ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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衣装の時御流

 

 ここは学園艦繁華街にあるとある服屋。

 

 立江達から拉致された繁子とまほはこの場所に有無を言わせず連行された。というのも立江達から女の子の服装がなんたるかという指導を受けるためである。

 

 という訳で、服装について立江はとりあえず2人にこう話をしはじめる。

 

 

「さてと、それじゃここに来たからには私がコーディネートしてあげるんだから覚悟しなさい!」

 

「なんでこんな事になってるんだろう…しげちゃん」

 

「すまん、ウチにもわからへん」

 

 

 ビシッと立江から指を差された2人は顔を見合わせて互いに顔を引きつらせる。

 

 どうやら服装については今着ている服で2人は満足しているようである。だが、繁子の相方の立江には見た限り2人の服装には問題があるようだった。

 

 そして、その周りにいた永瀬や多代子達も立江の言葉に納得した様に頷いているところを見る限り、自分の服装がどうにも可愛げがあるものとはかけ離れているものだという現実を繁子は突き付けられる事になる。

 

 確かにまほは多少マシではあるが、繁子の格好は女の子がするような格好とは言い難い。

 

 そこで、立江はこの服装プロデュースの為にある助っ人を呼んでいた。

 

 

「イノ!」

 

「あいさ!」

 

「ん…? 誰やその娘?」

 

 

 繁子は立江が指を弾くと同時に突如として現れた女の子に首を傾げる。

 

 彼女の事は繁子も知らない、特徴的なサイドテールに身長も多少なり小さな小柄な女の子だ。しかしながら、その格好はより女の子らしく可愛げのあるもので固められている。

 

 笑顔が素敵な女の子を体現したようなそんな女の子であった。

 

 

「この娘は一ノ宮 香苗。私の後輩よ」

 

「ういっす♪ アネェの世話になってます香苗でっす! 中学校で戦車道やってるんでお見知り置きを!」

 

「アネェ?」

 

「あぁ、私の事よ。姉御肌みたいだから後輩たちからそうアダ名で呼ばれてるのよ、不本意だけどね?」

 

「ちなみに所属チームはどこなの?」

 

「一応、タンカスロンでストームさんチームっていうチーム名で戦車道やってます! 中学2年生です!」

 

 

 そう言いながら永瀬に敬礼する一ノ宮。

 

 どうやら彼女は中学校でタンカスロンを中心に戦車道の活動を行なっているようである。中学校2年生という事は繁子達が三年生くらいに高校入学するという事だろう。

 

 そして、今回、立江が呼んだこの一ノ宮に協力してもらい彼女達の服をプロデュースしようと考えているわけだ。

 

 

「見なさいよ、中学校2年生にファッションセンス負けてんのよ? あんた達。いいの? 女の子として女子力が年下より劣ってて!」

 

「うぐ…っ!」

 

「…あ、相変わらず、なかなかキツイこと言うなぁ…ぐっちゃんは」

 

 

 立江の言葉がグサリと心に突き刺さる繁子とまほ。

 

 確かに中学校2年生に高校生の自分達がお洒落で女子力が劣っていると言われれば、流石の彼女達とはいえ危機感を感じる。

 

 このままでは女の子としての威厳と誇りが無くなり、自分達はずっとファッションダサい女子という謎のレッテルを貼られかねない。

 

 だが、それを阻止するために立江が招集をかけたのがこの一ノ宮だ。

 

 

「んじゃイノ、そういうわけだからあんたは西住まほさんの方を頼んだわね」

 

「…アネェ、これ、私じゃなくてまっちゃん呼んだ方が良かったんじゃないの?」

 

「戦車を購入する資金稼ぎに写真撮影入ったんだってさ」

 

「…うへぇ、んじゃ私らのリーダーでも…」

 

「あんたらのリーダーは基本家から出たがんないでしょうが、良いからつべこべ言わずさっさとする」

 

「ぶー…。まぁ、アネェの頼みなら仕方ないか」

 

 

 そう言いながら、立江から呼ばれた一ノ宮はまほの服装担当になった。

 

 もちろん、繁子の担当は立江である。彼女的にも長年隣で相方をやっている繁子を理解しているという自負がある為に繁子にあった服装なんかはお手の物。

 

 きっと繁子に合うであろう可愛げのある服装を選び抜いてやるという責任感に燃えていた。いや、萌えていた。

 

 

「なんだか楽しくなってきたね! 真沙子っち!」

 

