ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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戦車道全国大会(一年生)編
戦車道全国大会開幕日 1


 

 

 戦車道全国大会。

 

 各学園の強豪戦車が集うこの大会。各チームが己の力を振り絞って戦い、戦車道の頂を目指す。

 

 勢ぞろいする並々ならぬ戦車達に会場を訪れた繁子達も興奮を抑えきれずにいた。

 

 

「うおおおおお!? ルノーや! ぐっちゃん! ルノーがおるで!」

 

「BT-5! BT-5!だよ!! リーダー!」

 

「クロムウェル巡航戦車! クロムウェル巡航戦車じゃないのよ! ちょ! 写メ写メ!」

 

「ええい! 落ち着かないわね!あんた達は!? …って…あれは…! 」

 

 

 そう言って、繁子達を静止していた立江の動きがぴたりと止まる。

 

 そして、立江は視線の先にある戦車に目が釘付けになった。前々から憧れ、いずれは自作で作りたいと思っていた戦車。

 

 映画なんかでよく見かけることから立江が戦車に興味を抱いたきっかけである戦車である。

 

 目がキラキラと輝きはじめた立江はすぐさまその戦車近寄ると興奮のあまり声を上げた。

 

 

「M4A1シャーマンじゃん! うっそ! マジで! 実物めっちゃかっこいいー!? うはー!」

 

「…やばい、しげちゃん達の制止役のうちの参謀が壊れたぞ!?」

 

「誰か救急車を呼べ! 急患だ!」

 

「…本当に大丈夫かこいつら…」

 

 

 繁子達がはしゃぐ様子に思わずげっそりとした表情を浮かべる隊長の辻。立江に限っては興奮のあまり鼻血が出てきている。

 

 戦車に愛をつぎ込む彼女達にとってみれば宝の山だ。誰かこの場で戦車捨てないかな? とまで考えている始末である。

 

 そんな風に目をキラキラと輝かせて繁子達が会場の中を歩いていると見知った顔を見つけた。それは…。

 

 

「おや、知波単学園じゃない。Добрый вечер」

 

「あ! ジェーコさんじゃんハラショー」

 

「永瀬、それ意味わかって使ってないでしょう?」

 

「あ? ばれた? えへへ」

 

 

 そう言って真沙子に指摘された永瀬はテヘっと可愛げのある言い方で舌を軽く出しながら照れる様な仕草を見せる。

 

 顔見知りとは以前、繁子達が練習試合で戦ったプラウダ高校の隊長、ジェーコ達である。永瀬、立江は彼女達の学校まで資材を貰いに行ったのでよく知っているだろう。

 

 彼女達はT-34/76の戦車群に加え、さらに練習試合では使われていなかったIS-2。そして、KV-2といった戦車を引き連れていた。

 

 この中で知波単との練習試合で使われていたのはT-34/76のみである。

 

 そして、今回、繁子達が驚いたのは…。

 

 

「これって…」

 

「あら、気づいたかしら? そう、T34/85よ。私が乗る本来の戦車」

 

「なら前回は…どうして…」

 

「あら、戦車道全国大会前に手の内晒すような戦車にはウチは乗らないのよ」

 

 

 そう言いながら綺麗な銀髪の髪をサラリと流すジェーコ。

 

 繁子達と行った練習試合でジェーコ達が主力戦車をT34/76だけしか使っていないと聞いた途端、彼女達は唖然とさせられた。

 

 その事実はいわば、プラウダはあの練習試合でそもそも本気を出していなかったという事である。

 

 しかしながら、唖然としている繁子達にジェーコはこう話をしはじめた。

 

 

「確かにあの練習試合でのウチが使った戦車はT-34/76のみだったけれど、それでも繁子、私が乗る戦車は関係なく戦車道で貴女は私を負かした。それは事実よ」

 

「………………」

 

「だから悲観する事は無いわ、私はこう見えて貴女を高くかってるの。貴女へのプラウダの門はいつでも開かれてるからね」

 

「…ぐっ……」

 

 

 そう語るジェーコの眼差しは氷の如く冷たく、それでいてこの時点から勝負がはじまっている事を繁子達に感じさせるようなものだった。

 

 甘く見ていた。

 

 プラウダ高校は古豪と呼ばれる名門校。確かに公式の大会に出すような主力戦車を導入して練習試合を行うほど向こうも愚かでは無い。

 

