剣姫と白兎の立場を入れ替えたのは間違っているだろうか   作:Hazakura

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第9話 英雄からは逃げられない!?恋と羞恥の攻防戦!!

 

 ーーこれは記憶ーー

 

 この時は、まだ明日が必ず来ると信じていた。

 裕福な暮らしとは言えなかったが、日々の暮らしには毎日のように新たな刺激があり、喜びや悲しみを共有出来る家族(仲間)がいた。

 今だからこそ言える。

 あの時は幸せだったと……。

 この生活はまだまだ続く。

 果てなき夢への旅路はまだ始まったばかり。

 そう思っていたが、終わりは唐突に訪れた。

 

 絶叫が轟き、血飛沫(ちしぶき)が飛ぶ。

 火の粉が舞い、仲間の四肢が転がる。

 巨軀(きょく)な影が次々と仲間を切り刻み、貫き、捕食する。

 死の化身。破壊の権化。

 圧倒的な暴力を前に全てが蹂躙された。

 家族(仲間)が肉塊へ変わり果てる光景を前に、何も出来なかった。

 その怪物は、私達の抵抗など簡単に跳ね除け、虐殺を執行する。

 無力、恐怖、絶望、悲しみ、怒り、憎しみ。

 言葉では形容出来ない負の感情の数々。

 仲間と己の命を犠牲にして、何とか一矢(むく)いるも、すぐに限界が訪れた。

 遠のく意識の中でふと走馬灯が駆け巡る。

 

『私達が灰になって天に還った時、神様に叩きつけてやりましょう! これが私達の正義だって! 悩んで、間違って、ボロボロになって、それでも辿り着いた答えはこれだって、私達の生涯をもって証明するの!』

 

『もし、私が先に死んじゃったら、うじうじしてる貴方達の背中を天界から戻ってきて、どついてあげる!』

 

 私達を蹂躙した怪物と共に、奈落の底へと落ちてゆく中で、一つの想いが残った。

 その想いの名を『未練』とも言う。

 

 

 私の答えはまだーー。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ーー知らない天井。

 

 ぼんやりとする頭で、なんとなく辺りを見回した。

 知らない部屋、知らないベット、知らない布団。

 そして私の英雄ーー。

 

 なんだか頭がぼうっとしており、視覚から入ってくる情報がうまく整理出来ない。

 例えるなら、雲に包まれて空に浮いている感覚だろうか。

 お日様の香りが優しく鼻腔をくすぐる。

 安らぐ。心地が良い。まだ寝たい。

 まるで己の主神(ヘスティア)のようにダメな思考になっているが、誘惑に抗えない。

 意識を再び手放す直前、なんとなくベットの脇の方へ視線を向ける。

 ぼんやりと写っていた輪郭が少しづつ形を成す。

 そこには白髪赤目が特徴の英雄が座っていた……。

 

「おはよう。気分はどう?」

「……おはよう、ございます?」

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 !?!?!?

 

 半ば夢の世界から一気に現実へと引き戻されるが、その事実を脳がうまく処理しきれない。

 何が何だか分からない状況。

 故に。

 条件反射的にベットから飛び跳ねようとするーーが、

 

「怪我人は安静にしないと」

 

 アイズの額に英雄の手がゆっくりと乗せられる。すると、己の制御を失い暴走仕掛けた身体が外側(・・)から完全に鎮められた。

 

 何……今の……。

 

 どのような原理が働いたのか、アイズには分からなかった。

 

「暴れちゃダメだよ?」

 

 苦笑混じりに注意された。

 英雄と視線が重なり、アイズの疑問はどこへやら消し飛んでしまった……。

 胸の鼓動が大きく脈をうち、激しめの音楽を奏でる。

 別の意味で再び暴走状態に陥ったのは言うまでもない。

 

(その表情(かお)はずるい……)

 

 そして、そのまま英雄はアイズの頭を撫で始めた。

 

「うん、偉いね」

 

 彼の手から伝わる人肌の温もりが、とても心地よく感じる。

 動かないだけでこんなご褒美を貰える幸せ者が私以外にいるのだろうかーー。

 なお心臓の方は今もフル稼働中である。

 心の中の小さなアイズ も『わー! わー! わー!』と両手で顔を隠して転げ回っている。

 

