サキュロントとコッコドール、その他八本指の者達を役人に引き渡したあと、アルフはクライムに質問していた。
「クライムさん。どうしてあの時、地下への階段を見つけたときに私を呼んでくれなかったのですか?あの時サキュロントが娼館の何処かにいるのはわかっていましたよね」
「その事は本当にすみません。地下への階段を見つけた事で、捕まっている人達を早く助けなくてはと気持ちがはやってしまって・・・・・・」
「過ぎたことは仕方ないですが、今度はまた生き残れるとは限りませんよ?
今度クライムさんの気のすむまで稽古に付き合ってあげますので、日時が決まったらラキュースにでも言ってください」
「ほ、本当ですか!?」
アルフの言葉を聞いたクライムは目を輝かせ、聞いてくる。
「本当です。では、私とセバス様は帰りますので後の事は頼みます」
「はい!」
クライムはそう言うと走って去っていった。
「お優しいのですね」
「そう言うセバス様もツアレを助けたり、クライムさんに稽古を付けたりしたではないですか」
「アルフィリア様、申し訳ないのですが、私の事を様付けではなく、いつものように呼び捨てで呼んでいただけないでしょうか。至高の御方に様付けで呼ばれるのはこう、むず痒いと言いますか・・・・・・」
セバスは上の者に様付けで呼ばれ、微妙に居心地が悪いのだろう。そんなセバスにアルフは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「そうはいきませんよ、セバス様。今は屋外です、何処の誰が聞いているかわかりません。こう言った演技は徹底的にやらないといけませんよ?セバス様」
「アルフィリア様が言われていることはわかりますが・・・・・・」
セバスは苦笑いを浮かべ、仕方なくといった感じで受け入れた。
「それで今後の事なんですけど、舘に帰ったらツアレに会わせてもらえますか?」
「それは構いませんが、彼女に何か・・・・・・・」
セバスは心配そうにこちらを見ている。たぶん彼女が粗相をしないか心配なのだろう。
「彼女には今後の事を聞かないといけませんから。ちょっとした意思確認です、人の世に戻るのか、私達と共に来るのかを」
ロ・レンテ城 ヴァランシア宮殿
太陽も沈みきり、夜がおとずれた。
ヴァランシア宮殿の一室には、話し合う男女の影がある。話し合っているのはラナーとクライムであり、クライムは今回の出来事の顛末を話していた。
アルフィリアとセバスと言う執事と共に娼館を襲撃し、六腕の一人であるサキュロントに、奴隷売買の部門長であるコッコドールの捕縛。
そして、奴隷として強制労働者達の開放。
「そうでしたか、それは大変でしたね」
「はい。もし、あの時ラグナライト様が来なかったらと思うと・・・・・・自分にもっと力があれば」
クライムはうつむき、自分の手をじっと見つめている。
こんなとき、ぎゅっと抱き締められたら良いと思うが、立場や人目があるため自由に振る舞えないでいる。
「それで、アルフィリアの戦いを見てどう思われましたか?」
「圧倒的の一言です。鉄で補強された扉を容易く切り裂き、相手の攻撃を見切る技量。剣を指で砕き、首を握力のみで切断する力。彼女はいったい何者なのでしょうか?もしかすると十三英雄の生残り、またはその子孫なのでしょうか?」
クライムは目を輝かせて話してくる。彼女の事は女性としてではなく、絶対強者に対する憧れの目で見ているようだ。
「どうでしょう、彼女本人に聞いてみてはいかがですか?」
アルフィリアには正体を喋らないと言ってしまっている。クライムになら話しても問題ないとは思うが、こちらが言ったことを曲げた事で約束を反故にされる可能性がある。
「今度ラグナライト様に稽古を付けてもらえることになったので、その時にでも聞いてみます」
「少し話がそれてしまいましたね。これからの話なのですが、明日、遅くても明後日には、ラキュースが持ってきた羊皮紙に載っていた八本指の施設に対して攻撃を仕掛けます。今回の娼館襲撃で、時間が経てば経つほど警戒が厳重になると予測できますので」
「申し訳ありません! 私が勝手なことをしたことで!」
「いえ、気にしないでください。踏ん切りがついたと思うべきです。相手が王都から情報を持ち出す前に、もう一撃。明日は激動の一日になると思います。それを心してください」
クライムが部屋から出ていく。血の臭いが和らいだような気がする。
やはり思った通り、アルフィリアは当たり札のようだ。クライムの事も快く思っているようだし、彼の力不足を憂い技量向上を自ら買って出でてくれた。
他の女と親しくするのは余り良い心地はしないが、彼女であれば問題ないだろう。クライムは彼女の事を憧れの目で見ており、恋心を抱く可能性はほぼ皆無。
アルフィリアに関しては男性に恋愛対象としての興味が無いように見える。
この騒動でこのまま彼女の側についていれば強くなれるし、少し危険はあるが大怪我をしても今回のように無事に帰ってくる。なによりこの件でクライムが功績をあげれば、自分の望みがより磐石なモノになるだろう。
そんなことを考えながら、メイドを呼ぶためのハンドベルを鳴らす。
さて、どんな顔をして話そうか。そう思いながら鏡の前に立ち、頬を上下にもにゅもにゅと動かし、今日の当番であるメイドの事を思い出す。
アレはクライムに反感を覚えている、アイツはどうやって殺そう。
私のクライムを馬鹿にする者はみんな殺す。
そんなことを考えながら無邪気で愚かな姫を演じ、部屋に訪れたメイドに、情報と言う毒を流し込んでいく。