ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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昔話

 

 前回までのあらすじ。

 

 かつて栄えた時御流、しかし、その時御流は過酷な流派ゆえに没落の一途を辿っていた。

 

 そして、その時御流家元。繁子の母、明子は病によりこの世を去る。母、明子から遺された時御流、繁子はこの時御流を再び再興させるために島田流、西住流を倒す事を母に誓う。

 

 繁子と時御流を共に学んだ同門の永瀬、国舞、立江、真沙子の四人の仲間達。

 

 繁子達五人は時御流の力を示すべく、名門知波単学園へと入学した。だが、そこにあったのはボロボロになったチハばかり。

 

 この事態を重く捉えた繁子は新たな戦車と知波単学園の機甲科の意識改革を提唱。

 

 隊長の辻つつじと共に辻達三年生最後の全国大会に挑むのであった。

 

 全国大会に蠢めく強豪校達。

 

 繁子は幼き日、親友となった西住流、西住しほの娘西住まほと決勝で戦う事を約束する。

 

 そして、繁子達は迎えた戦車道全国大会初戦、ヴァイキング水産高校を難なく降し初戦を突破。

 

 二回戦に駒を進めるのであった。

 

 

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 ここは西住流本家。

 

 西住流、西住しほの私室だ。彼女はまっすぐにテレビを見つめてある試合の光景を眺めていた。

 

 似ている…。テレビの液晶を見つめる彼女はそう思った。かつて戦った宿敵であり親友である女性の戦い方。それに、その試合の展開の仕方があまりにも似通っていた。

 

 

「しほ様。また知波単学園の試合をご覧になっているのですか?」

 

「…ん…、ありがとうございます。えぇ、少し気になることがありまして」

 

 

 そう言って、秘書が持ってきたお茶を受け取る西住しほ。

 

 彼女は今までとは違う知波単学園の試合運びが映るVTRにこれまでに無い、重なる様な、そんな違和感を感じた。

 

 これが憶測ではなければ、もしかすると知波単学園に以前、秘書に話していたかつての友人、城志摩 明子の遺した一人娘がいるやも知れない。

 

 そう、島田流と西住流だけである今、再び、蘇ろうとしている流派の姿。しほはその事が気掛かりになっていた。

 

 

「…すいませんが、知波単学園の機甲科に今年入った一年生の名簿を見たいのですが、可能ですかね」

 

「はい? 知波単学園の機甲科の一年生ですか?」

 

「えぇ。お願いできますか?」

 

「わかりました、では持って来ます…しかしなんでまた」

 

「ある約束の為です」

 

「約束…?」

 

「えぇ、ですから頼みましたよ」

 

 

 そう言って、西住しほは秘書にそう言うと再びそのVTRに視線を戻した。

 

 地形自体を変え、自分達が戦いやすい環境を作り出し連携が取れた待ち伏せとそれからの挟撃。

 

 待ち伏せの為に知波単の戦車に掛けられたカモフラージュはしほの目を持ってしても見抜く事はし辛く、それでいて、奇襲を仕掛けたケホ車3輌が飛び出すタイミングも完璧だった。

 

 西住しほが今までの知る突撃だけの知波単学園の戦術とはとても思えない。まるで違う何かを感じさせる、そんな戦術だった。

 

 

「持って来ました。今回の戦車道全国大会の登録選手の名簿です」

 

「ありがとうございます」

 

 

 そう言うと西住しほは秘書に退がる様に告げ、すぐに秘書が持って来た戦車道全国大会の知波単学園一年生の登録選手名簿に目を通す。

 

 自分の予想が当たっているならばこの学園の選手に彼女がいる筈。

 

 明子は言っていた、時御流は自分の代で潰える事になるだろうと。

 

 しかし、しほはそれでも時御流という戦車道の流派を娘に語り継ぐべきだと彼女に説いた。

 

 だが、明子は自分の娘には自分の戦車道を見つけてほしいと願っていた。しほもそんな明子には何も言うことはできなかった。

 

