ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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対サンダース会議

 

 

 戦車道全国大会、知波単学園の初戦勝利から一週間。

 

 繁子達、知波単学園はヴァイキング水産高校に乗った勢いで続く二回戦、LT-35、LT-38を有するヨーグルト学園を撃破。

 

 新たに生まれ変わった知波単学園と繁子達が使う時御流という全く未知の流派を知らない学園であった事が幸いし、繁子達が組んだ戦術がヨーグルト学園に見事的中。繁子達は難なく三回戦に駒を進めた。

 

 そして、いよいよ次は三回戦。ここからが本番である。

 

 三回戦以降からは実力校ばかりがひしめく強者達の世界。

 

 ここからは次元が違う。三回戦、繁子達が当たる対戦校。それは…。

 

 

「やっぱり上がってきよったか、サンダース大学付属高校」

 

「だろうな…」

 

「けど、二回戦、継続高校に苦戦したらしいよ。なんでも一年生がかなり曲者だったとか」

 

「その話がほんとなら、来年の継続高校は相当強いやろうな…、油断できんところやで」

 

「え? なんで?」

 

「考えてみたらわかるでしょう? 継続は貧乏な学校に比べサンダースはかなりの戦車を有する3軍まである実力校よ。それを苦戦に追い込んだというのは戦車を操る腕が相当長けてる証拠」

 

 

 そう言って首を傾げる永瀬に告げる立江。

 

 戦車の質を覆すような戦術を引いたのか、それとも、戦車の腕が相当良いのか二つに一つ、そのどれにしても負けた継続高校という学校はなんとも言えない不気味さがあった。

 

 繁子は冷静に推測し、おそらくは条件さえ合えば継続高校はサンダースすら破る実力を兼ね備えていたという答えに辿り着く。

 

 そう例えば。

 

 

「うちらが戦車を作ったったらかなり強くなるかもわからんなぁ…。まぁ、うちらは知波単学園やけれども」

 

「戦車か…、確かに貧乏な事を考えれば戦車の質は必然的に下がるだろうな」

 

「戦術と乗ってる連中のポテンシャル的にはサンダースより継続高校が上回ってるかもしれんね」

 

「だが、サンダースは3軍まである学校だぞ? 競争がそれだけ激しい学校にポテンシャルが上回るというのは…」

 

「現場だと状況や指揮官が違えばそれだけでガラリと違うもんですよ、継続高校か…覚えとこ」

 

 

 繁子は冷静にサンダースが倒した相手の分析も視野に入れてそう呟く。

 

 来年、再来年、この学校が果たしてどうなっているかわからない、もしかするととんでもない強い学校になって来るかもしれない。

 

 だが、本題は繁子達の次戦で戦うサンダース大学付属高校だ。

 

 財力、戦車、乗車員。この全てが揃うこのサンダース大学付属高校。

 

 ニミッツ級空母に似た学園艦及び学園艦に所在する高校で、戦車の保有台数全国一を誇るお金持ちの学校として知られている強豪校である。

 

 その保有車両数は機甲大隊一個分の戦力にあたる50両の戦車を練習試合に投入可能な程。

 

 M4シャーマンを中心とした車両は、多少の故障ならば入れ替える事で常にベストの布陣で試合に臨め、その圧倒的な戦車の物量と信頼性と故障率の低さにより投入可能な戦車数が多くなる大会後半戦に強く、その事から聖グロリアーナ女学院、プラウダ高校、黒森峰女学園と共に優勝校の一角として知られている。

 

 

「ぐっちゃんが大好きなシャーマンが腐る程ある学校やな」

 

「いや〜涎が出るねー」

 

「目が輝いてんね、ぐっちゃん」

 

「ぐっちゃんはT34が大好きだとばかり思ってたけど」

 

「ある戦争映画の影響でね! フォーリー見てたら好きになってさ!」

 

「あぁ、あの戦車の…確かにロマンがあったね」

 

「でしょ! でしょう!」

 

「まぁ、今回はそんな戦車群を根こそぎぶっ倒すのが目的なんやけどね」

 

 

 そう言って、繁子はミーティングの最中にタブレットを出し、地図を広げて次回の戦う戦場について冷静な分析と戦術の段取りを取りはじめる。

 

