アルフは冷たい目でへたりこんでいる男を見つめながら頭を締め上げていく。
時おりパキパキと骨にヒビが入るのが手から伝わってくる。
「や、やめてくれ!言う、言うから!」
男の言葉を聞き、頭を掴んでいる手の力をゆるめる。
「では、サキュロントと奴隷部門の長はどこにいますか?」
「ち、地下だ!地下に二人ともいる!」
セバスがツアレから聞いた働かされていた場所か。
耳をすました直後、クライムが助けを呼ぶ声が聞こえた。
「しまった!!」
クライムはこちらを待たず地下へ行き、敵と遭遇したようだ。居場所を聞き出すのに時間をとりすぎた。
こんなことならクライムがいなくなった後、温存とか思わず支配を使って早く吐かせてしまえばよかった。
アルフは男の頭から手を離し、床を蹴って声のした方へと駆け出した。
声の元に近づくにつれ、血の匂いが濃くなっていく。
本気で走ろうとすると床を抜きそうで、スピードが出せなくてもどかしい。
クライムが開けたと思われる地下への階段を駆け下り、石で補強された地下通路を抜け開けた場所につくと、そこには腹部から血を流し、顔色が青を通り越して白くなってきているクライムと、対峙するように立つサキュロント、その後ろになんとも言えない人物がいる。
「クライムさん!」
「ラグナライト・・・・・様」
アルフはクライムをかばうようにサキュロントの前に立ち、短刀を構えながらクライムの傷の様子を見る。腹部を貫いたのは見ただけでも致命傷とわかるもので、ただちに治療しなければあと数分で死ぬだろう。
「クライムさん、少し動かないでください」
そういいながら、サキュロントから注意をそらさず後退り、クライムの傷に空いている左手を当ててブレスレット型のマジック・アイテムを発動する。
すると、クライムの傷が塞がり、顔色が少し良くなった。効力を発揮し、役目を終えたマジック・アイテムは砕けて地面に落ちた。
「ラグナライト様、これは」
「治癒のマジック・アイテムです。この二人は私が相手をします、傷は塞ぎましたが完全に治ったわけではありませんので下がっていてください」
アルフの言葉を聞き、クライムは入口の方へと下がった。
「あら?あの娘、ヘーウィッシュが欲しがっていた子ね、あのガキと一緒に捕まえられない?」
「情報は持っていますか?」
「ええ、確か最近蒼の薔薇に加入した子で金級の冒険者。今は連れていないようだけど、小さな黒いドラゴンがこの子の主力らしいわ。それと、私の子飼のワーカーを5人退けた子よ」
「なら、今が捕まえ時と言うことですか。料金は上乗せさせてもらいますがよろしいですね?」
「構わないわ」
「話は終わりましたか?」
「ええ、終わりましたよ」
サキュロントがそう言った瞬間、相手の姿がぶれて見えた。たぶん幻魔の由来である幻術を使ったのだろう。
だが、アルフには意味をなさない。
パッシブスキル〈神獣の瞳〉、視界に作用する効果、幻術はもとより閃光や暗闇も無効化する。
サキュロントは幻術を使い、分裂したように見せているのだろうが、こちらには分身体が透けて見えている。
この世界にも魔法職と戦士職をとっている者がいるとは少し意外だ、スキルで相手のとっている職業を見ると軽戦士、幻術士とある。この二つをとっている者の攻撃パターンとしては幻術を囮にして軽戦士特有の軽く早い動きで攻め立てるのが多いのだが、サキュロントの場合軽戦士に割り振られているレベルが少い。
そう考えていると、相手が動き出した。
サキュロントの幻は踏み込みながら剣を振りかぶり、本体が側面に回り込んで胴を薙ぐように剣を振るおうとしている。
アルフは幻から目を反らさず、短刀の峰で本体からの攻撃を受け止めた。
「なっ!!」
サキュロントは驚いた顔をして飛び退いた。
「俺の姿が見えているのか?」
「ええ、くっきりと。私には幻術の類いは通用しません、なのでおとなしく捕まってもらえませんか?」
サキュロントの顔が苦虫を噛み潰したように歪んだ。
「一撃防いだだけでずいぶんな物言いですね」
そういいながら剣を構え直し、再び踏み込ん出来る。
左下段からの切り上げ、袈裟斬り、突きと次々攻撃を仕掛けてくるが、全て短刀の峰で弾き攻撃を防御する。
動きが単純でさばきやすい、おそらく幻術に頼りすぎて剣術を蔑ろにしていたのだろう、純粋な剣の腕ならクライムの方が上に感じる。
「貴方の実力は見切りました」
アルフはそう言うと、サキュロントが持つ剣を一瞬で細切れにし、残骸がぱらぱらと地面に落ちていく。
「え?ゴハッ‼」
何が起きたかわからず、柄だけになった剣を持って呆然としているサキュロントの腹を、ぶち抜かないように加減をしながら蹴り飛ばし、サキュロントは壁に打ち付けられ、地面に崩れ落ちた。
「お見事です!」
その声にもう一つ重なって「お見事です」と言う声が聞こえた。聞こえてきたのはセバスのものであり、聞こえてきた方向はコッコドールがいた場所だった。
アルフがそちらに視線を向けるとセバスがおり、その足元にはコッコドールが気絶させられて転がっていた。
「いつの間に?」
アルフの問いかけに、セバスは平然と答える。
「つい今しがたです。皆さんの意識がサキュロントに向かっていたので、気が付かれなかったようですね」
「む」
まぁ、確かに自分のスキルでの感知は人狼の聴覚だけで、嗅覚はこちらの世界に来たとき後付けされたモノだ。しかもメニュー画面をひらかず意識一つで簡単に範囲を狭めたりオフに出来てしまう。無意識に聴覚の領域をサキュロントに絞っていたようだ、戦闘中でも広範囲を維持できるように練習しないといけないみたい。
「とりあえず、ここに囚われていた人は全て助けておきました。それとクライム君には申し訳ないのですが、幾人かは抵抗が激しかったため殺さざるを得ませんでした。お許しください・・・・・・という話をする前に治療をした方が良いですね」
セバスはクライムの元まで来ると、額に手を当てた。アイテムを使ったと言っても回復量はそれほどでもなかったため青かったクライムの顔いろが即座に健康的な状態まで戻った。
「体調が戻りました・・・・・・神官だったのですか?」
「いえ、神の力を行使したのではなく、気の力を流し込むことで治療したのです」
「セバス様は
クライムはアルフ言葉に納得した。
設定説明
〈神獣の瞳〉種族、神獣で取得できるパッシブスキル、幻術、閃光、暗闇など視界に作用するモノを無効化し、暗視も可能。普段は暗視のみを使用している。
治癒のマジック・アイテム
対象者のHPを15%回復させ、傷口を塞ぐ効果がある使いきりのアイテム。
ユグドラシルでは宝箱に入っていることがあるが効果が微妙なため主な使用方法が売却してユグドラシル金貨に換えることになっていた不遇のアイテム。