剣姫と白兎の立場を入れ替えたのは間違っているだろうか   作:Hazakura

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第2話 動き出す物語

 ステイタスの更新が終わり、アイズが着替えを行っている最中、ヘスティアは準備した用紙に更新したステイタスを書き写していた。

 

「はい、これがアイズ君のステイタスね」

 

 ヘスティアからその用紙を受け取る。

 まじまじとそれを見つめ……。

 スキルの欄に何か消した跡を見つけ、小首を傾げた。

 

 そんなアイズを見かねてかヘスティアが口を開く。

 

「……ん、ああ、ちょっと手元が狂ってね。いつも通りスキルは空欄だから、安心して」

「……そうですか」

「話を戻すけど、ベル・クラネル、だっけ? そんな格好よくてべらぼうに強いんだったら他の女の子達がほっとかないよ。その男だって、お気に入りの娘の一人や二人囲ってるにきまっているさ」

「……え」

「ふんっ。いいかい、アイズ君? そんな一時の気の迷いなんて捨てて、もっとよく考えるんだ。少なくても僕の目の黒いうちは、男なんかに可愛い娘を渡してやるもんか」

 

 神様はそれからもクラネルさんのことを罵り続けた。

 何だかやけに機嫌が悪い。

 アイズは何か地雷を踏んでしまったと後悔した。

 

 女神ヘスティア――天界の処女神(スリートップ)。アイズに対してかなりの過保護。そして変態。

 

「ま、ロキの【ファミリア】に入っている時点で、ベル何某とかいう男とは婚約できっこないんだけどね」

「……」

 

 ヘスティアがアイズに止めを刺した。

 アイズの世界(とき)が止まる……。

 

 別の派閥と深い繋がりを持つということは弊害が生まれやすいーー。

 規律のためにも神様達はファミリアの管理だけは厳しかった……。

 

 他にも神様同士の仲が悪ければ、相手のファミリアはそれだけで敵対関係に当たる。ーーよって、他派閥の男女が健全なお付き合いをするのは中々に困難なのである。

 

「まぁそんな男のことなんて忘れて、これを見るんだ! ジャジャーン!」

「!!!」

 

 落ち込んでしゅんとなっているアイズの前に大量のじゃが丸君が姿を現した。

 

「露店の売り上げに貢献したということで、大量のじゃが丸くんを頂戴したんだ! 夕食はパーティとしゃれ込もうじゃないか! ふふっ、アイズ君、今夜は君を寝かさないぜ?」

「神様すごい……」

 

 いつもセクハラをしてくる変態が今日はスゴイ御方に見えた。

 普段、表情に乏しいアイズがぱあ、と明るくなる。

 こうして、二人きりのじゃが丸君パーティは夜遅くまで開かれたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……重い」

 

 息苦しさを感じ、アイズは目を覚ました。

 瞬きを数度繰り返し、体を起こそうとして……はたと気づく。

 シーツに包まれた丸いものがアイズの上に乗っかっている。

 手を伸ばさなくても一目で分かった。ヘスティアだ。

 部屋にはベッドが一つしかないので、アイズは仕方なくヘスティアと共に寝ていた。

 そして、この朝の光景にも見慣れていた。

 ベッドの上から頭を巡らして、壁に備え付けられている時計を確認する。

 

(あと10分……)

 

 時計の針は起床予定の少し前を指していた。

 ヘスティアを起こさずにベッドを抜け出す自信はあったが……。

 う~ん、と働かない頭を悩ませていると、ヘスティアの手がアイズの胸へと伸ばされた。

 

 

 むにゅ。

 

 

 ……モミモミ

 

 

「ッ!?」

 

 条件反射でヘスティアを突き飛ばす。

 突き飛ばされたヘスティアはベッドを勢いよく転がり、

 

 

 

 ――――落ちた。

 

 

 

 ゴンッ! と聞こえてはいけない鈍い音がした。

 

「へぶっ!!」

 

 その衝撃でヘスティアから奇声が上げる。

 やっちゃった、とアイズは呟いた。

 ベッドの下に恐る恐る目を向ける。そこでは……

 

『うおおおおおおおおおお』

 

と、顔を両手で押さえ転がり回り悶絶している主神がいた。

 

 どうやら顔面にヒットしたらしい。

 ヘスティアの元気な姿にひとまず安堵する……が。

 

