、無い。
◇◆◇
あたしは目を閉じて空想してみる。第六階層に新たに建てられた純白の協会。うーん、漆黒の方が良いかな? とにかく、とっても素敵な協会。
作ったのは、あたしだ。あたしがお二人のために想いを込めて、全身全霊で作ったんだ。
ナザリックを統べるアインズ様と、あたし達の創造主の盛大なご婚礼。なんて素敵な光景なんだろう!
結婚式ではナザリックすべてのシモベが祝福する中、最高に着飾ったお二人がバージンロードを歩く。
あたしとマーレはおすまし顔で、でも心の中では得意満面で、ぶくぶく茶釜様のウェディングベールの裾を持って、お二人の後をしずしずと付き従う。
泣く事が出来るNPCはみんな歓喜の涙でぐしゃぐしゃになってる。
アルベドとシャルティアの涙には別の意味も含まれるかもしれないけど……でもいくらあの二人だって、至高の御方同士のご婚礼なら自分の事なんか忘れて喜ぶよね。 ……う、うん……多分……。
そして祭壇の前で誓いの言葉を……あれ? でも至高の御方以上の存在は無いのに誰に……ああそうか、偉大なアインズ・ウール・ゴウンそのもの、そして他の至高の方々全員への誓いだね。
神父役は……デミウルゴスかパンドラズ・アクターかな?
そして二人は指輪を交換してじっと見つめ合って、熱い口づけを……。
やん! バカバカ、恥ずかしい!
私は真っ赤になりながら、でも嬉しくて嬉しくてニコニコが止まらなくて、思わずマーレと一緒に声を上げる。
『アインズ様、ぶくぶく茶釜様、ご結婚おめでとうございます!』
お二人はちょっとビックリして、あたし達はしまったって思うけど、でも『ありがとうアウラ、マーレ』って微笑みを返して下さる。
同時にNPC達全員が大歓声を上げるんだ。
『おめでとうございます、アインズ様、ぶくぶく茶釜様!』
アルベドとシャルティアは半泣き笑いしながら、
コキュートスはプシュープシューって大きな呼吸音を上げながら、
ヴィクティムはその場で宙をクルクル回りながら、
デミウルゴスとセバスは冷静に手を叩きながらだけど、その目から涙をボロボロ流して、
そしてパンドラズ・アクターは大げさな身振り手振りで花を振りまきがなら……
すべてのNPC達が思い思いの形で喜びを爆発させる。
ああ、夢の様な結婚式。
そして……待望のお世継ぎが誕生するんだ。
どんなお姿だろう。 ネバネバがまとわりついたスケルトン?それとも自在に体を変えられる柔らかいスケルトンなのかな。最強魔法と最高防御力を持ったりするんだろうか。それって凄い!
そしたら絶対あたしが、乳母役になるんだ。マーレには触らせない。
あたしは毎晩一緒にお風呂に入って一緒に寝て、枕元で至高の御方々のお話をしてあげるんだ。
どんなに素晴らしい方々なのか、そしてその中でもとびっきりなのがぶくぶく茶釜様とアインズ様で、あなたはそのお二人の子供なんだって。
それで、少し大っきくなったらあたしの魔獣に乗せてあげるんだ。小さい手で手綱を握るお世継ぎを、あたしが後ろで支えてあげる。
アインズ様とぶくぶく茶釜様が寄り添って仲良く見守る中、第六階層の広い草原を一緒にかけっこするんだ。魔獣の扱いだって、おいしい木の実の見分け方だって、なんだって教えてあげる。マーレも……しょうがないな、マーレも混ぜてあげる。
三人でいろんな遊びをしよう。楽しくて楽しくて仕方ない毎日にしよう。
ああ、なんて幸せな光景だろう!
以前はコキュートスの妄想に呆れてたけど、うん、これは確かに最高だ。コキュートスにも爺役を任せてあげるよ。
大事な大事なお世継ぎ。守護者達みんなで大切にお育てしよう。
こんなに素敵なお仕事は、世界中どこにもないんだから。
◇◆◇
……この話をアインズ様にしたら、どうなるのかな。
でも私は話せない。話しても、アインズ様はきっと怒らないと思う。
多分、目を白黒(変かな?)させて、ちょっと苦笑なさる。照れたりもなさるんだろうか。
でもその後……寂しげなご様子になるのも想像できる。
前にぶくぶく茶釜様の事を話してくださった時もそうだった。
他の守護者やプレアデス達に、自分の創造主の話をしてくださる時も、やっぱりそうみたいだ。
とても明るく振る舞われるけれど、でもその後、緑の光が寂しく光る。
あたし達なんかより、きっとずっとずっと、お寂しいんだ。
◇◆◇
……アインズ様。
至高の四十一人のまとめ役。ナザリックに最後まで残って下さった慈悲深き御方。
ナザリック一の膨大な魔力と、本気を出した時には私達階層守護者ですら押しつぶされそうなオーラをお持ちの絶対の支配者。
あたしにはとても理解出来ない深遠なお考えを持つ智謀の王。
お怒りになった時はそりゃあもう怖いけど、あたしはまだ一度も叱られた事がない。マーレもだっけ。
やっぱり、ぶくぶく茶釜様に創造されたあたし達って優秀? えへへ。
……あれ? それとも、もしかして…… いや、アインズ様がそんな贔屓をなさるとは思えないけど、でも、その、アインズ様ってほんとにぶくぶく茶釜様の事を……?