 時御流の戦い方、西住流の戦い方、島田流の戦い方。

 

 そのそれぞれで、かつて、自分を含めた流派を使って三人で戦い合ったあの思い出はしほには忘れることができないものだ。

 

 西住しほは選手名簿を眺めながらふと昔の事を思い出す。それはしほが高校生だった時の話だ。

 

 全員負けず嫌いで流派の面子関係なしに勝負にこだわった。

 

 

『あんたら負けたら私ら全員にアイス奢りやかんね!』

 

『フラッグ戦で貴女には西住流は勝ち越してますから果たして勝てますかね?』

 

『…どうかしらね〜? 殲滅戦だろうがフラッグ戦だろうが島田流ならば貴女達なんて束になっても勝てませんよどうせ』

 

『あ、わかった。言質とったな! しぽりん!』

 

『あぁ、確かに聞きましたね』

 

『んじゃ実家からラントクロイツァーP1500モンスター作って引っ張って来るけど大丈夫やね?』

 

『ごめんなさい嘘付きましたやめてください死んでしまいます』

 

『…明子の目の前で殲滅戦は禁句ですよ』

 

『あはははははは、冗談やって!ちよきち!』

 

『貴女が言うと冗談に聞こえないんですよ』

 

 

 他愛の無い会話を交わしたエキシビションマッチ。

 

 結果は負けたり勝ったりだ。何回も練習試合を組んでは三人で切磋琢磨してそれぞれの流派の腕を競い合い磨き合った。

 

 高校三年生最後の戦車道全国大会が終わって、西住流がフラッグ戦で時御流と島田流を破り優勝。

 

 だが、互いに全てを出し切った彼女達には未練も遺恨も無かった。

 

 明子の人柄はとても明るくて、それでいて結婚してからも母性溢れる優しい母親だった。

 

 明子が結婚し、親しくなった彼女が子供を連れて夏休みに西住本家に遊びで訪れた事もあった。

 

 明子と自分の子供達がすぐに仲良くなった事もしほは知っている。よく三人で遊びに行く姿を明子と見送ったものだ。

 

 それから何年後だっただろうか、西住しほは時御流本家を訪れた。そこに居たのは床に伏せているあの明るかった明子の姿だ。

 

 そして、床に横たわる明子の言った言葉はとてもしほには信じられ無かった。

 

 あのなんでも作る凄い娘が、こんな風になるなんてしほは思いもしていなかった。

 

 

『…久しぶりやねーしぽりん』

 

『………えぇ…』

 

『何辛気臭い顔しとるん?』

 

『具合は…?』

 

『こればっかりはねぇ…』

 

 

 そう言って、苦笑いを浮かべる明子。

 

 枕の横にある薬や明らかに顔つきが痩せた明子の様子を見れば、しほにもこれがどうにもならない事であると理解できる。

 

 けれどもかつて、あんなに激しく戦った戦友と呼べる明子が苦しんで病と戦っていると思うとしほは心が苦しかった。

 

 

『…そうですか…』

 

『多分、もっても…あの娘が中学三年生くらいやろうかねぇ…』

 

 

 そう言って、明子は外を眺めながら遠くを見つめる。

 

 自分の身体の事は自分がよくわかっている。明子はしほにそう言い切った。だが、残された者達はどうなるのか、しほにはそちらが心配でならなかった

 

 

『その娘はどうなさるんですか? 貴女がいなくなれば…』

 

『そんなヤワな育て方はしとらんよ、あの娘なら無人島でだって一人で生きていける』

 

『ふふ、貴女が言うと冗談に聞こえませんよ』

 

『あはは…、そうやねぇ…』

 

 

 他愛のない会話だけれどもなんだか感慨深いものだった。この時のしほにはこの時間が限られたものでなくなってしまう事が未だに信じられない。

 

 すると、明子はふと何かを思い出した様にポンッと手を叩くと笑顔を浮かべてこうしほに話をしはじめる。

 

 

『あ、そういやちよきちも来たんよ? しぽりんみたいに辛気臭い顔してお土産にカステラ持って来てくれてね、後で一緒に食べんね?』

 