 今迄の戦いとは違う、そんな、繁子の雰囲気はその場にいる知波単学園の仲間達全員に伝わった。

 

 向こうは財力のある名門校、そして、こちらは自作や試行錯誤して製造した戦車ばかりだ。

 

 金や戦車の量や質だけで試合を勝たせるなんて、繁子のプライドが許さない。あのサンダース大学付属高校の隊長も見返さないといけない。

 

 自分達がたかが一年生如きなのかどうか。そして、同時に示す必要がある、自分達を率いている知波単学園の辻つつじが最後のこの大会に賭けている覚悟を。

 

 

「なら、今回、決戦兵器オイ車1輌。及び、完成したホリIIの導入を行うけど、異論はないな?」

 

「うん」

 

「もちろんだ」

 

「よし、なら話を続けるで、現在、ウチらはチハの量が比較的に多すぎる。よって、試合までにこれを数輌改造しようと考えてます」

 

「改造? 何に改造するんだ?」

 

「三式砲戦車ホニIII。ですね。可能ならばこれを中心に徐々に改造していこうかと考えとります」

 

「対シャーマンにはやはり、それなりの戦力が必要ですからね」

 

「なるほど、わかった」

 

「こちらは先日やられた戦車の修理を兼ねて整備科とウチらで行います。あと、戦車を壊した機甲科ですね」

 

 

 そう言って繁子はチハの改造する方針を辻に明確に伝える。

 

 できればチハは何輌か残す形でこれらの戦車を改造していけたらベストだ。リミットは次の三回戦まで。

 

 何輌改造できるかが勝負である。それでも現在ある戦車でも十分立ち回る事は出来るが無いよりあった方に越した事は無い。

 

 繁子達はなんとしても辻を優勝させてやりたい、全員、その気持ちは同じである。

 

 繁子はとりあえずミーティングの続きに入る。本題は戦術だ。財力も戦車も持ち合わせているサンダース大学付属高校にどう立ち回るかが今回の肝になってくるだろう。

 

 戦う立地と場所、地形、状況。

 

 繁子はそれらを踏まえて地図を示しながら辻達にこう話をしはじめる。

 

 

「まず、ケホで奇襲なんですが。今回の奇襲は撹乱目的でなく時間稼ぎ及び即撤退を前提に行います」

 

「なんだと?」

 

「敵戦車をおびき寄せ誘導する為ですね、今回は市街地戦が中心になるかと」

 

「市街地戦か…敵戦車と鉢合わせする可能性が高くなるな」

 

「それが狙いですよ、隊長」

 

 

 繁子はそんな辻の言葉にニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 市街地戦に持ち込む理由、それは、鉢合わせを行わせる為の繁子の策略の一つである。なぜならば、今回はオイ車を導入し、さらに、ホリIIもある。

 

 機動性が高いとは言い難いこの重戦車達を繁子は上手く使おうと考えていたのだ。

 

 

「市街地戦は鉢合わせが多くなる。確かにそうでしょう。けれど地理を理解していれば、そんな鉢合わせを限定して有利に事を運べる武器になります」

 

「今回、市街地にバリケードを作り道を制限してしまいます。もちろん、バリケードには戦車を伏せておいて無理に突破を仕掛ける戦車は迎え討つという算段です」

 

「バリケードを仕掛けて…道を制限する意味は?」

 

「さて、そこで問題です。バリケードが無い道の先にある戦車はなんでしょうか?」

 

「あ…」

 

 

 その繁子の言葉に辻は思わず声をこぼした。

 

 つまり、オイ車が待ち構える道を制限してしまおうという作戦だ。更に、バリケードが無い道に鉢合わせしたオイ車を使い繁子は更に作戦を考えていた。

 

 それはオイ車と連携した挟撃、市街地戦に大量の戦車は道の詰まりや行動範囲の制限が掛けられる。

 

 身動きの取れない大量の戦車を一網打尽にする。

 

 戦車を行動不能にする方法は何も主砲だけが全てでは無い、ビルを倒壊させたりし瓦礫に埋もれさせたり、また、敵戦車が瓦礫からの脱出の間に主砲を撃ち込む事も出来るだろう。

 

 サンダース大学付属高校の大量の戦車が仇となる様にこういった戦術を繁子はわざわざ考えたのである。

 

 それと一つ、繁子はある提案を辻に投げかけた。

 

