ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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VS聖グロリアーナ女学院戦 2

 

 前回、聖グロリアーナ女学院との戦車戦でうまく策がはまり知波単学園との乱戦までなんとか持ち込んだ繁子達。

 

 だが、繁子達はそれでいてもこの聖グロリアーナ女学院が一筋縄ではいかない敵であることを知っている。

 

 確かに乱戦までは持ち込んだ。だが、敵の戦車はこちらの戦車よりも装甲が堅く、それでいて連携の完成度も高い。

 

 

『しげちゃん! またやられたよ!』

 

『あのクロムウェル化け物じゃない!? 偵察に出かけたホニを合わせてもう四輌撃破してる!』

 

「…チッ…やっぱ強いなぁ、アールグレイさんは…」

 

「それだけじゃないよ、しげちゃん、あのクロムウェルの横についてるチャーチル二輌がかなり曲者」

 

「あんな戦法みたこと無いね」

 

 

 繁子にそう告げる真沙子は表情を曇らせて冷静にその光景を眺める。

 

 アールグレイを中心にチャーチル二輌がまるで円を描く様に連携を取り合っている。アールグレイの敷いたその戦術により、当初繁子が思っていた戦果とはかけ離れたものになってしまった。

 

 乱戦まで持ち込みこれからという時にこのアールグレイが乗るクロムウェルが立ち塞がる。

 

 流石の繁子もこれには顔を顰めるしか無かった。流石は名門グロリアーナ女学院。いや、名将アールグレイといったところだろうか。

 

 アールグレイはクロムウェルの車内で笑みを溢す。

 

 聖グロリアーナ女学院には浸透強襲戦術の戦法がある。だが、しかし、アールグレイにはその他にも引き出しは存在していた。

 

 浸透強襲戦術とこの戦法を用いた戦い方でアールグレイは数々の勝利を掴み取ってきている。

 

 蓄積された戦車道における戦場の経験と彼女自身の天性の才能が成し得る戦術。

 

 クロムウェルの機動性を最大限に生かし、チャーチル戦車を用いたその戦術をアールグレイはこう呼ぶ。

 

 

「私の『ブランデー入りの紅茶』に死角は無いわ…もっとも、少々、チャーチルの数が少なくて威力にはかけるけれどね」

 

 

 そう呟くアールグレイは紅茶を静かに口に運ぶと長い艶やかな金髪の髪をサラリと流す。

 

 例え、散開し各個撃破となる展開に持ち込まれようともこのアールグレイの乗るフラッグ戦車クロムウェルに死角は無い。

 

 厚い装甲、そして、ミーティア・エンジンによる機動性。このどれもが高水準であり、アールグレイが率いる今の聖グロリアーナ女学院を象徴していると言っても過言では無いだろう。

 

 さらに、クロムウェルの傍に寄り添う様に走るチャーチル二輌は聖グロリアーナ女学院の誇る期待の新星ダージリンとアールグレイの右腕である副隊長だ。

 

 被害はおそらく四輌くらいでは済まないだろう、繁子は言わずともそう思った。アールグレイはそれほどまでに手強い。

 

 ここで、繁子はひとまず次の手を打つことにした。このままではマズイ、そう感じたからだ。

 

 

「永瀬隊に伝令、現戦域から離脱後、予定通り砂浜地域へと移動開始や」

 

『…了解、でも大丈夫? リーダー? そっちは?』

 

「当たり前や、どうにか乱戦まで持ち込んだんやしうちらも居る。なるべく時間稼ぐから頼むで」

 

『わかったよ、頼んだよしげちゃん!』

 

 

 そう告げて、繁子の離脱指示に素直に従う永瀬。

 

 アールグレイのクロムウェルが戦場で猛威を振るう中、繁子達も負けてはいなかった。皆で時間を作りに作った落とし穴、これにハマったチャーチルやマチルダを抑え、ホニIIIやチハ、チヌが仕留めにかかっている。

 

 だが、当然、チャーチルやマチルダの装甲はホニ、チハ、チヌの一撃で吹き飛ばせる様な分厚い装甲では無い。

 

 

「くっそー、堅い! 何これ!」

 

「諦めたらダメだよ! しげちゃん言ってたじゃん! 一撃でダメなら何度でも!」

 

「わかってるって! 照準! 合わせて!」

 

 

 そう、何度でも立ち向かう。

 

 一撃でダメなら二撃、二撃もダメなら三撃。

 

 釘を鉄の槌で建物に打ち込むように、同じ箇所にぶち込んでいけば活路は見出せる。これが知波単学園やり方だ。

 

 爆発と砲撃音が何度も何度も炸裂する。

 

 これが、時御流戦車道秘技『釘打ち』である。

 

 たとえ一撃で抜けない装甲であろうが振り下ろした鉄の槌が弾丸を押し上げぶち抜く。

 

