自己紹介と挨拶を終え皆が椅子に座った時、アルフの耳はちょっとした物音を捉えていた。
「ラナー王女殿下、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。それと、私のことはラキュースと同じようにラナーと呼び捨てでお呼びください、私もアルフィリアとお呼びしますので」
ラナーはそう言いながら無邪気な笑みを浮かべている。
「わかりました、ラナー・・・・」
「アルフィリア、ラナーのことは呼び捨てにするのね。私もさん付けで他人行儀な感じではなく親しげに呼び捨てで呼んで欲しいわ」
「善処します・・・・」
アルフとしてはラナーの雰囲気に飲まれてつい呼び捨てで呼んでしまったが、ラキュースはそれが少し気に入らなかったようだ。
「それで、質問とはなんでしょうか?」
「あ、はい。ラキュースから何か内密な話があるとお聞きしたのですが、ここでその話をするのでしょうか?」
「はい」
その返事と共に、アルフが捉えていた気配が動く感じがした。
「・・・・・・このままだと少し無用心なので魔法を使わせてもらいます。〈
魔法が発動し、部屋の中が淡い光で満たされていく。
「この魔法は?」
「この魔法は認識阻害系の魔法です。効果は魔法の範囲外の者には範囲内の声がなんの意味もないモノに聞こえる、というものです。この部屋の隣で何人か聞き耳をたてている方がいるようなので使わせてもらいました」
「そうでしたか。これなら回りくどい言い方ではなく、直接言葉にしても問題無いですね」
そう言うとラナーの顔から笑みが消え、真剣な顔に変わった。
「アルフィリアはライラの粉末、または黒粉と呼ばれるものはご存知ですか?」
「確かこの国で最も出回っている麻薬ですよね」
「はい。この麻薬の大半を流しているのは八本指と言う犯罪組織です。
ラキュースにはその麻薬を作っている場所を潰してもらっているのですが、それを貴女に手伝ってもらいたいのです」
「私にそんな重要な事を頼んでもいいのですか?」
「ええ、貴女の事はラキュースからいろいろ聞いてます、彼女が信頼しているのなら任せても大丈夫だと判断しました。お受けしていただけますか?」
「・・・・・・はい、お受けいたします」
そんなとき、窓からスルリと入ってきた人物がいた。
クライムはそれに反応し、腰に下げている剣に手をかけるが、それが誰かわかると剣から手を離して姿勢を戻した。
「リーダー、偵察任務終わった」
「ありがとう、ティナ」
ラキュースはティナから報告書を受け取り、さっと目を通していく。
「ラキュース、その子がティナですよね」
「ええ。ティナこの子が新しく蒼の薔薇に加わったアルフィリアよ」
「リーダーとティアから話は聞いている。ティアのお嫁さん候補」
「・・・・・・ラキュース、この子とティアの中で私はどうなってるの?」
「たぶんお嫁さん候補で覚えられてるわね」
ラキュースはあきれたようにそう言った。
「それで、八本指の事だけど。私はこの地に来て日が浅いので詳しく教えて貰えますか」
アルフの質問に二人は答えてくれた。
八本指は王都を中心に活動し、奴隷売買、麻薬取引、暗殺、密輸等を生業とし、リ・エスティーゼ王国の裏社会を牛耳っているそうだ。
そして、組織の厄介なところは様々なところにコネを持ち、その範囲は貴族や王族にまで広がっているため下手に手出しできず、ラキュース達に秘密裏に潰してもらっているが、それもしばらくたてばほかの場所で同じ事が繰り返される。
他にも八本指が行っている悪事の数々が二人の口から語られた。
「・・・・・・」
「アルフィリア、大丈夫?恐い顔してるけど・・・・・・」
「え、うん。大丈夫」
無意識のうちに表情が変わっていたようだ、握り締めていた手を開くと爪が食い込んだ痕があり、血が滲んでいる。
深呼吸をして心を落ち着かせようとするが、八本指への怒りはまだ燻っている。今までの自分であれば不快に感じることはあれ、ここまで憤る事はなかったはずだ・・・・・・。
