ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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ちはたんばんじゃーい!

 

 知波単学園。

 

 主力戦車が学校名の通りの九七式中戦車チハ。

 

 言わずと知れた大日本帝国陸軍が使用した量産型の中戦車である。

 

 日本で八九式中戦車の後継である九五式軽戦車の補助と歩兵部隊の火力支援を目的として1936年に開発が開始された戦車で現在は今の知波単学園の主力戦車として使われている。

 

 そして、その知波単学園だが、知波単学園の主力である日本の戦車では戦力的に他校に著しく劣り、戦力的に決して恵まれているとは言えないものの、試合の組み合わせの妙により全国大会ベスト4に輝いた実績もある戦車道名門校。

 

 車両数も最低でも22輌…いやそれ以上保有している等、金銭面も恵まれているし、戦車道の名門としては申し分ない。

 

 では何故、全国を制した実績が無いのか?

 

 チハ以外の車両を購入しない事やいろんな要素はあるだろうが、おそらくこれが原因だろう。

 

 それは知波単学園の校風。

 

 生徒達の間には「突撃して潔く散る」という謎の風習、伝統が浸透していた。

 

 この作戦が幾らか上手くいった事もあるだろう。だが、「潔く散る」という事はその時点で負けを己の中で課しているという事である。

 

 そんな伝統が浸透していれば上へと上がれないのは必然かもしれない。

 

 さて、前回そんな知波単学園を受験する事になった城志摩 繁子と時御流のメンバーはというと…?

 

 

「なんとか全員合格出来たね!」

 

「永瀬がダメかと思ってたけど、やればできるじゃん!」

 

「いやー…最後らへんはわからなかったから鉛筆コロコロして回答したんだけど…上手くいってよかったー!」

 

「…ほんまにギリギリで合格やったね…胃が痛かったわ」

 

「リーダー胃薬いる?」

 

「おおきにな、多代子」

 

 

 なんとか知波単学園に全員合格する事が出来た。

 

 今は学園艦の寮に乗り込みいろいろな手続きや引越しを行っている真っ最中である。

 

 筆記試験、面接をパスし、無事に全員で入学をする事が出来た知波単学園。

 

 そして、それは繁子達が「武芸」として確立された戦車道の名門校に晴れて入学出来たという事である。

 

 だが、繁子はこの知波単学園に入る前の伝統や校風を改めて目の当たりにして、この入学が決まっためでたい日にあまり嬉しそうとは言い難い表情を浮かべていた。

 

 それに気がついた多代子と立江は何気なく繁子に声をかける。

 

 

「リーダーどうしたん?」

 

「しげちゃん?」

 

「ん? あぁ、ごめんなぁ。ちょいと考え事しててん」

 

「んー?」

 

「うん、大した事でもないから気にせんどいてや、そんじゃ帰って打ち上げでもやろう!」

 

 

 そう言ってにっこりと笑う繁子。

 

 色々と不安要素はあるが、戦車道名門校である知波単学園に全員で合格する事が出来たのだ。そこは素直に喜んでおくべき事だろう。

 

 時御流復興への記念すべき第一歩。

 

 その繁子の言葉を聞いたメンバーは顔を見合わせると嬉しそうに頷いた。

 

 

「あ! そんじゃさ! 焼肉でも食べる?」

 

「それじゃまずは木炭の調達からだね! 私、自宅から斧持ってくるよ!」

 

「なら、私は知り合いの牧場のおじさんに頼んで牛肉調達するわね」

 

「んじゃウチは自家生産した野菜が家にあるからとりあえず持ってくるで」

 

「やる気出てきたわね!」

 

 

 そう言って家や知り合いから食料を調達する段取りをつける繁子達。

 

 時御流の基本は手作り、自家生産。

 

 戦車道もそうだが、彼女達のその精神は常に自家生産と開拓と活路を自ら作り出す事が基本中の基本だ。

 

 これは武芸として確立してある戦車道にも通ずる。女子力が高い女性こそが女性の武芸である戦車道も強いという繁子達の考え方だ。

 

