ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
聖グロリアーナ女学院のダージリンと繁子達が決着をつけている頃。
こちらでも戦車による激しい戦いが繰り広げられていた。いや、戦車同士のぶつかり合いならば恐らくダージリンと繁子達との戦いとは比にならないレベルかもしれない。
激突する両者の戦車は火花を散らして装甲をぶつけ合う。
下手に離れれば的になることを互いに知っているからだ。クロムウェルとホリの力と力のぶつかり合いと言っても良いだろう。
「く…っ、厄介ね…この!」
「アールグレイッ!」
ガツンと車体をぶつけてクロムウェルとの間合いを詰めるホリ。
恐らく、離れればクロムウェルの機動性にホリがついていけないことを辻もわかっていた。だからこそ、こうして火花を散らして突撃を繰り返している訳である。
光と影。アールグレイと辻つつじ。
彼女達が歩んできた戦車道はまったく間逆なものであった。
一年生の頃から期待を寄せられ、華々しく名門聖グロリアーナ女学院で活躍し名声を得てきたアールグレイ。
だが、一方の辻つつじは一年生の時からの叩き上げの隊長だ。
別にアールグレイの様に天性の指揮能力があった訳じゃない、今の繁子達の様に抜けた戦車道の流派を持っていた訳でもない。
ただ、知波単学園の戦車道が好きで戦車道を三年間やってきた。そこには積み重ねてきた努力と自分が憧れた戦車道に対する姿勢があったからだ。
(そうさ、アールグレイ…。私はあの娘達が居なければこの場にすらこれなかったかもしれない、けど…)
自分が三年生になって隊長を任された時、何かの間違いかと思った。
確かに自分よりも才能がある者がいたはずだと辻は素直にそう思った。アールグレイやジェーコの様な能力は自分には無いし、全軍を率いる戦車道の隊長なんて冗談では無いのかとさえ感じた。
案の定、辻にはアールグレイやジェーコの様な全軍を指揮する才能が無いことが繁子達が知波単学園に入る頃には己で理解できた。
あの繁子達が入学して早々に見たボロボロにしたチハ達は紛れもなく辻が指揮を執り、黒森峰と戦った結果だ。
知波単学園の先代の隊長は入学当初から辻にはよく目をかけた。
夜遅くまで車長としての訓練を積み重ね、間違いなく『戦車の車長』としては一流に成長する事を予期していたからだ。
辻つつじには全軍を率いる指揮官としての才能は少ない。
けれど、彼女には才能がある。それは、『1人の戦車の車長としての才能』だ。
指揮や作戦は繁子や立江が考えてくれた。
辻つつじには辻つつじにしか出来ないことがある、彼女はその事を理解していた。自分よりも先に隊長に早く就任し、学園を勝利に導いていたアールグレイやジェーコとは違う。
けれど、戦車の指揮する腕ならば、この積み重ねた三年間の中で辻つつじは誰にも負けない自負があった。
「しつこいわね! 離れなさい!」
「…よし! 今だ! クロムウェルから離れろ!」
ようやく、アールグレイが乗るクロムウェルから離れる辻が乗るホリ。
ただ、突撃を繰り返してきた訳じゃ無い。辻がクロムウェルへ突撃を繰り返していたのはこの場所に再びアールグレイを釘付けにする為だ。
この湖のエリア、この場所で決着をつける為に。
三年間積み重ねて来た戦車道、そして、辻は今年入ってきた繁子達から多くの事を学んだ。
戦車を愛する事、戦車道の本来の在り方、そして、仲間との絆。
今、自分がこの場に居られるのはそんな繁子達と知波単学園の戦車道に関わる皆が作ってくれた場所だ。
こんな自分を隊長と呼び、尊敬し、日本一にすると皆が言ってくれた。
辻には今迄、試合に負けて悔しくて泣いた夜の記憶の方が多い。だけど、今日も笑ってみんなと一緒に勝利を分かち合いたい。
「…みんな、私に力を貸してくれ」
「ハイッ! 隊長!」
「しげちゃん達も頑張ってますからね! …やってやりましょう!」
辻の言葉にホリ車に乗る全員が笑顔を見せて頷いた。
辻のこれまで歩んで来た戦車道は間違いなどではなかった。
