ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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一年生編 戦車道全国大会決勝戦 VS黒森峰女学園
対黒森峰女学園戦会議、母の遺した言葉


 

 対黒森峰女学園戦会議。

 

 それは、次回戦う決勝戦。黒森峰女学園との戦いに備えた知波単学園がどう戦うかを考える作戦会議である。

 

 早い話がいつもやっている試合前のブリーフィングのようなものだ。

 

 さて、今回、繁子が考えついた作戦を皆に伝える為にこうして集まったわけであるが、その作戦概要を立江が皆に語り始めた。

 

 

「さて、みんな、それじゃ『オペレーションfuture』について教えるわね?」

 

「今回は平地に渓谷のエリア、そして、遊園地が主戦場に指定されとる」

 

「そして、今回、作戦に使用する道具はこれ」

 

「…?…なんだこれは?」

 

「玉ねぎよ」

 

 

 そう言って立江はドヤ顔を見せながら辻に告げる。

 

 辻もそれは見ればわかる。目の前にある食材はなんの変哲もない玉ねぎだ。だからこそ、この玉ねぎが作戦に含まれているのかが謎だった。

 

 すると、その玉ねぎを見た瞬間、真沙子は目を輝かせてそれを手に取るとほっこりとした表情を浮かべてこう立江に聞き返す。

 

 

「も、もしかして!! アレやるの! アレ!」

 

「そうよ、真沙子。オニオン真沙子の真骨頂が存分に発揮できるわ」

 

「やったー! よーし! そんじゃ大量に玉ねぎ仕入れる準備しないと!」

 

「…いや、本当にお前達、何するつもりなんだ? アレって何?」

 

 

 そう言って、首を傾げる辻。

 

 それはそうだろう、これまでの戦車道全国大会で玉ねぎを大量に使った作戦などは見たことがない。ましてや、兵器でなく食材である。

 

 だが、繁子が考えた玉ねぎを使った作戦にはちゃんとした理由がある。それについて、繁子は辻にゆっくり語り始めた。

 

 

「アレっていうのは、早い話が玉ねぎを使った目潰し作戦ですよ」

 

「玉ねぎ…で…目潰し?」

 

「あーなるほど、玉ねぎって切ってると涙止まらなくなるもんね」

 

「そうやでー、せやから玉ねぎをみじん切りにして敵戦車の車長の視界を奪うトラップを仕掛けるって寸法や」

 

「だから玉鋼必要だったんだよー。新しいトラップには刃に使う鋼が必要だからねー」

 

「食材を兵器にするとか本当にお前達なんなの?」

 

 

 そう言いながら前回、砂鉄を集めて作った玉鋼を加工した刃を見せながら辻に告げる永瀬。

 

 だが、当然な様に玉ねぎを兵器運用するこの5人娘の話に辻は顔を引きつらせるしかない。

 

 確かにある意味、作戦名通りに未来に生きている感じがするが戦車道全国大会決勝戦に大量の玉ねぎを持ち込もうとするのは間違いなくこの娘達くらいだろう。

 

 だが、今更な気もするので辻はそこで突っ込みを諦めた。とりあえず、気を取り直して作戦の概要を立江は皆に伝えはじめる。

 

 

「まず、ケホ車3輌による偵察ね。敵の本隊がどこにいるのかちゃんと把握しなきゃいけないし」

 

「うちらは渓谷のエリアに移動後、玉ねぎみじん切り機発生機の組み立てをするで」

 

「そして、ケホ車は誘導ね? あまり無理しないこと」

 

「いつもみたいに時間稼ぎができればええから、撃破はなるべくされんようにな?」

 

 

 そう言っていつもの様にケホ車による誘導を計画する繁子。

 

 そして、今回、繁子がこの渓谷エリアを選んだのにはちゃんとした理由があった。それは、逃げ道と玉ねぎの成分を確実に黒森峰女学園の車長の視界に与え得るためだ。

 

 玉ねぎみじん切り発生機をケホ車が囮になっている間に全員で設置。必ずこの道を通ってくることがわかっているので効果はてきめんだろうというのが繁子の考えだ。

 

 

「さて、そんで玉ねぎみじん切り発生機が稼働次第、乱戦を狙ってホニ、チハを突撃させるで」

 