「智代もノリノリねぇ、まぁ、当初は服作るつもりだったんだけど今回はしゃあないか」

 

「私らが服作りはじめるとどうしてもこだわっちゃって3日以上かかっちゃうからねー」

 

 

 そう言いながら、服装を選びはじめる立江達の光景を眺めながら他愛のない会話を交わす永瀬達。

 

 こうして、2人のファッションセンス大改造劇的ビフォーアフターは開始された。

 

 まずは西住まほ、一ノ宮チーム。

 

 彼女達2人はひとまず可愛らしい服を選ぶ為に共に店内を見て回っていた。

 

 とりあえず、一ノ宮は可愛らしいショートパンツとマスコット、ボコの図柄が入ったTシャツをチョイスしまほに見せる。

 

 

「こんな感じのどうですかね? 私は可愛いと思うんですよ。まほさんのギャップ的にはありかもって思ったんですけど」

 

「ボコか…、ふむ、妹が確か好きだったわね…」

 

「ね? どうですか?」

 

「確かに可愛い気はするけど、なんかこう…」

 

「しっくりきませんかね?」

 

「ショートパンツは良いとは思うけど妹と趣味が被るのはね…」

 

「なるほど、わかりました」

 

 

 そう言いながらTシャツを元の位置に戻す一ノ宮。

 

 どうやら、このボコTシャツはまほの想像する服装とはちょっと違うようだ。割と女性の間では可愛いと評判が良いのだが、今回は見送ることにした

 

 一ノ宮はとりあえずTシャツだけを置くと次の服へとまほを連れていく。

 

 そして、次の服のコーナーにあった服を見つけた一ノ宮は目を輝かせるとこう声を上げた。

 

 

「おぉ!?」

 

「ん…? どうしたんだ?」

 

「みてくださいよ! まほさん! これ!」

 

 

 そう言いながら一ノ宮は目を輝かせ見つけた服装に近寄るとそれを広げまほに見せる。

 

 それはフリルが付いた可愛らしい服装だった。まほは思わず首を傾げる。さして、一ノ宮か声を上げるような代物でもない気もするが何が凄いのか不思議で仕方がなかった

 

 すると、その服装を広げた一ノ宮はまほにこの服についてこう説明をしはじめる。

 

 

「まほさん、これはですね、別名、童貞を殺す服と呼ばれてまして、割と女性の間では最近人気のある服なんですよ」

 

「童貞を殺す服? 童貞ってなんなの?」

 

「さぁ、私にも意味は分かりかねますが、おそらくは過程や道筋を飛ばしてしまうほどの威力を持った服装かと」

 

「なんだって…! それはもしかするとファッション界隈において戦車道におけるマウスに匹敵するような服装という事じゃないだろうか!」

 

「おぉ!? なるほど! 流石は黒森峰女学園の隊長さん! 納得しました!」

 

 

 そう言いながら、別名、道程(童貞)を殺す服について冷静な分析を繰り広げるまほと一ノ宮。

 

 多分、この場合は童貞ではなく道程と勘違いしているようだが生憎、この場にそういった類に詳しい方が居ないので変な方向に話が盛り上がっているようである。

 

 どこの世界に過程や道筋を飛ばしてしまう服が存在しているのか、そんな、疑問を抱かないまま一ノ宮とまほは『道程(童貞)を殺す服』をとりあえず確保し続いての服を選びに移る。

 

 

 そして、こちらは繁子、立江チーム。

 

 繁子は服を見ながら立江に言われるがまま大量の服を籠にぶち込んで回っていた。可愛い服を見つけては飛び込んでいく立江の光景には繁子もタジタジである。

 

 

「しげちゃん! この白ワンピース可愛いよ! あぁ、ゴスロリもあるわね! これも確保!」

 

「あ、あの…ぐっちゃん?」

 

「ショートパンツ…ミニスカート…うむむ…しげちゃんはショートパンツが良いわね、よしこれ」

 

「…これあかんやつや」

 

 

 立江に変なスイッチが完全に入った事を悟り目のハイライトが消える繁子。

 

 こうなった立江は誰にも止められない、服を選び抜いて選び抜いて選び抜く。そう、立江は服を自作するときも妥協しない、つまりは服選びの業者さんなのだ。

 

 実家も服を作る家業を一部行なっている影響もあるかもしれないが、これには繁子もひたすら従うばかりである。

 

 

 それから数時間後。

 

