ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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戦車を作ろう!

 

 西住まほとの再会からしばらく経ち。

 

 繁子達は早速、集めた部品を用いて知波単学園の整備科、機甲科関係なく総動員し、自作戦車の製造に着手する事になった。

 

 いよいよ時御流の本領発揮である。

 

 現在、繁子達はブリーフィングルームにて全員で集まり各方面から集めた資材をなんの用途に使うかを考えている。

 

 戦車名門校、黒森峰にプラウダ。

 

 この学校から集めた資材や部品があれば、繁子達にはある程度の物は作れてしまうだろう。それだけに彼女達は何を作るかワクワクが心の底から湧いて出てきていた。

 

 

「さて、何から作るかやね」

 

「軽戦車かな? やっぱり」

 

「やっぱり機動力はいるからねー」

 

「決まりやな!」

 

 

 そう言って、繁子は立江達の意見合意に頷く。

 

 本来のチハの性能も他の戦車があればより引き出すことができるだろう。よって、繁子達は今回は軽戦車の開発を進める事にした。

 

 軽戦車の機動力があれば素早い戦術が組めるし、また戦術や繁子達の戦車道の幅がひろがる。そうなれば、時御流の力を存分に発揮し知波単学園を勝たせる事ができるだろう。

 

 何を作るかは決まった。後は有り余る持って来た材料を使ってなんの軽戦車を開発するかだ。しかしながら、この時、繁子にはある戦車の案があった。

 

 話し合う繁子に知波単学園のメンバー達はそれぞれ訪ねる。

 

 

「ねぇ? リーダー? それで私達は何作ればいいのかな?」

 

「そうだ、機甲科も協力して作るのだからもちろんそれなりに優秀な戦車なんだろうな?」

 

「ぬふふ…。みんな聞いて驚かんでな?…それは! これや!」

 

 

 繁子はそう言って、バン! とブリーフィングの机の上に設計図をおいた。

 

 時御流は古今東西、あらゆる設計図を網羅している。それは、その設計図を持っていれば自家生産が可能であるからだ。

 

 時御流は没落した流派であることは間違いない事実だが、戦車の製造や建築にかけては超一流。

 

 繁子の実家、時御流本家は割とそういう意味では金銭面に関して困窮している訳ではない。

 

 時御流全盛期時代。繁子の母、明子は戦時中未完成の戦車を含め、全ての戦車を己の手で作り上げたという逸話を持っているのは有名な話である。

 

 話は逸れたが今回、繁子が持ってきた設計図もまた実家から取り寄せた設計図の一つだ。

 

 

「おぉ!?」

 

「どや! 凄いやろ?」

 

「ちなみにこれってなんの戦車なんだ?」

 

「…ってわからんのかい!?」

 

 

 そう言って、机の上にある設計図を見て首を傾げる一同。

 

 繁子が設計図を出した時に挙げた声はなんだったのか…。どうやら、流れ的にみんながみんな言ってみただけのようである。

 

 ズルッとずっこける繁子。永瀬達もこれには思わず苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 チハしか今まで使っていなかった学校であるからして仕方ない部分はあるのだが、それにしても日本が誇る戦車に関してもうちょっと知っておいてほしかったというのが繁子達の率直な気持ちだ

 

 だが、気を取り直して繁子の代わりに立江が皆の前に出るとこの戦車、軽戦車についての話をしはじめた。

 

 

「五式軽戦車 ケホ。これがこの戦車の名前です。辻隊長」

 

「ケホだと? あまり聞いたことはないが…」

 

「当時、戦時中は製造されたのは数量くらいやったからな。けど時御流のウチらにかかれば一度、完成した戦車なら作り上げることは容易やで。まぁ、未完成の戦車でも完成までの過程を作り上げるんやけどな」

 

「なんと…。それなら、敵も私達の戦車の対策が分からない内にうまく展開を運べるんじゃないか!?」

 

 

 辻は目を輝かせ繁子にそう告げる。

 

 その通り、繁子の乗る戦車も今回のも戦時中には設計図のまま完成まで至らなかった戦車。または、完成しても十分な活躍を得られなかった戦車などだ。

 

 製造途中で日本が戦争に負け、製造中止された戦車達。繁子はそんな戦車達の性能に目をつけ製造をする事を決めた。

 

 

「ご名答。そう、この私達が乗る四式中戦車も言ってみれば戦時中未完成だった戦車。だから私達が乗って活躍の場を与えてあげるのよ」

 

「なんだか、ロマンがあるな…ちなみに『つれたか丸』とやらは…」

 

「あれはウチらが単なる趣味で作ったやつや、あるだけあれば水陸両用やし戦術にも幅が広がるでしょう?」

 

「なるほどな…」

 

 

 辻はスパナを持っている手を組みながら立江と繁子の話に納得した様に頷く。

 

 こうして、製造する軽戦車は決まった。

 

 その名は五式軽戦車 ケホ。

 

