ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
サンダース大付属高校との試合も終わり。
繁子達は互いに全力で戦ったサンダース大付属高校との激闘。
お互い全力を出し合い望んだ試合。メグミも三年生、最後の試合だとしてもそこに悔いは無かった。
それは、ケイやナオミといった活躍してくれた一年生が居たからである。
自分がこのサンダース大付属高校の戦車道を引退したとしても学校の伝統と戦車道を語り継いでくれるだろう者達がこのサンダースにはいる。
メグミはむしろ、そんな新たな発見と後輩の成長を促してくれた知波単学園に感謝しているくらいである。
「…完敗ね、見事だったわ」
「隊長…あの時私達がやられてなければ…」
「いいや、貴女達はみんなよくやってくれたもの…。最後の大会、アールグレイと戦えなかったのは残念だけれど、満足だわ」
「メグミ隊長…」
そう言って、二年生も一年生も関係なく隊長であるメグミの言葉に思わず目頭が熱くなる。
一年生は二年生に比べると自分達が隊長であるメグミと居た時間は短いかもしれない。けれど、サンダース大付属高校に入学した時に憧れだったのは他でもないサンダース大付属高校を率いる隊長のメグミだった。
だが、メグミはそんな彼女達に笑みを浮かべるとこう告げ始めた。
「さぁ、次は貴女達の代よ、ケイ、次の隊長は貴女。来年は優勝して頂戴ね」
「隊長…私が…」
「貴女が適任よ、私は少なくともそう思ったから指名したの。異議がある者はいるかしら?」
そう言って、メグミは自分が指名し、隊長に任命したケイについて不満がある者がいないか確認を取る。
だが、サンダース大付属高校の生徒達は全員首を横に振り、異議が無い事を示した。その中にはケイが隊長に任命されて拍手を送る者達がほとんどだ。
彼女達は知っていた。ケイとナオミがこの知波単学園との戦いでどれだけ奮闘し、成果を挙げてきたのかを、敵に奇襲をかけ二輌の戦車を戦闘不能にさせ、知波単学園の本隊の居場所を突き止めたのもケイ達だ。
それに、サンダースの二年生もメグミ同様、ケイ達の戦車道における指揮やセンスがずば抜けている事を知っている。
異論は無い。一年生だろうとケイは間違いなくサンダース大付属高校の隊長にふさわしいと誰もが思った。
「いないわね。それじゃ、これから私達の分まで頑張りなさい。ケイ」
「隊長…thank you…。今までご指導ありがとうございました…」
「泣かないの、貴女は隊長にふさわしいわ。ケイ、後はよろしく頼むわね」
「…ハイッ!」
そう言って、ケイは流れ出る涙を拭い敬礼し元気良く笑みを浮かべてメグミにそう応える。
メグミの三年生最後の戦車道全国大会は終わった。けれど、そこに後悔もやり残した事はない。
ところで…、そんなやり取りがある一方で繁子達はと言うと。
「そこ! そうめん流れにくいから傾斜をもっと入れてやな…」
「あ、そっち繋げてく感じで。そうそう」
「竹はやっぱり偉大だねぇ、いい香りだよ」
「…いや、お前達何やってんの?」
なんと、試合会場を全体を使った盛大にデカイそうめん流しを作っていた。
繁子達は試合中に使ったそうめんを飛ばすしかない作戦を終えたそうめん流し用の長パイプに竹の素材をふんだんに使い表面を竹に加工してそれを連結させている最中である。
その光景を目の当たりにした辻は当然の如くポカンとするばかりである。感動のサンダース大付属高校の隊長引き継ぎがある意味台無しであった。
それはともかく、知波単学園の機甲科の全員が協力している辺り、凄い一体感を感じる。
なんだろう…風…吹いている確実に…。
しかし、この場合、そういった風は有効利用しなければならないというのが時御流のやり方。