 古豪プラウダ高校の隊長を務めるだけあって、『プラウダの天王星』と呼ばれるゲオル・ジェーコはやはり、繁子や立江が思っている様な一筋縄ではいかない人物である事をこの場にいる全員が再認識させられた。

 

 しかしながら、それは繁子達とて同じようなもの。彼女達がいる知波単学園とて戦車道全国大会が開かれるまで遊んでいたわけでは無い。

 

 繁子は不敵な笑みを浮かべ、目の前にいるジェーコに退かず話をしはじめる。

 

 

「へぇ…そりゃびっくりですわ、実はウチらも主力は今回がはじめて導入なんで」

 

「…!? ……ふふ、それは楽しみね」

 

「えぇ、ほんまに…互いに勝ち進めば良いですねジェーコさん」

 

「まぁ、貴女と当たるとしたら決勝だろうけどね繁子」

 

 

 そう言いながら二人は柔らかく握手を交わしながらも互いにまっすぐな眼差しを逸らさず見つめ合う。

 

 互いに譲らない両者の意地、負けたく無いという気持ちを持っているのはどこも同じである。

 

 すると、そんな二人の元に傍に黒髪で長髪の美人な少女を引き連れた小さな女の子がやって来た。繁子達が見たところどうやらプラウダ高校の生徒である事は間違い無いだろう。

 

 小さな女の子は長髪の少女にこう告げる。

 

 

「ノンナ! 早く!」

 

「カチューシャ様。お待ちくださいそんなに急かされては…」

 

「ノンナ、カチューシャ。早く来なさい」

 

「ほら! 隊長に呼ばれてるじゃないのよ!」

 

 

 小さな少女、カチューシャと呼ばれた少女はそう言いながら黒髪長髪の少女、ノンナの手を引く、

 

 そして、彼女達が来た事を確認したジェーコは目の前にいる繁子と立江達に改めて彼女達を紹介するために話をしはじめた。

 

 

「紹介するわね、一年生のカチューシャとノンナよ。今は一年生でウチの期待のエース」

 

「っと、カチューシャよ、それと相方のノンナ! 貴女が噂の城志摩 繁子ね!」

 

「…カチューシャ…?」

 

「ひっ! ご、ごめんなさい!! えと、一年生のカチューシャです! 貴女が噂の城志摩 繁子さんですか!?」

 

「よろしい」

 

 

 そう言って、ジェーコは言い直すカチューシャに笑顔を浮かべ優しく頷く。その様はまるでカチューシャの保護者である。

 

 繁子はというと自分の目の前に現れたプラウダの一年生、カチューシャをジッと見つめる。

 

 目線がほぼ同じ…。かつて、この様な光景があっただろうか、何故か城志摩 繁子はここに同志を見つけた様な気がした。

 

 繁子はガシっとカチューシャの手を握ると嬉しそうに笑みを浮かべて握手を交わす。

 

 

「カチューシャやな!  ウチは繁子や! なんか君とは仲良くなれる気がするで、同じ悩みがある者同士逞しく生きような!?」

 

「え? …同じ悩み…?」

 

「カチューシャ様、おそらくは身長かと」

 

「ちょ!? 貴女! もしかして…」

 

「そうやねん、ウチ、高いところのもの取れへんねん…」

 

「私もよ!! あとよく見下されるとか!?」

 

「あるある! あとは整列の際の一番前とか!」

 

「我が同志よ!」

 

「товарищ!」

 

「ちょっと!? そこは日本語でしょう!?」

 

 

 そう言って、ガシっと抱擁を交わしながら繁子から出てくるまさかのロシア語に仰天するカチューシャ。

 

 まさか、ここで同志を得るとは彼女も思ってはいなかっただろう。だが、どうやらカチューシャもまたスタルシー同様、プラウダ高校にいるにも関わらずロシア語に弱い様だ。

 

 そもそも、繁子がロシア語を齧っているのか不思議ではあるが、何故、ロシア戦車主力のプラウダ高校がこんなにロシア語がわからない人がいるのか辻達には不思議である。

 

 すると、カチューシャの傍に控えるノンナはある人物を見て目を見開いた。

 

 

「あれは…」

 

「ん…? ぐっちゃんがどないしたん?」

 

「やはり、そうなのですか!」

 

「お、おう…せやで?」

 

「何? ノンナ、知り合いなの?」

 

 

 そう言って、勢いよく繁子の肩を掴むノンナ。

 

 彼女の変わり様にカチューシャは首をかしげながらも冷静にそう問いかける。ノンナの視線の先にはサンダースのシャーマンに頬ずりする立江の姿があった。

 