『ほんとですか…。いやしかし、私がもらって良いものか…』

 

『ええよーええよー、気にせんでも! しぽりんと私が一緒に食べたいんよ』

 

 

 そう言うと明子は見舞い品で貰ったカステラを持ってこさせるとお茶を飲みながらしほとそれを食べる。

 

 そして、カステラを食べ終えると一言、明子はしほにこう告げた。

 

 

『…カステラ作らなあかんかなぁ』

 

『ダメです』

 

『えぇ〜』

 

『ダメです』

 

 

 明子が何かを言う前にしほは全力で止めに掛かる。

 

 病人が何を言っているのか、身体を休めとかないといけないのにカステラを作ろうと考えるなんてもってのほか、そんな、しほの感情もあってか止められた明子はプクーと頬を膨らませて拗ねる。

 

 

『そんな顔をしてもダメなものはダメです』

 

『わかっとるよ、冗談冗談…』

 

『だから貴女の冗談は…はぁ、もういいです』

 

 

 しほはニシシと笑みを浮かべて笑う明子に何かを言う前に溜息をついて言うのを止めた。

 

 明子とこんなやりとりをしたのは久しぶりだけれど自然だった。そして、しばらく時間が経ってからだったろうか、明子はしほにこう話を切り出した。

 

 

『しぽりん…さっきの話…。やっぱりあの娘の事、私がいなくなってからお願いできんね?』

 

『…あきちゃん』

 

『…うん、あんな事言ってたんやけど…やっぱり心配なんよ…。私がいなくなったらあの娘がどうなるか…』

 

 

 そう言って、儚げな笑みを浮かべて明子は素直な気持ちをしほに打ち明けた。

 

 明子の言葉を聞いていたしほは静かに頷いてこう返答を返す。彼女の母親としての願いならば聞いてやらねばならないと、しほはそう思っていた。

 

 

『…えぇ…わかりました』

 

『ありがとな?』

 

『ちよきちも私も…。貴女の事が好きですから、見届けてあげますよちゃんと…その娘がどうなるか』

 

 

 そう言って、細くなった明子の手をそっと握るしほ。

 

 明子はその言葉に安心した様に笑みを浮かべた。なんやかんや言っていてもやはり、明子も一人の母親なのである。

 

 しほもその気持ちはわかった。自分がもし明子の立場であるなら娘達はどうするのか考えた事もない。

 

 だから、彼女の力になりたかった。時御流もともに戦車道を極めていずれ西住流、島田流の様に日本が誇る流派の一角になるべきだと島田流家元、島田千代も西住流、西住しほもそう思っていた。

 

 そんな昔の思い出を思い出しながら明子との約束を守る為にもしほは知っておきたかった。

 

 その、明子の意思を継いだ娘の事を。

 

 

「…ありました、一年生…なるほど、この娘ですか」

 

 

 登録選手の名簿を調べていたしほの手がピタリと止まる。そして、その中から彼女に似た雰囲気がある娘を見つけ出す。

 

 その大きくなった写真の姿を見たしほはフッと優しい笑みをこぼした。

 

 

「城志摩 繁子…、随分大きくなりましたね。どことなく明子に似てます」

 

 

 写真に写る大きくなった城志摩 繁子の写真。

 

 この娘の成長が娘達同様に良いものであって欲しい、きっと亡くなった明子もそう思っている事だろう。

 

 そして、恐らくは黒森峰で戦車道をはじめた娘のまほにも来年、高校に上がるみほにも繁子という存在がきっと何かしらの変化をもたらしてくれる。

 

 

「さて、知波単は時御流とわかった今、うかうかしてられませんね。対策を練る様にまほにも言っておかなくては」

 

 

 だが、もちろんしほは黒森峰を負けさせるつもりは毛頭無い。

 

 明子の娘であるならばきっと黒森峰の障害として立ち塞がる筈だ。王者として、最大の挑戦者を迎え討つのが西住流である。


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