聖グロリアーナ女学院のアールグレイにも、プラウダ高校のジェーコにも、サンダース大付属高校のメグミにも及ばなくても確かに辻には誰にも負けないものがそこにはあった。
誰にも負けない辻つつじの『知波単学園の戦車道』がそこにはあったから。
今、この場でアールグレイとの決着をつける。三年間待って掴みかけている日本一の隊長になる為に…。
「行くぞッ!」
「行きなさい」
アールグレイのクロムウェル、辻つつじのホリがそれぞれ交差し主砲を構える。
機動性ならあちらが上、ならば、動きでなくホリができる戦い方で勝利するしか無い。辻は直ぐに指示を飛ばしホリ車の回避行動を取る。
「右から来るぞ!」
「ハイ!」
右からクロムウェル強襲するのを操縦席に座る女生徒に通達する辻。
間一髪のところで砲弾を避けることができた。だが、また次が来る辻はそう踏んでいた。装填には時間がかかるはずだ。今ならやれる。
ホリは走行中のクロムウェルの動きを予測し、照準をそちらに合わせる。
「てぇー!」
「…左に切って回避、回避後、直ぐにクロムウェルの砲弾を装填しなさい」
だが、ホリから放たれた砲弾はクロムウェルに直撃することはなかった。
巧みに回避し、紙一重のところでホリ車からの砲弾を回避するアールグレイの乗るクロムウェル。
視界が悪い森林地の中でまさに手汗が滲み出る様な戦いだ。この試合を目の当たりにしていた会場も盛り上がりを見せていた。
辻は回避された砲弾を確認するとすぐさま次の指示を車内へと飛ばした。
「次が来る! 装填準備! それと、次で最後だ」
「…はい!」
「突撃準備! 目標! クロムウェル!」
「でもまだ装填準備が!?」
「いい! 続けろ! それと…皆、私を信じてくれ」
辻は優しい声色で車内にいる全員にそう声をかけた。
確かにクロムウェルとの正面からのやり合いはこの場合は自殺行為だ。装填完了を考えれば明らかにクロムウェルの方が早く終わる。そして、向こうから飛んでくる砲弾の方が早い。
だが、自然とそう声をかけできた辻の言葉は車内に居た全員には安心感の様なものを感じさせた。
たった一言だけ『信じて欲しい』という言葉。
皆はその言葉に静かに顔を見合わせて頷いた。
今迄、辻を信じて戦ってきたのだからこの場で彼女を信じなくてどうするのだと皆がそう思っていた。
「辻隊長! どこまでもついてきますよ!」
「私達、信じてますから!」
「…ありがとう」
辻は素直に自分の言葉に従ってくれる皆に御礼を述べた。
恐らくはこれは賭けだ。タイミングを見に誤れば確実にクロムウェルからの砲撃を正面から受けて撃沈する羽目になるだろう。
けれど、このままいけばいずれはクロムウェルからやられることも目に見えてわかる。
だから、辻は決意したのだクロムウェルの動きを予測し真っ向から堂々と正面から突撃する道を。
辻の乗るホリは動き出し、正面にいるクロムウェルを捉える。
クロムウェルもまた、正面にホリを捉えていた。アールグレイは知っていた、向こうは先ほどの砲撃で装填に時間がかかる事を。
ならば、走行中、こちらの装填が先に終わる。今ならゼロ距離まで近づいてホリ車を確実に倒すことができるだろう。
「決着の時ね、行きなさい。息の根を止めに」
「今、三年間積み重ねてきた私の戦車道を見せる…!」
互いに勢いよく距離を詰めてゆくクロムウェルとホリ車。
アールグレイと辻つつじの2人は様々な思いと誇りを賭けて最後の勝負に出る。2人の戦車はぐんぐんと距離を縮める。
あと数百メートル。
クロムウェルの装填準備は完了した。この時点で主砲を発射すればこの勝負、アールグレイの勝ちだ。
照準も正面に捉えている。もはや、心配することは何も無い、アールグレイは不敵な笑みを浮かべて砲手にこう告げた。
「撃ちなさい!」
瞬間、ズドンッ!とクロムウェルの主砲が火を噴いた。
発射された弾頭は真っ直ぐにホリ車を捉えて伸びてゆく、着弾すればホリはひとたまりも無いだろう、なんせ正面から勢いよくこちらへ突撃をしてくるのだから。
正直、アールグレイは辻が血迷ったのでは無いかと思っていた。あの場面でこのクロムウェルと正面でしかも直進して突撃を仕掛けるとは。
