ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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【外伝1】0円戦車道編
まず砂鉄から作ります


 

 聖グロリアーナ女学院との決着から数日が過ぎた。

 

 まだ、あの試合の熱が冷めぬ内に繁子達は決勝戦に次に当たる相手の試合映像を見ていた。そう、その相手とは…。

 

 

『プラウダ高校! フラッグ車! 行動不能! 勝者! 黒森峰女学園!』

 

 

 絶対王者、黒森峰女学園。

 

 西住まほが率いるドイツ戦車軍団。そして、繁子達が見ているのはその黒森峰女学園と古豪、プラウダ高校の試合である。

 

 砲撃戦の末、黒森峰女学園の西住まほとプラウダ高校のゲオル・ジェーコによる壮絶な一騎打ちがあり、激闘を繰り広げ黒森峰女学園が勝利をモノにしていた。

 

 カチューシャやノンナという逸材を有したプラウダ高校といえど、あの西住流に最強ドイツ戦車軍団を前に敗れた。

 

 繁子達はその黒森峰女学園の準決勝の映像を見て静かに沈黙する。

 

 

「強いな…単純に戦車の強さだけやないで」

 

「マウスを導入せずにこの強さは予想外だね…いや、ヤークトティーガーやヤークトパンター、エレファントを考えれば妥当とも言えるかも」

 

「それに、決勝ではパンターG型を戦力に加え極めつけは超重量戦車マウスよ」

 

「何、この戦車軍団。ガチガチ過ぎてだいぶ変態なんですけど…」

 

「こいつら全部倒さなあかんねんで? 流石にウチらも気合い入れな無理や」

 

 

 黒森峰女学園が今まで何故優勝し続けているのかこの時点で繁子達は理解できる。

 

 圧倒的な性能の戦車に熟練の戦車乗りの精鋭軍団。さらに、これに西住流が加わるとなればそれはもう手がつけられないレベルの戦力になることだろう。

 

 今までプラウダ高校や聖グロリアーナ女学院、サンダース大付属高校ぐらいしか太刀打ちできる学校がいないことも頷ける。

 

 だが、繁子達とて負けてはいない。その聖グロリアーナ女学院を破り決勝までようやく駒を進めてきたのだ。

 

 いよいよ決勝の舞台。約束の場所で西住まほと戦うことができる。

 

 

「…作戦の段取りを考えらなね?」

 

「また長い名前のオペレーションなんとかってやつ?」

 

「いや、今回はちゃうよ」

 

 

 繁子は笑みを浮かべて問いかけて来た永瀬にそう告げる。

 

 確かに今まではオペレーションRTや色んな名前の作戦を考えてきた。だが、小賢しいトラップや罠が容易に通じる相手ではないことを繁子は知っている。

 

 島田流と並ぶ現代戦車道最強流派、西住流。

 

 時御流の宿命の相手であるこの流派の事は良く母、明子から繁子は話を聞いていた。

 

 長きに渡る西住流、西住しほとの激闘を繰り広げた明子の言葉は繁子に西住流の戦い方を教えてくれた。

 

 そして、それを踏まえた今回の作戦を繁子はこう名付けていた。知波単学園と時御流の未来へと続く栄光の架け橋となる作戦、名付けて。

 

 

「名付けて『オペレーションfuture』」

 

「オペレーション…」

 

「future?」

 

「せや、今まで支えてくれた知波単学園のみんなの思いと、ウチらに託してくれたアールグレイさん達の思いを未来と勝利に繋ぐ意味で付けた名前や」

 

 

 そう言うと繁子はニコリと笑みを浮かべた。

 

 相手は強敵、待ちに待った西住流との対決だ。繁子の作戦名を聞いた立江は柔らかく微笑み静かに頷く。

 

 母、明子との誓いのために繁子の傍らで彼女を支えてきた立江は繁子のこの大会に賭ける思いを理解している。

 

 憧れていた今は亡き母の後ろ姿を追い、継がなくても良い時御流を引き継いだ繁子の決意と意思。

 

 師であり母である明子の死んだあの日、繁子は誓いを立ててこの知波単学園で自分達と共に戦う事を決意した。

 