 そして、落とし穴に嵌りホニやチハ、チヌからゼロ距離射撃を撃ち続けられたチャーチル、マチルダの装甲はその『釘打ち』を受け次々と静かに沈黙していった。

 

 時御流が『職人』と言われる所以、その一つが、この戦法にはある。

 

 戦車に乗る知波単学園の生徒達はその戦車達の沈黙を確認するとハイタッチを交わす。

 

 

「やったー!」

 

「チハを舐めるなよ! これが私達の愛車の力だ!」

 

「さてと! じゃあ! しげちゃんの援護に…っ!」

 

 

 そして、チャーチルやマチルダを沈黙させたのも束の間。

 

 彼女達が乗るチハの装甲は一撃の元、粉砕された。もちろん、粉砕したのはチャーチル。ダージリンが乗る車輌である。

 

 アールグレイはクロムウェルを中心に落とし穴で自軍の戦車を撃破したチハ、ホニIII、チヌをチャーチル、マチルダで狩る方向性へと戦法を変えた。

 

 そう、落とし穴に突撃して身動きがとりづらくなっているのは知波単学園とて同じこと、彼女はそこに目をつけたのだ。

 

 

「これで落とし穴についての問題は片付いたかしら? さぁ、繁子さん…次はどうなさるのかしら?」

 

 

 クロムウェルの車内の中で紅茶を飲み、くすくすと余裕がある笑みを浮かべるアールグレイ。

 

 そう、クロムウェルとチャーチル二輌が撃破した知波単学園の戦車はその全体の半数に達しようとしている。

 

『ブランデー入りの紅茶』というアールグレイのクロムウェルの機動性を活かしたこの戦術はとてつもない破壊力をもったものだったのだ。

 

 高い連携を誇る聖グロリアーナ女学院とアールグレイだからこそなせる戦術と戦果。

 

 流石の繁子とてこの状況は想定の範囲外だ。まさか、聖グロリアーナ女学院のクロムウェルがこれほどまでに強力だとは…。

 

 

(あかん、ほんまに不味いな…3輌はつれたか丸隊に割いとる…こちらが今のところ数的不利や)

 

 

 繁子が思う通り、数はアールグレイ達が僅かながら現在上回りつつある。

 

 しかも、敵は引き続き『ブランデー入りの紅茶』という作戦を用いてくる筈だ。そうなればこの状況下でここに留まり局地戦にするのは好ましくない。

 

 繁子は全車輌に通達を出す。それは、第二段階の策を発動させるためだ。

 

 

「皆、まず、撤退や! 引くで! ポイントは海岸地!」

 

『了解!』

 

『聞いたでしょ!とりあえず撤退だよ! 急いで!』

 

 

 そう言って、繁子の指示に従い撤退に入る残りの知波単学園の戦車達。

 

 だが、アールグレイはそれを逃す筈はない。チャーチルを用いて追撃し、これを撃破する算段だ。

 

 必死の抵抗を繰り返し、海岸地を目指して移動をはじめる知波単学園の戦車達。しかしながら乱戦の中で次々と撃破されていく知波単学園のホニIIIやチヘ。

 

 そして、偵察車輌のケホ二輌ともやられ。仲間達が次々とやられる中、繁子達の乗る山城(四式中戦車)は奮闘を続け、なんとかアールグレイの乗るクロムウェルとチャーチル二輌にまで聖グロリアーナ女学院の戦車を減らす事に成功した。

 

 だが、ギリギリ、しかもこちらは1輌。そして、相手はクロムウェルにチャーチル二輌である。

 

 絶対絶命とはこういう事だろう。クロムウェルの機動性にはおそらく四式中戦車では対抗できるかわからないし、おまけにチャーチル二輌がいる。

 

 海岸地を目指していた真沙子達は思う。もはや、ここまでかと。

 

 

「…クソッ! …せっかく乱戦まで持ちこんだのに!」

 

「しげちゃん、これはヤバイかもね」

 

「ほんまにな」

 

 

 だが、繁子はこんな状況下でも戦車内で笑みを浮かべていた。

 

 真沙子も多代子もそんな繁子の表情を見て顔を見合わせる。だが、立江もまた、その繁子の表情を見てつられる様に笑みを浮かべた。

 

 何がおかしいのか真沙子も多代子も理解できない、このままでは負けるというのに笑っていられる状況かと2人は声を荒げる。

 

 

「何2人とも笑ってんのよ! そんな余裕がある状況じゃないでしょ!?」

 

「負けちゃうよ! しげちゃん!」

 

 

 そう、多代子、真沙子の2人が慌てるのも仕方のない事だ。

 

 フラッグ車輌は繁子達が乗るこの四式中戦車である。この車輌が撃ち抜かれて白旗が上がればその時点で知波単学園の敗北が決定する。

 

 しかも、敵は三輌、勝てる算段が立てられる様な相手ではない。隊長のアールグレイに副隊長、そして、ダージリンの乗る三輌だ。

 