 先程のドタバタで(めく)れた布団をさっと持ち上げ、視線以外の部分を覆い隠す。

 緩んだ口元を見られる訳にはいかなかった。

 これは乙女の(たしな)みである。

 だが、残念なことに至福の時間は長くは続かない。

 時間にしてほんの数秒で、英雄の手はアイズの頭から離れていった。

 

「えっと、名乗るのが遅れたね。僕はベル・クラネル。みんなからはベルって呼ばれてるから気軽そう呼んで欲しいかな。キミは?」

 

 至福の時間が終わった事に名残惜しいくも、彼の問いに答える。

 

「アイズ……。アイズ・ヴァレンシュタインです」

 

 ただ自己紹介しただけなのに非常に照れくさい。

 頭から布団に潜りたい衝動を強固な意志で押さえつける。

 

「アイズだね。あとアイズにどうしても伝えたい事があるのだけど……」

 

 何故かベルさんが言い淀む。

 少しずつ場の空気に緊張感が漂ってくる。

 そんなはずがないと分かってはいるが、ちょっとだけ期待してしまう。

 恋する乙女なので、多少の夢は許してほしい。

 時間が経つにつれ、緊張のボルテージが上がっていく。

 

 私、もうダメかも……。

 

 アイズの緊張が臨界点を突破する直前、ついにベルさんの口が開かれた。

 

「その……ごめんなさい!」

 

 ……えっ?

 

 一瞬アイズは何を言われたのか分からなかった。

 

「僕達が倒し損ねたミノタウルスでキミに怖い思いをさせた。それだけじゃなく、たくさん傷つけた」

 

 浮かれていた気持ちが一転し、当時の状況が映像として脳内に流れ始めた。

 確かに死を覚悟したあの時は怖かった。

 酒場の出来事は正直トラウマである。

 でもそれ以上に彼は何度も助けてくれた。

 目の前の英雄のようになりたいと思った。

 彼に強く憧れた。

 私の前に英雄は来てくれた。

 それだけで十分だったーー。

 

「ほんとうに、ごめんなさい」

 

 ベルさんの謝罪に対して、アイズはすぐさま上半身を起こし言葉を紡いだ。

 

「違います。……その、本当に謝らないといけないのは、私の方です」

 

 ここで己の胸に手を当て、一呼吸する。

 今まで理由をつけては、逃げていた過去を清算する時がきた。

 アイズはゆっくりと語った。

 

「あの日、うかつに下層に潜りました。助けて頂いたのに、お礼も言わずにその場から逃げ出しました。ーー私の方こそ、ごめんなさい」

 

 そして。

 

「何度も助けて頂いてありがとうございました」

 

 二人の間に少しの静寂が訪れる。

 先に沈黙を破ったのは英雄だった。

 

「うん、良かった。僕はアイズに嫌われていると思っていたから」

 

(えっ???)

 

 ベルさんが語ったのは、アイズにとって無視できない超特大級の爆弾だった。

 

「……どうしてですか?」

 

 意中の相手に自分が嫌っていると思われていた。

 あまりにもアンビリーバボーな出来事である。

 

「んー、内緒」

 

 甘いマスクで、はにかみながらベルさんはそう答えたが、言われて気がついた。

 何度も全力で逃げたのだ。

 そう思われて当然である。

 

「あぅ……」

 

 恥ずかしさや申し訳なさが相まった。

 スルスルスル。

 人は過ちを繰り返す生き物である。

 再び布団の中へと逃走を図った。

 

「アイズ?」

 

 英雄の呼びかけに対して、布団の中で頬を押さえながら悲壮な声をあげる。

 

「ベルさんに顔向け出来ないです」

「ごめん、アイズが何を言っているのか分からない」

 

 アイズの回答に困惑しているのが、ベルさんの顔を見なくても分かる。

 ベルさんの手が布団へ伸びてきた。

 するとアイズは布団を被ったまま、距離を取る。

 再びベルさんが手を伸ばすも、その分だけ距離を取る。

 

 この時ベルは思った。何かの小動物みたいだと。

 誰しも一度は経験したことがあるだろう。

 警戒心の強い小動物と触れ合う際に、少しずつ近づきコミュニケーションを計った試しがーー。

 ベルは同じ要領で試みたが見事失敗に終わった。

 

「アイズ、気になってはいると思うけど、ここは【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』の一室。一応、僕の部屋になるのだけどーー」

 

(ベルさんの……部屋!?!?!?)