 千里の道も一歩から。

 

 何事も物事を成すには1からはじめる事を忘れてはいけない。

 

 その後、繁子達は無事にお手製の焼肉セットを作り上げて、全員で知波単学園に無事合格した事を祝福するのだった。

 

 

 

 

 その翌日。

 

 知波単学園の戦車道をする為に機甲科へと入ることになった繁子達は車庫に案内され知波単学園の戦車を拝むことになった。

 

 戦車を拝むことになったのだが…。

 

 

「なんやこれ…」

 

 

 そこに並んでたのはボロボロになったチハ戦車をはじめとした知波単学園の戦車達。

 

 そして、その大量の戦車達を整備している整備科の者達だった。修理する戦車の量を見るにこれがいかに大変さは繁子達にもすぐに理解できる。

 

 繁子達をこの車庫に案内した知波単学園の隊長の女性は笑みを浮かべたまま、小恥ずかしそうにそんな繁子達にこう話をしはじめた。

 

 

「いやー、先日のエキシビションマッチで黒森峰に派手に負けてしまってな! 新入生の君達にこんな戦車を見せるのは申し訳ないが…」

 

「…派手に負けたというか的になってるんじゃないかしら…これ」

 

「ぐっちゃん、言いたいことはすごくわかるで」

 

「いやー、凄いっすね!」

 

「そうだろう! そうだろう!」

 

「…ダメだ、この学園。早くどうにかしないと…」

 

 

 別に永瀬の言葉は褒め言葉ではないのだが、それを嬉しそうに捉える隊長を見て国舞 多代子は頭を抱えていた。

 

 頭を抱えたいのは繁子達とて同じである。こんなボロボロになった戦車達を見たらどんな新入生でもそうなりかねないだろう。

 

 隊長はどうやら伝統である突撃して散る自分達の校風と戦術を茂子達から褒められたと勘違いしているらしい。だが、悲しいかなそんな事はこれっぽっちも繁子達は思ってはいなかった。

 

 

「誰かハリセン持ってへんかな?」

 

「ハリセン足りる?」

 

「深刻なツッコミ不足ね、やっぱり入る学校間違えたんじゃ…」

 

「ハリセンはどのレベルから作るんすか?」

 

「そのノリで来ても絶対作らへんよ」

 

「? どうしたんだ?」

 

「いや、なんでもないですよ、そんで先輩、壊れた戦車って何台くらいあるんですか?」

 

「全部だ」

 

「ほんまにアホちゃいますか…」

 

 

 知波単学園、隊長の言葉に苦笑いを浮かべるしかない繁子。

 

 戦車が大量にあるのに全て修理になるというのは明らかにおかしな事であるのは違いない。とりあえず、言わ無いでおこうとは思ったがこの光景を見ていたら繁子はそう思わざる得なかった。

 

 仕方ないと諦めた顔になった繁子達はとりあえず顔を見合わせると腕を捲り上げ丸メガネに長い髪をオールバック気味に流している隊長、辻つつじにこう告げる。

 

 

「とりあえず修理する戦車が後何台くらい残ってるんですか?」

 

「え? あ、あぁ…17台ほど」

 

「よっしゃ! ぐっちゃん! 永瀬! 国舞! 真沙子! やるで!」

 

「…うん、まぁ、そうなるだろうなって」

 

「入学した次の日に戦車を大量修理かぁ…。なんなのかしらこれ」

 

「さっすがリーダーっすね!」

 

「お、おい! 何する気だ!?」

 

「修理に決まっとるやろが! おーい!スパナ貸してくれへん?」

 

「えぇ!?」

 

 

 繁子は早速、メンバーを引き連れて整備部員と共に戦車を大量に修理する作業に取り掛かる。その光景を見た辻は驚愕のあまり変な声を出さざる得なかった。

 

 知波単学園戦車道以来、入部してそうそう戦車修理に乗り出す新入生なんてのは見たことが無い。

 

