ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
いよいよ始まった知波単学園の戦車製造。
対黒森峰、名門校に対抗する為、繁子達は来るべき戦車道全国大会に向けて準備を行っていた訳なのだ。
そして、新たに製造する戦車達を製造中の繁子達はというと…?
「とりあえずオイ車とケホ車はこのままやったら戦車道全国大会までにはできそうやね」
「私らの一回戦はどこだっけ?」
「ヴァイキング水産高校だったよ確か」
「スウェーデンの戦車が主体の…学校だっけ?」
「Strvm/42とかやね、ラーゴ戦車とかが主戦の学校やないかな?」
戦車道全国大会の相手について、戦車を製造中の車庫で立江達と会議を行っていた。
というのも、今回製造中のオイ車2両、ケホ3両の製造過程、または、仮想敵として黒森峰やプラウダという強豪についての対策を練るためである。
今後の方向としてオイ車とケホ車の製造は決めてはいるのだが、彼女達の中にはどうしても拭いきれない違和感のようなものがある。
ひとまず、一回戦であたるヴァイキング水産高校についての繁子達、知波単学園側が導入する戦車についてはある程度は目星はついていた。
「ふーん、ま、それなら一回戦はオイ車はいらないわね、ケホ3車両とチハ、四式中戦車で行きましょ」
「賛成〜」
「ま、オイ車は対マウス用の決戦兵器やからな」
「そうね」
繁子の言葉に頷く立江。
そして、戦車道全国大会一回戦で導入する戦車を挙げて皆に同意を求めた真沙子は次に繁子に対してこんな提案を挙げてみた。
会議にて上で挙げた仮想敵を想定した真沙子が出した提案。その提案とは。
「少し軽量の重戦車の所有も視野に入れといたほうが良いんじゃないかしら?」
「…ん? オイ車があるのに?」
「そうよ、正直、オイ車だけしか戦力が心持たないでしょ? 黒森峰はヤークト持ってるし一両くらいはあったほうが絶対いいと思う」
「しかも、パンターG型にエレファント。高性能な重駆逐戦車もたくさんあるわ。正直な話オイ車だけじゃキツイかもね」
「なるほどなぁ…見直しが必要やなそれは…」
真沙子、立江の言葉に作業服を着ている繁子はスパナを持ったまま頷き納得する。
確かに時御流、オイ車は強力な戦車である事は間違いない、だが、それだけではドイツ戦車主戦の黒森峰には到底性能差でどうしても差ができる。
正直な話、自家製造だけでは無理なところがあるだろう。なら、どうするか?
「…火力ならまぁ、良い手が思いつかない事もないかな?」
「ん…? なんや真沙子、心当たりがあるんか?」
「まぁね、チハ戦車自体を改造するのよ、チハの車体を解体、改良して二式砲戦車の車体にしてから三式中戦車チヌ、もしくは一式中戦車チヘなんかに改造するの」
「なるほどな、そりゃ確かに火力が上がるし戦力増強も可能やな」
「これでようやくプラウダ高校クラスくらいに肩を並べるくらいには戦車は揃うと思うわ」
「うん、その案はとりあえず採用の方向に考えといてもええやろ。チヌ、チヘなんかの中戦車は必要な戦力や 」
「けど、車体自体は二式砲戦車にしてからチヌ、チヘだから…まぁ手を加えるところが多いかもね」
「腕の見せ所やろ?」
「そう言うと思った」
真沙子と立江の話を聞いていた繁子のその言葉に多代子はやれやれといった表情を浮かべ仕方ないとため息を吐く。
こうして、繁子は真沙子と立江の案を採用し、でとりあえず、オイ車、ケホのついでにチハの改造を決行する方向で今後の方針を固める。
だが、ヤークトやパンターに対抗するにはまだもの足りない気がする。
ここで、方針をある程度固めた繁子は辻を含めた全員に声をかける事にした。それにはある意図がある。
辻を含めた知波単の生徒達はひとまず製造作業を中断し、繁子達の元へと一度集合した。
「なんだ? 繁子、話とは?」
「んー…まぁなんや、ちと言いにくいんやけど…」
「どうしたの? しげちゃん? もったいぶらずに言いなよ〜」
「なんか問題があったのか?」