 アイズは気付いた。

 彼女の周りにある何か黒いオーラのようなものを……。

 主神から流れ出る邪念の電波をアイズは確かにキャッチした。

 

(そうと分かれば長居は無用……)

 

 彼女には目もくれず、ささーっと速やかに装備を身に着け、音もなく部屋を後にしたのだった。

 

「看病してくれると思ったのに……アイズ君のあほぅ」

 

 静まり返った部屋で手に何かの余韻に浸りにやけながら、悔しそうに一人愚痴をこぼす器用な紐神様であった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 少し肌寒く感じる朝の空気に吐息を溶かす。

 アイズはまだ人通りの少ないメインストリートを一人で歩いていた。

 

(……朝ご飯食べてなかった)

 

 クゥーとお腹から聞こえた悲鳴に、アイズは、とぼとぼ歩きながらへその辺りをさする。どうしようと頭を悩ませていると……

 

「あの……」

「!?」

 

 ばっ、と振り返った。

 考え事をしていたせいで周りが見えてなかった。

 すぐさま反転し身構える。

 声をかけてきたのはアイズと同じ、ヒューマンの少女だった。

 服装は若葉色のジャンパースカートに、その上から長めのサロンエプロン。髪と同色の瞳は純真そうで女のアイズから見ても可愛らしい。

 

「ご、ごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」

 

 慌てて謝るとその少女も頭を下げてきた。

 通行人から見ると道端で可愛らしい少女二人がお互いにペコペコと頭を下げている微笑ましい光景。

 年はアイズより少し上くらいだろうか。

 一つ二つくらいしか離れてないようにも見える。

 

「……」

「あ……はい。もしかして、お腹が空いているのでは? と思いまして」

 

(なぜ、それを!?)

 

 アイズは目を見開いて驚愕を露わにする。

 

「私、そういうのを見抜くのが得意なんです」

 

 クスッと笑みが返って来た。

 アイズは恥ずかしくなり顔を隠すように俯く。

 その少女は、少し待っていてくださいと言い残し一旦店内へと消え、ほどなくして戻ってきた。

 ここを離れた際にはなかったもの――ちんまりとしたバスケットが、その細い腕に抱えられていた。

 中には小さめのパンとチーズが見える。

 

「これをよかったら……。まだお店がやってなくて、賄いじゃあないんですけど……」

「……そんな、悪いです」

 

 アイズは受け取れないと両手を突き出し、ふるふると顔を横に振る。

 店員さんはちょっと照れたようにはにかんだ。

 

「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だから、冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?」

 

――えっ、ずるい。とアイズは思った。

 

 そういう言い方をされたら断れるわけがない。

 例え、口下手のアイズ以外の人でも結果は同じだろう。

 困り果てながらアイズが返答に窮していると、店員さんはアイズの手を取り、『はい』とバスケットを渡した。

 

「……ありがと」

 

 アイズは申し訳ないと思いながらも感謝を口にした。どうしたしまして、と無垢な笑みが返ってくる。

 

「自己紹介がまだでしたね。私はシル・フローヴァ。どうぞシルと呼んでください」

「……アイズ・ヴァレンシュタイン、です」

「それじゃあ、アイズさんと呼びますね」

 

 シル・フローヴァ……。

 アイズは店員さんの名前を小さく呟いた。

 彼女の名前と感謝の気持ちを忘れないために。

 そして意を決し口を開く。

 

「あ、あの……」

「?」

「今度、何かお礼がしたい……です」

「そんなに、気を使わなくても――」

 

 アイズのまっすぐな眼差しにシルは、少し困ったような表情を浮かべる。

 そして、彼女は閃いた。アイズと再び会う口実を……

 

「では、お金に余裕ができたら私が働いている店に来てください。味には、自信がありますよ。私が保証します!」

 

 アイズは今夜にでも店に寄ろうと決意したのだった。

 

『お金に余裕ができたら』

 

――この言葉の真意を深く考えずに……

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『『『『『ガアアアッ!』』』』』

 

 コボルトの群れがアイズの前に現れる。場所はダンジョン一階層。

 早朝ということもあり、他の冒険者の姿が全くない。

 コボルトが群れていること自体、稀だ。

 大抵一、二匹でダンジョン内を徘徊している。

 この場面では、逃げるのがセオリー。

 包囲網を作られては駆け出しの冒険者には為す術がない。

 しかし、アイズは引く事を知らない。

 ミノタウロスの時に砕けた剣の代わりに約5000ヴァリスで買った新しい剣を抜き放つ。

 コボルトは計十匹。

 