 

 繁子とまほは試着室の中で立江と一ノ宮にそれぞれ服屋から厳選した可愛らしい服を選び抜かれて着させられていた。

 

 審査員は永瀬達四人。立江、一ノ宮、彼女達の目を持ってしてこの二人の服装を審査する。2人により似合う可愛らしい服はもちろん購入しお持ち帰り予定だ。

 

 まずは、まほから、試着室のカーテンが開き着た服を全員にお披露目する。

 

 

「ど、どうかな?」

 

「おぉ、可愛いじゃん!」

 

「フリルが付いた服かー、でもスカート丈がちょっと短い気がするね」

 

「あ、ちょ! 見える! 見えるから!引っ張るな!」

 

「やっぱり道程を殺す服は確かに威力が強力でしたね」

 

「道筋ぶっ壊しちゃまずいよね、私らむしろ作る方だし時御流的にさ」

 

「そうでしたね、これはこれでとりあえずは可愛いですけども」

 

 

 そう言いながら、スカートを引っ張る永瀬と道程(童貞)を殺す服を着たまほを冷静に分析しそう告げる一ノ宮。

 

 そして、続いてはお待ちかねの繁子だ。

 

 その場にいる全員は繁子の格好を心待ちにして試着室の方を見つめる。しばらくして、着替え終えたのか繁子の試着室のカーテンが開いた。

 

 

「な、なんや…恥ずかしいな」

 

「わぁ! リーダーめっちゃ似合うじゃん!」

 

「白いワンピースか! いいね!」

 

「女の子らしさが出てるよね」

 

「…可愛い……」

 

「ちょ!? まほさん! 鼻血! 鼻血!」

 

 

 そう言いながら、まほの鼻血を携帯用ティッシュを取り出し拭う一ノ宮。服に鼻血がついては大変、そこを踏まえた迅速な対応である。

 

 そして、試着室の中から出てくる立江はホカホカ顔であった。まほは彼女に歩み寄ると静かに手を差し伸べる。

 

 

「立江、良いものを見せてくれてありがとう」

 

「ふ…っ、私の手に掛かればこんなものよ」

 

「ちょ!? 2人とも鼻血出てますからっ!?」

 

「服につく! 服につくから!」

 

 

 そう言いながら、一ノ宮に加えて真沙子がすかさず立江の鼻をカバーするようにティッシュで鼻を拭い止血する。

 

 危ない、服を鼻血で台無しにしては全部購入せざる得なくなる。それだけは全員避けなくてはいけない。

 

 そして、しばらくの間、2人のファッションショーは続いた。

 

 

「おー、まほっちそれがいいよ、それ!」

 

「うん! まほっちって感じがするし女の子らしさが出てるよね!」

 

「そ、そうかな?」

 

「上下黒に黄色の上着ってのがポイント高いよね? 腰にそれを巻いてるのが大人っぽく見えるし!」

 

「決まりだね!」

 

 

 そう言いながらうんうんと頷く永瀬達。

 

 そして、立江と再び試着室へと入った繁子はというとしばらくしてまほに続くように服を着替えて再び皆の前にその姿を見せた。

 

 

「はぁぇ〜、いやーリーダー見違えたよ」

 

「ショートパンツにフリルが付いたシャツか、シンプルだけど可愛いよね!」

 

「白いワンピースも可愛かったけど、私ら的にはこれは有りかな!」

 

「しげちゃんは何着ても可愛いなぁ」

 

「…ほ、ほんまに?」

 

「農業Tシャツにサンダルよかは全然いいよ、間違いなく」

 

「えへへ、やったな! ぐっちゃん!」

 

「任せなさいって!」

 

 

 そう言いながら、皆の感想を聞いて立江とハイタッチを交わす繁子。

 

 どうやら繁子とまほが買う服はあらかた決まったようである。繁子達は買う服をいくらかレジに持って行くと会計を済ませて店を出た。

 

 もちろん、2人が店から出た時の服装は皆が良いと思った服装である。他にも服を購入し実に充実した買い物をした。

 

 

「いやー、なんか、やっぱりこうやってまほりんやみんなと買い物できて楽しいなぁ」

 

「そうだね、しげちゃん、私もだよ。立江、今日はありがとう」

 

「いやいや、私らは大した事してないって。ね? 一ノ宮?」

 

「はい! お二人とも可愛いですっ!」

 

「一仕事終えた感あるよね」

 