そんな風が吹いていたら風力発電用の風車も作りかね無いのが彼女達である。
「何って、巨大そうめん流し作ってるんですよ」
「とりあえず、そうめんはサンダース大付属高校さんの分まで用意しましたし」
「そうめん食べるしか無いよね」
「そうめ〜ん(そうね〜)」
「いや、その理屈はおかしい」
そう言いながら金槌を振るい、加工を続ける繁子達を見て辻は頭を抱える。
おかしい、試合中の長パイプの有効利用はわかる気もしないわけでは無いが何故そうめんにこだわるのか。
サンダース大付属高校の出店ならフランクフルトやハンバーガーなんて山ほどある。素直にサンダース大付属高校のみなさんから出店で購入したものをご馳走になれば良いのでは無いのか。
だが、立江は真剣な面持ちで辻にこう告げる。
「目の前にある竹が私達に囁いて来るのよ、私を加工してってね…」
「辻隊長も竹の気持ちになればわかるよ」
「わかるか!? お前達ほんとになんなの!? 業者の方!?」
立江と永瀬の言葉に思わず声を上げる隊長の辻。
確かに、竹の気持ちになれる女子高生など全国を探してもこいつらくらいだろう。辻もこの五人娘の隊長であるが入学時から本当に規格外過ぎてたまに時御流が戦車道の流派なのかわからなくなる時がある。
もしかすると、彼女達の本業はこちらかもしれない。いや、きっとそうだろう。
すると、隊長の引き継ぎを終えたサンダース大付属高校のメンバーもぞろぞろと巨大そうめん流しを作っている知波単学園の生徒達に近づいて来た。
その表情は言わずもがな、とても感動しているような面持ちだった。巨大そうめん流しなんて見るのは彼女達としても初めての経験だろう。
ちなみにこのそうめん流し、全長1キロと無駄に長い。こんなに長い必要性は特に無いのだが、繁子達はそれよりロマンを求めていたようだ。
「ワァオ、凄いlongなそうめんflowが出来上がってるね〜」
「あ、サンダース大付属高校のみなさん。もう引き継ぎは大丈夫なの?」
「…引き継ぎは終わったわ。ありがとね? 繁子さん」
「ん? 何がですか?」
繁子はノコギリをギコギコと引き、竹を加工している最中にメグミから声をかけられ首を傾げてそう告げる。
特にお礼を言われる様な事はした覚えが無い、逆に三年生最後の大会を自分達が終わらせてしまったのだから逆に申し訳なさのほうが繁子にはあった。
きっともっとメグミ達も仲間達と戦車道をやりたかった筈だ。けれども、メグミをはじめとしたサンダース大付属高校の三年生は誰1人として悔いが無い様な面持ちであった。
『やりきった』そんな、気持ちが彼女を含めた三年生達の素直な気持ちだ。
そして、サンダースを率いた隊長のメグミは清々しい面持ちで繁子にこう話をしはじめた。
「…戦車道を極める過程であんな戦術があるっていう良い経験をさせて貰ったわ、これから先、私が戦車道を続ける中できっと良い財産になったと思う」
「…いや、それはウチらも同じやし。こちらこそ…」
「三年生最後の大会。貴女達が相手でとても良かった。悔いは無いし、貴女やケイ達の成長がこれから楽しみになったの。それを含めたありがとうよ」
そう告げるメグミはスッと握手を求める様に繁子に手を差し伸べた。今度の握手は最初のギラギラとしたものではなく健闘を讃えた上での感謝が含まれたものだ。
繁子はそんな差し伸べられるメグミの手を見つめて笑みを浮かべる。
そして、ノコギリを引くために付けていた軍手を外すとゆっくりとメグミから差し伸べられた手を握って繁子は握手を交わした。
「えへへ…。はい、私も貴女と戦えて良かったです。良い経験させてもらいましたわ」
「次は準決勝ね、上がってくるのは恐らくアールグレイだろうけれど」
そう告げるメグミは肩を竦める。
