オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第90話

「くそ、きりがない!こいつら何処から湧いて出てくるんだ?」

 

ガガーランの怒鳴り声と刺突戦鎚が悪魔を屠る打撃音が響く。

モモンがヤルダバオトと建物に突っ込んでから数分、路地や建物の屋根から悪魔達が湧くように現れてくる。

 

「ガガーラン、こいつら食べてクラスチェンジして。そうすれば戦いが楽になる」

 

「姉妹そろって同じような事言ってんじゃねぇ!」

 

ティナの言葉にガガーランが怒鳴り返す。

 

こうしてバカな会話をしている内はまだ大丈夫だ。

だが、引っ掛かる事がある。あの虫のメイドは何処に居る?それにヤルダバオトほどの悪魔ならアレと同格の僕が複数いても不思議ではない。

ここまで攻め込んで出てこないのは何かの企みか・・・・・・。

 

考えていても仕方ない。今はモモンの戦いを邪魔させないため目の前の悪魔達を足止めするしかない。

 

そんな時、モモンが戦っている建物から大音を響かせ、土煙を引きながらヤルダバオトが飛び出してきた。

ヤルダバオトの衣服の所々に刃物で切り裂いた傷があり、仮面にもヒビが入っている。

 

「なかなかやりますね。これほどの戦士が王都にいたとは」

 

「世辞はいい」

 

ヤルダバオトに続き、モモンが建物から歩み出る。

モモンの右手には氷の剣が握られ、鎧にはヤルダバオトが付けた傷が無数にあり、激しい戦いであったことが見てとれる。

 

「モモン様!」

 

「イビルアイさん、私は大丈夫です、今の戦況は?ラグナライトさんはまだ来ていませんか?」

 

「悪魔の強さはそれほどでもないが、数が多い。アルフィリアはまだ来ていないがこちらに向かっている」

 

そう言いながら空を見上げる。

夜明けが近く、白み始めた夜天には常人には見えないが小さなドラゴンが飛んでいる。

黒龍・ゲオルギウス、あのドラゴンはアルフィリア達の真上を旋回するよう指示されている。そのドラゴンがこの場所のほぼ真上に来ていると言う事は。

 

 

 

 

 

 

 

(さて、どうしたものか)

 

今回の目的はほぼ達成されている。後はあのアイテムの存在を知らせて撤退すればこの作戦は終わる。

だが、今すぐ引いてしまうとアルフィリア様と対峙する事なく終わってしまう。

コキュートス、シャルティアのように彼女の力の一端をこの身に受けてみたいと思う反面、彼女と対峙したくないと言う思いもある。

 

そんな事を考えていると、聞き覚えのある声が響き渡る。

 

 

穿つ氷柱(ピアーシング・アイシクル)

 

 

言葉が響くと同時、右方向から複数の氷礫が飛来する。

 

見たところ何も強化が乗っておらず、何もしなくても防げるがここはあえて行動を起こす。

氷礫を羽虫払うように手の甲で弾く、弾かれた魔法は砕けて消滅した。

 

「この程度の魔法では傷ひとつ付きませんか」

 

魔法が飛んできた方向に視線を向けると、予想していた人物がそこに居た。

純白の衣を纏い、白銀のヘルム、プレートメイル等の防具を身につけた、戦乙女然としたアルフ。

ただ、違和感があるとすればその手に装備された漆黒のガントレット、その存在が浮いているように感じる。

 

それは彼女が本気を出す気が無いと言う意思表示だ。

だが、その手加減がこちらに致命傷を与えないとは言い切れない。

 

「初めまして、デミ・・・・ヤルダバオト。あなたがこの件の首謀者、と言うことで間違いないですね?」

 

「そう言うことになっております」

 

「そうですか。あなたは悪魔に命令して無抵抗の女子供にまで手を下したと・・・・・・」

 

「そうなりますね」

 

「・・・・・・そうか」

 

その言葉と共にアルフの纏う空気が怒気を含むモノに変わった。

その変化に身構える、距離は50メートルほどあるがこの距離を一瞬で詰めて来るのは戦闘記録を見てよく知っている。

 

アルフは一歩、二歩とこちらに歩を進め、三歩目を踏み出そうとした瞬間、彼女の姿が煙のように消え失せた。

 