「手から血が出てる、手当てするから手を見せて」
ラキュースが心配してティナからポーションを受け取り、手を差し出してきた。
スキルを使えば傷はすぐに消えて無くなるが、ラナーの前でそれをやるのはまずいので素直にラキュースの手当てを受けることにした。
「ありがとう」
「お礼なんていらないわ、仲間じゃない」
ラキュースはポーションを指に付け、傷口に塗る。
塗って少しすると傷が消えて無くなった。
「治ったわよ。話が止まってしまったわね」
「私のせいですみません」
「謝らなくていいわ、八本指の犠牲になった人のために怒ってくれたんだもの。私はこれから作戦を練るから先に帰るわね、今夜貴女の店に行くから開けておいてね」
そう言うとラキュースはティナを連れて部屋から出ていった。
「クライム。アルフィリアと二人きりで話したいので席を外してもらえますか?」
「ラナー様、それだと警備の方が・・・・・・」
「それなら大丈夫です。アルフィリアがいますから」
「わかりました」
クライムはしぶしぶといった感じで、ラキュースの後を追うように部屋を出ていった。
部屋に残ったアルフとラナー、先に口を開いたのはラナーだった。
「単刀直入に言います。貴女は、いいえ、貴女達は十三英雄、六大神と同質の存在ですね?」
「・・・・なぜ、そう思われたのですか?」
「そうですね。幾つか要因はありますが、1番大きなモノは貴女のその強さです。
戦士達を追い詰めた集団を撃破し、200を超えるモンスターの群れを一撃のもとに壊滅させる。
それは並の人間には出来ないことです、できるとすればおとぎ話で語られるほどの強さが必要です」
「それで十三英雄、六大神ですか。だけどモンスターを倒したのはこの子ですよ」
そう言いながらアルフは肩に乗るゲオルギウス指差す。
「はい、それも要因の一つです。それほどの力を持つドラゴンは普通の人間には従いません」
「それで、ラナーは私をどうしたいのですか?」
ラナーはそれを聞き、小さく笑ってから言葉を発する。
「そう警戒しないでください。ちょっとしたお願いを聞いてほしいだけです」
「お願い、ですか?」
「はい。私はクライムが好きです、首輪を着けて鎖で繋いでおきたい程に。
ですが、私とクライムには身分と言う大きな壁があります、私はその内望まぬ結婚をさせられるでしょう。もし、クライムと添い遂げられるならこの国を捨てても構いません。ですから貴女にはいつの日か、この国から私とクライムを連れ出して欲しいのです」
一部おかしな部分はあるが、ラナーの純粋で真っ直ぐな思いが伝わって来るようだ。
「・・・・・・あー、私個人としては応援したいのですが。一国の王女様をどうこうするのはいろいろ問題があるのでしばらく保留してもいいでしょうか」
「はい。私も無茶な事とは思っておりますので」
「ありがとうございます。お詫びと言ってはなんですが、これを受け取ってください」
そう言いながらラナーから見えないようにアイテムボックスからブレスレットを取り出した。
それは紅く透き通った龍結晶で作られた細い鎖に黒龍の牙を付けたものだ。
「それは?」
「これは私が作ったマジックアイテムで効果は毒無効、精神支配無効です」
アルフはそのブレスレットを両手で包み、最近独学で学んだこの世界の魔化法で自分の魔力を追加し耐久性を上昇させる。
「これを貴女を連れ出すと言う約束の品としてお受け取りください」
「ありがとうございます。貴女の素性に関しては誰にも言いませんので、心配しないでください」
ラナーはブレスレットを受け取り、大事なものを抱き締めるような両の手で包み微笑んだ。
アルフにとってのラナー
真っ直ぐで正義感はあるが、妙な性癖を持つデミウルゴス系のお姫様
ラナーにとってのアルフ
新しく加わったクライムと添い遂げるために必要な強力な手駒