ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
戦車道全国大会開幕。
あの強豪校が並ぶ戦車道全国大会開幕日から一週間が経ち、繁子達は記念すべき全国大会デビューを果たす日を迎えた。
製造途中の戦車は未だにあるが、それでもある程度の戦力は用意できた。戦車道全国大会一回戦は問題なく戦える戦力だろう。
繁子達がいる知波単学園だが、一回戦の相手はヴァイキング水産高校。
スウェーデン戦車を主体とする高校で戦車道の伝統もそれなりに兼ね備えた学校だ。
対する繁子達の戦車はチハ車、チト車。加えて2輌だけ完成したチヌ車とチヘ車。そして、一番最初に製造に取り掛かった完成した3輌のケホ車だ。
この戦いにはオイ車は置いてきた。オイ車はあくまでも知波単の秘密兵器。強豪と当たる前に修理になると大変な労力を使う事になる事を見越しての繁子の判断である。
「今回はオペレーションSTDやるで!」
「しげちゃん? それなんの略?」
「スイカの糖度や!」
「スイカの糖度ってどれくらいが合格ラインだっけ?」
「11度やなかったかな?」
「あ、ほんとだ11度だ」
「なんでわかるのよ!」
そう言って、スイカについての本を取り出し読み上げた多代子の言葉に仰天する立江。何も見らず見事、スイカの糖度の合格ラインを当てた繁子には驚かされても仕方ないだろう。
さて、話は戻すが、ヴァイキング水産高校のスウェーデン戦車の影をとらえたとの通信が繁子達の乗る山城に入ってくる。
いよいよ、一回戦、試合開始だ。
「ま、冗談はこれまでにしとこうか。敵戦車をスイカの糖度の様に甘く、それでいて食感のようにシャリっとやっつけるで」
「うーん、ものすごく分かりにくいんだけどなぁ…」
「私、メロンが良かったなー」
「そういう問題っ!? ちがうよねっ!?」
「さて、みんなに作戦を伝えななー」
そう言って、通信機を手に取る繁子。
フラッグ車のチヌに乗る隊長の辻にすぐさま現在の状況、そして、これからどうするかの打ち合わせを始めることにする。
こうして作戦名「オペレーション。スイカの糖度は11度」は決行に移される事になった。
まずは、ケホ3輌による撹乱からはじまる。
高機動の戦車であるケホならば敵の戦車を奇襲により混乱させるのは容易だというのは参謀立江の進言である。
「さてと、ケホ車で撹乱したらまずはチハで後詰めして即撤退と…」
「そして、手作りで速攻作った沼地を形成した森林地まで誘き出して」
「三方向から一斉射撃やね」
「分隊に分かれてたらどうするよ?」
「そっちはウチらが行く、チへとチハでとりあえず持ち堪えたらなね」
「そして、機動力があるケホを使って作戦成功次第後方から挟撃ね」
「ま、大まかな段取りとしてはこんなとこやな」
そう言って繁子は立江の言葉に頷く。
後はこれが成功しなかった場合だ。沼地を嗅ぎつけられ、やられてしまえば元も子もない。だが、繁子にはプランがあった。
それは、戦車ダミーを使ったタイムロス作戦だ。
この作戦は丈夫な機材を使い、繁子達が用意したダミーを使用。このダミーには現在、製造中のホリをモデルにしたダミーを使用する。
何故、ホリのダミーなのか? それは、現在の繁子達の戦車の中でも火力が高く、ヤークトティーガーに匹敵するような戦車であるから。
向こうはホリを警戒する分、ダミーである事が分かるまでに時間がかかる。そして、そのタイムロスを利用し、繁子達が時間を稼ぐという作戦だ。