製造中の戦車の作業を止めて皆を繁子が集めた理由を問う隊長の辻。
繁子はある覚悟を決めていた。それは、全国大会が始まってからの戦車製造という提案である。こればかりは苦肉の策というところで繁子は皆に話をし辛かった。
というのも、戦車道の試合には体力ももちろん使う、その上での戦車の製造となれば肉体に掛かる疲労は取れづらくなるだろう。
コンディション的な意味では試合に万全に臨めない可能性だって出てくるわけだ。
ケホ、オイ車、チハの改造は戦車道全国大会までにはどうにかなる。
が、しかし、仮想敵黒森峰を考えるとなればヤークトティーガー、パンター、エレファントといった黒森峰の重駆逐戦車を倒す戦力が必要だ。
繁子はこの事を素直に隊長の辻に話した。つまるところ、こちらもあと1両でも良いので対重駆逐戦車が必要なのではないかという話なのである。
「…うん…。そうだなぁ…」
「戦車道全国大会期間中での戦車製造は…その…お話した通りで皆の身体に負荷をかけてまう可能性があるからどうしようかと思うとるんですよ」
「確かに、戦車道の大会期間中の戦車製造はねぇ?」
「今でもなかなか大変なんだけど、今のケホ車製造やらの製造に加えて更に上積みなわけでしょ? チハを改造、改良するまではわかるんだけどね、しげちゃん」
「だが、繁子や立江達が言う様に今のままでは黒森峰に苦戦は必須だろうな」
「せめて1両だけでもあればだいぶちゃうとは思うんですけどね?」
「というか…チヌやチヘなら対抗できる気もしない訳ではないが…」
「一応、案としては試製新砲戦車ホリの製造を視野に入れて考えとります」
「試製新砲戦車ホリか…成る程、確かにあれならヤークトにも匹敵する戦車ではあるな」
試製新砲戦車ホリ。
ホリ車は前面125mmの強固な装甲、側面装甲は25mm。
ホリIは側面形がドイツ陸軍のエレファント重駆逐戦車に類似しており。またホリIIはヤークトティーガーに類似しているのが特徴である。
残念ながら今回は時間が限られているので急ピッチで戦車製造を進めなければならないため、繁子達が考えているのはホリIIのほうを1車輌のみの製造である。
だが、これもあくまで案の一つである。正直な話。この戦車を1両作り上げるのに辻達の力を貸してもらう必要がある。
繁子達の見立てでは作業終了予定の目処はおそらく戦車道全国大会が二回戦終了したあたりくらいになるであろうと予想されるだろう。
彼女達に身体的な負担を強いる事になるこの案が果たして正しいのか繁子にもわからない、だからこそ、繁子は敢えて辻達にそのことを伝えた。
「あとはまぁ…チヌ、チヘ、ケホ、チハとうちらのチトで頑張ってなんとか残りの2輌の重駆逐戦車を潰さなあかんやろうね」
「なかなかに至難な業になるだろうな副隊長殿」
「そこは身体張ってやるしか無いと思いますわ。オイ車二輌使ってマウス潰しに行くんやからしゃあないです」
繁子はそう言って、辻に苦笑いを浮かべそう告げた。
あくまでも知波単の隊長は辻である。繁子もまた辻を尊敬しているし、辻もプラウダ戦や繁子達の戦車道を通して彼女達を信頼している。
その甲斐があり、現在では知波単学園の副隊長には辻が直々に繁子を指名していた。
これには流石に二年生の先輩からの反発もあると辻は覚悟をしていたが、時御流を引き継ぐ繁子の実力や戦車道への姿勢からか彼女達はすんなりと繁子の副隊長就任を受け入れてくれた。
それは愛されるマスコット的な繁子自身のキャラもあるのだろうが、何よりも大きかったのは『プラウダの天王星』のジェーコとの一騎討ちがあったからだろう。
それに、ライバル校の黒森峰は一年生の西住まほが隊長を務めている。こういった背景から一年生の繁子が副隊長に就任するのを誰一人として咎める者はいなかった。
ちなみに余談であるが、辻と繁子の参謀は立江が務めているのを加えておこう。
「とりあえずホリ車はひとまず考えましょう」
「私達なら心配無用だぞ? 知波単の流儀は月月火水木金金だ。根性なら何処の高校にも負けない自負がある」