 

「…そっか、いい名前だね」

 

「うん、私は好きだよその作戦名」

 

「異論なし」

 

「決まりだね! リーダー!」

 

 

 時御流に携わる永瀬達全員がリーダーである繁子の作戦名に賛同した。

 

 きっと壮絶な戦いが予想されるであろう決勝に繁子は今まで積み重ねてきたものをすべてぶつける事を心に決めている。

 

 母が教えてくれたこの流派と戦車道の素晴らしさ。

 

 そして、自分を側で支えてくれた立江達、知波単学園のみんなに辻隊長。

 

 繁子にとってみれば全てが彼女にとって掛け替えのない絆である。だからこそ、今年の戦車道全国大会で最後になる辻を優勝させてあげたい。

 

 

「それじゃ、立江。作戦の概要を話すで」

 

「了解、そんじゃ聞いてあげるわよ」

 

「まずはな…」

 

 

 こうして、繁子は立江達と作戦についての打ち合わせをはじめる。

 

 次が負けても勝っても辻には戦車道全国大会最後の試合になるだろう。皆で積み上げてきた勝利、辻が最後まで胸を張れる様な試合を繰り広げたい。

 

 繁子達の思いは果たして届くのか否か…それは決勝戦にて黒森峰と戦うまではわからない。

 

 

 

 

 さて、その作戦の立案から数日が過ぎ、繁子達はある場所を訪れた。

 

 あたり一面の田んぼの風景が広がるこの場所、繁子の生まれ故郷である。別名、田種村(だっしゅ村)。

 

 学園艦から降りた彼女達は全国大会が始まる前の数日、この村にある用があって訪れた。

 

 それは、もちろん…。

 

 

「さぁてと、そんじゃ砂鉄集めに来れた訳だし気合い入れて行こうか!」

 

「この時期だと鉄穴流し(かんなながし)は出来ないねぇ、農作物もあるし」

 

「大丈夫大丈夫、そんな事しなくても磁石集めでいけるって!」

 

「よーし! 張り切ってがんばろー!」

 

 

 

 自作する戦車の素材となる砂鉄を集めるためだ。

 

 戦車を作るにあたり自分達が1から戦車を作っていない事に気がついた繁子達はひとまず砂鉄から戦車を作るレベルからはじめる事にしたのである。

 

 また、次回の黒森峰女学園との試合で用いる作戦にもこの玉鋼が必要である為、こうしてわざわざ足を運んだ。

 

 もちろん、山の近くにある、合宿所兼時御流製鉄所には辻達が待機している。山に慣れていない彼女達は今回の砂鉄集めには連れて行くのは危険だろうという繁子達の判断だった。

 

 繁子達が入っていった山を見つめながら辻は相変わらず物凄い行動力を見せる繁子達の安否を気遣いつつも顔を引きつらせる他ない。

 

 

「あいつらは一体何考えてるんだ?」

 

「さぁ?」

 

「けど、辻隊長! 今日は聖グロリアーナ女学院戦の勝利を祝ってしげちゃん達がここでBBQするって言ってましたよー」

 

「智代っちがカルビ26人前食べるから用意しといてだってさ」

 

「26人前!? あいつの胃袋化け物じゃないのか!?」

 

 

 そう言ってBBQの用意を進めている知波単学園の女生徒に突っ込みを入れる辻。

 

 ちなみにあの5人の中で一番プロポーションが良いのが永瀬だったりする。

 

 26人前のカルビを1人で食べる女の子がプロポーションが良いとは詐欺も良いところだと辻は嘆きたくもなるが、ひとまず、繁子達が帰ってくるまでの間の食事の準備を手伝う事にした。

 

 

 さて、今回、繁子達が砂鉄を集めて作ろうと考えている物は、戦車の製造、及び、対黒森峰女学園のトラップの素材に使おうと考えている玉鋼(たまはがね)の製造である。

 

 玉鋼は古来日本で砂鉄を原料とし、伝統的な製鋼法である「たたら吹き」で作られた和鋼。

 

