ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
遊園地地帯。
この地において、現在、渓谷での黒森峰女学園の追撃を振り払い、オイ車隊と合流した繁子達はすぐに辻に状況の確認を行った。
見たところ、まだ、マウスとの交戦はしていない様だ。超重量戦車であるために移動に時間が掛かるのはわかっていた事だが、この時ばかりはその事が功を奏した様である。
「辻隊長、通信通りトラップは?」
「あぁ、仕掛け終えておいたよ、しかし、危なかったな繁子」
「えぇ、もう少し撤退の判断が遅かったら一網打尽にされてたかもわかりません。…立江が殿を務めてくれたおかげです」
辻と合流した繁子は重い口調でそう告げる。
立江がもし、殿戦に出てくれてなければ自分達がどんな状況に陥っていたのか繁子には容易に想像がつく。
多分、辻とこうして合流している間にも奮闘しているはずだ。繁子は殿戦を進んで提案し、本隊を逃してくれた立江の自己犠牲の精神に応えねばならない。
すぐさま、繁子は合流した辻とともに黒森峰女学園本隊。及び、マウス戦車隊との戦いに備えるべく行動に移す。
まずは、こちらが地形的な有利になる状況を作り出すところからだ。
「って言っても、遊園地を開拓なんてできないもんねぇ…」
「良くてそうめん流しくらいしか設置できないわよ」
「そうめん流しを遊園地に設置するっていう発想がまずおかしいとは思わないんだな、お前らは…」
「だってほら、でっかいそうめん流し流れてるよ? 辻隊長」
「あれはアトラクションのスプラッシュ系の絶叫マシーンだ! そうめん流しと一緒にするな馬鹿者!」
「あれなら大量にそうめん流せるね!」
「話を聞けぇ! 永瀬ェ!」
そう言って、でっかいそうめん流しと称するスプラッシュ系の絶叫マシーンを指差す永瀬に突っ込みを入れる辻隊長。
何処の世界にスプラッシュ系の絶叫マシーンをでっかいそうめん流しと考える女子高生がいるのだろうか…、いるとすればこの娘達くらいである。
ともかく、話は逸れたが遊園地を開拓することは不可能に近い、よって、知波単学園の地形的な有利に持ち込むには開拓以外の手段を使わねばならないだろう。
もちろん、繁子にはある案が一つだけあった。それは…。
「ところでしげちゃん? みんなと何作ってんの?」
「ん? あぁ、これか? 無農薬爆弾や。玉ねぎの涙が出る成分に加えて無農薬に使う汁を水風船にしてるんよ」
「あぁ、玉ねぎ作戦ができなくなったからそれで…」
「せやで、しかも、他にも目や鼻に効く刺激が強いものをいろいろと混ぜ合わせて作成中や」
「恐ろしいものを作るな…お前…」
「以前にみんなで作ったもので農薬にも使えるから大丈夫ですよ! ちょっと匂いやらがキツイですけどね」
繁子は辻に笑みを浮かべてそう告げる。
特製無農薬、繁子が作っているのは自分達で以前に作り上げた特製無農薬爆弾(玉ねぎ成分入り)である。
涙が出る玉ねぎ成分に加え、唐辛子10個、にんにく3個、にら100gをすり鉢に入れよくすりつぶすし、コーヒー殻ひとつかみ、茶殻急須2杯分、よもぎひとつかみ、しょうが3個を加え、さらにすりつぶす。大鍋で煮立った湯6リットルにすりつぶしたものを入れ、よく煮立ったら焼酎1リットル、酢500cc、牛乳500ccを加え、さらに煮る。煮立った液の上澄み液をとり、布でこす。
そして、よく冷めたらこれをマスクを装備してこの特製無農薬を水風船に入れて完成だ。
今回は既に煮てあったものを万一の為に繁子は用意しておいた。そうめん流しと玉ねぎみじん切り機、さらに用意していたという秘策というのは既に煮てあるこの無農薬の事である。
飲んでも安心、全て食べられる材料で作った。恐るべき破壊力を持つ時御流兵器である。
この涙腺に効いて、強烈で刺激臭が凄いものならば、黒森峰とてひとたまりもないだろう。
繁子はこの無農薬爆弾を作成しながら辻にゆっくりと語りはじめる。
「隊長、無農薬っていうのはですね、いずれ出来るだろう未来の穀物に願いを込めて作るんですよ」
「……………」
「せやから、この無農薬を未来に繋ぐ。立江の為にもウチらは全力を尽くしましょう」
繁子はそう言うと笑顔を浮かべて辻に告げた。