「うわ、しげちゃんずっるーい」
「わっはっは! もっと褒めてもええんやで?」
「まぁ、手段は選んでられないし良いんじゃない? 勝てば官軍ってやつよ」
「そういうこっちゃ。んじゃ、はじめんで!」
「アイアイサー!」
繁子の乗る四式中戦車はこうして発進する。
まずはケホ先鋒隊の奇襲作戦、通信を取りながら奇襲をより正確にする為に今回、ケホ隊の車長には永瀬を抜擢した。
先鋒隊からの通信をひとまず待つ繁子達。そして、後詰めに控えるのはチハを従えるチヌに乗る隊長辻つつじ。
スウェーデン戦車部隊は繁子達に挙がった報告同様、こちらに直進してきているようだ。
『こちら辻隊、敵影見えた』
『同じく永瀬ケホ先鋒隊。飛び出すタイミングの合図待ちだよん! リーダー!』
「よっしゃ、ならそのまんまでええ、まだあっちはこちらに気づいてないみたいやからな」
『しっかし、このカモフラージュ完成度高いな…』
『うちらが作ったカモフラージュはカメレオンの如く見分けがつかないようにしてるからね』
「ま、味方にも見分けがつかんぐらいのカモフラージュやからな、さぁ、談笑は終わりや、来るで」
『アイサー!』
繁子は双眼鏡を使いながら戦況を確認しつつ、敵がデットラインに近づくのをじっと観察する繁子。
後数メートル。定めたデットラインを越えてそれから敵が近づけば繁子は二人にゴーサインをすぐさま出す。
そして、敵戦車の履帯がデットラインに差し掛かるその時だ。繁子はすぐさま通信機を通して永瀬ケホ先鋒隊に指示を飛ばした。
「いまや! 智代!!」
「合点承知の助! みんな! 続けえ!」
「ひゃっはー!」
奇襲開始。
主砲をぶっ放し、3台のヴァイキング水産高校の戦車を行動不能に陥らせた後、カモフラージュを解き放った永瀬隊ケホ3輌は勢いよく飛び出し、優れた機動力を駆使し散開。
次から次へと撹乱を兼ねて砲撃を繰り返す。
そして、突然のケホの出現に浮き足立つヴァイキング水産高校の戦車に追い打ちをかけるべく、辻隊もそれに続く。
「さぁ! 私達の十八番! 突撃だ! 皆! 続けぇ!」
「知波単万歳!」
散開したケホの撹乱を見た辻隊はすぐさま突撃命令を自分の隊に通達。
隊長辻が乗るチヌが砲撃を繰り返しながら突撃、チハもその後に続く。
放たれた砲弾が敵戦車に次から次へと直撃し、白い旗を揚げて行動不能に陥る。戦局的にはこちらが有利になった。
だが、すぐさま通信機を通して、繁子は辻隊、永瀬隊に通達を出す。
撹乱がうまくいっているいまだからこそこれはこれで良いのだが相手もこのままで終わるはずが無い。体制を整えてくる筈だ。
「各隊に通達! 味方知波単戦車が2輌やられた時点で例のポイントへ移動開始や!」
『了解!リーダー!』
『こちらチヘ隊! やはり来ました! 分隊です!』
「やっぱり来よったか…。チヘ隊は砲撃しながら後退してホリ車ダミーが設置してある地点に移動。その後ウチらと合流して局地戦に持ち込むで!」
『了解しました!』
「立江、向こうに着いたらチヘに乗り換えお願いできるか?」
「車長交代ね、了解、合流したらチヘに乗り込むタイミング合わせるわ」
そう言いながら戦車内の立江に戦車の乗り換えをお願いする繁子。
この局地戦の要はおそらく繁子が乗る四式中戦車と立江が乗り込む段取りにした一式中戦車だ。
丈夫なホリ戦車のダミーがあるからなんとか持ち堪える事は可能であるだろうがそれでも念をおしといて損は無い。
繁子はとりあえず交戦中の辻隊に伝令を送る。
