ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
聖グロリアーナ女学院。
近年の戦車道において力をつけてきた名門校であり、イギリス戦車を主体に編成された戦車群。
そして、得意とするのは、重装甲の戦車を活かした浸透強襲戦術。強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としており、敵の攻撃を正面から受け止めつつ、じわじわと侵攻していくスタイルを聖グロリアーナ女学院はお家芸としている。
また「強固な装甲」の歩兵戦車を主力としている為に、強襲時に簡単に撃破されないための備えも万全といった布陣。今までに戦った事のない伝統と格式のある強豪校である。
さて、ならば、そんな浸透強襲戦術を用いる聖グロリアーナ女学院に勝つにはどうすれば良いか?
「向こうの重装甲を打ち抜く戦車を中心に編成する必要があるやろうね?」
「やっぱりそうなるよね」
「うむ、聖グロリアーナ女学院の牙城は思いのほか固い」
「エース級の戦車乗りが何人もいる上に浸透強襲戦術を用いるこの学校に勝つにはそれなりの段取りと覚悟がいるやろうな」
繁子達はブリーフィングを行いながら前に聖グロリアーナが試合をしたデータを見直しつつ冷静な分析を行う。
敵を知らねば戦は勝てない。
戦車道もまた一緒だ。仲間と共に意識を共有し互いに高い連携を取れる学校が強い、繁子や立江達はそれを身をもって知っている。そうして、仲間や戦車を信じてこれまで戦ってきた。
「さてと、ほんじゃどうするか決めようか」
「装甲ぶち抜く感じの作戦がいいよね?」
「うーん、せやなー」
「ホニIIIやホリあんだし、そこは大丈夫じゃないかな? 確実なのは近距離からのゼロ距離射撃による撃破なんだろうけれど」
「…そ、それや!」
「は? それって言うと…」
「ゼロ距離射撃?」
「うん! 作戦思いついたで!」
そう言うと、繁子はホワイトボードを取り出すと作戦名を書き始める。
どうやら、彼女の中で対グロリアーナ女学院に向けての作戦や段取りはあらかた決まったようだ繁子はホワイトボードに作戦名を書き終えるとバン! と叩き、皆にこう発表しはじめた。
辻をはじめ、その場にいる知波単学園の機甲科、整備科の者達はその作戦名を心待ちにするようにゴクリと唾を飲み込む。
「題して! オペレーションRTや!」
「オペレーションRT?」
「えっと…ちなみにそれはなんの略かな? しげちゃん」
「ラーメンの麺の加水率だって違う作戦や!」
その瞬間、毎度の事ながらその場にいた全員はズルッと椅子から滑り落ちた。
ラーメンの麺の加水率だって違う作戦。
ネーミングセンスもそうだが、ラーメンの加水率だって違うとはなんだろうとその場にいた全員が思ったことである。
だが、一方の作戦名を発表した繁子は満足げに胸を張ってるあたりその作戦名を変えるつもりは無いのだろう。
さて、それで作戦の概要だが、まず、繁子は立江を呼んで考えついた案を話した。参謀である立江ならばこの作戦を効率よく段取りをしてくれる事を繁子は知っている。いつも作戦を考えるときはそうしてきた。
一通り繁子から説明を聞いた立江はその作戦の概要を聞いて頷くとしばらくして繁子と共にブリーフィングへと戻る。
「それじゃ説明すんで? ぐっちゃん」
「了解、リーダー。んじゃ説明するわね? まず、今回の敵は機動性の高いクロムウェル巡航戦車を持ち出してくる可能性が高いわ」
「そして、今回は永瀬隊は使わへん。いや、使えへんやね。偵察戦車は2輌に限定せなあかん」
「それはまたどうして?」
「撃破される可能性が高いからよ。三輌もいれば見つかる確率も高まるしクロムウェルはWW2最速の戦車とも言われてたわ、よって今回はホリ、チヘ、チヌ、ホニIII、チハを中心に編成を組むの」
「そんでもって今回は海岸や湖も戦地内に入っとる」
「そして、今回はつれたか丸の出番ね、準決勝までに特五式内火艇 、トクに改造しといてほんとに良かったわ」
「火力足りなかったもんね」
「特三式内火艇カチも二輌ほど作ったし本領発揮って訳だね」
「せや、せやから今回はつれたか丸隊を編成する。車長には今回、永瀬といきたいところやけどいけそう?」
「私の相棒だからね! 当たり前田のクラッカーだよ!」
そう言うと永瀬は腕まくりしニカッと気持ちの良い返事を繁子に返す。
奇襲戦に繁子は三輌のつれたか丸隊による奇襲を考えていた。それは、対聖グロリアーナにおけるオペレーションRTの為。
浸透強襲戦術、これを破るために今回はつれたか丸隊の活躍が不可欠になる。
「ええか? まずは聖グロリアーナ女学院が浸透強襲戦術を仕掛け進軍してきた場合。隊列を組んでくるはずや」
「そこで、つれたか丸の出番ね、つまり敵車輌の注意を引くために湖、海からつれたか丸隊で奇襲をかけるの」
「そうすることで敵車輌は海や湖といった場所に注意が必要になり本来、戦車戦に向ける筈の注意力や集中力をそちらに割くことができるんや」
繁子は立江と共につれたか丸隊の役割を明確に永瀬達に伝えていく。
つまり、敵戦車が来るであろう場所を海や湖の近くに限定して今回は戦闘を行おうという訳である。
繁子はこの作戦を成功させる為にさらなる段取り、用意ももちろんしている。