 ノンナは繁子から手を離すと、立江へとツカツカと足を早めて近づいていく。

 

 

「タツエ!」

 

「む… 誰かしら? 私とシャーマンとの至福の時を邪魔する者は」

 

「ですから離れてください! 貴女、知波単学園でしょ!?」

 

「貴女、私をいじめて楽しいかしら? いじめてよく育つのは麦だけだよ」

 

「なんで麦!? てか今麦関係ないですよね! ね!」

 

 

 そう言いながら立江の身体に手を回し頬ずりしているシャーマンから引き剥がそうとするサンダースの女生徒。

 

 しかしながら必死の抵抗を試みる立江も譲らない。目の前のシャーマンにきっちりホールドをかける。

 

 

「ここで延ばしたらMC短くなるぞ!」

 

「MCってなんですか! 早く退いてください!」

 

「MC知らないの!? 真面目に頂戴の略なのよ!」

 

「しらないですよ! なんですか! 真面目に頂戴って!」

 

「あ、あの…タツエ、ちょっと…」

 

「いま取り込み中だから! …ってあんたは…」

 

「ようやく剥がれ…どぁ!」

 

 

 立江を戦車から引き剥がしドスンと尻餅をつくサンダースの女生徒。そして、立江はその上に尻餅をつき、サンダースの女生徒を下敷きにした。

 

 そして、何事もなかった様に立ち上がるとパンパンと砂埃を取り除き、声をかけて来たノンナとようやく向き合う。

 

 立江はジッとノンナの顔を見つめると何かを思い出したようにこう口を開いた。

 

 

「のんちゃんじゃん! お久しぶりだね!」

 

「えぇ、っというより貴女は相変わらずの様で…」

 

「ところでこの間、送ったところてんどうだった?」

 

「すごく美味しかったです。ではなくてですね…」

 

「でしょ〜? あれ、私の自作なんだよ!」

 

「本当ですか!? 道理で…」

 

「ところてんダイエットには持ってこいだからね」

 

「もっと送ってください。今度は2カ月分ほど」

 

「心得た」

 

 

 そう言いながら立江は声をかけて来たノンナと軽く拳を小突き合い、にっこりと笑う。

 

 どうやら二人は以前からの知り合いの様であるからして引き剥がしていたサンダースの女生徒を放ってスタスタとこちらへと歩いて来る立江とノンナの二人。

 

 そんな、シャーマンでのやり取りもそうだが、何事もなくノンナと馴染む様なやり取りを見せる立江の光景に知波単とプラウダの繁子を含めた全員はポカンとしていた。

 

 

「てかさー、のんちゃん戦車道やってたんだ、教えてくれたら良かったじゃん」

 

「いえ、まさか立江が知波単にいるとは思わなかったものですから…」

 

「4戦2勝2敗。のんちゃんとの決着つけれなかったかんねー」

 

「中学に上がる前、立江が引っ越したから仕方ありませんよそこは…」

 

「あ、クラーラ元気にしてんの? 納豆送ったんだけど」

 

「ネバネバに苦戦してましたね」

 

「だろうねー、クラーラ、ロシア人だし。ボルシチ用のジャガイモの方が良かったかなー」

 

「Я тоже так думаю(私もそう思います)」

 

「Может быть(そうかもねー)」

 

「ハラショー」

 

「永瀬、二人ともなんて言ってんの?」

 

「わかるわけないじゃん」

 

「ならなんで今の会話に入ろうと思ったの!?ねぇ!?」

 

 

 そう言って突っ込みを入れる多代子。

 

 永瀬はとりあえずハラショーと言ってみたかったらしい、この会話に参加しようとする永瀬の勇気もそうだが覚えたてのエセロシア語を使い突撃するあたり知波単の精神を感じる。

 

 この様子を見ていた辻ですら脱帽ものである。ハラショー。

 

 そして、改めて立江は皆の方へと振り返るとノンナについての話をしはじめた。

 

 

「おっとごめんねー、この娘はノンナ。私の幼馴染なんだー」

 

「いや、そりゃええんやけど…サンダースのシャーマンのあの娘はええの?」

 

「平気平気、後でうちで栽培したトマト渡しとくから」

 

「なら大丈夫やな」

 

「なんの問題もないね」

 

「いやー、流石は私らの参謀だよ」

 

「全然大丈夫じゃないんだが、それは…」

 

 