「けど…」
「立江、繁子。私達が心配なのはわかる。けどな、私達三年生は最後の戦車道全国大会だ。やれる事は全てやっておきたいんだ」
「辻隊長…」
隊長である辻の言葉に涙目になる機甲科、整備科の生徒達。
今年こそは知波単学園の力を証明してみせる。そんな気概とそしてこの学園で三年間戦車道に力を注いできた辻の言葉は皆の心に響いた。
勝った時は喜び、負けた時は悔しさで涙を流した事だってある。
だが、辻は今年、チャンスを得る事が出来た。繁子達が入ってくれた事でこの学園の戦車道の在り方に変化を起こしてくれたからだ。
名将、ジェーコが率いる古豪プラウダ高校。
大洗、知波単に代わり戦車道の実力を伸ばし名門校として台頭しつつある聖グロリアーナ女学院。
大量の資金で戦車の戦力を大幅につけてきたサンダース大学付属高校。
今年の名門校ダークホースの一角と呼ばれる継続高校。
資金的に貧しいながらも近年好成績を残しているアンツィオ高校。
強力なフランス戦車を率いるマジノ女学院。
これらの他にも強力な高校は数多くあるだろう。だが、しかしこれらに勝って勝ち上がらなければ頂には届かない。
辻の目標はあくまでも全国制覇。
そして、その前に立ち塞がるは巨大な壁。ベルリンの壁の如きそれに彼女達は戦いを挑まなければならない。
全国制覇が常の絶対王者。黒森峰女学園。
ここを倒さなければ辻の夢は夢のままで終わってしまう。
「だからみんな力を貸してくれ、頼む」
辻は見てみたい。知波単学園の優勝をこの目で。
先人の先輩達が預けてくれた隊長という役目。自分はこの学園の突撃して潔く散るという伝統に誇りを持っていた。
けれど、戦車を己の手で修理したり作っている今、彼女はその伝統に付き合わされる自分達の戦車達に身近に触れて気づいた事がある。
それは、戦車達に残る傷跡が示した分の無茶な突撃の数だ。
自分の戦車が泣いている気がした。伝統は確かに受け継ぐべき大切なものだ。けれど、ただ突撃してむやみやたらに戦車を粗末にする戦い方は戦車道として正しいのか。
先人の先輩達がいう「突撃して潔く散る」というのはその時が来てから初めて突撃をして一か八かで勝負を決する事ではないのか。
繁子達が入って来て、気づかされた事。
戦車を愛して、戦車が応えてくれる戦い方、決して突撃するだけで散るだけでなく、その散りざまが意味のある。勝利に向けての礎を築くものとする事。
「当たり前じゃないですか、辻隊長」
「私達は隊長について行くって決めてるんですから」
「ウチらもですよ、隊長。勝って優勝しましょう!」
「…お前達…」
辻の目からは思わず静かに涙が溢れた。
辛い道だとわかっている戦車道全国大会中の戦車製造。それでも、彼女達は辻の言葉に賛同してくれた。
整備科は壊れた戦車の修理もあるだろう。機甲科は試合で疲れた身体の中、体力を絞り出して戦車を製造しなくてはいけない。
だけど、彼女達には迷いは無かった。それは単純に辻の元で知波単を優勝に導きたいからだ。
「うっ…! …グス…あ、ありがとう…っ!」
辻はそう言ってみんなに頭を下げた。
同じように彼女と同学年の女生徒達も皆に頭を下げて御礼を述べる。きっと熾烈な戦いが続く筈の戦車道全国大会。
彼女達は整備科、機甲科関係なく。心が一つにまとまった。この隊長を優勝させてやろうと。
繁子もまた同じような気持ちである。だからこそ、ここから、きっと現在も未来の知波単学園がより強くなるだろうと予感がしていた。
「さっ! 辛気臭いのはここまでや! みんな!頑張ろう! 作業終わったらみんなで焼肉でもしようや!」
「さっすがしげちゃん!」
「よーし! それじゃみんな! やるぞー!」
「「「おー!!」」」
永瀬の掛け声に応えるようにスパナを掲げる知波単学園の生徒達。
繁子達が初めて戦う戦車道全国大会。
辻つつじという隊長と知波単学園のみんなの心をまとめた繁子達。そのステージに立つ彼女達の快進撃はあと数ヶ月で幕を開けようとしていた。