「何だと、お前が俺を倒すと?」
その声には怒気と苛立ちが混ざっている。
恐らく目の前にいる女は本当の事なのだろう、得物から判断するに昨日襲撃があった娼館の裏口を切り裂いたのはこいつだ。
見た目はどうであれ、少なくともサキュロントを一撃で倒す実力があるのは確かだ。油断して隙をつかれれば俺でも危ういかもしれん。
「俺はそこに転がっているサキュロントとは違うぞ!」
俺が持つ最強の一撃を放つため、足の
ゼロの全身の刺青が淡く光り、筋肉が盛り上がる。
この一撃で終わらせる。
アルフは深紅の短刀を握り直し、軽く腰をおとす。
次の瞬間には床を蹴り、全力の一撃を打ち放つ。
正面から踏み込み、全力で殴りつけるという単純なものだが、様々スキルやマジックアイテムを使い極限まで強化した一撃は無敵。
小手先の技術で破れるようなものではないという絶対の自信があった。
拳は腹に突き刺さり、内臓の全ては破裂し、アルフの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
本来そうなるはずだった。
目の前には信じられない光景があった。
アルフはその場から一歩も動いていない。それどころか切り札である最強の一撃を人差指一本で勢いを殺し、受け止めている。
「やはりこの程度か」
拳の先、目の前の女から冷めた言葉と共に異様な気配が放たれる。
アルフの見た目には変化はない。だがなんだ、この強大な魔獣と対峙したような感覚は。
「・・・・・・なんなんだ、お前は」
ゼロが呟き、アルフの冷たい視線が突き刺さる。
ヒュンッという風切り音が聞こえ、ドサッと何かが床に落ちた。
「・・・・・・う、腕が。俺の腕がああアァあ⁉」
ゼロは右肩から先を失い、大量の血を流しながら後ずさる。
「クライムさん、この人は生け捕りにした方が良いですか?」
「・・・・・・はい、出来るのであれば」
クライムは呆然とした様子で返事をする。
自分では手も足も出なかった相手がこうも簡単に倒された事に、理解が追い付かないのだろう。
アルフはゼロに魔法をかけて眠らせ、切断された腕にンフィーレアに作ってもらった青いポーションをかけて傷口をふさいだ。
ゼロの事と拠点の家捜しをクライムと盗賊、あとから来た兵士達に任せて建物の外に出て伸びをする。
念のためソリュシャンとクレマンティーヌがどうしているか確めるため、千里眼を使って訓練所の様子を確認する。
そこには凍った地面と、建物の調査する兵士がいるだけでソリュシャン、クレマンティーヌ、六腕の者達の姿がない。
二人はすでにナザリックに引きあげたようだ。
とりあえずこの件で六腕の壊滅、六腕最強のゼロの生け捕りという功績をクライムのいる襲撃班にあげさせる事ができた。
このあとゼロが牢屋から消えても八本指の仲間が何かしたことにできるだろう。
「アウラ。私が腕を切り飛ばした男、後で使うから隙を見てさらってきて」
「了解です!」
アウラからゲオルギウスを受け取り、彼女は敬礼をすると屋根の上へと飛びあがって姿を消した。
「ん?あれは」
アウラの姿を追って視線を上に向けていると、空が一分明るくなっているのに気づいた。
ゲオルギウスを頭に乗せて屋根の上にのぼると、王都の一区画が高さ三十メートルを超えるような炎の壁に包まれていた。
熱量は無く、物が焼ける臭いもしない。
「ゲヘナの炎・・・・・・ということはデミウルゴスが動いてるのか」
時間を少し遡り、襲撃をかける予定の館の入り口。
そこには異様な者が立っていた。
その者は南方の国の民族衣装とメイド服を混ぜたような服を着ており、人間の一部と思われる肉を食んでいる。
「よぉ、良い夜じゃねぇか」
「・・・・・・良い夜かなぁ。あなたにとっては全然良くない夜だと思うけどぉ?」
その女は可愛らしい容姿と声をしているが、顔に何か違和感を感じる。何か面を被っているような、そんな感じだ。
「おめぇはこんなところでなにしてんだ?」
「散歩ぉ」
「・・・・・・何を美味そうにもりもり食ってたんだ?」
「お肉ぅ」
「・・・・・・・・・・・・人間の?」
「そうだよぉ。人間のお肉ぅ」
さっきから観察しているが、喋っているときに口が動いていない、それに人を食っている事から十中八九化け物の類だ。
ガガーランはゆっくりと
「あのさぁ。お互いにさぁ、見なかったことにしない?」
「・・・・・・わりいな。これでも王国でトップを張っている冒険者なんだわ。人喰いの化け物をはいそうですかって見逃すわけにはいかねぇ。人間の世界にいてもらっても困るしな」
「ん~、あなたには手を出すなって言われてるんだぁ」
「どういう事だ?」
問うてみたが返事は無い。いろいろ気になることはあるが考えても仕方ない。
地面を蹴り、刺突戦鎚を思いきり振り下ろす。
だが、その攻撃は何処からか現れた巨大な蟲に防がれた。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。