 

「多少なりとも苦戦はしたけれど…。貴女達の快進撃はこれで終わりね、チェックメイトよ」

 

 

 クロムウェルの砲塔がゆっくりと繁子達の乗る四式中戦車に向けられる。

 

 走行中の戦車だが、クロムウェルとチャーチルならばやれるとアールグレイは踏んでいた。これでフラッグ車輌である繁子達を撃ち抜けば決勝は聖グロリアーナ女学院が駒を進める事になる。

 

 クロムウェル、チャーチルの砲塔の標準がゆっくりと構えられ走行中の四式中戦車を捉えて、勝利を確信するアールグレイ。

 

 

 だが、その時だった。

 

 

 聖グロリアーナ女学院の副隊長の乗るチャーチルの側面部が飛来したそれに直撃すると見事に爆ぜた。

 

 そして、二転三転すると白旗を揚げ戦闘不能に陥る。この突然の出来事に流石のアールグレイも動揺を隠せず目を見開いた。

 

 

「馬鹿な! どこから!?」

 

 

 クロムウェルを停車させ身を乗り出してアールグレイは辺りを見渡す。

 

 だが、車影はない、そんな馬鹿な事があるわけが無いと再び同じ箇所へアールグレイが視線を向けたその時だった。

 

 ガツンッとアールグレイのクロムウェルの車体が揺れた。そして、彼女はその衝撃で理解する体当たりを受けたのだと。

 

 体当たりを仕掛けて来た戦車、それは…。

 

 

「…!? ホリII !? まさか…!」

 

「いけぇ! 繁子! 海岸まで走れぇ!」

 

 

 そう、カモフラージュをしていたホリII、隊長である辻つつじの乗る車輌だった。

 

 走行中だったアールグレイの車輌はバランスを崩し、四式中戦車の追撃を断念せざる得なかった。まさか、ここに来て隊長の辻つつじが現れるとは予想だにしない事態。

 

 だが、フラッグ車輌を目の前にしたアールグレイは諦めない、すぐさま陣形を組んでいたチャーチルに乗るダージリンに指示を出す。

 

 

「ダージリン! あの四式中戦車を追いなさい!?」

 

「アールグレイ様っ!」

 

「副隊長がやられた今、もはや戦術や陣形は組む事が出来ない! 意味を成さないわ! …貴女がフラッグ車輌を撃ち取るのよ! ダージリン!」

 

「しかしっ! それは…!」

 

 

 だが、それ以上の言葉はアールグレイは発しなかった。静かな眼差しでダージリンに行けと告げる。

 

 聖グロリアーナ女学院の命運を一年生に託すのは気がひける気もするが、ダージリンは別であった。

 

 この状況下において、クロムウェルと共に残った唯一のチャーチル。それを操っていたのは紛れもなく彼女だ。

 

 ならやれる筈だとアールグレイは信じた。同じ一年生同士、彼女が決着をつけろという事だろう。

 

 

「…必ず、勝ってきますわ」

 

 

 そのアールグレイの期待を受けたダージリンは再びチャーチルに乗り込むと四式中戦車の追撃を開始しはじめる。

 

 そして、ホリから体当たりを受けたアールグレイはこのホリ車との対決を余儀なくされた。

 

 同じ隊長同士の対決。どちらの戦車道が上か、白黒はっきりさせる機会。

 

 まさか、アールグレイにもこの様な展開になるとは思いもしなかった

 

 

 

「辻さん! まさか…貴女が来るとはね…!」

 

「ふふ、期待してたんだろ?」

 

「まさか? ご冗談を」

 

 

 互いに戦車から顔を出して睨み合う両者。

 

 三年間という長い月日が経ち、一度も相対する事のなかった両者は互いに戦車を駆り、今、その三年間の集大成ともいえる戦車道全国大会準決勝の舞台で激突する。

 

 アールグレイの手には紅茶は既に無い、代わりにあるのはこれから互いに削り合う戦車道のぶつかり合いを心待ちにし好敵手にあった時の様な歓喜と喜びだけだ。

 

 

「どちらが優れた隊長であるか…ここではっきりさせてあげましょうか」

 

「…来い! 知波単学園の誇りは私が示す!」

 

 

 火花を散らすクロムウェルとホリ車。

 

 互いの主砲が交差し、爆発と共にその火蓋が切って落とされる。

 

 ここに知波単学園隊長、辻つつじと聖グロリアーナ女学院隊長、アールグレイによる激しい戦車戦が勃発するのだった。

 

 いよいよ試合は佳境を迎える。

 

 勝つのは辻つつじ率いる知波単学園か、それとも聖グロリアーナ女学院を率いるアールグレイか。

 

 激闘を制するのはどちらの学園か!

 

 

 続きは次回! 鉄腕&パンツァーで!

 

 

 


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