大悪魔ヤルダバオトの襲撃から1週間、私はアルフィリアの店の裏口に来ていた。
目的はいくつかあるが主な物はアレだ。
別にガガーランの言葉が気になったとか、急所に刺さったとかではないが私の今後にかかわる事ではある。
なかなか言う勇気が出ない、ここで言わなければあの御方との中は進展せず一同業者としか見てもらえない可能性すらある、その事態は何としてでも避けたい・・・・・・。
私は意を決し、裏口の戸を叩く。
少しすると扉が開かれたのだが、出てきたのは見知らぬ人物だった。
メイド服に身を包み、白銀の長髪に深紅の瞳、アルフィリアと同じく作り物のように整った美しい容姿の少女。
「イビルアイ様ですね、御父様からお噂は伺っております、どうぞこちらへ」
そうして通されたリビングにはアルフィリアとぶくぶく茶釜がいるのだが・・・・・。
ソファーでくつろいでいるぶくぶく茶釜はこちらを見て手招きをしながら自分の隣をポンポンと叩いている、ここに座れと言う事だろう。
向かい座っているアルフィリアは何やら遠い目をしながらテーブルの上に浮いている火に向かって筒状に括ってある羊皮紙を放り込んでいる、放り込まれた羊皮紙は灰や塵すら残さず跡形もなく燃え尽きていく。
おそらくマジックアイテムか何かだろう。
そんなことを思っていると、羊皮紙がひとつ火を通り抜けテーブルの上に落ちた。
「ではイビルアイ様、こちらでおくつろぎください。いまお茶を用意いたします」
そう言うと、少女は台所へと行ってしまった。
私はぶくぶく茶釜の隣に座り、アルフィリアを観察する。
「なあ、ぶくぶく茶釜。アルフィリアは何をやってるんだ?」
「あれね、これ読んでみる?」
そう言って手を伸ばしアルフィリアの隣に山と積まれた羊皮紙からひとつ引き抜いてこちらに渡してきた。
見た目はただの封書だ。
上質な羊皮紙を使い、深紅の帯で括られ結び目には封蝋が押してある。
封を解き羊皮紙を開いて読むと、そこにはアルフィリアへの愛を告げる内容がこれでもかと言うぐらい書き連ねてあった。
「それ全部こんな内容なのか?」
「だいたいね。で、中にはこんなのもあったりする」
そう言うとテーブルの上に転がった羊皮紙を指差した。
「貴女はアンデッドだから精神作用系の魔法は通じないけど万が一があるといけないから鑑定魔法使ってね」
言われた通り鑑定魔法を使ってみる。
そうして読み取った情報に眉をひそめる。
「魅了のスクロールか」
「あの悪魔の襲撃から三日目からだったかな。
アルフさんを我が物にせんとあれやこれやと考え、直接愛を語ってみたり、文で愛を綴ってみたり、誘拐して手篭めにしようとしてみたり、そして魔法で魅了をしてみたり。貴族様は暇をもて余してるみたいで何より」
「で、これをどうする」
「んー、スクロールは送ってきた貴族を好きになるよう指向性持たせてるみたいだしそこらのオーガ(♂)か大型魔獣(♂)にでも使うかな」
「・・・・・・まぁ、ほどほどにな。それより、先程私を案内していたメイドは何者だ?アルフィリアの事を御父様と言っていたが」
「ああ、あの子は端的に言うとアルフさんの実の娘で」
「娘!?アルフィリアと同じ位の年に見えるが父親は!」
「ぶくぶく茶釜様、言葉が少なすぎます」
声の方へと視線を向けると、話題の人物がティーセットを乗せたトレーを持ってテーブルの横に立っていた。
「いやぁ、その方がいろいろ楽しめると思って」
メイド服の少女はため息をつきながらカップに紅茶を注ぎ、三人の前に出した。
「改めまして自己紹介を。私の名前はマリア、錬金術により御父様に作っていただいた最初のホムンクルス、魔法によって創られた人間ですので御父様は童貞であり処女でございます」
そう言い放つマリアの顔はどこか誇らしげである。
「・・・・・・マリア、人の性事情を他人に話さないでくれるかな?」
アルフィリアはいつの間にかマリアの背後に立っており、彼女の後頭部を鷲掴みギリギリと締め上げる音が聞こえてくる。
よく見るとマリアの足が床から離れている。
「御父様痛いです、頭が割れてしまいます」
抑揚の無い冷静な声からして痛くないだろうし、この様子を見ているとおそらくガガーランの刺突戦鎚の直撃を受けても潰れはしないだろう。
「それより、イビルアイ様。本日のご用件はなんでしょうか?」
アルフィリアは反省する様子の無いマリアの頭を離し、ソファーに座りため息をついた。
「そ、そうだったな・・・・・」
ついにこの時が来てしまった。
どう話していいものかと顎に手を当てて思考するがその時、気になるものが視界に入った。
リビングのすみに溶けた剣と半壊した漆黒の鎧が置いてある。
「あ、アルフィリア。あの剣と鎧はもしやモモン様の!」
「うん。一昨日修理を頼まれて預かってるんです」
「やっぱり気になる?」
気付くとぶくぶく茶釜の顔がすぐ近くに迫っていた。
彼女の纏う雰囲気はガガーランがクライムをからかう時に似ている気がする。
「それは気になるよね、何せピンチを救ってくれた騎士様のだもんね。もしかして、用事もそれに関連する事かな?」
「なっな、な、な!」
「何故その事を知っているかって?そりゃこれを見ればねぇ」
ぶくぶく茶釜の手にはスクロールがあり、中身は恐らくモモンがイビルアイを助けている場面だろう。
「さぁ、何もかも話してしまいなさい」
私はぶくぶく茶釜の圧に負け、すべてを話すことになってしまった・・・・・・。
遅くなって申し訳ありません。ようやく書けました。
祝オバマス配信。
今のところ無課金でチマチマガチャ回しながらストーリーを楽しんでおります。