だからあたし達にお優しいの……?
あっ……? でも、あれ、あれれ、でもでもでも、そのぶくぶく茶釜様からもらったバンドをあたしに……あたしの手首に直接つけてくださったって事は……?
え? え? ……やん!
やだ……顔……火照って…… バカバカバカ! 何考えてるのあたし!
一番お似合いなのはお二人だって、そうだって、自分で結論出したじゃない!
『はは。そうだな、アウラが大好きだぞ。』
うわ、うわあああ、な、なんであの時の事思い出すの!あ、あれはアインズ様の冗談で……。 で、ですよね? ご冗談ですよね?あ、あたしなんかがアインズ様と釣り合う訳無いんだし。き、きっとぶくぶく茶釜様の娘のように思ってくださって、だ、だから、そう言ってくださっただけで、ぶくぶく茶釜様がお戻りになられたら、絶対、絶対に……!
お戻り……に……。
「……………………。」
スーッと冷たい風が頬を撫でて、気持ちが収まってきた。
私は膝を抱えて俯く。なんともいえない寂しさが襲ってくる。さっきまでの浮き立った気持ちが嘘みたい。鼻の奥がツーンっとして、目尻に涙が浮かんでくる。
……分かってる。
あたし達を創造してくださったあの御方は、ここにいらっしゃらないのだ。いつかお戻りになられるかなんて……分からない。
それが分かっていたのなら、お戻りになられるって分かっていたのなら、アインズ様があんなに寂しげなはず無いのだから。
「……茶釜……様……。」
あたしは俯いて、記憶の湖に潜っていく。
深く、深く、潜っていく。
──巨大樹の下でぶくぶく茶釜様、やまいこ様、餡ころもっちもち様が楽しそうにお話してる。
あたしとマーレはお三方に色んな服にお着替えさせてもらった。
色んなコスチュームを着たあたし達を眺めながら、ぶくぶく茶釜様はとても喜んで下さった。
あたし達に関心を持ってくださる。あたし達に微笑んで下さる。あたし達に呼びかけてくださる。
それだけで、他に何もいらなかった。ただただ、幸福感で満たされていた。
あの頃のぶくぶく茶釜様のお姿は、目をつぶると今でもハッキリと瞼の裏に浮かぶ。
でもお言葉は……とても朧気だ。 断片的なお言葉がいくつか浮かぶだけ。
ただひとつの言葉だって忘れたくないのに、どうしてなのだろう。
……なんで、あの頃の記憶は曖昧なんだろう。
ぶくぶく茶釜様のお姿以外のすべてが、微睡みのようにぼやけている。
……大侵攻で一度殺されちゃったから?でもそれはシャルティアだってそうだ。
アインズ様のお手に掛けてもらった時も、直前の記憶を失っていただけだった。
『アウラ』って優しく呼んでくださるお声は今も耳元でハッキリ聞こえるのに。
たくさんたくさん、話しかけてくださったのに。
やまいこ様や餡ころもっちもち様とお話してるそのお側に、ずっと佇んでいたはずなのに。
なのに。
……なんで、夢の様なんだろう。
ぶくぶく茶釜様。
もう一度お会いしたいです。今度は一言一句、絶対忘れませんから。
姿をお見せください。お話してください。抱きしめてください。
お会いしたいです。お会いしたいです。
お会いしたい……です。
『時間ですよ~。』
「はい、ぶくぶく茶釜様!!」
あたしはビクッと反射的に返事をして、その後思わず周囲をキョロキョロ見回した。
ああ……。
すぐ我に返って、手首のバンドを優しく撫でる。
「……はい、ぶくぶく茶釜様。」
微笑みながらもう一度、小さく返事する。
「はい。」
あたしは立ち上がり、上を見上げる。遠い空の彼方から、ぶくぶく茶釜様が見守っているような気がした。
ううん、きっとそうだ。どこからか、見てくださっているんだ。
ぶくぶく茶釜様がおられないのは寂しいけど、パンドラズ・アクターは死ぬほど羨ましいけれど、他の守護者達と違ってこうやってお声が聞けるだけ、あたしは幸せ。
ブルブルッと首を振って、両頬をピシャピシャと手で叩いて気合を入れる。
「よおーし! お仕事始め!」
うん、現場監督が元気無かったらダメだもんね! 見ててくださいぶくぶく茶釜様!
あたしもマーレも、アインズ様のために全身全霊で頑張ってますから!
いつか、いつかきっと、もう一度お会い出来るって信じてますから!
その時が来たら、あたしがお二人のキューピットになりますからね!
そうなったらアルベドもシャルティアも、沈黙するしか無いに決まってる。
至高の御方同士のベストカップルに、口を差し挟める訳が無い。
そしてあたしはみんなの前で高らかに宣言するんだ。得意満面に、こう言うんだ。
どう? あたしには最初から分かってたんだって。
アインズ様のお妃様に相応しいのはこの世でただお一人。
ぶくぶく茶釜様なんだ、って。
──あたしはすべてを捧げて、今日もアインズ様にお仕えする。
いつか来る、その日を夢見て。