アールグレイ。つまりは聖グロリアーナ女学院が準決勝では上がってくるという事。
聖グロリアーナ女学院は今年はより前年よりも強いことをメグミは知っていた。
今年入学したアッサムにダージリンという抜きん出た幹部候補生が戦線に加わる上にアールグレイという名隊長が居る。
これまで、プラウダと黒森峰には勝ち負けを繰り返していたが、今年は黒森峰には勝ち越しており。あの強豪校プラウダ高校との今までの戦績は4戦2勝2敗と五分の戦いを繰り広げていた。この2勝は今年に入ってからついたものである。
「私達は去年のリベンジを果たせなかったけれど貴女達ならやれるわ、きっと」
「はい、そのつもりですよ」
「…ふふふ、楽しみね」
そう言いながら、メグミは繁子が切り取った竹の運搬を手伝い笑みを浮かべ告げる。
何気に違和感なく作業に入るあたり流石はサンダース大付属高校の隊長だろう。それからサンダース大付属高校の生徒もメグミに続く様に合流し巨大そうめん流しの作成に加わる。
そして、それから数時間後。巨大なそうめん流しが完成した。
果たしてそうめんが流れるのか、下まで届くのか? そんな数多くの疑問を抱いた生徒もいるだろう。
だが、安心して欲しい。時御流をもってすればこの通り…。
「ジェットストリーム噴射機や!」
「「「おぉ!」」」
「なぁ、これって流しそうめんなんだろうか…」
「そうめん流してるから問題無いんじゃない?」
ジェットストリーム噴射機を用いて水圧によるそうめん流しを敢行する事など造作もない。
しかしながら、この光景を見ていた辻は顔を引きつらせるしかなかった。今迄生きてきた中でジェット噴射機を使ってそうめん流しをするなんて光景は見たことが無い。
だが、一方のメグミは何やら繁子達なら仕方がないと言う具合に割り切っている様だ。確かに試合でのあの繁子達のとんでもない作戦を見た後だと相当な事がない限りは驚くことはないだろう。
とりあえずそうめん流してるから何の問題もないという事で脳内処理を完了させたようである。
このメグミの対応は戦況での臨機応変や順応さを求められる隊長の役目を担っていたのであるからこその賜物、流石はサンダース大付属高校の隊長だろう。辻も見習わなければとつくづく感じた。
しかしながら、彼女達の場合は対応する以上にとんでもない事を考えつくので対応のしようがあるかどうかは疑問である。
「さぁ! そうめん流しはじめるで!」
「「「おぉー!」」」
「はーいそれじゃあバンバン流すよー」
そして、流れ出す大量のそうめん。
そうめんはダイエットとしても最適だ。喉越しも良く女性には割と好まれる食べ物といってもいいだろう。
永瀬がどんどんとそうめんを流しはじめる中、サンダース大付属高校の生徒も知波単学園の生徒も関係なくそのそうめん流しに加わる。
今日の敵は明日の味方。
きっとこの関係はこれからも続く。戦車道を通して互いに全力を尽くして戦った彼女達にはこれから先の戦車道を切磋琢磨する良い関係が出来ていく事だろう。
機会があれば何処かで共闘する事もあるかもしれない。
彼女達の飛躍する戦車道。
「うわー!そうめんが飛んだ!」
「飛距離どんくらい出たかな?」
「oh…これがfly SOUMENね、なるほど」
そう、それは空飛ぶそうめんの様にきっと綺麗な放物線を描いてくれる事だろう。
来年、再来年、またこの舞台で。
そんなサンダース大付属高校との誓いを胸に繁子達は邁進する。次は準決勝、相手は強豪、聖グロリアーナ女学院。
アールグレイ率いる最強イギリス戦車軍団が相手だ。
母、明子との誓いを果たすため、そして、西住まほとの約束の為に繁子達は次の試練へと臨む、没落した筈の時御流こそが戦車道で最強であるという事を証明するために。