きっと、立江も勝つ為の未来に繋げるために身を投げ出してこの本隊の危機を救ってくれた。だからこそ、繁子はオペレーション『future』を最後まで完遂させなければならない。
辻はこの遊園地に以前にみんなで作った罠の弾頭流し(そうめん流し)を設置した。
なぜならば、勝つ為にだ。皆が繋げた思いに応えたい一心でこの作業を完遂させた。
「繁子、私も何かできることはあるか?」
「あ! なら、風船の補充手伝ってください!」
「これ、相当匂いキツイよねー」
そう言って、ケホケホと特製無農薬の匂いで咳をして咽せる真沙子と永瀬。
そして、辻もその2人の言葉に頷くと全員でその作業に取り掛かった。やるべき事は後腐れなく全てやっておく。
今までだってそうだったではないか、繁子達の立ててくれた作戦の為に皆が一つになり、全力を尽くして頑張る。
どんな結果になってもきっと、笑ってこの試合が終われる様に。
そして、こちらはしばらくしてマウス隊と合流した黒森峰女学園本隊。
繁子達に遊園地エリアに逃げ込まれ、追撃を断念せざる得ない状況になった。西住まほは合流した辻と繁子が協力して、マウス撃破に乗り出して破壊されぬ様にと殿戦の敗北のすぐ後にマウス隊に遊園地エリアから離れ本隊と合流する事を優先させた。
この試合の要はこのマウス、それに、遊園地エリアは既に時御流の手が加えられている事をまほは理解している。
地形的な不利をマウス隊だけに任せていては臨機応変に対応する事は困難であるだろう事はまほも容易に想像出来ていた。
だからこそ、隊長である自分が見える範囲でマウスを手元で動かしておきたい、まほは慎重に今回はそういった選択肢を選んだのである。
「隊長、合流したマウス隊、本隊。全隊の準備が整いました」
「よろしい、さて、この先に待つ知波単学園を狩るのは容易ではない、先輩方も気を引き締めて各自事に当たってください」
「「はい!」」
「では隊長、どうなさいます?」
「…いずれにしろ戦車を遊園地エリアに向かわせないといけないでしょうね、それならばやる事は一つ」
西住まほは訪ねてくる先輩に静かにそう告げる。
そして、気持ちが高ぶるのを抑え、西住まほは遊園地エリアを見定めた。あそこには宿敵がいる、自分と相対する好敵手が。
ならば、罠があろうが無かろうがここまで来れば関係ないだろう。黒森峰女学園は全員が精鋭部隊、ならば、やる事は一つ、前進し西住流を持って全力で敵を潰す。
それが西住流の戦車道、そして、黒森峰女学園の戦車道である。
「パンツァーマールシュ」
そして、そのまほの掛け声と共に黒森峰女学園の戦車群は遊園地にいるであろう知波単学園を粉砕する為にゆっくりと進軍しはじめる。
知波単学園と黒森峰女学園の意地と思いが互いにぶつかる最終決戦の地へ。
戦車を率いる西住まほは遊園地の正門を潜り、時御流特有の罠が無いかを周囲を警戒しながら慎重に進軍する。
いつもならば、マウスを先行させ、蹂躙し各個撃破で済む話であるが今回ばかりはそうはいかない。
繁子達もその事を読んでくる可能性がある。今は慎重に事を運びつつ、確実に敵戦車を減らし繁子達を討つ。
それが、まほの考えている最優先事項だ。
「敵影、無いですね」
「不自然だ…静か過ぎる」
「どうしましょう? このまま進軍しますか?」
そう言って、各、黒森峰女学園の女生徒達は仕掛けてこない知波単学園に違和感を感じ戦車から顔を出すと隊長であるまほにそう訪ねる。
それは、まほも同様であった。あからさまに静か過ぎるこの進軍。撃ち合いはしないだろうが、仕掛けてある罠が発動してもおかしくは無い。
「そうだな…、警戒しながら進め、周囲を見渡せばいずれは敵戦車を見つけれる筈…」
そう言い終わる瞬間、西住まほはある事に気がついた。
それは、周りに不自然なまでに風船のようなものが転がっている事だ。いや、それだけでは無い、風船のようなものは上を見上げると頭上にある遊園地のアトラクションにも括り付けられている。
そして、次の瞬間、西住まほのその不自然な違和感は確かなものとなる。
辺りにある風船がいきなり破裂し始めたのだ。
「わ! な、何だ! これ!?」
「びっくりした!」
そう言って、風船が不自然に割れた事に驚きの声を上げる黒森峰女学園の生徒達。
いきなりの出来事だ。しかしながら、たかだか風船が割れただけだ、大した事は無い。だが、西住まほはすぐに気がついた。
(…刺激臭に……この匂いは…!)