全力で地面を蹴り、後方へと退避する。

直後、目の前を業風が薙いだ。

自分がかわした事により空振りしているが、もしその場に居れば拳が急所を直撃していただろう。

 

「む・・・・・・」

 

先程まで立っていた位置から20メートル後方に着地し、アルフを見る。

 

(アインズ様の話によれば、この一撃を避ければアルフィリア様は冷静になり最悪の事態は免れる、との事でしたが・・・・・・)

 

「アレをかわすとは、なかなかやりますね。誰かに聞きましたか?」

 

アルフは突き出した拳を引戻し、拳を見ながら握ったり開いたりしている。

 

「偉大なる御方にすこしばかり」

 

アルフにしか聞こえないように囁くように言う。

 

「・・・・・・後でちゃんと話し合わないといけないかなぁ」

 

彼女の顔は笑っているが目が笑っていない、アルベドとシャルティアがアインズ様の目の前で喧嘩する時によくこんな顔をしている。

 

「まぁいいです、とりあえず貴方がしたことが許せないので2、3発殴らせて下さい」

 

「それは遠慮させていただきます」

 

言い終わると同時、アルフが目の前に迫る。

先程と違うのは攻撃が見える速度で行われている所だ。

 

アルフの攻撃を爪により迎撃する。

爪とガントレットがぶつかり合う事により、火花が激しく飛び散る。

 

両の拳による乱撃を防ぐ中、ふと違和感が込み上げる。

 

何かを見落としているようなそんな違和感・・・・・・。

 

「戦闘中の考え事はやめた方が良いよ、<地柱(アース・ピラー)>」

 

「なっ!!」

 

攻防の最中、地中から高速で突き出す土の柱により宙に放り出される。

 

 

 

「ペロロンチーノさん、ティア、今!」

 

「あいよ!」

「了解」

 

<影縫い>

<金縛りの術>

 

ペロロンチーノの矢がゲヘナの炎に照されて出来たヤルダバオトの影を射抜き動きを止め。ティアが金縛りの術でバインドを重ね掛けする。

 

「・・・・・・なるほど、そう言うことでしたか」

 

アルフが気を引いて隙を作り、支援の二人で完全に動きを止めさせる。

だが、自分には行動阻害に対して耐性を持っている。それを容易く掛けられるとなると、あのアルフとの攻防時、いつの間にか耐性を無効化させられていたらしい。

 

「悪く思わないでね」

 

身体が動かず視線のみで声のする方、上を見るといつの間にかアルフの姿がそこにある。

アルフは両の手を祈るように組んで振り上げ、全体重と落下スピードを乗せてヤルダバオトの背中へと振り下ろす。

 

「がはっ!」

 

背中を強打され地面に叩き落とされ、土煙が立ち込める。

 

「モモンさん、今です!」

 

「え?・・・・・お、おう!」

 

モモンは両の手の剣を握り締め、駆け出した。

 

「やはり、最後は貴方ですか!」

 

ヤルダバオトが土煙の中立ち上り、駆けてくるモモンを見据え身構える。

 

「ヤルダバオト、覚悟!」

 

モモンの剣がヤルダバオトを横凪ぎに一閃する。

 

しかし、ヤルダバオトは刀身を右手で受け止めた。

 

「ここまで追い詰められるとは思いませんでした。このままでは分が悪いので退かせていただきます」

 

そう言うと刀身を握り込み、黒炎を上げて溶け落ちる。

モモンは剣を手放し飛び退いた。

 

「では、ごきげんよう人間達。あのアイテムが見付からなかったのは心残りではありますが」

 

「モモン様!ここで逃がしてはいけません!」

 

イビルアイが声をあげるが、モモンは動かずヤルダバオトに視線を向けている。

 

「貴女の頭は飾りですか、なぜ私が僕を連れずここに来たと思っているのですか?」

 

そう言うと、ヤルダバオトを指を鳴らす。

直後、王都の数ヶ所で巨大な火柱が上がった。

 

「なっ!そう言うことか、王都を人質に・・・・・・」

 

「わかっていただけたようで何よりです、それでは」

 

ヤルダバオトは一礼すると翼を広げ、飛び去っていったい。




ようやくヤルダバオト戦決着しました。

王都編終わらせたいですがもう少し続きます。

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