 特に日本刀の鋼として使用されたものであり、繁子達はこの玉鋼を使って全国大会が終わった後にでも新たに戦車を作ろうと考えていた。

 

 また、今回の作戦の要にもこの玉鋼が必要である為、一石二鳥という意味合いもある。

 

 思えば、知波単学園で作られた戦車のほとんどが要らなくなった、または、他の学校から集めてきた部品の素材を一旦分解し加工したものばかりだ。

 

 玉鋼は伝統技術による、日本刀にも使われた最高級の鋼だ。

 

 今回は戦車道全国大会まで時間があるこの期間を使い、玉鋼を大量に作ってみようというのが繁子達の考えである。

 

 さて、そんな訳で、時御流5人娘は島根県に伝わる伝統のたたら製鉄を行う事と砂鉄の回収を行うべく山へと赴き、に田種村の裏山の山中まで足を運んでいる訳だが。

 

 

「うん、このあたりとか良いんじゃない?」

 

「よーし! んじゃ磁石使おう!」

 

「あれ? 永瀬どこいったん?」

 

 

 そう言って、大量に担いできた荷物を降ろしていなくなった永瀬を辺りを見渡して探し始める繁子。

 

 道中にはぐれてしまったのだろうか? いや、山に関しては永瀬の右に出る者はこの中にはいない。

 

 永瀬と言えば山、海とまで言われる程のサバイバー女子高生である。山の中で迷子や遭難などはまず起きない事は繁子達の全員が知っている。

 

 永瀬の場合は別にたとえ遭難しても普通に生き延びられそうな気もするが…、繁子達はとりあえず辺りを見渡して永瀬を探す事にした。

 

 

「おーい! 永瀬ー!」

 

「智代っちー? どこー?」

 

「あ! あの木の上! 見て!」

 

「…あいつ何やっとるんやろ?」

 

 

 永瀬の探索から開始30秒くらいだろうか。

 

 繁子達は木の上にいる永瀬を発見した。その永瀬の手にはなんと驚くべき事に美味しそうに実が成っている柿が…。

 

 どうやら、永瀬は砂鉄では無く柿を見つけたらしい、永瀬はニコニコと上機嫌のまま繁子達にこう話をしはじめる。

 

 

「リーダー! 柿あったよー!」

 

「おー! ホンマやな!」

 

「智代ー! あんた落ちるわよー!」

 

「完全に私、今ゴリラ状態だよ!」

 

「あ、アレ見た事ある、もけもけ姫に出てくるアレだ」

 

 

 そう言って柿を投げ渡してくる永瀬を指差しながらそう告げる多代子。

 

 確かに見た感じ完全にゴリラ状態と本人が言っているところを見ると神秘的な何かに見えない事も無い。

 

 さらに、永瀬から落として貰った柿を食べた繁子達はその美味しさに思わずほっこりとする。やはり、自然の中で出来た柿程美味しいものは無い。

 

 

「意外と美味しいねぇ」

 

「何個か辻隊長達に持って帰ろうか?」

 

「BBQ後のデザートにでもいいかもー」

 

 

 そう言いながら永瀬が次から次へとポイポイ落としてくる柿を次々と回収しはじめる繁子達。

 

 はたから見れば猿蟹合戦のそれだ。女子高生が木の上から柿を投げつけてくる姿はなかなか見れるものでは無い、実に貴重な光景である。

 

 ちなみに永瀬が現在いる柿の木は長さは地上7メートル、完全にお猿さん状態だ。

 

 さて、柿をあらかた回収し終えた後に本来の目的の砂鉄集めにかからねばならないだろう。

 

 だが、木の上から降りようとした永瀬はその途中でピタリと止まると木を掴んだまま繁子達の方へ振り返りこう告げはじめる。

 

 

「…ニンゲン…カエレ…」

 

「みてください、完全にゴリラですよ、あれ」

 

「動物番組に出したらどんだけ視聴率取れるやろうねぇ?」

 

 

 そう言いながら、木にぶら下がっている永瀬をまじまじと観察し話し合う真沙子と繁子。

 

 だが、本来の役目を忘れてはいけない、立江は荷物から砂鉄回収用の磁石を取り出すとため息をついて繁子達にこう告げた。

 