 ケホの車体は、最大装甲厚20mmの装甲板を溶接により組み立てたものである。

 

 外形は九八式軽戦車の車体に酷似しているがそれよりわずかに大きい。

 

 しかしながら九八式軽戦車とは違い、この車体上部に、九七式中戦車 チハ改や一式中戦車 チヘ、もしくは試製九八式中戦車 チホの物に似た砲塔を搭載しているのが特徴だ。

 

 主兵装としては『試製四十七粍(短)戦車砲』これを主砲に使っている。

 

 戦時中の日本の軽戦車の中では最高の性能を持っていたと推測されるもので、九八式軽戦車 ケニ、二式軽戦車 ケトの設計を継いだ発展型戦車である。

 

 とりあえず繁子達の目標としてはこのケホを3台ほどの製造を考えているところだ。

 

 

(まぁ、普段から突撃ばっかしとる人達やからこの戦車は割りかし合っとるかもしれへんな)

 

 

 繁子は内心で製造に取り掛かるみんなの姿を見ながらそう頷く。

 

 これだけでは辻達の突撃戦術に幅を持たせただけの気がする。鬼に金棒なのか、焼け石に水なのかは定かではないが…。

 

 しかしながら、もちろん繁子達が製造しようと考えているのはこれだけではない。

 

 ケホの他にも繁子は並行して作ろうとしている戦車が存在していた。

 

 それは…。もちろん、対黒森峰の最終兵器に匹敵する重量戦車の製造である。

 

 

「しげちゃん、やっぱりオイ車作るの?」

 

「重戦車はいずれ必要やからな。作るで、ケホと並行してな」

 

「黒森峰のマウスに対抗する為?」

 

「ま、そんなところや」

 

「台数は?」

 

「2台ほどやな」

 

 

 繁子はそう言って、隣に来た立江にそう淡々と告げた。

 

 繁子のその言葉を聞いていた立江はその信じられない言葉に目を見開く。

 

 オイ車とは大日本帝国が誇る未完成だった超重戦車。大イ車、ミト車とも呼ばれる、ドイツが誇る超重量戦車マウスに引けを取らない超大型戦車だ。

 

 そもそもこの繁子が製造しようと考えているオイ車。ドイツの超重戦車マウスに刺激を受けて大日本帝国が極秘裏に開発した戦車である。

 

 主砲に野戦重砲である九二式十糎加農の改修型を搭載、副砲としては一式四十七粍戦車砲を搭載している。

 

 さらにそこに、九七式車載重機関銃1挺をそれぞれ別の前部砲塔に装備した、合計3個の砲塔をもつ多砲塔戦車で、また後部に同機関銃2挺を設置。

 

 装甲厚は砲塔前面・側面・後面は両方とも200mm。車体前面が200mm。

 

 車体側面35mmと75mm。車体後面150mm。そして、車体上面30mm、車体底部20mmで構成されている。

 

 総重量は120tあるいは140t。極めて重い車体を支えるために新型懸架装置が開発されたとされる。覆帯幅は『日本の戦車』では750mmとなっている。

 

 だが、この戦車の欠点はこの重さ。

 

 直進しただけでこの戦車は無限軌道が自重で沈み走行ができない。

 

 さらに不整地試験では、この100t戦車は旋回するだけで車体が沈み腹部が地面につっかえて断続的な旋回しかできなくなり、走行中に下部転輪が次々と脱落した。

 

 この事を踏まえてから結局、オイ車の実戦投入は困難とされて廠内倉庫にシートをかけられて放置されていたが、1944年にバーナーで寸断解体される。

 

 しかし、そんなオイ車の設計図は時御流が保護し、複製、第二次大戦中の部品を用いて独自の開発工夫と改良に改良を重ねて新たな設計図を制作した。

 

 装甲に厚みを増し、重量はなるべく軽減する様に工夫と改良を重ねて。100t型の超重量戦車に変貌。

 

 これが、現在、時御流にて実戦ができるオイ車の完成品である。

 

 

「無茶な…っ! あんたあの戦車作るのどんだけ大変か知ってんでしょ!?」

 

「知っとるで?」

 

「ならっ!」

 

「けどな、オイ車一台でマウスに太刀打ちできるかは正直わからへん、実際はマウスの方が機能的に上やろうからな」

 

「う…っ。そりゃそうだけど…けど100t級戦車を二台ってあんた…」

 

「オイ車はオイオイ作らなあかんからしゃあない。オイ車だけにな」

 

「おーい誰かハリセン持ってないー?」

 

「いだだだだだ! 冗談! 冗談やから! こめかみはやめて!」

 

 

 繁子は立江からアイアンクローされたまま持ち上げられる。身長差がある繁子は足が地面から浮くとと宙ぶらりん状態だ。

 

 確かに重量戦車も必要であるのは立江にもわかるが、繁子が作ると言っているのは改良した超重量戦車である。

 