「試合開始と同時、私達が作戦を実行中のその間に今回導入予定のオイ車は先に遊園地のエリアに移動するわ」

 

「警護にはホリとチヘを付けとくからよろしく頼むで」

 

「そして、玉ねぎみじん切り発生機を使った乱戦をしばらく行った後に私達は遊園地に撤退。おそらくは敵車輌も遊園地での戦闘を想定して先にマウスを移動させてある筈よ」

 

「今回の要はこのマウス撃破やからね…なんとかオイ車2輌で撃破できればええんやけど…」

 

「ホリ車は駆逐重戦車を叩く戦力だから簡単に失うわけにはいかないわね」

 

 

 そう言って繁子の言葉に頷く立江。

 

 市街地戦にはもちろん、『そうめん飛ばすしかない作戦』で用いた長パイプを持ち込む予定にしているが、あちらは西住流、西住まほが隊長をしているのでこちらの手の内はあらかた研究済みなのを想定しておかなければならない。

 

 王者であるこそ、黒森峰女学園は慢心はしない。繁子の事を理解しているまほが敵だからこそ全力でかかって来るはずだ。

 

 

「試合中にあの秘密兵器を作らないかんかもね」

 

「もしかして…しげちゃん…アレのこと?」

 

「せやで、アレや。アレなら手早く作れるからみんなで作れるし」

 

「アレっていうのは…」

 

「全長2メートルの巨大竹とんぼ」

 

「…………………え?」

 

 

 立江の言葉に思わず体を硬直させる辻。

 

 全長2メートルの巨大竹とんぼをどうやったら試合中に作ろうと考えつくのか、全く謎であるのだがどうやら、繁子達は今回の作戦にはこの巨大竹とんぼを部品を持ち込んで作るつもりらしい。

 

 もはや、何から何まで突っ込んで良いのかわからない。玉ねぎみじん切り発生機だったり巨大竹とんぼだったりと作戦に持ち込む彼女達の姿勢には辻はただただ唖然とさせられるばかりだ。

 

 どうやら繁子達はこの巨大竹とんぼを用いて、さらなる打開策を考えている様である。

 

 

「ま、まずは展開次第やね、劣勢を強いられるならこれを使わなあかんな」

 

「ほぇー、しげちゃん達なんでも作るんだねぇ」

 

「あともう一つあったんやけど、それは最終手段やね、とりあえずは玉ねぎみじん切り発生機とこの巨大竹とんぼ、そして、そうめんやね」

 

「また、そうめんが空飛ぶのか…」

 

「巨大竹とんぼも空飛ぶよ!」

 

 

 

 繁子の言葉にげっそりとする辻。そして、その光景を見ていた永瀬はウキウキ気分で竹とんぼに目を輝かせてそう告げる。

 

 何でもかんでも飛ばせばいいというものではないだろうと辻は言いたいがこれも勝つ為の手段である事も理解できる。

 

 次が決勝、勝っても負けても最後だ。

 

 そして、この他にも繁子達は色んな策を設けてはいるが、果たして西住流にこの策がどこまで通用するのかは繁子にはわからない。

 

 あのまほの母、西住しほはかつて繁子の母である明子としのぎを削って戦った仲だ。ならば、時御流の戦い方について何かしらまほに助言をしている筈である。

 

 

「とりあえず作戦は以上や」

 

 

 繁子は簡単にそう告げるとブリーフィングを締めくくった。

 

 言葉はそこまで多くなくとも大丈夫だろう。知波単学園の生徒達も繁子と立江達が立てた作戦を理解しているようである。

 

 

 

 それから一通りのブリーフィングを終えて、立江は繁子と知波単学園の車庫から離れ、明日の試合について学園艦にある海が一望できる場所で話をする。

 

 いよいよ待ちに待った西住流との決戦。

 

 激闘が予想される王者との戦いに立江はまほと戦う事になる繁子の事が気がかりであった。

 

 西住まほを倒さなければ、黒森峰女学園は倒せない。立江も繁子もわかっている事実だ。

 

 立江は海を眺めながら繁子にこう話を切り出す。

 

 

「次の決勝。どうやってまほちゃんを倒すかだね…しげちゃん」

 

「せやな、一対一なら小細工なしのガチンコ勝負やろうね」

 

