ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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VSサンダース大学付属高校

 

 戦車道全国大会三回戦。

 

 サンダース大学付属高校VS知波単学園。

 

 この日、戦車道に通ずる人間なら誰しもが盛り上がるだろうこの対戦カードに観客は盛大な盛り上がりを見せた。

 

 というのも、WW2で戦ったサンダース大学付属高校のアメリカ軍戦車と知波単学園の日本軍戦車が激突するのだ。

 

 戦車道を知っている者達でこの展開に燃えない者などいないわけが無い。

 

 いわば、日本の誇るべき戦車とアメリカの精神を体現した戦車達が互いの誇りを賭けて戦う。

 

 互いに負けられない譲れないプライドがある戦いだ。

 

 白熱する両校。そんな中、繁子は試合前に隊長であるメグミと顔を見合わせた。

 

 

「今日はよろしく頼みますよ、先輩」

 

「えぇ、良い試合にしましょう。互いにね」

 

 

 そう言いながら握手を互いに笑みを浮かべて交わす繁子とメグミ。

 

 今日は繁子がフラッグ車を四式中戦車に定め乗車を予定している、そして、戦車隊の分配だが前の試合と同じく辻隊と永瀬隊に戦車を分けた。

 

 そして、今回の作戦の要であるオイ車には先日、チハでヴァイキング水産高校から大将首を挙げた二年生。赤髪の短髪少女、新庄 けいこが抜擢。

 

 そして、ホリIIには立江が乗り込み、さらに、ホニIIIとチハ、チヘの戦車隊が戦列に加わる。サンダース大学付属高校と戦う為、知波単学園の布陣は盤石なものとなっている。

 

 笑顔のまま握手を終える繁子とメグミの二人。彼女達は互いに背を向けて己を待つチームへとそれぞれ戻って行く。

 

 だが、当然、背を向けた途端二人の内なる感情は全く別の事を思っていた。

 

 

(…1人残さず潰す)

 

(絶対勝つ…。負けへん…)

 

 

 明らかにそれぞれのチームに戻る際目が据わっている2人。

 

 燃える感情は昂ぶり、互いに身体中から分泌されるアドレナリン。そんな日米のプライドを賭けた対決はこの後の激闘を予感させられるものがあった。

 

 そして、背を向けて皆の待つ戦車に足をむける繁子。

 

 すると、踵を返し自分の戦車へと戻ろうとする繁子の前にサンダース大学付属のタンクジャケットを着た女生徒が2人近づいて来る。繁子はそんな2人の姿が視界に入ったのかピタリと歩く足を止めた。

 

 

「Hello! 貴女が噂の城志摩 繁子?」

 

「へぇ…この娘か…」

 

「あんたらは…」

 

「私の名前はケイ! 貴女と同じ一年生よ! 今日はよろしくね! そして、こっちがナオミ!」

 

「よろしく」

 

「ん…。あぁ、よろしゅうな」

 

「今日はフェアプレイで互いに全力を尽くしましょう!」

 

 

 そう言って、繁子に手を差し伸べるケイ。

 

 繁子はフレンドリーなケイに応えるように握手を交わす。どうやら、悪い人物では無さそうだ。むしろ、心地良い程明るく繁子も彼女の差し伸べてきた手を掴み握手を交わす。

 

 繁子はケイと握手を交わした後にこう話をしはじめた。

 

 

「いやー誤算やった。まさか、サンダース大学付属高校こんなええ人がいるとは思わへんかったよ、もっとバチバチ火花を散らしてくると思うとったからね」

 

「まぁ、ウチのメグミ隊長はそんな感じだけどね! けど、noproblem! 私は純粋に戦車道の腕を貴女と競い合いたいだけだから」

 

「さぁ…その機会はあるやろうかねぇ?」

 

「WHY? 試合中ならばあり得る話でしょう?」

 

「まぁ、それは始まってからのお楽しみって事で」

 

「ふふ、なら楽しみにしとこうかしら?」

 

 

 そう言って、繁子は握手を交わしたケイの横を通り過ぎ、辻隊長達が待つ戦車の元へと歩いて行く。

 

 横を通り過ぎる繁子を横目で見るケイ。

 

 彼女はうっすらとだが、感じていた。繁子から出ている雰囲気。それが、どこか異質である事を、言うならば…。

 

 

(monsterなんて言い方はしたく無いけれど、あの娘…)