「辻隊長! いまの時点から撤退お願いできますか? フラッグ車は狙われやすいんでなるべく撹乱している時点から撤退しといた方が手堅いかと」
『了解した! 3輌ほど倒したからな! 奇襲戦の戦果としては十分だ!』
「相手のStrv m/42は軽戦車やしな、良好な装甲と機動性があるし、早めに撤退は吉ですよ、永瀬もええか?」
『ごっめーん! しげちゃん! ケホ一台やられたよ!』
「しゃあないよ、なら辻隊に続いて撤退しといて! 残り2台やられる訳には行かへんし」
『了解!』
そうして、最初の段取り通りに辻隊に続き敵の追撃を誘発するように砲撃を繰り返しながら撤退をする永瀬達。
『撤退とは敵の逆に突撃し勝利をつかむ事である』
繁子はそう辻達に話をしていた、撤退は退くことではなく勝機を待って改めて突撃する機会を作り出すことだ。
『こちら辻隊、目標ポイントに到着』
『同じく永瀬、ポイントに到着』
「よし! ならウチらもチヘに合流するで! 『宙船・ゴー!!』」
「よっしゃ! しげちゃん! それじゃ指揮向上に音楽かけるよ!」
そう言いながら多代子は持ってきたカセットテープの音楽を戦車で流しはじめる。そこから流れてきたのは何回もリピートして聞いた曲だ。
それは、繁子達が自分達で作った曲。
ついに出番を迎えた今、繁子はこの自分達の作った曲と戦車で共に戦場を駆ける。
すぐに交戦中のチヘが率いるチハ部隊に合流した繁子はすぐさま砲撃手である真沙子に指示を飛ばした。
「装填準備は出来とるな!」
「任せてよ! しげちゃん! 伊達に永瀬ちゃんの代わりやってないんだから!」
「よっし! 真沙子!」
「了解! しげちゃん!」
そう言いながら、装填準備を終えた四式中戦車の砲身の標準を合わせる真沙子。
チヘ隊に合流した瞬間、砲身はピタリと敵戦車の姿を捉える。やはり、ダミーのホリを警戒してかこちらにはあまり深くは来てない様子だ。
しかも、いきなりチヘ、チハの背後から現れた四式中戦車にはヴァイキング水産高校の生徒も驚きを隠せずにいた。
繁子はもちろんそんな隙は見逃さない。
「放てい!」
「よいしょい!」
ズドンッ! と四式中戦車の主砲から煙が上がり砲弾が発射される。
そして、着弾、煙を立てるとヴァイキング水産高校の戦車の1輌は行動不能に陥った。そして、その間にチヘが後退。
そのチヘの動きを確認した繁子は中にいる立江に指示を飛ばす。
「ぐっちゃん今や!」
「待ってました!」
そう言いながら四式中戦車から勢いよく飛び出す立江。
そして、立江と入れ替わるようにチヘから通信手の二年生が飛び出すとハイタッチを交わし、それぞれ乗員の交換を完了させた。
車長が立江に代わり、チヘ車とチト車による砲撃により、更にヴァイキング水産高校の戦車は苦戦を強いられるようになった。
「あともうちょっとやね!」
『しげちゃん! こっちケホ隊だけど! 作戦成功したよ!』
『敵車輌は全滅だ!』
「了解! なら!永瀬! こっちを背後からケホとチハで包囲お願いできる?」
『任せんしゃい! リーダー! 頑張りなよ! すぐ行くからさ!』
『私はどうする?』
「ケホの後方からの援護射撃を! てか、隊長フラッグ車なんやからむやみやたらに突撃はさせれへんで?」
『う…わ、わかった』
「次回からはウチがフラッグ車した方がええんちゃいます? 隊長はその方が突撃しやすいですやろ?」
『確かにそうかもな…検討しとくか』
繁子は自作した沼のポイントにて敵戦車の殲滅を終えた二部隊にそう指示を出す。