 アイズは駆けた。

 人に限らず生物とは自分が優位に立つと余裕が生まれる。

 それが、慢心に繋がり隙となることもある。

 コボルトは意表を突かれ、すでに三匹が屠られた。

 コボルトが反撃する。

 アイズは鋭い牙や爪を剣で弾き、包囲網が敷かれる前に集団から距離を取った。

 残り七匹……。

 

 コボルト達も仲間が屠られたことでこちらを警戒している。

 さっきのような隙が見当たらない。

 それからは一進一退の攻防が続いた。

 ダンジョンの一階層は広い。

 よって、一対多数では、囲まれるリスクが高かった。

 しかし、スペースがあることはアイズにとっても悪い話ではない。

 常に移動ながら立ち回ることで、ダンジョン内での基本となる常に一対一の状況を作りだし、奇襲をかける。

 一匹、また一匹と少しずつコボルトを撃破した。

 地形を有利に活用する。エイナさんに叩き込まれた知識がしっかりと血肉となっていた。

 集団から離れ、飛び掛かってきたコボルトをいなし、のど元に刺突する。

 グサッと音がなり、コボルトから悲鳴にならない悲鳴が上がる。

 アイズが剣を引き抜くと血飛沫が上がり、バタリと力なく倒れた。

 残り四匹。

 

 同胞が次々と倒れていく姿を目の当たりにしたコボルト達はパニックを起こしていた。

 突っ込んでくる者、動かない者、個体によって反応は様々だ。

 その隙をアイズは見逃さない。集団に向かって突撃する。

 そして流れるような剣舞でまた一匹斬り伏せた。

 残り三匹。

 

 この時点でアイズの勝利は決定した。

 残った数のコボルトではアイズを包囲することは出来ない。

 知能の低い下級モンスターでは巧妙な連携は取れないからだ。

 今、一匹の首をはねた。ブシャーと血飛沫が宙を舞う。

 残るは二匹のみ。

 恐怖の眼差しを向けてくるコボルト達をアイズは時間をかけずに屠った。

 

「……勝てた」

 

 動かなくなったコボルトの群れの横でちょこんと腰を落とす。

 この数を相手取るのは初めてだったけど何とかなった。

 

 【ヘスティア・ファミリア】の構成員はアイズ一人。

 もちろん、冒険者としての指示を仰げる人はいない。

 頼れるのは、幼いころに父親から教わった剣術と自分の力のみ。

 しかし、アイズには強くなれる環境(ダンジョン)があれば十分だった。

 アイズには悲願がある。

 そのために強さを求めた。

 それに追いつきたい目標も……。

 アイズの脳裏にベル・クラネルさんに助けられた時の憧憬が思い浮かぶ。

 

「……」

 

 ボフッっと音をならして一気に顔が沸騰した。懸命に首を横に振り脳裏のイメージを取り払う。落ち着きを取り戻すには、しばしの時を要した……。

 

 

 

 

 落ち着きを取り戻した所で、そういえば――と。

 ふと祖母の顔が頭に浮かんだ。何か言っていたような……? 

 ダンジョン内の殺風景な景色を軽く見上げ、しばし黙考する。

 育ての親である祖母はアイズが冒険者になることに反対だった。

 女の幸せは別にあると。

 しかし、最期には後悔のないように生きろと言ってくれた。

 祖母が亡くなってからは、残った財産を持って村を飛び出した。

 そして、今に至る。

 祖母のことを考えたが、よく変な発作を起こしていた印象が強すぎたので、結局わからなかった。

 

 アイズは立ち上がってコボルト達の死体に足を運ぶ。

 短刀でコボルトの胸を抉り、魔石を摘出した。

 魔石を取り除いたコボルトは全身が灰となり跡形もなく消える。

 アイズは灰になったコボルトを最後まで見届けると、やがて同じ作業を繰り返し始めた。

 全ての魔石を摘出したあと、アイズは再び獲物を求めて歩きだしたのだった。

 

 




《補足》
アイズの生い立ちは、両親⇒ヤンデレ(祖母)⇒現在って感じです。
天然のアイズがゼウスの言葉を真に受けてハーレムを目指したら大変なので笑

ちなみにベル君は、祖父⇒ロキファミリアです。
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