ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
戦車道。
それは現代における麗しき乙女達の嗜む武芸である。戦車を駆り電撃のごとく敵を殲滅し、その道を極めんとする女子高生達。
ある者はこう言った。
戦車道には様々な流派が存在すると、その流派にはそれぞれが特色のあるもので伝統が備わっていると。
戦車道の伝統のある流派…。最強と呼ばれる流派もあればまた没落する流派ももちろん存在する。
西住流は鎧武者。島田流は忍者。
そして…この物語にはもう一つ流派が存在する。この物語はその流派を極めんとする五人の乙女達の戦車道である。
ーーーーーその流派の名は…。
時御流(ときおりゅう)。
時御流は『職人』と人々に言わしめたかつて栄えた流派。
この流派は西住流、島田流よりずっと前に確立された流派…であった。
だが、時代の流れとは残酷なもので西住流、島田流の台頭により、かつて名門に近いとされた庶民的流派、時御流は没落の一途を辿った。
1から作る戦車道。これが、この流派の基本。
この戦車道流派の基本はまず戦車を作るところから始まる。
製鉄所で得た鋼材、そして、履帯から砲弾までの部品を全て原材料から自作するのだ。
この過酷な流派であるゆえ、この流派は西住流や島田流といった流派よりも少女達から受け入れられず、人が離れていった。
いや、そもそもが戦車を作るという部分から少女達からの関心が無くなったのが原因かもしれない。
そんなことをしなくとも戦車を手に入れる事は出来る。そんな世の中の流れがこの流派の没落を招いたと言っても過言ではない。
時御流も時の流れに際して戦車の再利用という部分に戦車道の方針に舵を取ったが時は既に遅かった。
それに戦車道とは連盟公認の実弾の使用が規定されており、弾頭や装薬の加工は認められていない。
さらに、特殊カーボンでできた連盟公認の装甲材で覆うことが義務付けられている。
この時御流の1から戦車を作るという概念自体がこの戦車道の規定により少女達から敬遠される事にも繋がった。
何もないところから戦車を作る時御流。
しかし、この没落の一途を辿る時御流だが。決して周りの評価が低いわけではない。むしろ、その精神は戦車への愛を体現したものだった。
西住流、島田流をして、かつての時御流を知る者たちはこう称した。
『戦車道では西住流、もしくは島田流が最強だろう。だが、実践で最強なのはおそらくは時御流かもしれない…』
戦車道でなければ部品さえあればその場で戦車を作り出す事ができる時御流。
戦時中であればいつの間にか廃車にした筈の敵戦車が何事なく魔改造パワーアップして復活し立ちはだかってくる様は戦慄すら覚える事だろう。
そして、これはそんな没落してゆく流派の正当後継者である。城志摩 繁子の物語。
彼女、城志摩 繁子はある出来事によりこの流派を受け継ぐ事になってしまった。
それは中学の卒業前に時御流、正当後継者であり、自分の母、明子が病気で床に伏せる事になったからである。
その明子の命の灯火も春を待たずして燃え尽きようとしていた。
余命いくばくの時御流当主の城志摩 明子。かつては栄えた筈の時御流、その当主の身体は痩せ、弱々しいものだった。
古い屋敷の一室、繁子は悲しげな表情を浮かべたまま母の手を握っていた。
「…繁子、よくお聞きんさい。もうこの流派にこだわるのはやめんね。 かあちゃんの代で終わりや…。」
「………………」
「かあちゃんはね…。お前に好きなように戦車道をやってほしいんや。なぁ…繁子」
「い…嫌や! うちが時御流を!?」
「…もうええんよ」
床に伏せる明子は優しくそう言って繁子の手を握って笑みを浮かべた。
かつては彼女も時御流を巧みに扱い西住流、島田流と戦車道で戦った。いや、流派の尊厳をかけてしのぎを削り合った。
戦車道における相手チームの全ての車両を撃破または行動不能にすれば勝利となる「殲滅戦」。指定された相手チームのフラッグ車を先に撃破した方が勝利の「フラッグ戦」。
繁子の母、明子はそのどれもで西住流と島田流を破ったことさえもある。
撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流。
西住流は統制された陣形で、圧倒的な火力を用いて短期決戦で敵と決着をつける単純かつ強力な戦術。 勝利至上主義の元、いかなる犠牲を払ってても勝利することを掲げている。
そして、対する島田流は臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使する戦法を得意とする。その変幻自在さから「ニンジャ戦法」と呼ばれている。
時御流。その概念、それは…。
「団結、絆、連携。 自分の乗る戦車と共に苦難を乗り越える仲間との絆を重んじ、どんな時も勝利を諦めない。全員が宿す職人魂。自らの手で活路を切り開く戦車道…! うちはそんな時御流が大好きなんよ…っ!」
繁子は涙を流しながら、床に伏せる母、明子の手を握りしめた。
自ら置かれた状況とその戦地である土地を最大限に利用した戦術、活路が無ければ自らの手で作り出す。それが時御流である。
たとえ、仲間がやられ不利な状況に陥ろうとも、そこから一気に逆転する様は時御流の十八番とも言われていた。
そんな、時御流の戦車道が繁子には誇りであり、大好きな戦車道そのものだった。
彼女は母がかつて戦車道をしていた頃の様子を見せられた事がある。その戦車道の精神は誇り高く仲間達と嬉しそうに勝利を分かち合う姿はとても眩しく見えた。
「かあちゃん! ウチが! ウチが絶対!時御流を再興させるから! 約束やからね!」
指切りげんまんをし、布団に横たわる母との固い約束を交わす繁子。
そして、明子はそんな繁子の頬をそっと撫でながら涙を浮かべて静かに頷いた。自分の戦車道を彼女が引き継いでくれる。明子にはその言葉がひたすら嬉しかった。
繁子がその約束を交わして数ヶ月後。
繁子が高校に上がる前に彼女の母、明子は静かに息を引き取った。繁子は彼女から託された時御流を受け継ぎ高校へと進学する。
ーーーその高校は…。