「この『ラーメンの加水率だって違う作戦』はラーメンのスープの様にこだわりが無いとあかん」
「やっぱりラーメンはスープが命だからね」
「麺も歯ごたえ無いとね」
「わかるわかる」
「いやー、スープ作る為に全国回ったのが懐かしいよね!」
「ラーメン屋でも開くつもりだったのか…お前達は…」
繁子や立江達の話を聞いて顔を引きつらせる辻隊長。
戦車戦にラーメン作りを持ち込んでくるのはおそらくこの娘達くらいだろう。スープを作る為に全国を飛び回ったと豪語するあたりやはりとんでもない行動力の持ち主達だ。
さて、そして、続いてつれたか丸隊の他の戦車達や繁子達だが、こちらの方もまたこのオペレーションRTをやる点においての役割がある。
「続いて私達ですけど、まぁ、話した通り、敵は浸透強襲戦術を使うので今回はある物を使います」
「ある物?」
「せやで、まずはスコップにツルハシ。そして、最後に斧とかその他もろもろや」
「…ちょっと待て、それじゃあれか? 森林地を…」
「はい、開拓して湖の森林地を中心にトラップを仕掛けます」
「そんで砂浜には海水を利用した落とし穴トラップやな、トラップの場所はわかりやすく植物を被せとくんや」
「…なんだ…その、こんなのばっかり思いつくお前達はゲリラかなんかか?」
「もちろんです、プロですから」
そう言い切る立江の笑顔は晴れ晴れとしたものだった。
勝つ為に手段は選ばない、利用できる地形や環境は最大限に利用するのが時御流。つれたか丸隊の奇襲もあり注意力が散漫している中でのトラップとなれば相手もどこに注意を向けて良いかわからなくなるだろう。
さらに、繁子はこれらの時間稼ぎの為の策をもちろん用意している。それは今回、15輌という戦車達を最大限に活用する策だ。
「ホリ、ホニ、ケホでまずは敵の足止めをしなきゃですね。最悪撃破も覚悟で逃げるつもりでの砲撃、誘導をお願いします」
「煙幕もカモフラージュも時間を稼ぐなら最大限に使ってもかまわへん。多少の時間稼ぎができればそれで大丈夫や」
「なるほどな…、わかった、とりあえずはそれでいこう」
繁子の作戦を聞いた辻隊長は静かに頷いて彼女の作戦に賛同する。
ゲリラっぽい気もするが彼女達にとってはこれが時御流のやり方なんだろう。サンダース高校の時もそうだが毎回、このとんでもない発想の作戦には辻は驚かされるばかりである。
そして、これからが本題、ゼロ距離射撃。この聖グロリアーナ女学院の重装甲戦車をぶち抜く為の作戦は繁子はこう考えていた。
「チハ、ホニは敵戦車が落とし穴に嵌ったらすぐさま突撃をかけるの忘れん様にな」
「落とし穴に嵌ったら突撃?」
「せや、身動きが取れんとなれば向こうも思い通りな行動は取れんはず、やから重装甲戦車が一車輌ごとに落とし穴に嵌ったら突撃をかけるんや」
「チハの主砲でもゼロ距離ならば抜けるはず。身体ごと突撃して粉砕よ」
「今回は落とし穴がミソやろうなぁ、んでもって具材がグロリアーナ、チハやホニが麺って訳や」
「味噌ラーメン一丁上がり! ってわけよ」
「えー、私、豚骨がいいなぁ」
「しょうゆも捨てがたいよね!」
「お腹減ってきたぁ…」
そんな感じにラーメンの話題で盛り上がる知波単学園の女生徒達。
向こうが隊列を組んでくるならその隊列をぶっ壊す作戦を立てる。落とし穴が仕掛けてあるとわかれば向こうも隊列を組んで悠長に構えるなんて事は出来なくなる事だろう。
ブリーフィングとしてはひとまず聖グロリアーナ女学院戦はこの様な作戦で戦うことになる。ラーメンの麺の如く舞い、ラーメンのスープの様に深みのある味のある作戦へ。
繁子としても聖グロリアーナ女学院戦は油断ができない相手だ。だからこそ、今までの経験を生かして戦う。
「さぁ、みんな! 次の試合も勝つで!」
「「おー!!」」
そして、各自、戦車を試合で最高の状態にする為に全員で戦車の整備へと取り掛かり始める。
最初はボロボロになっていた戦車達。
だが、繁子や立江達が来て知波単学園の戦車道に関わる皆が共に戦う戦車達に愛情と情熱を持って接している。
こんなところでは終われない、皆が同じ気持ちだった。
繁子も辻隊長も戦車道全国大会で優勝させてあげたい。てっぺんまで登って一緒の光景を皆で見たい。
かつて無いほど知波単学園の機甲科、整備科の皆は心を一つにしていた。
連携や団結なら聖グロリアーナ女学院にも負けない、独創的でそして信じられない作戦を次々と出す繁子達に彼女達も触発されてきたのかもしれない。
皆が協力すればできないことは無い。ここにいる皆がいろんな事に挑戦するチャレンジャー。
ならば、聖グロリアーナ女学院に挑戦する資格を得た今、彼女達も自分達の貫いてきた戦車道を用いてチャレンジする。
この時御流と学園の伝統と融合したものが聖グロリアーナ女学院にどこまで通用するのかを。
「さてと、お上品なお嬢様方がお下品な声をお上げになる様に度肝を抜いてやらないとね」
「ぐっちゃん、相変わらず発想がえげつないな…」
そう言いながら苦笑いを浮かべる繁子。
相方の立江はというと不敵な笑みを浮かべながらスパナをクルリと回しホリ車の整備を口笛を吹きながらしはじめる。
だが、立江の言う通り一筋縄ではいかない相手だ。敵の度肝を抜いて戦い撃破しなければ決勝には進むことなど到底できない事を繁子もわかっている。
聖グロリアーナ女学院との決戦の日は近い。