 

 そろそろアイズの心臓の過労死が心配されるが、ベルは気づかない。

 

「アイズを助けた後、本当ならギルドの医療室に運ぶ予定だったけど、ギルドは人で溢れていたから……。アイズには悪いけどこっちの方に運ばせてもらったよ」

 

 街中にモンスターが出たのだ。

 ギルドやその関連機関が忙しいのは仕方がない事である。

 

「アイズのお陰で幸いにも死傷者は出なかった。よく頑張ったね」

 

 みんな無事だったんだ……。

 モンスターに家族を奪われる人がいなくて良かった。

 あとベルさんに褒められた。

 

「でも勝算の無い無茶はダメだよ。勇気と無謀は違うからね」

 

 まさに正論である。

 今回の相手はアイズではどう頑張っても勝ち目が無かった。

 結果的にまた彼に助けられた。

 恋する乙女として、嬉しいと思う気持ち。

 一人の冒険者として、情けないと思う気持ち。

 心の中は非常に複雑である。

 あと神様。

 先程からベルさんの香りに包まれて、私、もう本当にダメかも……。

 

 ーーーーーー。

 ーーーー。

 ーー。

 

「えっと、そろそろ出て来てくれても良いんじゃないかな?」

 

 ベルさんの呼びかけに応じて、少しだけ顔を覗かせる。

 

「やっと出て来てくれたね」

 

(はぅ……)

 

 まさかの頭なでなでの再来。

 ベルさんに頭を好きに撫でられてるアイズは、当初は緊張で戸惑いを見せたが、今では分かりやすく頬を緩めていた。

 

「アイズは、可愛いね(……小動物みたいで)」

 

 !?!?!?

 

 ベルさんの一言一句に翻弄されてしまう。

 最後に何か言ったみたいだけど、『可愛い』の印象が強すぎて聞き取れなかった。

 自分の心臓を虐めてくる英雄に、ずるいと思いながらも、彼の大きな手から伝わってくる温もりに、胸の高鳴りと安らぎを覚えながら今ある幸せを堪能する。

 アイズは普段、自分の事を大人の女性と自負しているが、その仮面はどこへやら。

 すっかり緩み切った表情をしていた。

 もっとも普段の姿も他人から見たら、少し背伸びをしている年相応の少女にしか見えないのだが……。

 暫くして、彼の手が動きを止めアイズの頭から離れそうとするが、それを拒むかのように手を重ね己の頬の所まで抱え込む。

 

 ふにふに。スリスリ。

 

 ベルさんの体温が伝わってくる。

 温かく、安心する。心地いいーー。

 

 コンコン。

 

「失礼します」

 

 夢中、熱中、集中、没頭、暴走。これらの状態にアイズは陥っていたが、永遠には続かない。ふとしたきっかけで魔法は必ず解けるものだ。

 

「ベルさん、団長やリヴェリア様が先程戻りまして、今日の事でーーって、何をやっているのですか!?」

 

 第三者の声でふと現実へと戻される。

 ベルさんの手を握り、スリスリしているという、己の暴走を自覚した瞬間、一気に恥ずかしくなり、硬直する。

 機械仕掛けのように、ゆっくりとベルさんの表情を伺うと『もういいの?』と笑みを浮かべていた。

 さらに恥ずかしさが込み上げてきて、頬に熱が帯びてゆく。

 

「不純異性交遊の匂いがします! 不潔です!!」

 

 先程、部屋に入ってきたエルフが声を響かせる。

 

「ちょ、レフィーヤ。何を言ってるの!?」

「そこのあなた! どこの誰かは知りませんが、今すぐベルさんの手を離しなさい! あとベルさんの布団から出て来なさい!!……ナンテウラヤマシイ」

 