 

「アホな事やってないで本来の仕事するよ、仕事」

 

「せやな、この森の主はシシガミ様の森において行こうか」

 

「あーん! 待ってー! まだ木から降りて無いよぅ!」

 

 

 そう言いながら磁石を使い、アホな事をしている永瀬を置いて砂鉄集めをはじめる立江に賛同し後に続く繁子達。

 

 永瀬は木からスルスルと降りると自分の荷物を回収し、砂鉄集めに加わる。戦車を作るための玉鋼を作る砂鉄は大量に必要だ。

 

 おそらく今日1日では回収しきれないだろう、けれど、今後とも定期的にこの地を訪れて繁子達は砂鉄集めに奔走する事を心に決めた。

 

 それから、数時間を費やして砂鉄を回収した繁子達は山を下りてBBQの準備を終えている辻隊長達の元に帰ってくる。

 

 とりあえず、次回の黒森峰女学園へのトラップに用いる玉鋼分の砂鉄は今日中に回収できたのでノルマはひとまず達成だろう。

 

 そして、BBQの準備を終えている辻達の姿を見た繁子は驚いたようにこう言葉を発する。

 

 

「おー! できとるやん!」

 

「うわぁ、しげちゃん達、泥だらけだねー」

 

「お望みどおり、製鉄所の裏にドラム缶風呂を沸かしてあるから入ってくるといい」

 

「ドラム缶!? やったー!」

 

 

 そう言いながら立江は辻の言葉に喜びを爆発させる。

 

 立江もそうだが、時御流の女の子達は皆、自作したこの製鉄所にあるドラム缶風呂を愛しているのだ。もちろん、繁子達も例外ではない。

 

 ちなみにこのドラム缶風呂、前から立江が辻達に沸かしておいておくように頼んでおいたものだ。やはり、常に身体を綺麗にしておきたいというのは女の子としての性なのだろう。

 

 さて、それからしばらくして、繁子達は辻達が沸かしたドラム缶で身体をリフレッシュさせ、夕飯のBBQへと加わる。

 

 

「みんなー! 柿、山で採って来たからBBQの後に食べるでー!」

 

「「「おぉ!!」」」

 

「やっぱりみんな甘いもの大好きなんだねぇ」

 

「女の子なんだから当たり前じゃん」

 

「それもそっか」

 

 

 そう言いながら繁子からデザートの柿を提示されテンションが上がる知波単学園の生徒達を見て苦笑いを浮かべる立江にそう告げる真沙子。

 

 こうして、聖グロリアーナ女学院戦勝利を祝して決勝への弾みをつける為の知波単学園のBBQパーティーが始まる。

 

 たまにはこんな息抜きもあって良いだろう。まだ、決勝までには少し期間もあるし気分転換も必要だ。

 

 

「あ! バカ! それ! 私のカルビ!?」

 

「永瀬っちー26人前は食べ過ぎだって」

 

「ふょんなふぉとふぁい!」

 

「飲み込んでから喋りなさいって…」

 

 

 そう言ってお肉をムシャムシャと食べる永瀬に突っ込みを入れる多代子。真沙子はお肉を食べられなんだかご立腹のようだ。

 

 皆でワイワイと過ぎる時間、そんな光景を少し離れた場所から辻と繁子は眺めながら感慨深そうにこう話をしはじめる。

 

 

「こんな楽しい時間が…いつまでもあれば良いのにな」

 

「ホンマですね、また、決勝に勝ったら来ましょうか? みんなで」

 

「今度は優勝旗持って…だな」

 

「はい」

 

 

 繁子はその辻の言葉に笑みを浮かべて頷く。

 

 辻と居られる時間は戦車道全国大会が終わってもまた作れば良い、次もまたこの場所でこんな風にみんなで笑い合ったら良いだろう。

 

 けれど、今度は優勝旗を持って、この場所に訪れたい。きっと、その時はもっと賑やかになる筈だと2人は思った。

 

 西住まほとの約束の決勝戦まで、数日後。

 

 繁子達は一時の喜びと休息をこうして仲間と共に過ごすのであった。

 

 


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