装填準備もこちらの方が早い事を辻は知っていたはずだ。この愚行はアールグレイも正直な話ありがたくもあり、同時に拍子抜けさせられた。
(やはり、最後は伝統と共に散るのね、辻さん)
知波単学園の伝統である突撃。
しかしながら、この場合の辻つつじが選んだ突撃という判断をアールグレイは甘く見ていた。だからこそ、勝敗はここで別れたのだろう。
次の瞬間、クロムウェルから発射された弾頭は綺麗にホリ車の装甲を…。
「…!? 馬鹿なッ!?」
貫く事はなかったのだから。
何故ならば、ホリ車の車体がアールグレイの目の前から突如消えたのだ。目標を失ったクロムウェルの弾頭は遥か向こう側にある木に着弾し爆ぜた。
そして、勢いよく走っていたクロムウェルの下から砲身が現れる。
そう、消えたはずの辻が乗るホリ車が車体を上げてクロムウェルの下腹をきっちりとゼロ距離で照準を合わせて捉えていたのだ。
辻つつじが乗っていた消えたホリ車。
それは、掘ってある落とし穴にわざと車体を落とし込む事によりアールグレイの乗るクロムウェルからの砲撃を回避したのである。
この為に辻はわざと車体をクロムウェルとぶつけこの場所に釘付けにした。
この湖のエリアに掘ってある落とし穴の箇所は全て辻は把握してある。何故ならば自分たちが掘って作った穴だからだ。
そして、辻が乗るホリ車の主砲の装填は既に完了している。
「撃てぇー!」
「しまっ…!」
次の瞬間、下から突き上げるようにホリ車から放たれた主砲がクロムウェルの下を突き上げた。
クロムウェルの車体は宙に浮くと吹き飛び後退、そして、しばらくしてから行動不能を示す白旗を上げて完璧に沈黙した。
それは同時に、辻つつじの乗るホリ車がフラッグ車、隊長アールグレイを撃ち破った事を示す事になる。
時御流の戦い方と知波単学園の戦い方、この二つの戦い方を辻つつじは新たにこの年に学んだ。学んで新たな自分の戦車道を見つけ出すことができた。
それを見事にこの試合で辻つつじは皆に示して見せたのだ。
そして、全車輌に勝敗が決した通達が運営側から通達された。
『聖グロリアーナ女学院! フラッグ車! 行動不能! 勝者! 知波単学園!』
その瞬間、会場からは大きな歓声が上がった。
まさか、名門聖グロリアーナ女学院、しかも最強とも謳われたアールグレイ率いる部隊にあの知波単学園が勝利したのだ。
見に来ていた人からすれば、これはもはや大事件である。知波単学園はかつての名門とはいえ組み合わせの妙次第でベスト4に来る学校であるぐらいの認識しか無い。
けれど、この勝敗の事実がその常識を覆し、証明したのだ知波単学園の戦車道の強さを。
このアナウンスを聞いていたダージリンは唖然とした表情を浮かべていた。
「隊長が…負けたですって…?」
海岸地で繁子達と戦ったダージリンは例え、自分達が行動不能になろうとも隊長のアールグレイは必ずホリ車を倒し、そして、フラッグ車の繁子達も打ち倒してしまうだろうと思っていた。
それだけの能力がアールグレイに備わっている事をダージリンは知っていたし、カリスマ性溢れる彼女の戦車道はダージリンの憧れでもあった。
それが、知波単学園の戦車道に負けてしまった、見事なまでの戦い方で。
ダージリンが敗戦のショックを隠しきれない中、一方の繁子達はアールグレイを打ち倒した辻に歓喜していた。
「よっしゃあ! 決勝戦進出や!」
「み、みんな呼んでこよう! やった! やったぁ!」
「まさか…あのアールグレイさんに勝っちゃうなんてね〜、辻隊長…凄いや」
各自、それぞれ決勝戦に進んだ喜びを素直に口に出して分かち合う繁子達。
知波単学園のみんなで繋いで得た勝利。隊長の辻つつじが確かに示してくれた。学園の伝統と自分たちの戦車道を。
聖グロリアーナ女学院VS知波単学園。
それは、辻つつじが三年間積み上げてきたものと皆が絆を信じて最後まで戦った事によりこの勝負、知波単学園が勝利を収めた。
戦車道全国大会準決勝。
次の決勝戦の舞台へ駒を進めたのは辻つつじが率いる知波単学園。
知波単学園創設以来の快挙を皆の力を合わせて成し遂げたのだった。