「勝てる見込みは?」

 

「さぁ…わからへんな」

 

 

 繁子はそう言うと儚げな笑みを浮かべて立江に告げた。

 

 勝てるかどうかわからない、西住流とガチンコで戦うのは繁子も今回が初めてだ。立江が見つめる繁子のその顔にはどこか不安な様子も見受けられる。

 

 撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流。

 

 驚異的な機能性を持った戦車軍で「突撃・突撃・また突撃」をスローガンに掲げる現代主流の戦車道流派。

 

 統制された陣形で、圧倒的な火力を用いて短期決戦で敵と決着をつける単純かつ強力な戦術。

 勝利至上主義の元、いかなる犠牲を払ってても勝利することを掲げている。

 

 仲間を助けたり、一丸となって戦うなど邪道。西住流とは各戦車が常に最強であらねばならない流派なのだ。

 

 時御流とは間逆とも言って良いだろう。

 

 戦車と共に苦難を乗り越える仲間との絆を重んじ、どんな時も勝利を諦めない。全員が宿す職人魂。自らの手で活路を切り開く戦車道。それが時御流だ。

 

 そんな、繁子の様子を見た立江は柔らかい笑みを浮かべるとこんな話をしはじめる。

 

 

「…しげちゃん、明子さんの口癖覚えてる?」

 

「…ん? なんや急に?」

 

「いいから…覚えてる?」

 

 

 そう言った立江は昔に師事を受けた繁子の母である明子について彼女にそう問いかけた。

 

 思えば、繁子が立江達との絆を深めるきっかけになったのも時御流がきっかけだった。意見が合わずに喧嘩もした事もあった。

 

 だが、そんな様々な出来事や苦難をみんなで乗り越えて来た。そして、繁子は明子からいつもこんな風に言われていた。

 

 いつも色んな物を作り、そして、自分が頑張ったと思い満足しそこで歩みを止めてしまわない様にと授けてくれた言葉があった。

 

 繁子は昔を思い出す様に立江の言葉を静かに耳を傾けて、瞳を閉じると笑みを溢した。

 

 

「『まだ、まだ』。やろ…? そうやね、確かにウチらはまだまだやれる。まだ、何にも成し遂げてへんからね」

 

「そう、しげちゃん。私達はひよっこだよ。高校で戦車道を始めて一年足らず、まだ成長できる。色んな事に挑戦できる」

 

「うん、…せやから、全力で挑もう! まほりんにウチらの戦車道を見せたる!」

 

「そう、それでいいのよ」

 

 

 立江は気合いを入れる繁子にそう言って頷く。

 

 明子は自分達に色んなものを残していってくれた。だから、これから先もずっと自分達はこの戦車道を信じて戦う。

 

 確かに周りから見ればおかしいだとか、馬鹿らしいとか、思われるかもしれない。

 

 時御流なんて聞いた事もない、西住流や島田流ならきっと強くて憧れる戦車道だ。

 

 そんな常識を覆す為にも次の決勝は全力で挑む、母の為、己が信じる戦車道の為、そして、仲間たちの為に。

 

 きっと時御流が強くて憧れるように、明子が残し自分達が信じた戦車道が皆に認められる様な試合。

 

 まだ、時御流はやれるのだと皆に見てもらいたい。こんな戦車道がまだあるのだと、繁子は立江との話を経て改めてそう心に決めた。

 

 

「そんじゃ、準備しないとね」

 

「せやな、やって見せよう。ウチらの信じた戦車道ってやつをみんなで」

 

「当たり前よ! リーダー」

 

 

 そう言うと軽く繁子と立江は拳を小突きあって笑い合う。

 

 次の決勝が辻にも最後の試合だ。彼女の晴れ舞台を自分達で作る。敵は確かに強大で強い戦車ばかりだ、けれど、今まで戦った相手も強敵ばかりだったではないか。

 

 アールグレイ、メグミ。彼女達もきっと決勝戦を見に来るはずだ。繁子は彼女達の思いを胸に辻、立江達と共に決勝の舞台へと挑む。

 

 時御流は果たして…知波単学園と共に優勝できるのか…?

 

 それは、試合で戦わねば見えてこない、西住流挑む繁子達。

 

 今、時御流最大の挑戦が幕を開けようとしていた。

 

 


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