 だが、辻が止めに入る前に既に繁子達は整備科の人員達に話しかけ修理作業に入っていた。

 

 まさに電光石火の如く、その動作までに無駄がない。

 

 

「あーキャタピラやられとるなー」

 

「これくらいならちょちょいとやればいけるわね?」

 

「こっちは派手に横転かましたみたいねー」

 

「おぉ! 軽く見ただけで解るの? 凄いわね!」

 

「当たり前ですよ。戦車道を極めるならまずは戦車の状態を知るのは常ですよ先輩」

 

 

 そう言いながらスパナを軽く回し、先輩の整備科の者達ににっこりと笑みを返す真沙子。

 

 それから切れたキャタピラの接合作業に取り掛かる真沙子。その手際の良さから整備科の者達中からも関心の声が上がる。

 

 そして、リーダーの繁子。彼女は戦車の下に潜るとスパナや工具を用いて恐るべき速さでどんどん戦車を直してゆく。その作業を見ていた整備科の整備員達は目をキラキラと輝かせていた。

 

 

「ここをこうして…こうやな、よっし! あ、ごめん、そこにあるやつ取ってくれます?」

 

「あ! は、はい!」

 

「あかーん! めっちゃこのサスペンション改造したい! …けどへんに改造したら規定に引っかかるかもしれんからなぁ…。悲しいけどこのままにしとこ」

 

(この娘、凄いなぁ)

 

 

 繁子の整備を目の当たりにした整備科は思わずその手際に目をまん丸くする。自分達の中でもこんなに早く戦車を修理する整備科の者はいない。

 

 繁子はとりあえず4台ほど戦車を整備科と共に修理し終えたところで他の戦車を確認する事にした。

 

 

「おーい! ぐっちゃん! 真沙子ー! そっちどないなってるー?」

 

「こっちは5台完了!」

 

「同じく5台完了したわよ!」

 

「余裕っすね! リーダー!こっちも3台完了!」

 

「全部終わったな! ふぅ…。ほんま入部早々骨が折れるわ」

 

 

 そう言いながら肩をグルグルと回しながら繁子は永瀬達と合流し、ハイタッチを交わす。

 

 そして、その光景を見ながら手伝っていた知波単学園の整備科達は目をキラキラと輝かせながら繁子達の元に集まった。

 

 

「すっごーい! すごい!」

 

「あの修理を短時間で終わらせるなんて!」

 

「いやいや、皆さんの手伝いがあっだからやで、おおきにな?」

 

「えへん! 私らのリーダーだからね、なんたって」

 

「リーダー!」

 

「リーダー! 私を弟子にしてください!」

 

「リーダーとならなんでもできる気がします!?」

 

「お、あ、いや、何もそこまで…」

 

「よーし! みんな! リーダーを胴上げだ!」

 

「ちょい待て! なんでそうな…あ! 足持つな! ちょっとー!?」

 

 

 なんだかわからないがどうやら繁子は知波単学園の整備科の彼女達の心を鷲掴みにしたらしい。

 

 いつの間にかとんとん拍子に永瀬達をはじめ、知波単学園の整備科から身体を担がれるとそのまま勢いで胴上げをされた。

 

 繁子の小さな身体がなんども宙を舞う。

 

 

「そーれ!」

 

「「「知波単学園整備科に入学おめでとう」」」

 

「あかーん! ちゃうやろ! うち機甲科やって! うわぁ!?」

 

「なんだか、凄い一年が入って来たな…」

 

 

 胴上げをされるがままの繁子を見ながら苦笑いを浮かべる戦車道部の部長である辻。

 

 機甲科であるにもかかわらず整備部員にされている。時御流の再興はまだまだ険しく遠い道のりだと繁子は再認識させられた。

 

 その後、機甲科に入った事を知った知波単学園の整備部員達は非常に残念そうな顔だったそうな。

 

 

「時御流って整備部門なら浸透したんじゃ…」

 

「ぐっちゃんそれを言うたらあかん…」

 

 

 繁子の知波単学園での戦車道は始まったばかりである。

 

 

 


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