 

 

 今までケイが会った事の無い人種。

 

 戦車に乗る怪物、その表現は果たして的を得ているのかはわからない。

 

 しかしながら、今までの繁子達の戦車道の試合を見て分析したが、ケイはあのような戦術は戦車道の中で今まで見た事もなかった。

 

 西住流でも島田流でも無い…あの異質な戦法は見た事が無い。試合中に地形を変え、自軍の戦車を優位に立たせる戦術に戦車の特性を活かした撹乱。

 

 

(…さて、お手並み拝見ね)

 

 

 繁子の後ろ姿を見届けるケイは笑みを浮かべ、対峙する同学年の強敵との戦いに心が躍った。

 

 来年、再来年には自分と同じくまた戦車道全国大会で戦うであろう強敵。その強敵との戦いは未来の自分にとってもプラスになる。それをケイはわかっているのだ。

 

 サンダース大学付属高校の隊長、メグミとの握手を終えた繁子はいつものように自分の乗る四式中戦車に近寄る。

 

 遠目からケイ達の会話を見ていた四式中戦車の側で待っていた立江達は先ほどの会話が気になったのかこう繁子に声をかけた。

 

 

「サンダースのあの娘なんて言ってたの?」

 

「ん…? あぁ、大した事やない、フェアプレイで戦おうやと」

 

「しかしながら、サンダースが導入してくるのが大量の戦車を予想してたのに準決勝まで登録車両10輌ってのは予想外だったねしげちゃん」

 

「せやなぁ、とりあえず50輌くらいはぶっ倒せると思うてたんやけど」

 

「よくよく考えたらウチも。一、二回戦10輌だけだったね」

 

「完全に忘れてたわ」

 

 

 今回のサンダース大学付属高校の導入してくる車輌が予想外に少ない事は完全に誤算だった。

 

 リッチな学校でたくさん戦車を持ってる+全車輌ぶち込んでくるんじゃない?=なら、全車輌ぶっ倒したろ。

 

 完全にこんな感じの方程式が繁子や立江達の頭の中で完結されていたのであるが、どうやらそこは完全に的はずれだったようだ。

 

 それでも、繁子達は当初の作戦は変えるつもりは無い。

 

『オペレーションFK』。

 

 オイ車を使ったこの作戦はもちろんそのままで行うつもりだ。

 

 サンダース大学付属高校とはいえど、時御流と対峙するのは初めての事であるだろう。そう言った部分ではこちらに分があるといえる。

 

 よくよく考えたら二回戦でも10輌だった。辻隊長に試合当日に指摘されるまで繁子達はやる気十分だったのだが、これではとんだ拍子抜けである。

 

 

「ま、ええわ、ともかく勝つ事が大事やしな」

 

「フェアプレイねー? しげちゃんどう思う?」

 

「いや、作戦通りにやるで」

 

「りょーかい」

 

 

 作戦を変えずに動く繁子の決定に頷く多代子。

 

 何はともあれ、試合は間も無く始まる。互いに定位置についた戦車に乗り込み試合開始を待つだけだ。

 

 そして、しばらく時間が経ち、運営側からの試合開始の煙弾が上へと上がり、試合開始が全車輌に通達される。

 

 繁子は全車輌に向けてそれぞれ作戦どおりに指示を出す。

 

 

「オペレーションFK。開始や! 行くで! 宙船! ゴー!」

 

「「ゴー!」」

 

 

 そして、繁子の掛け声と共に知波単学園の全車輌が音を立てて動きはじめる。

 

 まずは作戦通り、市街地戦に持ち込む為に機動性が最も高い永瀬隊と繁子達は別れて行動する様に通達を出した。

 

 時御流カモフラージュは完成度が高く、待ち伏せは十八番。

 

 今回は永瀬達がサンダース大学付属高校の戦車群に待ち伏せを行い、成功次第誘導を兼ねた逃走を試みるという策だ。

 

 もちろん、その際には携帯を使い通信を行う。

 

 

「さてと、…よっこらしょういち」

 

「しげちゃんオヤジくさいよー、それー」

 

「べ、別にええやろ! 気にすんな!」

 

 

 繁子は操縦席に座る多代子の指摘に恥ずかしそうに顔を赤くしながら声を上げる。華の女子高生がオヤジくさいとはこれいかに。

 