それに気がついたまほはすぐさま辺りを見渡して状況を確認する。
あまりに静か過ぎるので案の定、黒森峰女学園の戦車から車長が状況確認の為、または、辺りを警戒するように促していた事もあり、全車輌の車長がその戦車から顔を出している。
この時、まほは気がついた。既に時御流の戦い方がはじまっていることを。
「全車輌! 車長は車内に戻れ!」
「な、何これ! 強烈…っ!」
「目が痛い…! 視界が…っ!」
だが、それに気がついた西住まほが指示を出すのは既に遅かった。
刺激臭に目の痛み、涙による視界妨害。この全てが黒森峰女学園の車長全員に降りかかってきたのだ。
この瞬間を待ちわびたとばかり、あちらこちらで異変が起こり始める。
まず、最初に起こった出来事が、まほが率いていたヤークトパンターの1輌の下方からいきなりの炸裂音が響き渡り、煙と白旗を上げて行動不能に陥った。
撃破されたヤークトパンターの下には…、設置された長パイプがあった。その事から推測してすぐさままほは知波単学園がサンダース戦で用いた戦い方を繁子達が今回も実行に移してきている事を悟る。
「…っ! 敵襲だ! 全員! 陣形を取れ!」
いきなりの奇襲にまほはすぐさま全員にそう通達を出した。だが、残りのティーガーや駆逐重戦車も車長が視界を奪われて混乱に陥っている為に上手く指示が通らない。
これを待っていたと言わんばかりにあちらこちらからホニやチハ、チヘといった知波単学園の戦車達が顔を出して襲いかかってくる。
時は満ちた。先頭を切るのはホリを駆る知波単学園の隊長、辻つつじだ。
「全車輌! 黒森峰女学園の戦車群に突撃ィ!」
主砲を放ち、突撃を仕掛ける知波単学園。
こうして、11輌VS12輌の戦車による乱戦が幕を開けた。しかも、黒森峰女学園は視界妨害と刺激臭によりかなり不利な状況にある。
一方、知波単学園は布やゴーグルを着けて、奇襲に討って出た。戦車による性能差は知波単よりも黒森峰女学園が有利であるが、この差はこの作戦によりトントンとなった。
西住まほも視界妨害と刺激臭に耐えかねて、車内に戻り通信を通じて全車輌にすぐさまこの地区から避難するように通達を出した。
まほはすぐさま用意しておいたマスクを装備してフラッグ車のティーガーから顔を出すと表情を険しくする。
「まさか、こんな手で来るなんて予想外だった」
いきなりの奇襲もそうだが、ヤークトパンターを長パイプを使い潰された事。さらに、刺激臭や涙腺を刺激する水風船。
このどれもが、西住まほにとっては未知の体験だった。
卑怯、卑劣、こんなもの戦車道なんかでは無いか等、そんな話は通用しない。繁子達はこれらを全部1から作り、勝つ為に使って黒森峰に挑んできている。
これが時御流の戦い方なのだ。
全員と団結し、活路を開く為にいろんな視点から攻めてくる。殿戦で戦った立江もそうであった、仲間を勝たせる為に西住まほに全力で挑んだ。
ひとまず、散り散りになり、散開しこの特製無農薬が炸裂したエリアからの逃走を試みるまほ。
広い広場に逃げると、そこまではどうやら無農薬の物凄い刺激臭と自身の涙腺は異変が無くなった。
まほはティーガーから顔を出すとマスクを外してそのまま直進する。
だが、まほのティーガーの前には1輌の戦車が立ち塞がった。その戦車の名は四式中戦車、山城。
知波単学園のフラッグ車であり、時御流、城志摩繁子の乗る戦車である。その回り道の仕方からして、最初からこの場所に逃走をまほが試みる事を知っていたかのようであった。
山城からは時御流、家元、城志摩 繁子が西住まほと対峙する様に顔を出している。
「ここなら邪魔は入らへんやろ、なぁ? まほりん?」
「やられたな、まさか、しげちゃんがこんな戦い方を練って回りこんでるなんてね」
「現場は辻隊長に任せてきたからな…さてと、ほんじゃ、そろそろ白黒つけようか?」
そう言って、単独で逃走を試みたまほに静かに告げる繁子。
互いにフラッグ車同士、こうして対面したとなればやることは一つだけだ。交わした約束の為に今、ここで全力をもってして戦うだけ。
繁子は気合いを入れる様に頭に巻いているタオルを巻き直し、正面にいる西住まほに向けてこう告げはじめた。
西住まほもまた同様に帽子を外してティーガー車内に直すをまっすぐに繁子の眼差しを見つめる。
「時御流家元、城志摩 繁子」
「西住流、西住まほ」
流派を名乗り、互いにピリピリとした雰囲気を醸し出す繁子とまほの2人。互いに越えなくてはいけない宿敵であり親友。
互いに戦車の主砲を構える。この場所には両校のフラッグ車しかいない。己が流派と意地とそして、誇りをぶつけ合う為に今…。
「いざ、尋常に!」
「勝負!」
決戦の火蓋が切って落とされた。
西住流VS時御流。まほの乗るティーガーと繁子の乗る四式中戦車は互いに勢いよく駆けると車体が交差し合い、目が合う。
そして、振り返りざまに主砲を放つ両者、戦車の弾頭は互いの戦車横を通過しスレスレで外れる。
手汗握る大将戦。繁子とまほは互いに真っ直ぐにただ一つの戦車を見つめている。
果たして、勝つのは黒森峰女学園か、それとも知波単学園か。
その運命はこの二人の決戦によって決まる。戦車道の実力は互角、ならば、あとは互いのプライドを賭けて激突するのみ。
続きは…次回、鉄腕&パンツァーで!