「んじゃ、この後、御飯でも行こうか!」

 

 

 そう言いながら皆で帰路につく繁子達。

 

 たくさんの買い物袋を両手に携えながら他愛のない賑やかな会話を繰り返す7人。

 

 その後、繁子達はまほ、一ノ宮を交えて晩御飯を皆で外で食べに出掛けた。

 

 それから暫しの間、これまでの事や今日の出来事を振り返り皆でワイワイと賑やかに晩御飯を食べ終えて店を出ると、そこから繁子とまほは立江達と一旦別れ、ちょっとした夜の散歩へと出掛ける事にした。

 

 立江達も2人だけで話があるのだろうとそこは気を使った。長年、一緒にいる立江や永瀬達である。繁子の事はよく理解している。

 

 今日は途中で立江達とこうしてまほと共に服選びに連れ去られるハメになってしまったが、 完全に知波単学園の寮に帰る立江達を見送った後ならば、まほと2人でゆっくりと話もできるだろう。

 

 繁子は今日の出来事を踏まえながら、楽しそうに笑顔を浮かべて他愛のない会話をまほと交わす。

 

 

「…まぁ、ウチの仲間はあんな感じや、今日は付き合わせて悪かったな、まほりん」

 

「ううん、楽しかったよ。またみんなでワイワイしたい」

 

「ほんまに? 服屋に拉致されるわ着せ替え人形にされるわ散々やったやんか」

 

「まぁ、でも可愛い服を選んでくれたし、しげちゃんの可愛い服も見れたから私は満足だった」

 

「…そっか!」

 

「うん」

 

 

 そう言いながら2人とも笑顔を浮かべる。

 

 確かにめっちゃくちゃな1日だった気もするがまほにとっては楽しかった1日であった。黒森峰女学園で西住流を駆使し、高嶺の花の隊長として祀られているまほにはこんな風に心許せる時間は少ないし限られている。

 

 けれど、繁子や立江達はそんな事は関係なく接し、そして、友人として迎い入れてくれた。そんな光景がまほにはとても嬉しくありがたかった。

 

 だが、黒森峰女学園の隊長としての西住まほもまた、戦車道にて繁子達との戦いを望んでいる。

 

 

 

「しげちゃん、ここで大丈夫だよ見送りありがとう」

 

「うん、それじゃまた」

 

「うん、今日は楽しかった…それじゃ…」

 

 

 足を止めたまほは笑みを浮かべ目の前にいる繁子をジッと見つめる。

 

 そう、西住まほ、城志摩 繁子。この2人とも次は準決勝で戦車道強豪校とぶつかる。2人が最初に再会した日交わした約束、それは互いに決勝まで勝ち上がることだ。

 

 西住流、西住まほはその言葉を素直に繁子にぶつけた。

 

 

「次は戦車道全国大会。決勝の舞台で」

 

「…もちろんや。 決勝でな」

 

 

 2人の間に漂っていた穏やかな空気が一瞬にしてピリっとしたようなものに変わる。

 

 互いに譲れない戦車道の道がある。

 

 友人、親友である前に互いに目指すものがある。それは、高校生であるうちに戦車道を極めた者だけが掴み取る事ができる唯一の栄光、戦車道全国大会制覇。

 

 城志摩 繁子は尊敬する隊長、辻つつじを全国制覇した日本一の隊長にし、今は亡き母、明子との約束を果たす為。

 

 西住 まほは全国連覇している黒森峰女学園を絶対王者として君臨させ、さらなる栄光を掴み取る為。

 

 2人ともその為にその場所を目指す。

 

 ギラギラとした眼差しが交差する中、まほはそんな繁子の覚悟を察するとフッと笑みを浮かべて踵を返した。

 

 繁子もまた、その後ろ姿を見届けるとまほとは逆の方向へと足を向け歩きはじめる。

 

 戦車道全国大会、準決勝。

 

 次の繁子達の相手は聖グロリアーナ女学院だ。

 

 

(…まっとれよ、絶対決勝に行ったるからな)

 

 

 滾るアドレナリンをぐっと押し込めるようにそう心に押し留める繁子。仲間達と越えてきた試練、これからも仲間達と共に繁子は挑み続ける。

 

 まほとの約束と再会の場所、それは戦車道全国大会決勝。

 

 静かな闘志を燃やし、西住まほと別れた繁子は己の信じる戦車道の道を次の試合でぶつける事を静かに誓うのだった。

 

 

 


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