 

「あと今回の通信手段は無線は使いません、全部携帯端末でやるんで」

 

「そりゃまた、なんでだ?」

 

「傍受される可能性があります。サンダースはそういった戦術が考えられる学校ですから」

 

「はぁ…成る程…。携帯端末を使った通信か、わかったしかし暗黙の了解では無いのか? 良いのか? そんな事をしても」

 

「ダメなんてルールは戦車道のルールのどこにも書いてません。むしろ勝つ為の手段ならばしてくる可能性もあります。勝つ為ならばウチも相手の無線を傍受。…っといきたいところですが」

 

「それはそれで使い道はあるんやけどね、敵が傍受してくるんなら、わざとこちらが通信による誘導とかもできたりとか」

 

「成る程、ケホで奇襲した後に無線をわざと傍受させておびき寄せる事も視野に入れてるわけだな」

 

「ご明察通りですよ、辻隊長」

 

 

 繁子はそう言うと静かに頷いてそれに応える。

 

 バリケードを仕掛ける時間はケホがそれなりに稼いでくれたら大丈夫だ。即興で道を塞ぐ方法なら繁子達は何個も思いつく。

 

 あらかじめ作り置いといたバリケードを道に仕掛けてもいい、戦車を使って建物を倒壊させたりして塞いでも可能性だ。

 

 フェアプレイとは言うが、繁子は警戒を怠るつもりは無い。この後の強豪校と戦う時も携帯端末からの通信手段を用いる事を視野に入れている。

 

 勝つ為ならば、フェアプレイを提唱しているだけでは勝てない。もちろん、無線傍受などは戦車道の暗黙の了解でする学校はいないかもしれない。

 

 だが、戦車道では傍受してはいけないというルールは存在しない。むしろ、繁子達も傍受を戦術に入れようかと考えた時期もあった。

 

 しかし、上で挙げたようにそれを逆手に取られて敵に誘導されて撃破される危険性もある。だからこそ、繁子は通信手段を携帯端末に限定した。

 

 

「通信手段なんて連絡できて状況の把握さえできれば一緒ですからね、それで、戦術を崩される方がよっぽど悪い展開ですよ」

 

「うん、確かに…ならその作戦で行こう。作戦名は?」

 

「せやなー、実はもう考えてありまして」

 

「何? 考えているのか?」

 

「はい、その名も…」

 

 

 繁子はそう言うと静かに笑みを浮かべる。

 

 その言葉にゴクリと唾を飲み込む辻を含めた知波単学園の生徒達。

 

 こんだけ手の込んだ作戦なのだ。きっと繁子が凄い名前を思いついているに違い無い。そんな期待を持って彼女達は繁子からの言葉を待つ。

 

 そして、つけられた作戦名。それは…。

 

 

「名付けて、オペレーションFKや!」

 

「オペレーションFK?」

 

「それってなんの略なの?」

 

「フルセット着てやればすぐにスズメバチを駆除できる作戦の略や」

 

 

 その瞬間、全員が全員、椅子からズルリと転げ落ちた。

 

 名前が長い上になんだか締まらないそんな作戦名である。フルセットとはおそらくバリケードの事を指しているのだろうがそのネーミングセンスはいかがなものだろうか。

 

 だが、この作戦名を聞いた立江達はというと全員が全員納得したように頷いている。まるで、その状況に共感しているようだった。

 

 

「フルセットあるからね」

 

「やっぱりスズメバチ駆除にはフルセットでしょ」

 

「フルセットがあれば大体戦える」

 

「さすがリーダー、わかってるね」

 

 

 何をわかっているというのか全く謎なのであるがどうやら立江達には申し分なく完璧な作戦名だったようだった。

 

 作戦名がわざわざ略されてるのもわかる。略されてるのが無駄に長い。

 

 しかしながら、とりあえず作戦名は決まり、そして、対サンダース大学付属高校との戦術と方針は決まった。

 

 後は敵の指揮官がこの戦術に嵌ってくれるかどうか、それが勝敗を分けるだろう。

 

 繁子達はその後、残りの日にちの事を考えつつ、チハの改造に着手する。

 

 サンダース大学付属高校との決戦に備えてやるべき事はやっておかねばなるまい。それが、彼女達が選んだ戦車道なのだから。

 

 


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