 そんなこんなで戦車から顔を出した繁子。そして、繁子は辺りを見渡してあるものをすぐに見つけた。

 

 それは…。

 

 

「やっぱりなぁ…やと、思っとったで」

 

 

 そうそれは、空に浮かぶ無線傍受機。

 

 何故、これが予想範囲内だというと繁子にはある確信があった。それは、今までサンダース大学付属高校が行った試合を映像を通して見て分析していた時に気がついた事。

 

 勝ち試合でサンダース大学付属高校があっさりと敵の動きを予期しすぎていた様な動きを見せていたからだ。

 

 繁子や立江達はその練習試合を観戦の映像を見て、思わずその無線傍受を真っ先に疑った。

 

 そうでなければあれほど相手戦車を予期した様な連携や動きは取れない。

 

 だが、この無線傍受がもし本当にあったと仮定して繁子は逆に利用しようと考えていた。先日話していた誘導と時間稼ぎに利用するためだ。

 

 バリケードの設置による道の制限。

 

 そして、オイ車の移動時間。それらを考えるとケホで奇襲を掛けて敵の出鼻を挫き、急ぎで用意しなければならないだろう。

 

 

「永瀬隊、ポイントKに移動開始してや」

 

「あいさーポイントKっすね! りょーかい!」

 

「メグミ隊長! 敵車輌分隊! ポイントKに移動開始致しました」

 

「わかったわ、ならば6車輌! ポイントKに移動開始!」

 

(とまぁ、こんな感じで敵車輌が引っかかってくれとるはずや)

 

 

 通信機で永瀬達と話をしていた繁子はニシシと悪戯めいた笑みを浮かべる。

 

 永瀬には通信機で話す声は全てダミーであり、本指示は携帯端末により行う事を既に通達済みである。

 

 ケホ奇襲隊は3輌。

 

 奇襲が成功次第撤退を行い、しばらく時間稼ぎをした後、誘導作戦を実行に移す。段取りとしてはこんなところだろう。

 

 試合はまだ始まったばかりである。

 

 とりあえず、繁子は市街地に移動を完了し各自にバリケードを仕掛ける様に指示。そして、移動した永瀬からの通信を待つ事にした。

 

 しばらくして、永瀬からの通信が繁子達に入る。

 

 だが、そこから聞いた話は繁子達が耳を疑うようなものであった。

 

 

『こちら永瀬隊。敵車輌発見。数は6…。編成は…M4シャーマンが4輌、ファイアフライが1輌…。あれは…!』

 

「ん…? どないした永瀬?」

 

『T30重戦車だよ! しげちゃん! 相手!重戦車連れてきてる!』

 

 

 その瞬間、繁子の背筋が凍りついた。

 

 だとすれば相手はオイ車を倒せる戦力を持ち込んで来ている事になる。それに、非常に厚い装甲を持っている重戦車を倒すのは容易ではない。

 

 そう、サンダース大学付属高校も市街地戦を想定して、戦車を用意してきたのだ。

 

 繁子もこれには顔を渋らせるしかない。

 

 だが、今更そう言ったところでプランをいきなり変更し永瀬達を危険に晒すわけにはいかない。待ち伏せと時間稼ぎは問題なく行う予定だ。

 

 

「…あかんな、これはプランBも視野に入れないかんかもわからんね」

 

「プランB? しげちゃんなんか考えてんの?」

 

「まぁね、その名もオペレーションSTや」

 

「オペレーションST?」

 

「それってちなみになんの略な訳?」

 

 

 そう言って繁子が変更する予定を視野に入れている作戦名を問う、真沙子と多代子。

 

 すると、繁子は神妙そうな顔つきでゆっくりと彼女達にその作戦名はどういった意味が含まれているのかをゆっくりと語りだす。

 

 

「そうめんを飛ばすしかない作戦の略や」

 

 

 その瞬間、操縦席に座る多代子と砲撃手の真沙子は盛大にずっこける。

 

 むしろその作戦名の意図も内容も全く予想できない。摩訶不思議な作戦名。プランB『そうめんを飛ばすしかない作戦』とは一体…。

 

 何故、戦車道でそうめんなのか。そうめんで戦うつもりなのか。

 

 謎が謎を呼ぶサンダース大学付属高校との激闘はどうなるのか、奇襲に出た永瀬隊。果たして彼女達は…。

 

 サンダース大学付属高校VS知波単学園の試合はまだ序盤である。

 


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