どうやら、作戦はうまくいった様である。
三方向からの殲滅を終えた二部隊は機動性が高い永瀬のケホ隊を先頭にすぐさま繁子達の援軍へと向かう。
残る戦車はあと僅か、あとは押し切るだけだ。
「…よっし! 1輌やった!…あっ!」
「代わりにチハが1輌やられてもうたな、こりゃまた修理やねぇ」
立江の戦車の砲弾が着弾し1輌行動不能にしたが、こちらもチハが1輌行動不能に。
ここまで来たら仕方ないととりあえず繁子は通信機を使い、自分達の周りにいるチハに乗る生徒達にこう通達を出した。
「チハ隊は全員突撃〜。丁度、ケホが着いた頃合いや、こっちに気を惹きつけるで」
「突撃だって!」
「ようやく突撃か!」
「潔く参りますゆえ!見てて下さいね!しげちゃん!」
「言っとくけどそれ自分達で最終的に修理するんやで?」
そう言いながら、すぐさま突撃に移る繁子達の周りにいるチハ隊。
それと同時に敵戦車の背後から永瀬と辻隊が合流を果たして、繁子達の援護にやって来た。戦車の数で言えばこちらが有利。
普通なら包囲が完了するが、繁子がチハ隊に突撃を命じた為、敵戦車はそちらに砲身を向かざるえない。
だが、永瀬達はこれに便乗して背後から敵戦車を強襲した。
「とーう! 永瀬参上!」
「同じく! 辻隊参上!」
二人の部隊の攻撃により次々に戦車から白旗が挙がり行動不能に陥るヴァイキング水産高校。
そして、当然ながらこの場面で繁子は四式中戦車からフラッグ車を狙う様に真沙子に告げた。
この混乱に乗じてフラッグ車を討ち取る為だ。砲撃手は真沙子、彼女ならば百発百中である事を繁子は信じている。
「今や! 撃てぇ!」
「はいな!」
ズドンッ! という音とともに砲弾が四式中戦車から勢いよく飛び出す。
放たれた砲弾は敵フラッグ車の履帯に直撃。綺麗に履帯が吹き飛び、車体が浮く。
「ちっ…! 仕留め損ねた! ごめん! しげちゃん!」
「いや! まだ終わってへんよ!」
繁子は謝る真沙子にそう告げる。
そう、まだ終わってはいない、フラッグ車の浮いた車体。そこに追い打ちをかける様に突撃したチハが1輌フラッグ車に密着して砲弾を発射した。
吹き飛ぶヴァイキング水産高校のStrv m/42のフラッグ車。
チハから吹き飛ばされたヴァイキング水産高校のフラッグ車からは白旗が挙がり行動不能。この勝負、勝敗は決した。
『ヴァイキング水産高校! 行動不能! 勝者! 知波単学園!!』
勝利を確信させるアナウンスの声が響き渡り、試合を終えた繁子達は戦車から全員顔を出すとガッツポーズを取る。
ケホ、チヌから飛び出した永瀬と辻はすぐさま繁子達が乗る四式中戦車に近寄ると全員でハイタッチを交わした。
そして、最終的に敵フラッグ車を討ち取ったチハに乗る二年生を迎い入れるとその二年生達を全員で褒め称える。
「よっしゃー! ナイスやで! 先輩!」
「あそこでよく詰めてましたよ!」
「あはは、まさか私らが倒せるなんて思わなかったよ」
「流石は私の部下だ!」
「ありがとうございます!」
「とりあえず一回戦突破やね! みんな胴上げや!」
「「「おー!」」」
そう言いながら、繁子は今回フラッグ車を討ち取る事に成功した二年生達をそれぞれ胴上げする様にみんなに提案し、隊長の辻もそれに乗った。
二年生達の身体は宙を舞い、皆が勝利を収めた事を喜ぶ。
戦車全国大会一回戦、ヴァイキング水産高校。
繁子達は記念すべき、戦車道全国大会初戦を白星で飾り、次の二回戦に駒を進める事になった。