 馬鹿でかい上にくそ重い戦車。ロマン砲どころの話ではない。そんなものを二台作るぞと言い始めておまけに寒い駄洒落を言われれば、アイアンクローもしたくなると言うものだ。

 

 しかしながら、繁子にはもう一つ案があった。

 

 それは、日本の重戦車を捨て、外国産の超重量戦車を製造で作る事だ。

 

 

「ま、まってや、ぐっちゃん、もう一つ案があんねん」

 

「ふざけた案だったら卍固めだかんね、リーダー」

 

「いや、この案やと戦車一台で済むで?」

 

「何よ、最初からマシな案があるんなら言いなさいよ、もう」

 

 

 そう言って立江は安心した様にホッと一息ついた。

 

 オイ車二台は作れない事は無いが、なんせデカすぎるし重すぎる。それなら一台で済む方が良い。

 

 だが、次の瞬間、繁子が言った案は立江の思惑のはるか右斜め上空を通過する様なとんでもない提案であった。

 

 

「やったら、ラーテ作ったらええやん」

 

「は?」

 

「せやから、ラーテ。あれやったらマウスにも勝てるやろ」

 

 

 瞬間、繁子の言葉を聞いた立江の身体が硬直した。

 

 ラーテ。第二次世界大戦中にドイツで計画された超巨大戦車。

 

 超重量戦車ではない。超巨大戦車である。

 

 ドイツが作る超重戦車としては、重量188tのマウスや140tのE-100が知られている。

 

 だが、この繁子の言っているラーテの規模はこれらの超重戦車をはるかに凌ぐ、重量約1,000トン、全長35m、全幅14m、高さ11mといった桁違いの超重量戦車。

 

 当時、シャルンホルスト級戦艦の主砲塔である28cm3連装砲から中砲を省いた2連装砲塔を搭載する予定だった戦艦戦車である。

 

 砲塔および車体上面装甲は最低でも180mmに達し、側面および正面装甲も同様に350mm以上を想定したバケモノ戦車だ。

 

 なお、繁子の母、明子はこれを超える戦車をも作った事があるのだが…。

 

 もはや、このレベルの戦車を作る時御流の職人レベルとなると繁子の母、明子の夢である戦艦大和の46cm砲塔を積んだ戦車を作る事も正直な話。不可能なレベルでは無い気もする。

 

 そして、繁子の言葉を聞いた立江は理解した。確かに、オイ車を2台作るのは大変だろう。

 

 しかしながら、そんなバケモノ戦車を作るとなるとそんな次元の話ではない。むしろ学園艦が傾く事態になりかねない。

 

 というよりそれは自分達の乗る学園艦を本気で殺しにかかっていると言っても過言ではないだろう。

 

 

「え? ラーテ作るの?」

 

「どのレベルから作る?」

 

「やっぱりさ、シャルンホルストの砲身取ってくるところからじゃないかな?」

 

 

 しかし、この時、立江の側にいた真沙子、永瀬、多代子は繁子の話を聞いて割と本気で超巨大戦車ラーテの製造を考え始めてる。

 

 これ以上は不味いと立江も察していた、誰かが止めないと下手をすればP1500 モンスターまでランクアップするかもしれない。

 

 そうなれば戦車道じゃなくて学園戦車なんてものが出来上がりかねない、非常事態である。

 

 仕方ないので立江は顔を引きつらせた笑みを浮かべると繁子の肩をポンと叩きこう告げる。これ以上はいけない。

 

 

「とりあえずオイ車二台にしとこうか!しげちゃん」

 

「ん〜…ラーテやったら1台で済むんやけど…せやね!今回はそうしようか!」

 

「えー…!ラーテは〜?」

 

「んなもんどこで使うんのよ! アホか!」

 

「ぐっちゃんのいけず〜」

 

 

 立江の強引な説得に答える繁子。

 

 そんな説得を傍で見ていた真沙子、多代子、永瀬は残念な表情を浮かべて拗ねる。本人たちはどうやら変なスイッチが入ってしまっていた様だが立江はそれを阻止した。

 

 仕方ないので真沙子、多代子、永瀬はとりあえず現在、製造中のケホの製造作業に戻った。

 

 そして、繁子と立江もスパナと工具を取り出して整備科の人間を何人か引き連れてオイ車の製造に着手しはじめる。

 

 

「さてとやるか」

 

「全国大会にまで間に合わせないとね!」

 

「急ピッチで進めなな!」

 

「了解! リーダー!」

 

 

 早速、戦車の製造に取り掛かる知波単学園の者達。全国大会に向けての戦力増強。はたして、繁子達が作る戦車達は活躍するのか否か。

 

 集めた材料と元からある学園の資材を使い、戦車の製造をしはじめる繁子達の心が皆一つになり一つの物を作り上げる。

 

 超重戦車と軽戦車の製造ははたして、全国大会に戦車作りは間に合うのか。

 

 それはまた次回に続く。

 

 


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