 一応、お詫びはするつもりなんだろうがお詫びの仕方が自家生産したトマトを差し上げるとはどうなんだろうか、明らかに大丈夫じゃなさそうと辻は苦笑いを浮かべるしかない。

 

 そして、ノンナに幼馴染がいると知ったカチューシャは驚いた様な表情を浮かべ彼女に問いかける。

 

 

「ちょっと!? ノンナ! 私、あの娘の知り合いとか初耳なんだけど!!」

 

「Извините(すいません)」

 

「都合が悪くなったらロシア語使って謝るのは良くないと思うんだけど!? 日本語で話しなさいよ!!」

 

「カチューシャ!! 貴女もまだロシア語ダメなの!?」

 

「ひぃ! あの!隊長! スタルシー副隊長もダメでしたよね! ここは日本なんだし日本語で…」

 

「えぇ! 予想外なところから飛び火したんだけど! ちょっと!」

 

「どうやら、二人してプラウダ式ロシア語学術を仕込まなくてはならない様ね」

 

「ひぃ…! シベリア教室送りは勘弁を!」

 

「さぁ?」

 

 

 そう言いながら、威圧感を醸し出し、副隊長のスタルシーとカチューシャに告げるジェーコ。

 

 二人はただただ戦慄するしかない、あんなシベリアのようにクソ寒い立地に建てられた教室でひたすらロシア語学を身につけるための勉強なんてものはしたくないのである。誰だってそうなるだろう。

 

 一応、プラウダ高校では一般的なロシア語授業をやっているので普通ならそちらで学べる。人間得意不得意があるので仕方ない。

 

 

「あ、そういやさ、プラウダで思い出したんだけどツンドラで強制労働30ルーブル。って木を伐採するやつあったよね?」

 

「あ! それやろ! うちも同じ事思うてたわ」

 

「え? あ、いや、確かにあるけど…」

 

「いやーどうせなら全部伐採してもいいなら今度参加させて貰おうかって話してましてね」

 

「え?」

 

 

 繁子の言葉に固まるジェーコ。

 

 まさか、プラウダ高校が誇る誰もが嫌がる補習。ツンドラで強制労働30ルーブル(学園艦のすみっこで樹木の伐採30日間)を進んでやりたがる5人娘が目の前にいるのだ。それはそうなっても仕方ないだろう。

 

 繁子はさらにジェーコに付け加える様にこう告げる。

 

 

「あ、もちろん、伐採した木は持ち帰ってもいいんですよね?」

 

「いや…あの…まだ参加させるとは…」

 

「現地でチェーンソー自作しなきゃね」

 

「んじゃ私、ブルドーザー持ち込むわ」

 

「私はとりあえずトラックの運ちゃんっすね」

 

「………………」

 

 

 まるで話を聞いていないどころか既に今度行く前提で話を進める繁子達。

 

 ジェーコもこれには呆然である。彼女達はおそらくプラウダの学園艦に生えてる木を全て伐採する気であるという気概が見えた。

 

 本気で殺しにかかってる。ジェーコにも話を聞いていた辻ですら予想外だった。

 

 

「あ、そういやさ、永久凍土で穴掘り10ルーブルってのもあったよね」

 

「あ、なら穴が掘りやすい様に電動ドリルを…」

 

「もういい! もう休めッ!」

 

 

 辻はこれ以上話を広げ始める前に彼女達を止める。これ以上はまずい、下手をすればプラウダの学園艦の永久凍土が永久凍土で無くなる気がした。

 

 ジェーコにもそうなれば辻も合わす顔がない。果たしてこいつらはどこまで本気なのか、目を見る限り全部本気でやる気なんだろうが…。

 

 戦車道全国大会開幕日での邂逅は次回に続く。

 

 

 




プラウダ高校の余談。


「そう言えばなんでジェーコさんは繁子をやたら欲しがるの?」

「ん? そりゃうちの隊長はちっさくて可愛いのが好きだからな」

「あぁ…なるほど…道理で」

「あの人は意外と乙女だよ、カチューシャだって小さくて可愛いからもう溺愛さ」

「…リーダーとカチューシャを組ませて来年はミニミニコンビと…」

「なんだか可愛い行進になりそうですねそれ」

「のんちゃん満更でもなさそうだね…」

「はい」

「うん、しげちゃんはうちで保護しとかないとな…」

「繁子! 肩車して!」

「ええよ! これで身長2メートル越えや!」

「これで誰にも負けないわ!」

「この娘達本当に大丈夫かなぁ…」


完。


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