 最後の方は良く聞こえなかったが、なるほど。

 この邪魔者のエルフはレフィーヤと言う名前らしい。

 普段から感情に乏しいアイズではあるが、これだけ明確な敵意をぶつけられては流石に頭に来る。

 要するに、負けられない女の戦いなのだ。

 

(プイッ)

 

 アイズはレフィーヤの言葉を無視し、スリスリを続行。彼の手に匂いをマーキングする事で牽制する。

 

「むむむ……」

 

 対するレフィーヤも瞳に熱き炎を宿らせる。

 

「ベルさん、隣いいですか?」

「えっ? 別にいいけど……」

「それでは失礼します。ーーうぅ、えぇーい!」

「なっ!?……」

「ちょっ!? レフィーヤ!?」

 

 あろう事か、このエルフはベルさんの空いていたもう片方の腕に抱きつき、両手で抱え込んだ。身体全体をベルさんに密着させる形で……。

 そして、耳まで真っ赤にしながら勝ち誇った表情を浮かべる。

 これには流石のアイズも負けてられない。

 負けず嫌いな性格と戦闘狂としての血が騒いだ。

 要するに『カッチーン』案件である。

 今まで被っていた布団から離脱し、ベルの片腕にレフィーヤ同様に抱きつき、両手で抱き抱える。

 羞恥心で顔が爆発しそうだが、意地でポーカーフェイスを作り出す。

 これぐらい私にも出来ますよと、()()ぎだらけの大人の余裕を作り、敵に(がん)を飛ばす。

 

「ぐぬぬぬぬ……何をしているのですか! 私の真似をしないで下さい!!」

「あなたこそ、私の邪魔をしないで」

「なっ……あなた他所のファミリアでしょ!?」

「ファミリアは関係ない。ベルさんは私の英雄」

「はぁ? ベルさんはロキ・ファミリアの共有財産。つまり私のです!! 変なことを言わないでください!!」

「変な事を言っているのは、あなたの方。次、私のとか言ったら、斬るよ?」

「いいでしょう! やってみなさい! その前に魔法で燃やしますけど」

 

 『ギャーギャーギャー』と口論を続け、ベルを取り合う二人ではあったが、決着は突然訪れた。

 

「二人ともその辺にーー」

 

 ベルさんの言葉がそれ以上続く事はなかった。

 理由は単純明快。

 眉を吊り上げ、絶対零度のオーラを纏ったハイエルフの大魔王が現れた。

 

 

 

ーーお前達、何をしている?

 

 

 

 ーーその後。

 みんなで仲良く怒られました。

 

 ぐすん……。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 一方その頃ーー。

 

 闇派閥(イヴィルス)からの報告でダンジョンの地下は大いに賑わっていた。

 

『アリアアリアアリアアリアアリアーー』

『会いたい会いたい会いたい会いたい会いたいーー』

 

 穢れた精霊達が歓喜の声を上げている。

 彼女達のお祭り騒ぎを少し離れた所で眺めているのは、赤い髪と緑色の瞳が特徴の女性。

 髪の毛は後頭部で一つにまとめており、馬のシッポのように後ろに垂らしている。

 

 探し物が見つかった。

 ならばこそーー。

 

 彼女が手をかざす。

 すると(おびただ)しい数の食人花が彼女の元へと集まり始めた。

 

「ふふっ、リオンと兎ちゃんは元気にしてるかしら?」

 

 数多の食人花を従えた赤髪の調教師(テイマー)は、不敵な笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 




《後書き》
やっっっと、本当の意味でベル君とアイズが出会えました。これからは2人の絡みも増えて行くと思います。ライバル多いけど頑張って!笑

《補足》
少し補足になりますが、今作では原作者様が鬼畜過ぎて断念したある初期設定を一部採用しました。何でもSO3巻を書く前に急遽変更したみたいです。こういった設定の採用も二次小説ならではの醍醐味かと個人的に思っております。

《最後に》
赤髪の人「誰もが見惚れるスーパー可愛い美少女参上!! 参戦フラグは立てたから、後はよろしくね♪」
リューさん「!?」
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